第蛇足話 陽菜√another end
どうも、専業主夫日暮相馬です。こんにちは。朝、仕事に行く自分より早起きな妻のために弁当を作ます。そしてトレーニングに行きます。二十代から老化が始まると聞いたことがあるので、体力を落としたくないのです。
そして帰ってくるころには妻が朝食を用意してくれているのです。おい専業主夫。
「ありがとう。陽菜」
「いえ、弁当ありがとうございます」
そして二人でいただきますをする。まだ朝は早い。朝食食べ終わっても陽菜の出勤時間まで時間はある。
「ほい、こっちは丸つけ終わったよ」
「ありがとうございます。すいません。私の仕事なのに」
「良いさ。そろそろ学校行くの?」
「はい。早めに」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
しばらく、車のエンジンがかかる音ともに、車が動き出す。
陽菜は教師になった。僕は家で家事をする。
「せんぱーい。おはようございまーす。お手伝いに来ましたー」
「乃安、別に大丈夫だよ。ゆっくりしてな」
「あはは、先輩も慣れたものですね。七年間も私たちのご奉仕を受けながら、よくもまぁ、ここまで自活力がついたものです。じゃあ、昼食作っちゃいますね」
乃安の背中には莉々が背負われている。徹夜明けだな。
乃安はレストランを開いている。一人だから基本予約必須のディナー中心。儲かるのかと思うけど、生活にも営業にも苦慮してないらしい。
その理由は君島さんにある。
フリーランスのプラグラマーにして、フリーゲームの広告収入。僕もやってみたけど、出来はかなり良かった。
「莉々、できましたよ。ご飯」
「ん、起きる、おき、る。乃安のご飯、食べたい」
「先輩が作りました」
「えっ、たべ、いらない」
「乃安、からかわないであげて」
「可愛いですもん」
まぁ、確かに、ほっこりするけど。うん。
「陽菜先輩、今頃どうしているでしょうね」
「授業じゃない?」
「……相馬先輩、少し柔らかい雰囲気になりましたね」
「そう?」
「はい。先輩、自分のこと、好きになれました?」
「……どうかな、前ほど、嫌いじゃないかも」
陽菜を家で待つ毎日は、結構、充実している。その日何があったのかを聞くのは楽しいし、家事をするのもわりと楽しい。
「天職かもしれませんね、主夫」
「かもね」
「はい。その通りです。なので、この問題はそこまで難しい計算を必要としないのです。発想の転換です。最初に言いましたね、高校数学は中学の基礎からなっていると。そういうことです」
私の担当教科は数学。チョークを手元でくるりと回す。
教科書を見るのが億劫になって閉じる。この前のテストの結果を見る分に、この教室にいる生徒は発想力が足りない。基礎は本当に完璧なのに。最後の問題だけ、真面目にやると計算量は多いけど、実はあまり計算が必要無い、そんな問題だった。
教科書暗記してるだけじゃ駄目ですよというメッセージを込めたつもりだ。
「チャイムが鳴りましたね。それでは、終わります」
教室を出ると、隣のクラスで授業をしていた夏樹さんと遭遇する。英語担当の夏樹さんも苦笑いしているのを見るに、テストの結果が思わしくなかったのだろう。
「お疲れ様です。お昼、一緒にどうですか?」
「そうですね。そうしよう!」
夏樹さんは相変わらず朗らかで明るく、生徒人気が高い。
「いひひ~」
そして相変わらず、今年二十六にもなるのに、スキンシップが激しい。いい加減彼氏でも作って大人しくなれば良いと思う。
「あっ。メイド長。ご無沙汰しております」
「昨日会っただろうが。あと、ここでは校長と呼べ」
「はい。メイド長」
「おい」
「メイド長をからかうのはそれくらいにしておけ、元ロリ」
「世の中の女子は元々ロリですよ。教師になっても脳筋ですか? 真城」
「てめぇ」
まさかこの人が経営する学校の先生になるとは思わなかった。でも、悪くない日々を送っている。充実している。生徒も愛着を持って育てている。天職なのかもしれないとすら思う。
相馬君に家にいてもらう事に躊躇いはあったけど、後押ししてもらった。だから、私は相馬君に家で待ってもらう。今までとは逆の立場になる事を、決心できたのだ。
「夏樹さん、今日、うちに来ませんか?」
「……! 行きます!」
「それでは先輩、私たちは店に戻りますね」
「うん。ありがとうね」
そろそろ洗濯物を取り込んで買い出しもしなくちゃな。
「あれ? おかえり」
「ただいま戻りました。夏樹さんもいます。連絡すれば良かったですね。この時間はまだ買い出しに出てないのはわかっていましたけど。買い出しはしてきました」
「早いね」
「今日は部活が無いので」
なるほどなるほど。
「やほー、相馬くん」
「やほー」
「それでは、私は夕飯作りますので、ゆっくりしていてください」
明日は土日というわけでアルコール解禁した二人。陽菜はそこまで強くないからあまり飲まない。僕はそこそこ。夏樹はかなり強い。
「いやー。美味しいねぇ。やっぱりお酒は良いなぁ。焼き鳥も美味しい!」
「ありがとうございます」
僕はポリポリとポテトを食べている。陽菜はちびちびとジンジャーエールを飲んでいる。
「相馬君は、今の生活、どう思いますか?」
「楽しいよ。もちろん」
「そうですか。支えてもらうのは慣れなくて、少し、不安になってしまいました」
「支え切れてるのかな?」
「それはもう。とても」
「なら、良かったよ」
目を閉じる。この生活を決意したのは、何でだったのかな。陽菜の性格に一番合っているものを探したら、先生だったのだ。それは覚えている。
陽菜は教えるという事をずっとやってきたからというのもある。
でも、それよりも、何よりも。
ずっと、陽菜を傍で見ていた。傍で支えてもらっていた。でも、その中で思ったんだ。
「僕は、陽菜にもっと世の中で存分に力を発揮して欲しい、そう思ったんだ」
それが、僕の得た答えだったのだ。
このendは、そうですね、平和な陽菜√を歩んだ場合のendです。相馬君は自己犠牲and陽菜依存をそこまでしなくなり、陽菜も相馬君全力の度合いが少し緩くなります。歪さが薄まった、そんなanother endです。




