0.目覚め
頭の中に声が響く。
あまり心地の良い声ではない。
「世界の火が奪われた。火を取り戻さなくてはならない。何としても火を…」
声を聴き続けていると、だんだんと声は遠のき…意識はまた闇の中へと溶けていった。
………………
重い瞼を開く前に感じたのは、体を包む湿気の嫌な感じ。
そして冷たい地面の感覚だ。
瞼を開き、うめき声を上げながら何とか体を起こした。
「…なんだよ。ここ…」
思わず声が漏れた。
周囲に見慣れた景色は一切ない。
高層ビルもなければ、見知った自宅の自室でもない。
周囲を見るに岩山のどこか、といったところだろうか。
日の光は薄く、曇り空のせいで薄暗い
目に入る人工物と言えば、墓石だけ
「どうなってるんだ…」
自分の記憶を必死にたどる。
起きたばかりで頭の中に靄がかかっているが何とか思い出せた。
確か…友人とやるTRPGのシナリオ本を古本屋に買いに行こうとしていたんだ。
それで…古本屋でいい感じの表紙の本を見つけて…それから…
それから…
…思い出そうとしたが、そこからプツリと記憶が途切れている。
自分の体を見てみると、普段と変わらない格好をしていた。
周囲の風景と似合わないなんとも現代的な服。
場違いにも甚だしい。
本来ならパニックを起こしそうなものなのだが頭は妙に冷静だった。
これは、世間でいう「異世界転移」というやつなのだろうか。
まさか自分がこんな事になるとは思いもよらなかった。
「だめだ。いろいろ考えてもしょうがない…こういう時は行動あるのみだ。」
変な言い回しになっているが…ゲームをしているときもそうだ。
開始地点から何もしないでいても何も始まらない。
何かをするから物語が始まるのだから。
足元を見てみれば壊れかけてはいるが石畳が続く道があることに気が付いた
どのみち行く当てもない。
それなら、目に見えるものを辿っていこう。
そうすれば何かが見えてくるはずだ。
何の根拠もないありはしないのだが。