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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
天使覚醒編
64/566

EP63 GORILLA

「ゴアァァァァッ!」


 

 耳を塞ぎたくなるような咆哮と共に、その巨体から大振りの一撃……いや、3本の腕から同時に繰り出される三撃が迫ってくる。



「っ! くっ!」



 クウは咄嗟に翼を展開してその場を飛び立った。

 灰色とも銀色とも言える粒子が軌道上に残り、周囲をキラキラと彩っている。だが目の前の巨人の攻撃による風圧で、それも吹き飛ばされた。

 

 ガァァァァァァァン!


 大地を揺らし、空気を震わせる。

 巨人の攻撃によって地面は大きく抉られ、3つのクレーターを並べて残す。遥か上空からそれを見たクウは、少しばかり頬を引き攣らせながらも《森羅万象》を使用して相手の能力を確かめた。





―――――――――――――――――――

GORILLA

種族 巨人 ♂

Lv200


HP:50,000/50,000

MP:40,000/40,000


力 :30,000

体力 :30,000

魔力 :30,000

精神 :30,000

俊敏 :30,000

器用 :30,000

運 :35


【通常能力】

《咆哮 Lv8》

《硬化 Lv8》

《魔装甲 Lv8》

《身体強化 Lv8》

《MP自動回復 Lv8》


【称号】

《原初の巨人》《神に創られた者》

《封印解放》

―――――――――――――――――――





「ちっ、無駄に堅いな! しかも名前が雑っ!」



 腕は6本もあるものの、見た目は確かにゴリラそのものだ。そしてスキルやステータス値を見れば、物理攻撃と物理防御が特に優れていることが理解できる。

 クウのステータス値で優っているのは精神値のみであった。



「グルアアァァァァァァッ!」



 クウが避けたことに怒っているのか、鼓膜が破けそうな咆哮を繰り返すGORILLA。どうやらクウが上空に逃げ延びたことには気づいていないらしく、キョロキョロと周囲を見回している。

 どうするべきか悩むクウの隣に、不意にゼノネイアが近寄って口を開いた。



「どうじゃ? なかなかの相手じゃろう?」


「……いきなり驚かすなよ。と言うかやっぱり浮けたんだな。

 それよりもあいつは一体何だ?」



 気づかぬうちにゼノネイアがすぐそばまで近寄っていたことに驚くクウだが、それよりも目の前の巨人の方が気になった。何の説明もなく災害級の魔獣を出現させたのだから、説明の一つでもあるべきだろうと思ったは当然だろう。

 だがジト目で睨みつけるクウに対して、ゼノネイアはあっけらかんとして答えた。



「奴の名はGiant(ジャイアント) of(オブ) Origin(オリジン) Revival(リバイバル) Invader(インベーダー) Lord(ロード) Like(ライク) the() Alien(エイリアン)というのじゃ。略してGORILLA(ゴリラ)じゃの。嘗てエヴァンを滅ぼしかけた原初の巨人種族で、知性もなかったから絶滅させたのじゃ。肉体性能は世界最強クラスじゃぞ?」


「えーと、訳すと『甦りし原初の侵略者たる異形の巨人王』ってところか?」


「ほう……なかなか良い訳し方じゃの」


「そりゃどーも……っと、気づかれたみたいだな」



 GORILLAは上空に浮遊するクウを見つけて睨みつける。その目には知性の光は無く、ただ殲滅の対象として認識しているだけだった。



名前持ちネームドの癖に知性の欠片もないのかよ!」


「ガァッ!」



 クウの言葉を理解できたわけではないが、GORILLAは激しい圧力を放ちながら飛び上がり、遥か上空にいるクウの元までたどり着いた。



「ちっ! 厄介な!」



 再び振り下ろされるGORILLAの右3本の腕が空を切る。

 既に攻撃をすり抜けて背後に回り込んでいたクウは、左手に握った樹刀の鞘から木刀ムラサメを抜刀して首筋へ向けて居合を放った。



「『閃』!」



 《抜刀術 Lv8》から繰り出される斬撃は12倍まで威力と速度が底上げされており、並みの剣士ならば視認することすら不可能な一撃となっている。そして通常ならば精神値以外が下回っているクウのステータスだが、この攻撃時だけは遥か上をいく。つまりGORILLAでも反応することすら出来ない。

 空間が歪むような神速の一撃は、GORILLAの首筋へと為す術もなく吸い込まれて……


 ガキンッ!



「あぐっ!」



 だがクウの攻撃は予想外にも弾かれた。

 金属塊を木の棒で殴ったときのような衝撃が右手を支配し、思わず木刀ムラサメを落としそうになる。今までどんなものでも切断してきた自信のある攻撃だけに、クウのショックも大きい。

 チラリと右手の方を見ると、木刀ムラサメは根元からポッキリと折れていた。今まで酷使してきた分の疲労もあったのかもしれないが、それでも今の攻撃がトドメになったのは間違いない。魔力を纏わせていたにも関わらず、それを全く受け付けないGORILLAの体表はその辺の金属とは比べようもないほどに堅いということを示していた。



「《硬化 Lv8》の効果か? まさか折れるとは思わなかったな」



 クウは内心では動揺しているが、それでも戦闘には集中している。相手の分析も欠かさない。

 折れてしまった木刀ムラサメと樹刀の鞘を虚空リングに収納して今度は魔剣ベリアルを取り出す。



「こいつでダメなら魔法を使うしかないんだろうな」


「グルアアァ!」



 先ほどのクウの攻撃で明確なダメージは与えられなかったようだが、それでも衝撃はあったらしく、地面に着地したGORILLAは振り返って憎悪に満ちた視線をクウへと投げかける。普通ならば卒倒してしまいそうな程の圧力が込められた視線なのだが、今のクウならば大したことはない程度だ。腰に魔剣ベリアルを装着し、スラリとその刀身を抜き放つ。

 ドクンドクンと脈動を打つようなあかい紋様が血管のように張り巡らされた黒い刀身。禍々しい呪われた吸血武器が姿を現す。精神値5,000という装備不可能に近い装備条件を難なくクリアしたクウだからこそ使いこなせる凶悪なその長剣は、迷宮で幾度となく血を吸い上げて凶悪さをさらに増してきた。

 GORILLAもその強烈な黒い波動に押されたのか、一瞬だけ動きを止めてクウを観察する。



「へぇ、本能でこいつの危険性を感じ取ったか……」



 クウは3対6枚の翼を広げ、灰色の粒子を振りまく。

 そして次の瞬間には銀色の軌道だけを残してGORILLAの左側の首元へとたどり着いていた。



「ふっ!」



 空中機動の移動速度を乗せた突きをGORILLAの動脈を狙って放つ。

 

 バキンッ!


 再び何かが割れるような音がしたが、今度はクウの剣が折れた訳ではなかった。

 GORILLAの首筋から白く光る壁のような何かがはじけ飛び、同時にクウの魔剣ベリアルも押し返される。クウは眉を顰めて一度飛びのき、100mほど距離をとった。

 キラキラと舞い散る白い粒子がGORILLAの周囲を彩り、そしてすぐさまそれはGORILLAの首筋を包み込んでしまった。そして徐々にGORILLAの全身を白く透明な何かが包んでいき、まるで鎧のように身体を覆っていく。



「あれが……《魔装甲》か?」



 魔力を圧縮して体表に押し出し、鎧のように纏って防御力を極大まで引き上げる魔力系スキル《魔装甲》。こうして見ると、神々しい光がGORILLAを包み込んでいるようにも感じられた。クウの《魔力支配》に内包されている魔力感知能力によっても、GORILLAが凄まじいほどの魔力を纏っていることが感じ取れていた。



「なるほどね。《魔装甲》はMP消費が激しいみたいだ。そして纏った魔力を破壊されるとそれを補充するためにMPが必要になる。常時発動するだけならば余計なMPは消費しないみたいだな。と言うことは似たようなスキルの《魔障壁》もMP消費が大きいのか?」



 クウが考察を繰り返していると、GORILLAは《身体強化 Lv8》によって底上げされた身体能力をフルに使って、クウへと振りかぶりながら突進してきた。普通ならば回避など不可能だが、自在な空中移動を可能にするクウの翼を使えば避けることは容易い。

 しかし、クウは敢えてGORILLAの攻撃を受け止めることにした。



「ガアァァァァァァァッ!」


「《魔障壁》!」



 ガィィィィィイン!


 クウの障壁とGORILLAの攻撃が拮抗し、辺り一帯の空間を震わせる。クウの障壁とGORILLAの装甲にヒビが入り、お互いにはじき返された。《身体強化》に《魔装甲》、《硬化》のスキルを使ったGORILLAの全力攻撃を受けても破られないクウの《魔障壁》。

 だが……



「くっ……MPを思ったより使いすぎたな。3割ぐらいは持っていかれたか?」



 MPを込めるほどに効果の上がる障壁だが、GORILLAの攻撃を受け止めるには効率が悪すぎた。これならばまだ、攻撃を回避したほうがマシだと考えてクウはもう一度距離をとる。

 攻撃を受け止められたGORILLAも壊された《魔装甲》を補填しながらクウを見据える。

 GORILLAの防御力を突破できないクウは、もう一度スキルを見直して効果的な方法を考えていた。



(恐らく《魔装甲》《魔障壁》《魔弾》では勝てない。とすれば《魔呼吸》で奴のMPを奪うというのは使えそうだな。あとは【魂源能力】か……

 《幻夜眼ニュクス・マティ》はこれまでの《虚の瞳》と大きな違いはないから後回しだな。《月魔法》を試してみるか。「消滅」の特性ならば、恐らく奴の防御力を無視した攻撃ができるはずだ。「夜王」は今の時間帯は……というか昼の空間では使えないから今度だな)



 クウがスッと上を見上げると、輝く太陽がそこにはあった。

 迷宮の中であるにも拘らず、太陽が存在していることに疑問があるのだが今は関係ない。クウは意識を翼へと集中し、一気に加速してGORILLAへと迫った。

 3対6枚の皮膜のような触手のような翼は、クウの意思に応えるかのように自在に動き、クウの思いのままに空中機動を可能にする。一条の銀の閃光を残しながら、クウはGORILLAの左肩へと近づき、翼の一枚を引っ掛けて方向転換し、そのままもう一度首筋を狙って魔剣ベリアルの突きを放つ。

 だがGORILLAも学習しているらしく、右手の一本で首元を守るように覆った。急には止まれないクウはそのままGORILLAの右手へと攻撃を放つが、魔剣ベリアルの切れ味を以てしても《魔装甲》を破るところまでしか出来ない。しかしここでクウは魔呼吸能力で破壊された《魔装甲》から魔力を吸い取ってMPを回復することに成功した。



「っと、魔呼吸能力は長時間触れるなりしていないと、ほとんど吸収できないのか。とすると攻撃に使うのは難しそうだな」



 ついでとばかりにGORILLAの周囲を飛び回って魔剣ベリアルで攻撃を追加し、《魔装甲》を破壊したりヒビを入れたりしてから身を引いた。クウの機動力には対応できず、されるがままに攻撃を受けてボロボロにされた《魔装甲》を補充するためにGORILLAも一旦動きを止める。《MP回復速度上昇 Lv8》のおかげでGORILLAのMPは常に回復をし続けている。このままクウが攻撃を加えていても《魔装甲》が破れるのはいつになるのか分からない。



「やはり《月魔法》を使うしかないか……」



 《光魔法》《闇魔法》の特性に加えて新たに「消滅」という特性が追加された《月魔法》の複合特性「矛盾」。質量もエネルギーも無視して消し飛ばすという特性上、GORILLAの《魔装甲》も貫通できると期待できた。

 クウは「消滅」のイメージを固め始める……





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― 新着の感想 ―
[良い点] 完全にGODZILLAじゃないですかwwww
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