1.出会い
壊れかけの石畳を歩いていると周囲がわずかに明るくなった。
空は相変わらずの曇り空だが、少なくとも先ほどいた場所よりマシだ。
周囲からは何か別の生き物がいるような気配はしない。
もっとも何かの気配を察知できるほどの何かがあるわけではないのだが…
異世界転移したのであれば何か特殊能力があってもいいものだが、体に特に変化はない。
現実で読んでいた本では願えば目の前に思ったものが出てきたり、地面から武器を作ったりしていた。
それなら試してみようじゃないか。
「確かこんな感じだったような」
地面に手を当て、武器を想像する
光り輝く必勝の剣。一振りすればどんな敵をも打ち倒す強力な剣。
「約束された勝利を掴む剣。その名は…エクス・カリバー!!」
声高らかにゲームであった剣を想像し、名を叫び、勢いよく手を引き上げる
これが最初の武器。
ここから冒険が始まる。
…
……
………
…………
……………
………………
…と、思っていたのだが。
現実は土から剣が出来るはずもなく、手のひらは空を掴んだだけだった。
「そうか。そんな都合のいい能力はないか…」
先ほど叫んだ自分の声が周囲に軽く響いていたのが、なおのこと虚しさを募らせる
「そこに、誰かいるのか」
思わず軽く体がはねた。
周囲には誰もいないと思っていた。
顔から火が出そうというのは今の状況のことを言うのだろうか。
いや、それどころではない。
どうすればいい。
声の出どころはわかっている。
だが、向かっていいものか。
ゲームならば向かえば何かあるはずだ。
だが、これはゲームじゃない。
向かって何かに襲われれば、ひとたまりもない。
「頼む…いるのなら…来てほしい」
なんだ。
さっきより声が弱くなっている。
足元を見てみれば程よい長さの木の棒が転がっていた。
こんなわけのわからない場所で丸腰なんて考えられない。
改めて自分がいた場所を不気味に思い、木の棒を拾い上げた。
恐る恐る引け腰ではあるが、声の主に近づく。
こっそり近づくのはこれほど緊張するものだろうか。
耳を澄ませながらゆっくりと忍び足で近づくと、風に交じってわずかに息遣いが聞こえる。
自分の息を吐く音がやけにうるさい。
岩陰からほんの少しだけ頭を出すと…西洋の甲冑に身を包んだ騎士が岩にもたれかかっているのが見えた。
そして、足元にはかなり大きな血だまりが出来ている。
「…なんだよ、あれ…」
西洋の騎士にいきなりの血だまり。
木の棒を強く握っていた手が震えている。
「お…おい…。い、生きてる…のか…?」
震える声で騎士に話しかけた。
自分でも情けなさがにじみだしているのがわかる。
「あぁ…やっぱりだれかいたのか。よかった…」
せき込みながら騎士はこちらに顔を向けた。
「すまない…。申し訳ないが体が動かないんだ。こちらに…きて話を聞いてくれないだろうか」
思いもよらないことを言われて頭が混乱した。
「こ、こっちは武器も持っているんだ!変な事は考えるなよ…ッ!」
こんな時に相手を脅してどうするのか。
自分で言った後冷静になり、自分の言った言葉に後悔した
「怯えないでくれ…。もう、体がほとんど言うことをきいてくれないんだ…」
そう言われても不信感はぬぐえない。
引け腰になりながら、騎士に近づく。
「どうしたんだ…?は…は…話って?」
何と情けない声を出しているんだ。
自覚はしていても、悲しきかな。声は上ずったまま騎士に話しかけた。
「見ず知らずの者に…こんな事を話をするのを許してほしい…」
弱り切った声で騎士は話を始めた
「私は…遠方よりこの地に来た。その理由は、この地に「火を取り戻す者が生まれる」と聞いたからだ。」
「え…?…火を取り戻す者…?」
聞き覚えのある単語に驚く。
それはこの場所に、この世界に来て聞いた言葉だ。