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MANA & DREAM 白狐の願い  作者: 広瀬直樹
飛翔
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グリフィンの先鋭な眼光が、伊武輝とマナに突き刺さった

 伊武輝はマナと一緒に、とある夢に潜って探索していた。バクによると、もしかしたら夢ではなく、仮想世界かもしれないと言う。通常の夢の大きさの数倍も大きいのだ。しかし、時としてこれが仮想世界ではなく、人の夢の場合もあるので、断定できないそうだ。それほど、今の夢は不安定だ。


 マナと並行して空を飛んでいる伊武輝は、前方に顔を向けながら話しかけた。


「お前よく飛べるな。この夢に入ったことあるのか?」


 背中から翼が生えたマナは苦もなく飛んでいた。翼が強くはためくのと同時に、四本足がぴょこぴょこと動いている。風を受けて気持ちよさそうだ。


 伊武輝も同じように翼が生えていたが、行きたいところまで思うように空を切ることができず、マナのように楽しむ余裕なんてなかった。


 伊武輝とマナは、見渡す限りの青い海の上空にいる。どこまで飛んでも大陸も島もなく、羽を休むところなんてなかった。それでも、すれ違う蛇や猫、魚、イルカも翼をバサバサとはためかせていた。一体どこに向かっているのだろうか。


 どうやらここは、人間も動物も翼が生えた夢のようだ。もっとも、仮想世界なのかもわからないが。


 マナは伊武輝から離れ、縦横無尽に飛び回った。宙返りしたり、縦や横に回転したり、ジグザグに空を駆けたり、開放感を存分に味わっている。


 伊武輝はしばらくマナを見ていると、今度は鼻先を天に向け、どんどん高く垂直に飛び上がっていった。雲の上まで飛び抜こうとする勢いだ。


「待てってマナ」


 額に汗を流す伊武輝は、マナに追いつこうと力一杯に翼に動かすが、ノロノロと上昇するだけでとても追いつけない。距離がどんどん離れ、突き放していく。


 夢の世界に飛び出してからどのくらい経ったかわからない。時間の物差しがなくても、少しずつだが、マナのことがわかってきた。マナは好奇心旺盛で、活発的な動物だ。優しくて正義感が強い。こんな性格の人間がいたら、さぞかし人気者だろう。


 しかし、伊武輝が気がかりになっているのは、マナが全くしゃべらないことだ。バクやエレだけでなく、ここに来る道中いろんな夢の守護者とすれ違ったが、喋らない動物はいなかった。マナはいつも身振り素振りで態度を示し、意思疎通していた。


 しゃべらない理由が何かあるのだろうか。


 伊武輝のはるか頭上にいたマナは、とうとう雲に隠れて見えなくなった。気持ちを切り替えて、伊武輝も続いて雲の中に突入した。口の中にミントのような味がどっとなだれ込み、肺の中まで満たされた。湿った雲が目を刺激してくるので、伊武輝は目を細めて上昇を試みた。


 ぽんと雲から脱すると、天上から太陽が爛々と照りつけてきた。酸素が薄くて少し息苦しいが、清々しい風が流れていた。


 伊武輝の前方にふんわりとマナが宙に漂っていた。伊武輝はむっとした顔でマナのところに近寄った。


「おい、マナ。勝手に行動するなよ。いつどこで敵が現れるか……」


 伊武輝は言葉が続かず、あんぐりと口を開けた。言葉を失った伊武輝とマナの前には、雲の上に巨大な王城があったからだ。頑強な岩盤の城壁が、王宮を何層にもぐるっと囲い、ところどころ穴が空いている。城壁の四隅にそれぞれ一本ずつ尖塔があり、王城の真上から侵入してきたら仕留められるような造りになっている。あの王城を人間だとすると、伊武輝とマナはミジンコに違いない。仮想世界でも、こんなのは見たことがない。


 いくら夢でも、スケールがでかすぎるだろう?


 伊武輝はあっけにとられていると、マナは前足で方向をくいくいと指を指した。伊武輝はマナの指差す方角に目を凝らすと、王城近くの空中で、なにかが入り混じっているように見えた。なにかが落下しているのも確認できる。耳を澄ませると、かすかに金属がぶつかり合う音が聞こえる。


「あれは乱闘か?」


 伊武輝の質問に対し、マナはこくりと頷いた。


「ここからじゃよく見えない。近くまで行こう。もしかしたら悪夢の元凶がいるのかもしれない」


 二人は王城前の戦場まで滑空した。ゴウゴウと耳元で風が唸る。飛行にだいぶ慣れてきた伊武輝は、今度はマナに遅れないようにピッタリと横にくっつく。


 戦場に潜り込むと、ここはすでに混戦状態で、軍隊と黒い鳥の大軍が入り乱れてぶつかっていた。四方八方から弓矢やナイフ、鋭い羽や鳥そのものが飛んでくる。伊武輝とマナは巧みに避けながら、争いの中心部まで狭まった。


 そこには、全身真っ黒に染め上がったグリフィンがいた。頭部は鷲だが、胴体はライオンだ。背中に翼があり、バサバサとはためいている。だが、羽毛や毛並みはなく、黒い影がうごめいているように見えた。体のあちこち矢が突き刺さっていたが、血が流れておらず、まったくひるんでいなかった。


「まったく効いてねぇぞ! いったいどこからわいてきやがったんだ!」


 翼の生えた兵士がグリフィンに向かって言った。頭から足の先まで鎧を着用していたが、鎧のあちこちに穴が開いて皮膚が見えていた。


 グリフィンは赤い目を開き、兵士たちにぎらつかせた。足の先にある鍵爪からポタポタと血が滴り落ちている。


 黒い体と赤い目。コンピュータウイルスの特徴とよく似ている。


 伊武輝はそう思った瞬間、グリフィンの先鋭な眼光が、伊武輝とマナに突き刺さった。


「検知した」


 グリフィンから壊れたスピーカーの音が聞こえたと思うと、グリフィンの体から数百羽の黒い鳥が分裂し、バサバサと羽ばたきながら伊武輝とマナの方へ突進してきた。

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