婚約破棄? それより、殺せば良いじゃないか
私はこの王国の王太子である。
私には昨年より愛する女性がいるのだが、先日、父上が私に断りも無く勝手に婚約者を決めた。
隣国と国境を接する辺境伯の娘。
複数の国の王家の血を引いているらしいが、そんな物は女としての魅力とは関係無い。
それなのに、父親が王家を凌ぐ領地を持っているからと思い上がり、我が愛しの君を迫害するなど、許すまじ!
私は父上に、婚約を破棄して恋人と結婚したいと訴えた。
「馬鹿な事を申すな。男爵家の庶子を王太子妃にして、何の得がある?」
得かどうかで物事を測り、彼女自身を見ようとしない父上に腹が立った。
「あの女は、王太子妃に、延いては国母に相応しくありません!」
「お前は目が曇っているようだな」
私を馬鹿にするなど、父であっても許せん!
ああ、そうだ。
父上がいる限り、彼女と結婚出来ないし・あの女との婚約も破棄出来ないのだ。
だったら、殺せば良いじゃないか。
「陛下?! これは一体……!」
父上を殺した私は、憎い女を呼び出した。
「お前が殺したのだ」
「殿下?!」
「お前は父上に凌辱されそうになり、抵抗して殺した……と言うシナリオだ」
名ばかりの婚約者は、顔を青褪めさせて逃げようとした。
「出会え! 父上が殺された! その女を捕まえろ!」
「似合いの末路だ。そうだろう?」
「え……ええ。そうね」
翌日。
私は愛する女と共に、父上を殺した女の公開処刑に立ち会った。
自分を迫害した女の為に涙を浮かべるなんて、何て優しいのだろう。
私は彼女の血の気の引いた顔を見て、愛しく思った。
辺境伯も近々捕らえて縁坐で処刑する予定だ。
その夜。
「護衛は何を……ガハッ!」
縁坐を不服としたのだろう……城に乗り込んで来た辺境伯に刺された私は、血を吐く。
「で、殿下……」
愛する人の声が聞こえた。
そうだ。彼女も寝室に居たのだ。
「仇打ちですか?」
彼女が凶行の理由を尋ねた。
「私は、我が血を引く者を王にしたかった。しかし、娘は失われた。息子を王にする為に、私が王となる!」
「そんな事、許される筈」
「許されるかどうかは、お前が心配する事では無い。殿下。せめてもの慈悲として、この女も同じ所に送って差し上げましょう」
それは有難い。
私の死後、彼女が他の男に心変わりするなど、考えただけで狂いそうになる。
しかし、私を殺すお前は末代まで呪ってくれる!
「い、嫌っ!」
ああ。目の前が暗くなって、彼女がどうなるのかが見えない。
殺される所を見たくないと言う気持ちと見たい気持ちが、強制的に失われる。
きっと直ぐに天国で会える。
そう思った私は笑みを浮かべた気がした。