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MANA & DREAM 白狐の願い  作者: 広瀬直樹
飛翔
15/43

マナは嬉しそうに舌を出してニコニコと笑い、尻尾をぶんぶん振り回した

 グリフィンは、翼から黒い槍を作り出してマナに飛ばすが、マナの目の前で弾けるようにして消えていった。


「なんなんだ、あの動物は」


 伊武輝も兵士たちも驚嘆した。兵士たちを苦しめた黒い槍は、マナに当たった瞬間砕けたのだ。見た目は柔らかい毛並みなのに、まるで鋼を身にまとっているようだ。マナにはただならないちからをまだ秘めている。


 だが、グリフィンは驚きも怒りもしなかった。ただ、機械的に槍を出現させては投げての攻撃を繰り返しながら喋っていた。


「君はなぜ逃げた? なぜ逃げた?」


 逃げた? グリフィンはおれのことを言っているのか?


 でも、顔の向きや間合いから考えるに、マナに向かって語りかけているようにしか思えない。マナは依然として、攻撃を消しながら宙を飛んでいる。


「逃げても逃げても、結果は同じ、結果は同じ」


 グリフィンが攻撃の手を休める瞬間を、マナは見逃さなかった。マナは右の前足と右翼を後方に引き、グリフィンに向かって大きく翼をはためかせた。突風がグリフィンの体にぶつかり、ズバズバとナイフで切り刻むように鋭い傷が出来上がっていた。


 かまいたちだ。マナは続けざまになんども左翼、右翼と交互にはためかせ、かまいたちを何度も起こした。


「幾度、倒そうと、強くなって戻ってくる。それを学習しない、学習しない」


 ギギギと不協和音が鳴り響く。


「人間は、何も、学ばない」


 じっとしているグリフィンの体がズタボロになっていく。


「支配者に、従う限り」


 マナの目がキッと鋭くなった。


 こぉーん!


 マナの咆哮で、グリフィンは跡形もなく消えた。わずかに残っていた黒い雲も、黒い鳥も、みんな消えていった。


 伊武輝は魔法にちからを注ぐのを止めると、肩で息をしながら額に汗が流れた。


 戦場に静寂が訪れた。兵士たちは、グリフィンが倒されたのを、お互いに顔を見せあいながら確認し合うと、空にヒビが入るくらいの雄叫びが沸き起こった。


「命の恩人だ! 感謝してるぜ!」


 さっきまで伊武輝を守っていた騎士が伊武輝の肩にバシンと叩いた。


 筋肉もりもりの騎士のボディタッチはいてえなあ。


「いや、やっつけたのはマナだよ」


 伊武輝はマナにちょんちょんと指差すと、騎士はマナをチラッと見た。


「あの動物のことか? だが、お前の協力無しでは倒せなかった。私はゴザム。この国の騎士長だ。お前は?」


「伊武輝だ。おれは……そう、ただの放浪者だ」


 うっかり、夢の世界から来たことを口にしそうだった。尋ねられるまでは忘れていたが、ここは仮想世界だ。バクに言われたが、夢の世界の存在を知らせてはならない。信じてもらえないとは思うが、信じる人は信じ、現実世界で混乱を招く結果になる。


 マナもグリフィンを倒したのを確認すると、すぐさま伊武輝の元へ駆け寄った。伊武輝の前で頭をそっと差し出している。


 撫でてほしいのか? 嫌だな、照れ臭い。


 伊武輝は苦い顔をして、片手を振って追い払おうとした。それでもマナはめげず、頭突きするような勢いで彼に迫った。頭を彼の胸にぐりぐりと擦り付けてきて離さない。傍で見ていたゴザムは首を傾げて見ていた。


「ああもう、わかったよ。こうすりゃあいいんだろ」


 ようやく折れた伊武輝は、目の前にあるマナの頭を撫でてやった。すると、マナは嬉しそうに舌を出してニコニコと笑い、尻尾をぶんぶん振り回した。


 手に温もりが伝わり、胸に息遣いが当たってくる。あの黒い槍を受けたというのに、傷ひとつない。


 動物に触れたのは初めてかもしれない。人の肌も触ったこともない。仮想世界に入り浸りすぎて、相手は機械なのか、生き物なのか、わからなくなるときがある。


 相手は生きている。そう確認できる唯一の方法は、こうやって手で確認することかもしれない。


「ただの放浪者にしては、あの黒鳥に怖気ずに果敢に戦っていたじゃないか。道中にも出くわしたのか?」


 弓を背中に下げている弓兵が伊武輝とマナに近づいてきた。黒鳥というのはグリフィンのことだろう。


「いや、初めてだ。この国に来たのもね」


「じゃあ、知っているわけ無いか。残念」


 弓兵はがっくりと肩を落とした。


「なにをだ?」


 まだ止まぬ歓喜の中、ゴザムは腕を組んで唸った。


「黒鳥と戦ったのは、何も今回だけではない。今日ので七回目だ。普通の鳥は美しい音色を口ずさむ。だが、あの鳥は気味が悪い。金切り声のような、重い羽音のような音がする。背筋が凍るような、不気味な感じだ」


「今まで全滅しなかったのが奇跡だな」


 しかし、その言葉にゴザムは深刻そうな顔つきで、頭を横に振った。


「黒鳥は、何度も倒しても、何度も蘇る」


 幾度、倒そうと、強くなって戻ってくる。


 伊武輝はグリフィンこと、黒鳥の言っていた言葉を思い出していた。


「安心できないっていうことか」


「そういうことだ」


 ゴザムが王城まで来るよう促すと、伊武輝とマナは従い、彼の後ろについて行った。ゴザムは遠い目をした。


「最初はかわいいものだった。あの図体のでかさで、素人でも仕留められるほどの間抜けだった。ゆっくりと飛行していて、行動の先読みも容易だ——」


 ゴザムは翼を力強くはためかせた。彼の周囲に風を纏っている。背中姿しか見えず、表情を伺うことができないが、その風はどこかやるせない感じがした。


「——だが、何度も遭遇していくうちに、黒鳥はどんどん強くなっていた。我々について学習し、己の足りない部分、あるいは弱点を克服しながら進化していった。そしてついに、全兵力注いでも、倒せなくなってしまった。さっきのようにな。犠牲者も増える一方だ。今日はお前たちのおかげで難事は逃れたが……」

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