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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
逃亡生活編
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EP72 複合スキルの真価

 レインはレイピアを持った右手を引きつつ、左手を前に出すようにして構える。刺突をするのに適した構えであり、踏み込んで攻撃することも、相手の出方を待ってカウンターすることも流用できる万能の型だ。

 相対しているクウは自分の認識外から攻撃を仕掛けてきたのだ。宣言通り、レインに油断はない。



「行くよ……」



 レインはそう呟いて魔力を纏わせたレイピアに意識を向ける。

 《魔力支配》で制御された魔力は芸術とも呼べるほど完璧に操作され、ムラなく均一に圧縮されて刀身を覆っているのだ。それをさらにレイピアの先端に凝縮するようにしながら鋭い突きを放つ。

 興味深そうに観戦していた周囲の人々には、何もない空間を貫くだけに見えた。だが、クウにはしっかりと感知できていたのだ。

 放たれた突きの先端から射出された魔力塊を。



「っ!?」



 予想外の攻撃に一瞬驚くクウだが、その前兆は魔力感知で気付いていた。

 高いステータス能力を使って難なく回避する。

 だが、避けられた魔力塊はクウの遥か後方にある建物の壁を大きく穿ってしまった。レンガで出来たそれなりに丈夫な壁であるのだが、問題ないとばかりに穴を空ける。人は誰も居なかったことが幸いだったと言えよう。それを見て頬を引き攣らせながら逃げて行った者も何人かいたほどだ。

 いくら何でも致死性のある攻撃に巻き込まれるような戦いを観戦するほどの猛者は少ない。



(ただの魔弾じゃない。斬撃を魔力に乗せて飛ばした? いや、この場合は刺突を飛ばしたのか。魔纏と魔弾を融合させた技だな)



 クウはレインの技を一瞬で看破する。

 そもそも複合スキルとは、普通のスキルとは大きく異なる点が存在するのだ。

 それはレインが刺突を飛ばしたように、内包するスキルとスキルを融合させて普通とは異なる効果を得ることが出来るというものである。だからこそ二つ以上のスキルを内包する場合は「複合上位・・スキル」と表示されるのだ。

 複合スキルがなければ《魔纏》と《魔弾》を持っていたとしても同じことは出来ない。それが上位スキルとしての優位性なのだから。

 クウの持つ《抜刀術》も、《刀術》と《居合》を組み合わせて戦うからこそ習得していたスキルなのだ。ただ、刀を振り、居合いを出来るというだけでは複合スキルにはならない。そういう点では、加護の力で強制的にスキルを最適化されたことで《魔力支配》を使えるようになったクウはかなりズルいと言えるだろう。普通は長い努力の末に複合進化するのだから……

 細かい話をすれば、魔法もそのたぐいに入る。各属性にはそれぞれ特性があり、その特性を理解して使いこなすことでより複雑で強力な魔法を使うことができるのだ。普通に炎をだすだけでも「熱」と「光」の特性を同時に発現させているということを考えれば分かりやすい。逆に言えば、異なる属性を組み合わせた合成魔法というのは《月魔法》のような専用スキルが無い限りは不可能なのだ。



「へぇ……初見でこの技を避けるとはやるね。《魔力感知》でも持っているのかな? まぁいいや。次は避けられるかな?」



 レインは攻撃を回避したクウに感心しつつも、再び突きの構えを取る。クウも流石に拙いと感じて神刀・虚月の柄を握る右手に力を込めた。



「ふっ……!」



 レインは魔力をレイピアに込めつつ突きを放つ。

 しかも今度は連続で。

 先程と同様に刺突の威力が乗った魔弾……謂わば「魔突」とも言うべき攻撃がクウへと殺到する。その速度は通常の魔弾にレインの突きの速度が加わって音速を突破しているのだが、クウは難なく抜刀の『閃』で魔突を切り裂き、次いで飛んでくる魔突も『断』で切り裂いた。避けると周囲に被害が出てしまうと判断しての行動である。

 普通ならば知覚も出来ない攻撃なのだが、クウは魔力感知を使って視覚に頼らずにレインの攻撃を防いでいく。そのことにレインも驚きを隠せなかった。



「まさか……この攻撃すらも防ぐとはね!」



 レインは獰猛な笑みを浮かべながらさらに魔突を放つ。

 クウは観察するような目を向けつつ冷静に切り伏せていく。

 周囲からすれば理解不能な戦いなのだが、二人にとってはまだまだ小手調べの段階だった。その証拠に、二人の顔にはまだまだ余裕があり、レインは突きしか使っておらず、クウも迎撃しかしていない。

 さすがにレインもこの程度では魔力を無駄にするだけだと悟ったのか、一気に踏み込んで接近戦を仕掛けてきた。クウもそれに反応して前に飛び出す。


 ギャリリリリリリッ!


 空気を穿つような鋭い突きをクウは神刀の鞘で受け流しつつ、右手の神刀・虚月でレインの左肩を狙う。だが、レインもSSSランク冒険者だけあってしっかり反応し、魔装甲で防御しつつ衝撃を受け流した。

 そして刀を振り切った直後の硬直状態にあるクウのわき腹に向けて掌底を放つ。



「くっ!」



 クウは咄嗟に魔装甲をピンポイントで使いつつ後ろに跳んで衝撃を殺した。街を散策している途中で襲われたクウは防具を着けていない。ステータス差があったとしても、無暗に攻撃を食らうのは避けるべきだと判断したのだ。

 そしてその判断がクウを救うことになる。



「やるね」


「厄介な攻撃ばかりだな……」



 レインの掌底は《魔装甲》《魔力操作》《魔呼吸》を組み合わせた技であり、魔装甲で掌に纏わせた魔力を魔力操作で分離させ、魔呼吸で無理やり相手の体内に捻じ込んで体内から破壊する攻撃なのだ。浸透魔掌底とも言うべきこの攻撃を不用意に受けて死んだ者は数えきれない。

 防具もほとんど意味をなさず、クウのように魔障壁などで防御するか、身体強化で耐えたり魔力操作で捻じ込まれた魔力を無理やり制御するような方法しかない。もしくは種族的に丈夫な存在ならば、少々のダメージで済むだろうが……

 さすがにクウもこの攻撃は拙いと感じたのか、魔装甲を発動させて全身を覆う。白く薄い膜のようなものがクウの体を包み、そのことでレインを驚かせた。



「なるほどね。君も《魔装甲》を使えるのか。それに《魔纏》も《魔障壁》も使っていたね。その若さでそれだけ使えるとは大したものだ。流石は悪神の手先ってところかな?」



 その言葉にクウは眉を顰める。

 レインは情報系スキル持っておらず――《気配察知》は除くが――クウのステータスを見ることなど不可能なはずだ。しかもエクストラスキルの《森羅万象》で隠されたステータスを見るには同レベルのスキルが必要となる。とすれば《森羅万象》を得る前に見られたことになるのだが、あまりにも心当たりがないのだ。

 クウほどの使い手になれば、情報系スキルでステータスを覗かれれば気づくことは間違いない。加護のこともあって、一応そのことに気を張っていたのだが、クウの《偽装》を突破してくる者はいなかったはずなのだ。

 まさか神託でバレたなどとは夢にも思わないクウにとって、レインの言動は謎でしかない。



「何で俺が悪神の手先だなんて思ったんだ? 俺にはSSSランク冒険者様に襲われている意味が分からないんだが?」


「全ては光神シン様の思し召しなのだよ」



 ダメ元で聞いてみたクウだが、やはり要領の得ない答えが返ってくる。

 だが、何かしらの確信があるのは間違いないと思い直して考える。



(一番の可能性としてはリアだが、《森羅万象》で嘘を見抜くことも出来るし大丈夫だろう。それにリアに限って裏切りはないだろうしな。

 次点では俺以上の存在が気づかないうちにステータスを看破していたというパターンだな。だが、それならレインに始末させなくても自分で俺を殺しに来ればいいだけだ。格下ならステータスを覗かれた途端に気付くから、間違いなく俺より強いだろうし。

 それでも光神シン様の思し召し、と言っていることから何者かによる入れ知恵があったんだろうな)



 状況は良くないが、クウにはまだ余裕がある。

 その気になればレインは簡単に倒せるし、いざとなればファルバッサを召喚するという手もある。

 だが、世界で唯一のSSSランク冒険者が相手である以上は、殺してしまうと後々で問題になる可能性が高いのだ。《幻夜眼ニュクス・マティ》で眠らせるのが手っ取り早いのだが、レインとのステータス差では精神を壊さずに眠らせることは難しい。幻術のさらに上の段階である催眠は、相当な精神値の差がなければ安定して発動することが出来ないのだ。下手に使用すれば、闇魔法――今は月魔法――の《精神蘇生マインド・リザレクション》では治せないぐらいに精神こころをズタボロにしてしまうことになりかねない。

 人族の切り札とも言うべき戦力を廃人にするのは拙いだろう。SSSランク冒険者にしか出来ない任務だってあるのだから……



「さて、覚悟は出来ているかな? 神敵、クウ・アカツキ君!」



 だが、レインは悩むクウにお構いなく激しい攻撃を繰り出す。

 身体能力面では劣っているが、身体強化でブーストを掛けて差を減らし、《細剣術 Lv10》という破格の能力で攻め立てる。武器を扱う技術では完全に負けているクウは、油断なく防御に徹して思考を続ける。

 クウも理解しているのだ。

 スキルを上手く使うことで格上の相手にも勝てるということを。

 何故なら召喚当初のクウはそうやってロビンソンやギルドマスターのブランから勝利をもぎっとってきたのだから。

 ステータスで勝っているからと言って油断などするはずがない。



「《恐慌滅心矢フィアー・アロウズ》!」


「魔障壁!」



 激しい剣の応酬の合間に放つ無詠唱の魔法もレインの魔障壁で防がれる。

 剣の技術の差も身体能力の差で相殺させているに過ぎない。

 身体的にも精神的にも殺さないという条件での戦いがクウにとって大きな枷となっていた。



(くそっ、手足の2本ぐらいは切り飛ばすか? 後でくっつけながら回復魔法を使えば治るだろう……いや、その前に武器を破壊すれば……)



 レインは魔装甲で体を防御し、魔纏でレイピアを強化している。クウも同様の強化をしているが、SSSランク冒険者の使う武器だけあって簡単には破壊できない。

 だがクウにはそれを可能にする当てがあった。



(神刀・虚月の能力を使えばレイピアを切断することは出来るが……納刀するのが難しいな)



 魔力を通した状態切ったものを透過し、納刀時に強制切断する能力を持っている神刀・虚月だが、問題はレインが納刀することを許さないことだ。

 長年を戦いに生きているだけあって、その技術はクウですら及ばない。上手く納刀しようとしても尽く邪魔されるのだ。幻術を使って認識をずらしても、レインは《気配察知 Lv8》を使ってすぐに気づいてしまうだろう。

 レインとしてもクウの居合は情報で仕入れているのだから、警戒するのは当然だった。むしろ《細剣術 Lv10》を以てしても未だにクウを倒すことが出来ないことに驚き、さらに警戒を強めたほどだ。

 お互いがお互いに決め手の無い状況。

 そんな戦いを20分ほど続けていた時、事態は動いた。



「どうしたっ! 何があった?」



 刀とレイピアが打ち合う激しい金属音に紛れて聞こえてきた声。

 クウとレインはピタリと動きを止めてお互いに飛びのき、声の方へと目を向けた。

 何度も聞いた、クウとリアにとっては聞こえ覚えのある芯の通った女の声。

 女騎士のステラがそこにいた。



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