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MANA & DREAM 白狐の願い  作者: 広瀬直樹
飛翔
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お前さんだったら守りきれるのか、数多の夢たちを?

「なあ、バク。エレは……」


「ばか、長と呼べ」


「……長は、夢を管理しているって言ってたよな?」


 伊武輝はそう改めると、バクは自信ありげに頷いた。


「ああ、そうだあ」


「具体的には、どんなことをしているんだ? 夢を悪夢から守っているとか?」


「どうしてそんなことを聞く?」


 バクは目を細めて疑わしそうに伊武輝を見た。


「いや、もうやっていることかもしれないけど、悪夢が外から侵入しているんだったら、それを阻止すれば問題解決するんじゃないかと思って」


「お前さんだったら守りきれるのか、数多の夢たちを? 長以外にも手伝ってもらっているが、全く手が足りてない。監視するのに労力を使っているんから、侵入された後、対処できる余力が残っていない。だったら、侵入されたあとに対処したほうが楽だ。どうにもならないんだ。監視するのはとても大変だあ」


「できるかわからないけど、おれ、その役割をやってみたい」


 伊武輝は身を乗り出して言うと、バクは解せない顔でどかっと尻もちを着いた。


「お前さん一人でか?」


「魔法っていうのは実に便利でね。一度魔法を掛けたら一生残る。長も同じことをやっているだろ? なんで長は魔法で夢を守ろうとしないんだ?」


「できるんだったら今頃やっている。長が使えるのは、あくまでも理を生み出すことか、夢を分析することだ。ほとんどの奴らは夢の保護ができない」


「だったらなおさらだ。おれがやってみる」


 地中に埋まっている、今しがた抜け出した夢の真上で、伊武輝はあぐらを組んで座り込んだ。杖を股の間に差し込み、目を閉じて心の内で唱えた。


 夢を守り給え。


 すると地中にある夢に、うっすらと膜が張られた。しかし全体を覆うことができず、下から半分しか覆われていない。膜の端っこは、薄い絹が風になびいているようにゆらゆらと揺れていた。


 呪文がわからないのもそうだが、全然ちからが足りないのだ。


「すぐにできると思ったのかあ?」


 バクは伊武輝の成果を見て呆れていた。


「いや、現状を確認しただけだ。ここから練習するしかない」


「言っておくけどなあ、夢は外部から住人を守ろうとする。お前さんが善意で施す結界だとしても、夢にとっては邪魔に思えるかもしれない。夢に危害を与えないと思うけど、なんらかの調子で穴が開くかもしれない。そうなってしまったら、すぐに助けを呼んでなあ」


「夢に穴?」


「ああ、ぽっかりと開くんだあ。この前、夢にちょっかいを出したやつがいてな。夢に穴が開いて、夢の中の人が外に漏れ出したんだ。すると……」


 そう言ってバクは突然口をつぐんだ。


「どうなったんだ? その後」


 伊武輝は焦ったそうにバクを急かした。バクはちらちらと伊武輝を見ていたが、意を決したように鼻息を吐いた。


「星になったんだあ、その人」


 星? 星って、つまり……。


「穴を塞ぐことができるやつが近くにいなくてなあ、間に合わなかった。夢が壊れ、現実に意識が戻ることができず、夢の世界にただ存在するしかなかった。五感があるかどうかはわからない。だけど、ただ瞬く星となって、そこに居続けるんだあ。お前さんも見ただろう? 宝石のような小さな欠片を。あれが星だあ」


 そう、きっとそれはつまり、死んでしまうってことだ。仮想世界から抜け出す前、あのゲームの世界には多数の人たちがいた。その人たちが死に、バクが仮想世界を飲み干すと、魂となって夢の外に出た。


 夢を壊された人が、現実ではどのようにして亡くなったのかわからない。想像できるのは、不慮の事故、不運の事件、自然の猛威、蝕む病魔などにやられ、亡くなる人しか思いつかない。


 現実では死んでも、夢の主は星となって、夢の世界で生き続けているのか?


 星になった人はその後どうなるのか気になったけれど、それ以上聞くのは野暮だろう。


「おれは夢を星になんてさせやしない。いや、たぶんできない。マナと違って、ちからが足りない」


「たとえ微力でも、弱点を突けば脆く崩れる。気をつけるんだあ」


 そう言うと、バクはふわふわと宙を漂いながらその場から離れた。


 気がつくと、マナはすでにスヤスヤと眠っていた。バクの言う言葉に反応しなかったのも、さっきの戦闘で疲れ切ったからだろうか。ただ単に会話がつまらなかったからかもしれない。


 マナの寝顔を眺めていた伊武輝は、黒鳥がマナに向かって言っていたことが頭によぎった。


 君は、なぜ逃げた?


 どうも引っかかる。あの悪夢は、どの夢にでもあんなふうに誰でも語りかけているのだろうか?


 それとも、過去に鉢合わせしたことがあるのだろうか?


 マナは喋れなくとも、バクなら知っているのだろうか?


 今度会ったときに訊いてみよう。


 伊武輝は、体に疲労が重くのしかかってきたので、マナとは少し距離を離れてごろんと横になった。


 どの世界でも、睡魔はどこまでも追いかけて襲って来るのだなと思いながら、伊武輝は眠りについた。

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