遠い昔の
7章 「遠い昔の」
『社長、掘り出し物のストリートシンガーをスカウトしてきました。』
彼の名前はコウ。年は13の中学生。
会ってみるだけでもしてください。
ほんと、いい声持ってる子なんです。
それに、養護施設で暮らしてるらしくて。
珍しい。
こいつがノアーズプロに入ってここまで一人の人間を気に入ったところを未だ嘗てない。
『珍しいな。お前が子供に興味を持つなんて。』
ええ。家には子供がいなくて奥さんを寂しがらせてたから。
奥さんの主治医だった先生が養護施設の子供を引き取らないかって声をかけられたんです。
ああ、そういえば。
この夫婦の馴れ初めを思い出した。
彼自身は問題はないが、奥さんが身体が弱くて子供は望めない。
年からすると中学生ぐらいの子供がいてもおかしくない。
彼は二人でも寂しくないなんてカラカラ笑ってるやつだし、すっかり意識の外だった。
『奥さんも彼を見たとたんにあなたに似てるなんて言って、浮気を疑ったんです。
ひどいでしょ?』
俺は奥さん一筋なのに。
一途な純愛だからこそ、異例中の異例。
結婚したいからアイドルを辞めたいと言った彼のために、仕事を用意した。
それが、俳優の仕事。
もともと素質は有って、欲しいと思っていた。
だからこそ、ノアーズプロに居場所を作った。
その彼が今度は子供を育てようと決意した。
『ノアーズプロは野木沢 ユーロを応援するよ?』
勿論、社長としても、君の友達としてもね。
君にそっくりなら、演技もすごいのかなぁ?
コウとして演じきってましたね。
本当の名前は違うし、家族大好きな子供と言っていたけど…。
『初めまして。コウです。
ゼストのシェンロンさんですね。
ゼストに憧れてストリートでやってます。』
覚えている。
中学生の時、いつも行ってたストリートの聖地。
夕日に照らされた公園の広場。
中古の古びたギターおっ抱えて奴は弾き語りをしてた。
どこか古めかしいメロディーに悲しくなるほど切ない笑顔で歌う。
とても、大人びて見えたんだ。
『合格だ。
しかし、コウでは捻りがない。』
コウの芸名は本名の読みを変えたもの。
うーん。
すめらぎなんてどうだろうか?
こうは皇とかく。
それを特別な読み方をした。
『姉さん、デビューが決まったぜ。
すめらぎって、芸名だって。』
よかったじゃん。
これで、お父さんとお母さん探せるね。
わかっている。
航の両親はもう、居ないって。
だけど、航はその事を知らない――――。