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奇跡  作者: 明日奈 美奈
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幸子ちゃん事件

5章 「幸子ちゃん事件」

『その新聞をお読みください。

そうすれば、幸の過去はわかりますよ、浩司こうじさん。』

事件の始まりは、ある一組の夫婦の不仲だった。

もとから気の会わなかった二人だが、子供をきっかけに結婚した。

その子供が幸子。

今の、幸。

だが、二人の関係は結婚したことで破綻して夫は生まれた子供と妻を置いて家を出る。

妻も、夫の元に子供を引き取るように言って、家を出る。

お互いが子供を引き取ったと思い込んでいたわけだが。

結果、幸子が発見された時には痩せ細って泣くことも、笑うこともない赤ん坊になっていた。


『実名で報道された幸子の引き取り先は無くて、父が実子として届け出て、強引に引き取って来ました。』

家が児童養護施設になった瞬間でした。

その後も父は私の妹や弟だと言っては訳ありの子供を引き取って来ていました。

母の遺言で私にたくさんの兄弟をって。


『きっと、お母様は…。』

ええ。そうです。

父に再婚してもいいって言ったんです。

なのに、あの父親は…。

私が心残りなのは、そんな人を見つけられなかったことです。

母にとっての父、父にとっての母のような。

一生愛せる人を。


『父が死んで、唯一の家族だった妹まで私を置いて逝ってしまった。』

私の今の家族は幸や、その弟、妹だけです。

私は残された時間で、彼女たちに幸せをあげたい。

家族からの無償の愛をあの子達にあげたい。

あたしの遺産は子供たちに残る愛情。

あの子達があたしのことを愛してくれる。

あたしはあの子達を愛してる。

あたしが生きた証はそれで充分よ。

でもね、欲を言うなら、唯人ゆいとの成長が見たかった。

真唯が、上総さんが、守った命の行く末を見守りたかった。


『私には家族は弟と妹たちだけ。

だから、きちんと守ってくれる人を選んであげたい。』

事情はわかりました。

私も、医者の端くれです。

あの、事件の凄惨さは今でも覚えています。

そうですか。

あのときの幸子ちゃんが、幸せになろうとしている。

そのお手伝いを私共にさせてください。

父は幸を引き取ることに決めたようだ。

僕だって、知っている。

サイレントチルドレン、泣かない子供。


『どうか、幸が幸せすぎて心から涙できるような幸せをあげてください。』

家族の一員と認めて、泣いても側にいて欲しい。

今度こそ、棄てられたと思わせないで。

それが、私からのこの事件を通してのお願いです――――。



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