事情説明
2章 「事情説明」
『あたし、弟や妹が7人居て。
全部が父の養子なんですけど。』
父が養護施設の施設長で、訳ありで他の施設で暮らせない子供たちを養子にする形でよく連れ帰ってきてて。
みんなを遺して逝けないから。
みんなの引き取り先を決めてあげないとね。
身体が言うことを聞かなくなる前に。
『一番上が来年の春に高校生になります。
一番下が生まれたばっかりの赤ちゃんです。
最後の子だけはあたしの養子として引き取りました。』
状況が酷いような子だけはあたしたちの判断で実子として引き取ります。
幼稚園になる子がそうです。
ちょうど運良く父が亡くなってから一年以内に生まれていたから、死後に認知しました。
あたしは責任持ってみんなを幸せにするって決めました。
本当の家族と長くいられなかったから。
やっと、家族らしくなったのに。
『真唯、あなたの息子だけは最後に決めさせて。
どうしても手放す勇気を持てないの。』
真唯、あなたはお母さんが命懸けで産んだ子供。
あたしのたった一人の妹。
だけど、あなたまであの子を遺して逝くなんて。
あなたの彼は父親になろうと必死で勉強していてくれた。
まだ見ない子供のために真面目に働き始めた。
そんな矢先に…。
真唯、彼はあなたと息子を守ったのよ。
命を懸けて。
だから、生まれてくることができたんだわ。
でも、彼のお兄さんは最悪で、どうしようもなくて。
あたしが死ねば、この子は彼しか身内がいなくなる。
それだけは嫌よ。
この子にはそんな冷酷な人間になってもらいたくない。
あなたや彼みたいに命を懸けてでも守りたいと思える人に出会ってもらいたいの。
『絶対にこの子を渡しはしないわ。』
彼の耳に甥っ子のことが入る前に。
叔父だと名乗りをあげる前にこの子にはきちんとした養子入先を。
あたし、ちゃんと真唯と上総さんの遺した子を守るからね。
先生にはこの子があたしの甥子だと言うことは話していない。
ただ、両親を事故で亡くしたと伝えようと思う。
『俺に血の繋がった子供なんていない。』
ひどく冷淡で感情なんてない声。
甥っ子のことがかわいくないような人にこの子を渡せない。
瞬時に判断を下した。
あたしが引き取ります。
その代わり、何があろうと今後一切この子に関わらないでください。
この子の人生を狂わせようとするならそのときはあたしが人生すべてを懸けてでも守り通します。
あたしは電話を切ってすぐに携帯を変えた。
連絡も取れないようにした。
どうせ、あたしの名前なんて覚えていないだろうな――――。