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第 話 二人の初めての話

「触ってみて、私今すごくドキドキしてる」


愛花(まなか)はそう言って壮亮(そうすけ)の右手を自分の胸に押し当てた。

少し骨張っていて、太い血管が浮き出た壮亮の手は、丸みを帯びた愛花の手とはまるで違う。

少し冷たいその手が火照って熱くなった愛花の胸に触れる。

これまで自分しか触れてこなかった部分が自分以外の知らない感触に驚き、意図せずに愛花の身体は少し萎縮した。

一瞬、躊躇う様子を見せた壮亮の手は、もう一度慎重に愛花の胸を押さえ、その鼓動を感じた。

二人は服を着ていない。

月明かりだけが差し込む深夜、壮亮の部屋のベッドの上で、十六歳の二人は優しく慈しむようにお互いの身体を触りあった。


「なんだか、悪いことしてるみたい」


壮亮の身体に軽く抱きつき、首元にキスをしながら愛花が呟いた。

壮亮は、愛花の頭を優しく撫でながら、目は遠くに浮かぶ満月を見ていた。


「してるみたい、じゃないだろ?

俺たちは、今から法律を犯すんだから」


チクリ、と鋭い痛みが一瞬壮亮の首に走った。


「私達がしようとしていることは、生物として当然な行為なのよ?」


壮亮の首元に刻んだ印を見つめながら、愛花が言った。

綺麗に印を刻めたのか、満足気な顔が月明かりの下に現れる。


「人類は、他の生物とは違う」


壮亮の首から顔を上げた愛花の胸元に、今度は壮亮が顔を近づけた。

愛花の左胸の少し上、壮亮が見つけたホクロの上にくちびるが触れ、優しく吸われる。


「っん……。それを、今から確かめるんでしょ?

壮亮も、それでいいって言ったじゃない」


愛花の胸に印をつけた壮亮は、そのまま愛花をベットに押し倒した。

小柄な愛花の体は簡単に横になる。

壮亮は愛花の鎖骨に人差し指を沿わせ、その指をゆっくりと下ろした。

仰向けになり左右へ広がった旨の間、肋骨が終わりヘソをなぞり、そして……。

愛花から離した宗介の指は少し湿っていた。


「準備は出来てるよ、多分」


壮亮を見上げて、愛花が笑った。


「俺はいいけど、愛花は本当にいいのか?」


愛花に覆いかぶさる壮亮の表情は、月の明かりの影になって愛花からは読み取れない。

だが、声と肩に触れる手から壮亮が迷っていることが分かった。


「何言ってるのよ。確かめたいって言いだしたのは、私の方だよ?」


愛花の表情は、月明かりを全面に受け、壮亮からははっきりと見えた。

そこに嘘は読み取れない。


「そうじゃなくて、相手が俺で本当にいいのかって事だよ」


壮亮の二度目の質問に、今度は愛花の表情が少し変わった。

怒ったような表情になった愛花は、両手で壮亮の顔を包むとそれを自分の方へと手繰り寄せ、優しいキスをした。

唇が離れ、なおも不安そうな壮亮の顔を見上げて、愛花は渾身の笑顔でこう言った。


「壮亮"でいい"んじゃなくて、壮亮"じゃなきゃいや"なの。

確かに私は、確かめたいって壮亮にお願いしたけど、それは壮亮だからなんだよ。

壮亮以外の他の誰とも、私はこう言うことするつもり無いんだから」


窓の外を車が通った。

ヘッドライトに一瞬照らされた壮亮の顔は、愛花に負けないくらいの笑顔だった。


「じゃあ、始めるよ」


少し緊張気味に、壮亮が言った。


「いいよ」


笑顔の愛花も、心なしか言葉が固い。

壮亮は、ゆっくり、慎重に、これまで以上に優しく動いた。


「っん……」


わずかに歪む眉間に気を使いながら、ゆっくりと優しく。


「私は大丈夫だから」


少し息が上がった愛花の言葉には耳を貸さず、時折愛花の頭を撫で、力の入った手を握りながら壮亮は慎重に動いた。


二人が事果てるまでに、一体どれくらいの時間がたっただろうか。

一人用のベットに手を繋いで並んで横になる二人は、疲労の浮かぶ笑顔で見つめあった。

触れ合う互いの肌の感触は、もう知らないものではなくなっていた。


十六歳の夏の終わり?

愛花と壮亮の二人は、初めてsexをした。


国が自然妊娠を違法とし、避妊の有無に関わらず全ての性交を禁止してから八十年目の夏の出来事だった。

























よろしければしばらくお付き合い下さい。

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