航の夢
6章「航の夢」
『コウ、また新曲できたの?
聞かせてよ。』
日曜の大きな公園でストリートパフォーマーたちは凌ぎを削る。
そんなパフォーマーの端くれが俺、海崎 航。
若干14歳の歌い手だ。
『いいよ、だけど。
これ、過去の実話を元にしてあるからダークなやつさ。』
請われて歌うのは過去の俺の心。
苦しくて抜け出したいと思ったあの日。
もう、諦めるしかない、と開き直ってさ迷い出た世界で俺を拾ってくれた恩人。
あの人がいなければ今頃は…。
『彼の名前は航。
14歳の中学生です。』
彼には、歌の才能があります。
きっと、今日も歌いに出ているはず。
見に行きましょうか。
そう言って、連れてこられたのは少し遠い町の公園。
通り名はコウです。
『また、新曲出してるし。
しかも、心が引き裂かれそうな悲しく響く声。』
彼、ゼストのノアの息子ですか?
あっ、流石に同業の方だけあってわかりますか。
ゼストは航が生まれる前の15年前に芸能界にデビューしたデュオの歌手だ。
航の父親はその二人の片割れのノア。
14年前にその、ノアとノアの恋人の間に生まれた航。
二人は若かったが、協力しあって航を育てていた。
二人は本当に仲が良くて、そこらにいる夫婦なんて叶わないぐらいに尊重しあい、助け合っていた。
『ノアの事故死の報道は航が5歳の誕生日を迎えた日にありました。』
そして、同時にノアは航に多額の遺産を残した。
お金がありすぎるのも、少し考えようものです。
航の母親も同じ事故で死亡して、航はノアの姉に引き取られました。
だけど、それは航の持つノアの遺産目当てで、航の世話はしなかった。
暗い闇のなかで一人で過ごした夜はどれだけ寂しく心細いものだったでしょうね。
『夜の街に出てきていた航を父が保護したと聞いています。』
その頃のことは覚えています。
航はとても愛情に飢えていた。
そこで、父と、その頃家にいた家族が協力して航をたくさんの愛で包んだ。
航にはノアのことを言わなかったし、記憶も消えている様だったのに。
いつの間にか、ああしてアーティストとして活動するようになった。
『航の歌、サイコーです。』
あの子の歌が途切れないように守ってくれる人。
それが、私からの条件です。
わかりました。
私、今、ノアーズプロ所属なんです。
ゼストのシェロンが亡き相棒のノアを大切に思って自分の会社にノアの名前をつけたんです。
社員にコウをスカウトさせます。
シェロンだって気に入るはず。
だから、彼の夢を応援させてください――――。