マナの本心がおおよそわかった
「よく無事に戻ってこられた」
夢の外にはエレとバクが待ち構えていた。救急隊として派遣された蛇は、すでに解散して、その場にはいなかった。
伊武輝は夢の外に出るやいなや、機敏にエレの前でひざまずいた。マナも伊武輝の隣で姿勢を低くした。
「長、任務を達成できませんでした」
エレは、ハキハキとした口調で言う伊武輝に合わせて答えた。
「そのようだな。悪夢こそなかったものの、夢の保護という命は達成できなかった」
エレはにこりと微笑んだ。
「だが、仕方ないであろう。長い間眠りから醒めていない者の夢に、無闇に手出しするのは危険だ。わしが浅はかだった」
「とんでもないです」
「マナと協力し、夢から醒ませたのは見事だった。疲れたであろう。もう休んで良い」
伊武輝とマナは立ち上がって深々とお辞儀をした。伊武輝たちがその場から去ろうとすると、エレは何かを思い出して、彼らを呼び止めた。
「ああ、そうだ。伊武輝に訊きたいことがある」
「なんでしょう」
伊武輝はエレと向かい合い、姿勢を正した。マナは立ち止まり、会話のやり取りを見守った。
「もし、現実に行けるとしたら、行きたいか?」
それを聞いたマナは、伊武輝の様子を伺った。その蒼い目は、何かを切に願っているようだった。
だが伊武輝は、間を置かずに率直に答えた。
「いいえ、行きません。一生ここで、夢を守り続けます」
マナはその言葉を聞いて、悲しげに目を伏せた。そして小さく、しかし悲しげに、こんと鳴いた。
一方、エレはご満悦そうにニッコリと笑った。
「そうか。無粋だったな。もう行って良い」
では、と伊武輝が立ち去ると、マナは伊武輝とは反対方向に足を歩ませた。
「もはや別人です。伊武輝も、マナも」
バクが立ち去る二人を見届けながら続けて言った。
「伊武輝は、偽装された記憶が埋め込まれ、マナはより一層ちからが出せなくなった。きっと、激変した伊武輝にうろたえているのでしょう。それでもマナは、とうとう本心を見せませんでしたね」
エレはうーんと唸った。
「そのことだがな、バク。わしの懸念の通りのことが起きてしまった」
「マナのちからのことですね?」
「それもあるが、マナの本心がおおよそわかった」
バクの口がぽかーんと開き、さらに目がキョトンとなっていた。
「マナにそんな素振りはまったくなかったじゃないですか」
「いいや、あった」エレはため息を吐いた。「マナは、伊武輝が変わってしまった苦痛に悩まされた。それが手がかりとなった。マナの本心とは、すなわち、伊武輝を現実に戻すことだ」
「なんですって!?」
バクは、二つの前足を頬に添えて驚いたが、すぐに口を曲げて唸った。
「でも、それだけでわかるのですか?」
「ほかにもある。マナの本心が偽装された記憶を作り、別人格の伊武輝を生み出した。マナの本心を浮き彫りにするには、必要なことだったのだ」
「つまり、夢の世界に留まりたいという伊武輝の本心と、現実に戻したいというマナの本心がぶつかり合ったのですか?」
「歪ではあったがな。じゃが、最終的に伊武輝が勝った。マナが人間か否か、それはわからないが、夢の外の世界に対する支配欲は、微塵もないことがわかった」
バクはムッとさせた。
「もし、ちからが本当はあって、本心を見せずに隠しているとしたらどうでしょう?」
エレは、少し小馬鹿にするように微笑を浮かべた。
「今までのことが演技だと? わしはそうは思わない。マナの情の深さは本物だ」
バクは俯いて、怪訝そうな顔をエレから隠した。気がついていないエレは、バクに背を向けて語り続けた。
「どんな結果であれ、受け入れなければならない。マナが弱っている以上、今後支障をきたす。バク、お前の仕事が増えるぞ」
顔が曇っていたバクは、パアッと明るくなり、嬉しそうに鼻をピクピクと動いた。
「し、しかしそれは、長としては望ましくないのでは?」
声を上ずってニヤニヤが止まらないバクに、エレが答えた。
「さあ、どうだろうか」




