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第11話 静かな校舎

バスケ部の部活の為体育館へ向かう光希と校門で別れた壮亮は、下駄箱で上履きに履き替えると生物部の部室へと歩みを進めた。

運動部の元気な声が響くグラウンドや体育館とは裏腹に静かな校舎に壮亮の足音が響く。


文化棟と理科棟とを結ぶ渡り廊下に差し掛かった時、大きな荷物を抱えた久留里を見つけた。


「あ、桐谷くん。おはようございます」


足音で壮亮の存在に気づいた久留里は振り返って挨拶しようとした。

しかし、その途中でバランスを崩し抱えていた荷物が崩れる。


「危ない!」


慌てて壮亮が駆け寄り崩れかかた荷物を押さえる。


「半分持ちますよ」


「ごめんね、ありがと」


久留里はボストンバックを肩にかけダンボールを複数抱えて歩いていた。

壮亮はその内ダンボールを二つ受け取った。

そんなに大きくないダンボールだが、腕が少し疲れる程度には重たい。


「何が入ってるんですか?」


「内緒です」


久留里が歩き始めたので壮亮も後に続く。

理科棟は、さらに静かだった。

その理科棟の一番奥、階段下の旧当直用仮眠室の前で止まると、久留里は荷物を置きポケットから古い鍵を取り出した。


「昨日、春日先生に頂いたんです」


そう言って鍵を使い旧仮眠室の鍵を開け中へ入った。


「うわ、だいぶ変わりましたね」


部屋に入るとまず壁際に置かれた猫タワーが目に入った。

それ以外にも、昨日まで何もなかった畳の上に猫用のトイレと水飲み場などが置かれている。

もう何年もここで猫を飼ってきたかのような風景がそこにはあった。


「昨日、春日先生にお願いしてウチにあるミルクのものを色々と運び入れたんです」


確かに昨日の話し合いでペット用品などは久留里の家から持ってくることになってはいたが、ここまで迅速に行動するとは。

昨日に引き続き、壮亮は自分が仲間に引き入れられた理由がわからなくなった。

と、そんなことを考えていると一つの疑問が浮かび上がってきた。


「え、ペット用品を昨日のうちに運び込んだってことは、この大量の荷物はなんですか?」


今しがた壮亮が協力して運んできたボストンバックとダンボールの山。

てっきりこの中にペット用品が入っていると考えていた。

だからさっき久留里にはぐらかされた時も、大した疑問を抱かなかった。

だが見たところこの部屋に不足しているものは見当たらない。

後少し遊び道具を追加するにしても、これほどの大荷物になることはないだろう。

壮亮が尋ねると、久留里は一瞬困ったような表情をを見せた。

壮亮にとっては昨日知り合ったばかりの先輩だが、こういう表情を隠せないところは年上には見えない。


「まぁ、それは色々と」


久留里はまたはぐらかした。

壮亮もそこまで追求するつもりがあったわけではないので、それ以上何も言わずに部屋の隅にダンボールを置いた。


「そう言えば、ちゃんと自己紹介とかしてなかったよね」


壮亮が荷物を置いたタイミングで久留里が言った。

腕には愛おしそうにまだ眠たげなミルクを抱えている。


「名前は昨日春日先生が言ったよね?久留里愛花って言います。

今は二年生で、部活は新聞部に入っているんだけどあまり活動はしてません。それから、えーとあ、SGは女性です。

あと、私の事は愛花って呼んでくれると嬉しいです。名字があまり好きではないので」


名前と学年は昨日のうちにわかっていたし、SGも昨日からの様子で薄々わかっていたので今更感のある自己紹介ではあったが、壮亮も一応自己紹介を返す。


「俺は桐谷壮亮です。SGは男です。

俺も、壮亮でいいですよ。

あと、俺一年なんで愛花さんは敬語はやめてください」


「でも、私のお願いで色々迷惑かけちゃうだろうし……。

壮亮くんが敬語をやめてくれるならそれでもいいですけど」


「それは流石に……愛花さんは先輩だから……」


「じゃあこのままでいいですね」


愛花に押し切られる形でこの話は打ち切られた。

そこからしばらくは、愛花が餌や水を変えるのを部屋の隅で座ってただ見ていた。

たまにミルクが近くを通る時に撫でてみようかと手を伸ばしてみたが、牙を剥かれて威嚇されたので慌てて引っ込めた。


「ミルク、妊娠してから人見知りになっちゃったみたいなんです。

今までだとこういう事なかったんですけど」


トイレの始末やらを慣れた手つきでこなした愛花が苦笑いでいう。


「他に何かする事はあるんですか?」


「んー今はないです。

夕方にもう一度ご飯とお水をあげるくらいですね」


部屋の奥の流し台で手を洗い、持っていたタオル地のハンカチで手を拭った久留里が答える。

壮亮は部屋の壁にかかった時計を見た。

時刻は十時過ぎ。


「そうですか……。

じゃあ、行きますか」


壮亮が言うと愛花は頷いて、二人は部屋を後にした。










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