顔合わせ
4章 「顔合わせ」
『はじめまして。
児童養護施設夕日の家の代表の海崎 空といいます。』
初めて会ったその人は凛々しくて、とても俺よりいくつか年上なだけには見えなかった。
黒のスーツスカートを着こなし、栗色の髪を結い上げて眼鏡をかけて理知的で。
歳よりも大人っぽく見える。
『この度のお話は、当施設の閉鎖が決定いたしましたので持ち上がったことでございます。
閉鎖理由といたしましては、施設長の私の体調が思わしくないことです。』
今、施設にいる7人の子供たちの未来を思いまして。
こちらの先生に相談して知人の比較的裕福で子供を引き取る意思のあるご家庭を紹介して頂いております。
施設の閉鎖理由が決して経済的な理由でも、子供に満足いく教育ができないことでもないと言い切る。
『あなた方に引き取りをお願いしたいのは、今現在最年長となる幸と言う女の子です。
来年の春に高校生になります。』
当施設の子供たちは、普通の施設では引き取れないとレッテルを貼られて引き取られて来た子供たちです。
しかし、彼等は誰にも愛されたことがなかったから、愛し方を知らないだけだと前の施設長は言ってました。
彼も、亡くなりましたが。
恋人だったのだろうか?
切なそうに笑う彼女。
『妹になるかもしれない幸って子のことが知りたい。』
幸は優しく思いやりを持った子供です。
小さい子達の世話も率先してやってくれています。
あの子は保育士になることが夢です。
ただ、経済面を気にしていて進学を諦めています。
もし、条件を守って頂けるなら、あなた方に幸を引き取っていただきたいと思います。
『それから、こちらが幸に関する資料になります。』
手渡されたのは古ぼけた一冊の分厚いノート。
今時、資料と言えば、パソコンが主流だろうに。
ノートに銘打たれたタイトルは結宮 幸子。
この、幸子と言うのは?
幸のことです。
とりあえず、この事も含めてお話いたします。
結宮 幸子の名前が琴線に触れる。
何で記憶していたんだっけ?
『っまさかっ、幸子ちゃん事件の…。』
ああ、覚えていらっしゃる方もいたのですね。
あれから、15年たちましたから、記憶にある人も少ないと思いましたが。
母さんの呟きに、弘兄が目を瞠る。
あの、幸子ちゃんです。
実名が週刊誌に掲載されたことで、彼女には未来永劫マスコミの餌食になることから逃れられない運命ができてしまった。
それは、私たち大人に責任がある。
これでわかっていただけましたでしょうか?
父が強引に実子として幸を引き取り、幸と名前を変えた理由が。
いや、わかんねー。
俺一人が茅の外だ――――。