Prologue
ずっとずっと砂漠が続く、見渡す限りの死の大地に
凍てついた風が吹きました。
砂海を薙ぐ様に泳いでいた天魚は、大小いくつもの星々が散りばめられ、
それを引き立てる様に緑の帯が北から南へとかかった空を眺めながら
悠々と泳いでいました。
そしてその視線の先に、黒い影が立ち昇るのを見ました。
いくつもの無骨な柱が立ち並び、その奥には大きな門が一つ。
中心の塔は天の星々にも届きそうです。
夜中でも煌々と光る柱の上の松明が、中心の暗い闇に飲まれた王国の概形を
幻想的に照らしています。
ここは砂漠の国。いくつもの国はこの時代、世界には起こりましたが、
これほどに実りのない大地で繁栄した国は此処くらいのものでしょう。
あちこちに生き物の死骸が骸の、しかもばらばらになった状態で散らばっています。
それを屍舞鳥が群がって骨にこびりついたわずかな肉を食い漁る様は、
誠にこの王国の存在を疑問に思わせる光景であります。
今、この王国の最も天に近いその塔の、地上からうんと高いところで
一人の赤ん坊が産声をあげました。
それを抱く母親の顔は死人の様に青白く、美しい白の花柄の装束には
血があちこちにべっとりとこびりついています。
母親は、できる限り自身を赤ん坊に近ずける様に抱いていましたが、
それでもゆりかごの様にあやす力は残っていないのか、
母親の温もりが伝わらないのか、赤ん坊はいつまでもいつまでも
大きな声で泣き叫んでいました。
やがで一筋の涙が母親の右目を伝い、赤ん坊を抱いていた両腕はだらんとなり、
石の様に動かなくなってしまいました。
月の陰でこの様子をじっと腕を組んで見ていたそれは、
誠に哀れむ様な目で赤ん坊を見下しました。
やがて右手にぐっと力を込め、歯を食いしばり
何かを考え込んで決心する様に目を硬く閉じましたが、
ふぅ、と深く息を吐き出すと
諦めた様にそこに座り込んでしまいました。
これからする物語は、この「最後の男の子」と「彼」
のこの王国を舞台にした戦いの話です。
戦い、といってもこの国の未来は、実を言うと真っ暗で
これから何か物語る様なこともなくあっけなく滅びてしまうのが、
「用意された未来」でした。
しかし運命の歯車はよじれによじれ、曲がりに曲がり、
誰も想像のつかなかった未来を呼び起こすことになるのです。