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第6話 禁忌

先の大戦により、新たな秩序が生まれた世界で人類は真の男女平等を獲得するためにsexを捨てた。

それは、性別という意味でのsexと同時に性交という意味でのsexも捨てたということになる。

同性同士の生殖細胞から子供を生み出す技術の誕生により、人は太古の昔より種を残す為に繰り返してきた性交を必要としなくなった。


新しい世界秩序の下、各国の指導者たちは自国の方に自然妊娠の禁止を定めた。

これは、どれだけ男女の平等化が進んでも消えることのなかった妊娠による女性の不自由を無くすためのものだ。

子供は専用の施設にカップルの生殖細胞を提出する事で人工母体により安全に生み出される。

施行当初は反発も少なくなかったこの法案も、時の流れとともに新たな常識として人々の中に植えつけられていった。


そこまでは、まだよかった。

時代とともに常識が作り変えられることは、むしろ自然な事であるとすら言える。

新しい常識に世界が過剰反応を起こすまでは。


妊娠禁止の法。

それは、人類が人類を律する為に作り上げたものだ。

当然、その効力の及ぶ範囲は人類だけである。

だが、自然妊娠は罪であるという常識が刷り込まれた人類は次第に妊娠という行為そのものを禁忌とみなすようになっていった。

どういうことかと言うと、ペットや家畜などの人と共に生きる動物の自然妊娠までもを悪いものだと見なす風潮が広まったのだ。


もちろん、これは人々の間で自然に広まった暗黙の了解であって、法律で規制されていることではない。

だが、ペットショップにならぶイヌやネコには種類と年齢と共に人工妊娠で生まれ去勢済みであることが明記されているし、スーパーにならぶ牛肉も人工妊娠牛である事が品質証明として表示されている。

ここで言う人工妊娠は、大戦前の世界で行われていた体外受精した卵子を母体に戻して妊娠させる方法ではなく、人工母体による完全人工妊娠のことである。


何度も言うが、人以外の自然妊娠は法律でなんの規制もされていない。

その為、今でも人工妊娠を行わない酪農家やブリーダーは存在する。

だが、それは現在ではかなり少数派であると言える。



「私の親も、ペットの自然妊娠はあまり快く思わない人なんです。

だからミルクを飼うってなった時も、真っ先に生まれた方法と去勢しているかどうかを確かめたんです」


久留里は、静かにそう言った。


「ペットショップの店員さんは、人工妊娠で生まれた去勢済みの子猫だと教えてくれました。

だからうちの親は安心して、私がミルクを飼うことを許してくれました。

けど……」


妊娠した。

壮亮は再びゲージの中のミルクに目をやった。

初めは太り過ぎの猫だと思ったが、それは妊娠しているからだ。

そう言われてみると、確かに腹回りの太さに比べて脚や首回りは細い。


「少し前から様子がおかしくて、病院に連れて行ったらまず間違い無いだろうって言われました」


ゲージの中で欠伸をするミルクは、知らない場所に連れてこられているとは思えないほど落ち着いている。

今にも泣きそうな顔をしている 飼い主とは大違いだ。


「久留里先輩の猫が妊娠しているのは分かりました。

けど、それがどう俺に繋がってくるのかが分からないんですが?

そのまま動物病院のお世話になれば良いじゃないですか」


さっき病気を治せないと言ったが、妊娠も同じく生物部の管轄ではない。

だが、壮亮の言葉に久留里は首を横に振って応えた。


「動物病院はダメです。

あそこに連れて行けばミルクは不幸になってしまう」


「どうして?」


「獣医さんと両親は、ミルクのお腹の赤ちゃんを堕ろそうとしているんです」


「おろす?」


初めて聞く言葉に壮亮が首をかしげる。

その疑問に答えたのは、二人の姿を静かに見守っていた春日先生だった。


「大戦以前、堕胎の事を堕ろすと言っていたそうだ。

堕胎とは胎児を人工的に流産させる事だ」


「それって、お腹のなかの子猫を殺すと言う事ですか?」


壮亮はゲージの中のミルクを見た。

その大きなお腹の中に子猫がいるという事をうまくイメージはできないが、それでもお腹の中の子猫を殺すと言う方法に吐き気を覚えた。


「獣医さんと両親は、このまま妊娠して危険な出産をするよりも今手を打った方がいいと、その場でミルク中絶させようとしました。

けど、その時、これまでどんな時でも暴れなかったミルクが初めて病院で毛を逆立てて牙を剥いたんです」


妊娠に対して過剰なアレルギーを持つ人がいると言う事を、壮亮は分かっている。

だから、獣医や久留里の両親が妊娠したミルクをものと状態に戻そうと言う気持ちを持つのも理解ができないでもない。

だが、妊娠についてそこまで強い拒否感を持たない壮亮してみれば、その手段としてミルクのお腹の中にいる子猫を殺すと言う方法を取ってまで妊娠している状態を解消したいと思うその気持ちは、どうしても理解できない。


「お願いします。少しの間ここでミルクの面倒を見させてください。ミルクとミルクの子供をたすけてください」


久留里が頭を下げて頼み込む。

壮亮は、出会ったばかりの先輩の頭とゲージの中のお腹の大きな猫を見比べた。














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