第1話 平等な世界
始まりは、女性差別根絶を訴える【女性解放戦線】という活動家たちの主張だった。
彼ら彼女らの主張によれば、太古の昔より女性は男性に比べ多くの苦難と不自由に晒されてきたのだという。
職業的不自由、政治参画の不自由、伝統文化からの排斥、家族間での役割な強要……。
例を挙げればキリがないほど、この世界は女性にとって生きづらいというのが彼ら彼女らの主張だった。
「女性というだけで不当に差別され、 不利益を被る、そんな時代は終わったのです」
その主張は、世界の盟主を標榜する当時の先進国に受け入れられ、多くの国でスタンダードな思想へと成長していった。
しかし、当然の事ながら中には宗教的、民族的伝統に囚われ旧来の男尊女卑の思想を捨てきれない国や地域が存在した。
そんな国々に対して、国連と活動家たちは正義の名の下に実力を行使した。
「お前たちは、平等と正義を掲げて私の息子を殺すのか」
世界を二分する大きな戦争が起き、たくさんの血が流れた。
国連に与しない国の中には、女性を差別するのではなく、男と女お互いの性を尊重しあい助け合うという数世紀かけて紡がれたその国の歴史と文化を守るために戦った国もあった。
しかし、それらの国はことごとく正義と平等をスローガンに掲げた国連軍の前になすすべなく倒れていった。
「今後、我々人類は性別という檻に囚われる事なく、皆が平等に笑える時代がやって来るのです」
国連の議長の座に就いた解放戦線のトップによる戦争終結宣言により、一連の男女平等実現への活動は終焉を迎えた。
そう思われた。
あの技術。
世界を一変させたあの新技術。
同性同士の生殖細胞から子供が生まれる事が発見されたその日から、世界はまた大きな変化を始めた。
それは、人類がこの星に生を受けてからの数百万年で恐らく一番大きな変化であった。
***
「壮亮起きなさい。期末テストは終わったけど、まだ学校はあるんだろう」
前日までの期末テストを終えて寝不足だったせいか、壮亮はその日久し振りに目覚ましの音に気付かなかった。
カーテンが開かれる音がする。
この家で一番日当たりのいいこの部屋には、東と南に大きな窓があるので、朝のこの時間は光に満たされる。
寝起きの光に慣れていない目を擦りながら時計を見ると、いつも起きる時間より五分遅い。
「おはようございます。壮司父さん」
「亮太郎が朝ご飯用意して待ってるぞ。早く顔を洗って来なさい」
壮亮は重たい体を持ち上げて洗面台へ向かった。
鏡に映る自分の顔は普段に輪をかけて間抜けな表情をしていて、寝癖も今年一の暴れ方をしていた。
顔を洗うついでに寝癖も直してしまおうかと考えたが、これ以上朝食を遅らせるのも悪いと思い後回しにしてしてダイニングに向かった。
壮亮がダイニングに入ると、そこには二人の男性がいた。
一人は、スーツを着て椅子に座って新聞を読む男性。高い鼻と彫りの深い顔立ちは昔の任侠映画に出てきそうな威圧感がある。
もう一人は、エプロンを着けて食卓に朝食を並べている。高い身長と大学生に見えてしまいそうな童顔がアンバランスなイケメン。昔ならアイドルになれそうなオーラがある。
二人は、外見の要素だけを上げれば正反対だ。
容姿も体格も雰囲気も全てが異なる。
しかし、そんな二人にも一つだけ共通点があった。
それは、二人とも壮亮にとてもよく似ていると言う事だった。