EP8 スルースキル?
4/5 大幅修正
「ここは子供の遊び場じゃねぇぞ! 帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな!」
冒険者登録していきなり声を掛けられることになったクウ。だがその声には親しみなど一欠片もない。もちろん新人潰しと呼ばれるものである。
絡んできたのは頬に十字の傷をつけたスキンヘッドの中年男。背中に斧を背負い、戦士らしい重厚なアーマーを身に着けている。とりあえずクウは《看破LV5》を使って能力を確かめてみた。
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ロビンソン 32歳
種族 人 ♂
Lv24
HP:745/745
MP:489/489
力 :633
体力 :740
魔力 :508
精神 :378
俊敏 :455
器用 :389
運 :14
【通常能力】
《斧術Lv3》
《身体強化Lv2》
【称号】
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当然だが、現役冒険者だけあって召喚されたてのクウよりもステータス値が高い。まだレベル1であるため、当然の差だというのは分かっていても少し悲しくなるクウだった。
ただし、スキルに関してはクウの方が圧倒的に上であった。地球にいたころに身に着けた武術がスキルとして変換されたのだろう。レベルという概念は地球になかったため、異世界エヴァンに来て実装された。それ故にレベル1からのスタートなのだろう。おかげで身体能力が下がったのだが……
「おい! 何か言ったらどうなんだ?」
「くはははは! やめてやれよロビン! そいつビビっちまってるぜ!」
『ぎゃははははっ!』
(……ウザいな。無視だ)
クウは表情も動かさずに一瞥だけして再び視線を目の前に受付嬢へと戻す。金策を得るためにも早めにギルド登録をしたかったため、余計なものは無視することにしたのだ。
「じゃあ、とりあえず冒険者の説明してくれ」
「え……? あっ、はい。分かりました」
え? スルーなの? と言いたげな受付嬢だが、さすがはプロだ。ツッコミどころがあってもそつなく説明に入る。
「知っていると思いますが、冒険者というのは資源の採取や魔物の討伐、盗賊討伐に護衛、そして未開の場所の調査などと言った様々な仕事をこなして報酬を得る傭兵と便利屋を兼ねた職業です。もちろん個人の持つスキルによって仕事は偏りますが、《剣術Lv2》を持っているクウさんなら討伐系の仕事が中心になっていくと「おい、ガキ! 何無視してんだ!」……今は説明中ですので絡むなら後にしてください。業務妨害で除名しますよ? 「チッ……」 では、説明続けますね。
冒険者はランク制度を採用しています。このランクは受けられる仕事の難易度とも対応しており、基本的に自分のランクよりも一つ上までの依頼しか受けることはできません。依頼リストは受付のとなりにある掲示板に張り付けてありますので、受けたい依頼があれば剥がして持ってきてください。私どもがそれを受理することで、依頼を受けたことになります。ここまでよろしいですか?」
要約すると、日雇いの仕事を斡旋してくれているということだ。ランクは実績のようなもので、現代で言うところの課長や部長のような地位のこと。昇格すれば難しく大きな責任を伴うような仕事を任せてもらえる。もちろん難しい仕事は報酬も高い。
(大丈夫だ。理解できてる)
クウは受付嬢が説明した内容を頭の中で反芻しながら自分なりの理解をしていく。数拍ほど間を置いてからクウは再び口を開いた。
「問題ない。続けてくれ」
「はい、では続けますね。
この依頼ですが、仮に失敗しますと罰則金をはらう義務があります。罰則金は成功報酬をそのまま払っていただくことになるので、無理に依頼を受けると大変なことになりますから気を付けてくださいね。ちなみに支払いができない場合は信用があれば1か月だけ猶予が与えられますが、それを過ぎると奴隷とされてしまいます。問題行動が多いなどで信用がない場合は即座に奴隷にされますので、日頃の行いにも気を付けてください。
そして逆に依頼を達成し、さらに十分な実力があると判断されればランクアップできます。ランクはGから始まり、A,S,SS,SSSまでの10段階あります。とは言ってもS以上の冒険者なんてほとんどいませんけどね。質問はありますか?」
(罰則金か……依頼失敗には気を付けた方がいいな。一応王様から小金貨10枚分、つまり100,000Lを貰っているが、余計な出費はしたくない。問題行動ってのは……さっきから睨んできているロビンソンみたいな行動だろうな。
あとは……今日泊まる宿とか聞いておくか)
いい加減ロビンソンからの視線が面倒になり始めたクウであるが、気にもしていないかのように振舞う。戦士特有の威圧を放ちながらクウを睨みつけているロビンソンだが、その程度の威圧ではクウをどうにかすることなどできなかった。何故ならクウの育ての父親……つまり朱月家当主と相対したときに受けた威圧のほうが遥かに大きかったからだ。
ごくごく自然体を貫いたまま、クウは受付嬢に質問をする。
「だいたい分かった。できればおススメの宿とか教えてくれ」
「宿ですね? それならギルドを出た通りを左手に行くと『赤の鳥』というところがあります。新人の冒険者には少し厳しいかもしれませんが、おススメですよ」
「そうか、ではそこに行こう」
「はい、最後にこれがクウさんのギルドカードについてです。初回は無料ですが、紛失された場合は大銀貨1枚で再発行することになりますので」
先ほど受付嬢に渡されたのは何も書かれていない真っ白なカード。クウは怪訝そうな顔をして裏返したり透かして見るが、見事に何も書かれていなかった。クウは、どういうことだ? と首を傾げる。
そこで戸惑うクウに気づいた受付嬢が慌てて捕捉した。
「すみません、言い忘れてました。ギルドカードはクウさんが魔力を通すことで本人登録がされ、以後はクウさんの魔力にのみ反応して内容を表示させたり消したりすることができます。必要なら魔力を流す補助道具を貸しますが?」
「魔力操作ができるから問題ない。こうか……?」
言われたままに魔力を流すとカードに文字が浮かび上がってきた。
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クウ・アカツキ 16歳
種族 人 ♂
ランク G
パーティ -
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「パーティ?」
「パーティは同じ冒険者でチームを組んでいる状態です。メリットとして、依頼を複数のメンバーで受けることができます。デメリットは報酬が山分けになることですね。もちろんパーティを組まずにソロで動くことに問題はありませんよ?」
「なるほど」
まるでゲームのような世界観。
ありがちなRPGの設定と似ていたためにクウも馴染むことができたが、見慣れない設定だったならば戸惑っていたことだろう。
クウは心の内で安堵しながら言葉を続ける。
「俺は知り合いもいないしソロで動くことにするよ。いろいろありがとう」
「いえ、仕事ですから……それよりも……」
受付嬢はチラッと目を逸らす。
その目線の先には先ほどクウに絡んできたロビンソンがスキンヘッドに青筋をいくつも浮かべて立っていた。……それもクウの真横に。
「ようやく終わったか? Dランク冒険者の俺を無視し、あまつさえ一瞥もせずに待たせるとは……舐めてんのか? ああっ?」
「おや? まだいたのか? Dランク冒険者とは新人を待ち続けるぐらい暇なんだな。それと、お前みたいなやつを舐めて楽しい訳ないだろ」
「なっ!」
面倒くさそうに言葉を返すクウに、ロビンソンは絶句する。まさか冗談……もといおちょくられるとは思ってもいなかったのか、一瞬だけ動きを止めた。
そしてその光景をみた周囲の冒険者も騒ぎ出す。
「ぷっ……くす」
「クックック……」
「ぶはははははっ!」
「新人にバカにされてるぜ? ロビンよぉ」
ロビンソンは頭の先まで真っ赤にさせて茹タコのようになった。なんとなく面白そうだったという理由でつい挑発してしまったクウだが、身体能力が落ちている今の状態でこれだけ余裕を保っていられるのは大物の証なのだろう。
「き・さ・ま……表に出ろ! 叩き潰す!」
「表でいいのか? 裏じゃなくて?」
烈火のごとく怒りを表したロビンソンは今にもクウに襲い掛かりそうな剣幕を見せている。
だがクウは先ほど問題行動について説明されたばかりなのでチラリと受付嬢を見ながら「いいのか?」と目で問いかける。
しかし受付嬢は首を縦に振りながら答えを返した。
「はい、冒険者同士の問題は基本的にギルドは関与しません。それに表でも問題ないかと。むしろ表で堂々とやるならば、逆に問題になりません。決闘として扱われます」
なるほど、と頷くクウ。
多少の暴力沙汰は問題ないとお墨付きを得たため、スッとロビンソンの方へと向きなおって口を開いた。
「よし、表に出てやろう」
「クソ、舐めやがって……後悔しても遅いからな!」
クウはドカドカと足音を立てながらギルドの外へと向かうロビンソンの背中を見つめながらほくそ笑む。
(さて、能力実験の実験台になってもらおうか)