EP6 鍛冶師ドラン
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コンコン
部屋をノックする音が聞こえてクウは扉の方に目をやる。
「クウ様、鍛冶師のドラン様が呼んでおられます。『例の物が出来た』だそうです」
「分かった。すぐに行く」
城に使えるメイドさんに呼ばれて支度を再開する。
宮仕えのメイドはこの世界にもいるらしく、本物のメイドというものにクウも少しは興味を持った。日本でメイド喫茶などのサブカルチャーはあったものの、あのメイドは一種の接客スタイルに過ぎない。
本来のメイドは慎ましく振舞う影の功労者なのだ。
(ドランさんに呼ばれたってことはアレが完成したのか?)
鍛冶師のドランとはクウがあるものを作って貰うために頼みに行った宮廷鍛冶師だ。王城の貴重な品を見る権利の代わりに城に仕えているらしい。その中でクウの見つけた木刀にはドランも初めて気づいたそうなのだが……。ドランも《鑑定Lv4》持っているのだが、木刀であったために見向きもしなかったのだ。
そこでクウがドランに刀という武器の素晴らしさを語っている内に興味を持ったらしく、意気投合することになった。クウもそれ以来何度か顔を出しては武器についての討論を交わしている。
また、ステータスはこのようになっていた。
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ドラン 48歳
種族 人 ♂
Lv18
HP:640/640
MP:368/368
力 :689
体力 :640
魔力 :280
精神 :509
俊敏 :356
器用 :580
運 :26
【通常能力】
《鍛冶Lv7》
《鑑定Lv4》
《火耐性Lv5》
【称号】
《宮廷鍛冶師》《ルメリオス最高の鍛冶》
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「ドランさん、アレが出来たって聞いたんだけど?」
「おうクウの坊主か! 見てみろ、これを!」
「へぇ……」
ドランが出したのは黒銀に鈍く輝く一本の鞘。ドランが木刀ムラサメ専用に作ったものだ。クウが宝物庫で木刀ムラサメを見つけた時には刀用の鞘は一つも見つからなかったために、こうしてわざわざ専用の物を作って貰うことにしたのだった。
「こいつは貴重なアダマンタイトを使った軽くて丈夫な金属の鞘だ。金属で鞘造るなんて初めてだからな。何度か失敗したんだが、ようやく満足がいくものになった」
ドランは晴れ晴れとした顔つきで自慢する。
専門でないクウでも見ただけで素晴らしい逸品だと分かる。早速《看破》で能力を見ることにした。
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樹刀の鞘
製作者 ドラン
宮廷鍛冶師ドランが木刀ムラサメ専用に造
ったオーダーメイドの鞘。
アダマンタイトで出来ているため、鉄の5分
の1の軽さにもかかわらず、強度は数倍。
さらに魔力を通しやすい性質を持っている。
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鞘にはもったいないほどの性能にクウも驚く。
敵の神の加護を持った人物にこんな装備渡していいのか? とクウも一瞬考えるが、そもそも騙してるのはクウなのだ。
しかし、宮廷に仕える現役の鍛冶師だけあって仕事は丁寧かつ早い。鍛冶技術の廃れた日本と違って、この世界エヴァンでは今でも鍛冶が発展し続けている。地球になかった未知の金属アダマンタイトを使って初めて物を作るとしても、十分過ぎるものを完成させる技量を持っていた。
ドランはこれから刀を研究するとか言ってたため、数年あればそれなりのものを作ることができるようになるだろう。それにこの世界でも刀は全くない武器というわけではないのだから。
良いものを貰って上機嫌のクウは頭を下げてお礼を言う。
「素晴らしい鞘です。ありがとうございます」
「いいってことよ。それより坊主の『技』を見せてくれよ」
「ええ、巻き藁ありますか?」
「おう、あっちに用意しておいたぜ」
クウはドランに何故このような金属の鞘を作るのか聞かれたので『居合い』について教えた。すると是非とも見せてくれ、と頼まれたために見せてみることにしたのだ。その代わりにアダマンタイトで鞘を造るという約束をしたというのもあるのだが……
クウはさっそく木刀ムラサメを樹刀の鞘に納めて居合いの構えをとる。
この木刀は魔力を流すことで切れ味が鋼を超えるという一種の魔法武器なのだ。そして魔力伝導が素晴らしいアダマンタイトで出来た鞘のおかげで、納刀状態でも楽に魔力を纏わすことができる。
この魔力操作は鞘が出来るまでの間に練習して習得したものだ。魔法武器の効果を発揮させるためにムラサメに魔力を纏わす練習をしてたところ、スキル《魔力操作Lv1》を習得していた。クウが書物庫で調べた結果、このスキルは結構簡単に習得できるとあったため納得したのだ。
ちなみに今は《魔力操作 Lv2》までアップしている。
クウはこの《魔力操作 Lv2》でムラサメに魔力を纏わせて、目を閉じる。
鞘がなかったため、ここしばらくは居合いの練習が出来なかったのだ。念のため少し精神統一をしてからゆっくりと目を開く。
シュッ
一閃
そして納刀。
巻き藁は少し遅れて斜めにずれ落ちる。
クウの腕前は鈍っていなかったらしく、切断面も滑らかなまま巻き藁は切り裂かれていた。
《看破》によるスキルの説明ではスキルLv×1.5倍の攻撃力、攻撃速度補正がかかるとあった。地球の頃より使い勝手がよくなっているのは確実だ。上手く説明は出来ないが、謎の力に動きをアシストされているといった感覚を覚えた。
一瞬の沈黙の後、ドランは興奮した様子で叫び声を上げる。
「うおおおお! すごいな坊主! 何したか見えんかったぞ!」
「これが俺が使う技……居合いです。鞘の中を走らせて加速し、神速の一撃と同時に納刀します」
「これが刀か……ますます制作意欲が湧いた。感謝するぞ!」
「いえいえ、こちらこそいいものを作ってもらいましたから」
「ふふふふ」
「ふふふふ」
「「ふはははははははは!」」
二人は高らかに笑い声を上げる。
余談だが、このとき偶然ドランの部屋の前を通った使用人が気味の悪さに、逃げ出すようにして去っていたのだった。
しばらくして落ち着いた二人の空気を割ってクウが口を開く。
「これで旅に出られますね」
「そうか、旅にでるんだったな。お前の話は面白かったんだがな……」
「別に今生の別れじゃないんですから……また機会があればお世話になるかもしれませんしね」
「くはははは! そうだな。刀を打てるようになっておこう」
「ふふふ。期待してますよ」
クウは自室(王様に貰った寝室)に戻って準備をした。この1週間と少しの間で、旅に必要な服やお金を支給してもらっていた。勇者でないにも拘らず、この好待遇は悪い気がしないでもないクウであったが、そもそも勝手に召喚して呼び寄せたのはこの国なのだ。国家としては当然、いやむしろ足りないぐらいの対応だった。
そしてクウが貰った物の中でもアイテム袋という物はなかなかの性能だった。
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アイテム袋
製作者 リグレット・セイレム
錬金術師リグレット・セイレムが造った空間
拡張された収納袋。
見た目は小さいが、内部は部屋1つ分ほどのス
ペースがある。
内部の時間は停止しており、また生物は収納す
ることができない。
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着替えとお金はこの袋に入れて腰に下げ、幻影の黒コートを装備する。木刀ムラサメは樹刀の鞘に納めて帯刀せずに左手で持った。納刀時は左手で持つのが朱月流のスタイルなのだ。
そして王城にあった書物庫でクウはかなりの情報を得ることができた。
まず、この世界エヴァンは1年が12か月360日で、1か月が30日丁度になっている。さらに1日24時間というのも地球と変わらないので時間感覚は狂わされずに済みそうだとクウは安堵していた。
お金は通貨リンを採用しているらしく、
小銅貨=1L
大銅貨=10L
小銀貨=100L
大銀貨=1,000L
小金貨=10,000L
大金貨=100,000L
白金貨=1,000,000L
黒曜貨=10,000,000L
となっている。
感覚的に1Lで10円程度らしく、黒曜貨ともなると1枚で1億円になる。大商人どうしの取引などでしか使われないようなので、滅多に……いや、ほぼ一生見られないようなものだろう。
そしてこの世界の地理情報。
クウが今いるルメリオス王国は基本的に人の国で、南部にはエルフの国ユグドラシルがあるらしい。ドワーフは特定の国を作らずに各地に里を作って暮らしてるそうだ。西側は海になっていて、港町などもあるらしい。もっとも貿易用ではなく漁のための港なのだが……
クウとしては海産物が豊富とあったので一度は行ってみたいと思っていた。
そして東側には魔族領が広がる地理不明の暗黒地帯となっている。1度目の勇者が人族領から一番近い砦を落としたときに測量したが、奥の方は全くの不明なままなのだ。《虚神の加護》を持っているクウとしては、いつか行ってみてもいいかもしれないと考えていた。
ただし魔族領は出現する魔物が桁違いに強いらしく、普通は誰も行かないのだそうだ。最近はその強い魔物が流れ込んできているために勇者が召喚された、という話を国王ルクセントがしていたのは記憶に新しい。
何よりクウの興味を引き付けたのは迷宮だ。ルメリオスの王都とは違った場所に迷宮都市があるらしく、そこにルクセントが言ってた神が封印されているという迷宮があるのだそうだ。未だ攻略中で、最下層は地下100階だと言われている。
これは書物庫にあった報告書に書いてあったことであるため、かなり最近の話なのだろう。迷宮は下層へと行けば強い魔物も多いらしく、修行にピッタリなのだ。旅に出たらここを目指そうとクウは考えていた。
(旅の目的地もある程度決まったし、今日の内に挨拶してここを出よう)
そう言ってクウは自分の部屋を出た。