出会い
1章 「出会い」
その日の患者は同年代のアラサーの女性だった。
うるさいぐらいの雨音のする梅雨の湿気った空気を胸に吸い込みながら、どう話そうか考える。
考えてみれば、告知をすることはあってもされることはない。
『海崎さん、大変申し上げにくいことですが、ご家族か誰かいらっしゃいますか?』
いいえ、家族はいません。
告知ですね。わかってます。
あれだけ苦しかったんですから、重篤な病だと察しはつきます。
私も暇な人間ではないので、さっさとしてくれます?
強くいい放つ冷静な顔を見つめる。
『あなたの病名は肺がんです。』
吐血をして倒れたと彼女はこの病院に運ばれてきた。
検査の結果は、ステージⅡbの肺がん。
手術のしようがないほど珍しい場所にできている病巣。
手の施しようがない。
『どのくらいですか。
あと、どのくらい病気を誰にも悟られずにいられますか?』
半年から長く保って1年が妥当でしょう。
そうですか。
半年…。
半年あれば。
『こぉらぁっ。航なぁにやってんの?』
航はいたずらの好きな中学生。
だけど、いいところもある。
ストリートパフォーマーとしての稼ぎを家に入れてくれる。
『姉さん、航のことはあたしが叱っておくし、片付けしておくから。
瞬が泣いてる。』
ありがとう。幸。
あなたがいてくれるお陰で職員さん雇わずに済むから余計家族っぽい。
幸の夢が叶うように大学も行っていいんだからね。
『あたしのことを考える暇があったら、チビたちの将来にお金を使ってやってよ。』
幸は我が家の経済状況もよく知っている。
だからこそ、自分の夢より幼い弟や妹の未来に使ってくれと言う。
自分より他人を思いやれるその心こそ一番にこの仕事に向いていると思うんだけど。
だからこそ、この仕事についてもらいたいのに。
『顔色が悪い。
きちんと薬飲んでるんですか?
これ以上数値が下がるようなら即、入院になりますよ?』
同い年とわかった主治医の彼は手厳しい。
そんなに長く残された時間がないのなら迷っていられない。
あたしにしかできないこと。
残されたあの子達が幸せをつかめるように。
父さんができなかったことをこのあたしが。
あの子達に新しい人生を。
先生、残された時間があと少ししかないなら、あたしはその時間で奇跡を起こしたい。
だから、奇跡を起こす力をあたしに貸してください。
お願いです。
大切な人をあたしの死によって苦しめたくないんです。
こうして、俺は彼女と奇妙な人探しを行うこととなった――――。