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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
天使覚醒編
61/566

EP60 天人

「天使だと……?」


「そうじゃ」



 さも当然であるかのようにお茶を啜りながら頷く虚空神ゼノネイア。新しい情報の展開が早すぎて頭がパンクしそうなクウであるが、ここへきてショート寸前まで追い込まれた。

 一応だが地球への帰還方法を探している身としては、天使となってゼノネイアの手足のように働くというのは遠慮願いたいとクウは考えていた。もちろんリアという存在が出来たため、共に地球へと行きたいという気持ちはあったのだが、天使となってしまえば恐らく地球へは戻れない。何となくだが、そんな気がしていた。



「拒否することは?」


「できればして欲しくないの」



 ため息を吐きながら答えるゼノネイアにクウは驚く。

 てっきり拒否権などないのかと思えば、意外にも選択させてくれるらしい。クウはそれを聞いて即答で拒否しようと口を開きかけたが、遮るようにゼノネイアが言葉を続けた。



「じゃが、そちの探しておる幼馴染はこの世界にいるが、いいのか?」


「…………なんだと?」



 天使の件に続いて、クウを混乱させる情報がゼノネイアの口から放たれる。再びフリーズするクウだが、今回ばかりは聞き流せないとばかりの剣幕でゼノネイアを問い詰めた。



「どういうことだ!? アイツが……朱月あかつき 優奈ゆながこの世界にいるとはどういうことだ? アイツは2年ほど前から行方不明で……っ!!」


「そうじゃの。何故ならこの世界に召喚されたからの。しかもそちと同じように勇者の召喚陣でな……」


「召喚!? 確か一回目の勇者とやらが居たんだったな……魔族の砦を攻めたときに2人が死んで、もう一人が裏切ったんだったか。じゃあ、その裏切ったとかいう勇者が優奈なのか?」


「うむ」



 大きく頷くゼノネイアにクウは絶句する。

 だが、ゼノネイアは補足とばかりにさらに説明を続けた。



「そちは幼馴染が行方不明になってから召喚されるまで、その存在を忘れていたじゃろう? それは召喚によって、地球にはそちの幼馴染が初めから存在しなかったという辻褄合わせが実行されたからじゃ。仕事を増やすなと地球の神が怒っておったな。

 そしてそちがこの世界に召喚されたことで、幼馴染に関する情報が復元されて思い出したという訳なのじゃ。理解できたかの?」


「そういうことか……」



 クウは半年前に召喚されたときのことを思い出す。確かに召喚された瞬間に激しい頭痛がして、幼馴染であり、かつてクウの両親が殺されたときに精神こころを救ってくれた優奈のことを思い出した。よくよく考えればその答えに辿り着いたのかもしれない。だが、当時は異世界に召喚された混乱と優奈不在による精神的不安定さからそこまで頭が回らなかったのだ。

 今更ながら幼馴染への依存度が高すぎて恥ずかしくなるクウだが、それを誤魔化すようにお茶を一気に飲み干す。火傷しそうな熱さが喉を通り抜けたが、おかげで落ち着いた。



「教えろ……アイツのいる場所を」


「構わんが……そちは妾の願いを聞いてくれるのか?」


「交換条件だというのならな」



 交渉成立、とばかりに満足げな顔になったゼノネイアは立ち上がってパチンと指を鳴らす。すると落ち着いた雰囲気の和室が消えて、ファルバッサの試練でもう一人のくうと戦った時のような真っ白な空間へと変化した。

 そのことに驚くクウだが、目の前の幼女が神であることを思えば当然だと考えて納得する。



「ではそちに妾の加護を授ける。利き手を出すのじゃ」



 ゼノネイアは音もなく静かにクウへと歩み寄り、クウは言われたとおりに右手を前へと出す。掌を上向きに突き出したクウだが、ゼノネイアはその手を両手で包みながら裏返し、手の甲が上になるようにした。

 今更抵抗する意味もないので、クウもされるがままに任せて力を抜く。

 そんなクウにゼノネイアも微笑みながら力を流し込み始めた。



「……何となく暖かいな」


「そうじゃろう? そちの魂をゆっくりと花開かせる力じゃからの」



 右手を通して流れ込む暖かい何かは、浸透するようにクウの身体を巡って心臓のあたりに吸収されていく。そして徐々に自分の中で何かが現れるのがクウにも理解できた。

 まるで鍵が掛けられていた扉が開かれて、内からエネルギーの奔流が溢れてくるような……そんな不思議な感覚がクウを支配する。

 実際には30秒ほどのことだった。だが、5分とも10分とも感じられた心地よさも終わりを迎える。



「……完了した」



 ゼノネイアのその言葉と同時に、クウの右手の甲に複雑な魔法陣が描かれる。魔法陣魔法を知らないクウからしてみれば、不思議な紋様だと感じる程度だが、専門家が見れば卒倒するような精巧な魔法陣が付与されているのだった。

 さすがは神……とでも言うべきなのかもしれないが、ゼノネイアにとってもこの程度の魔法陣で称賛されようとは思わないものだった。

 そんな二人であったため、オーバーテクノロジーな魔法陣にツッコミを入れることなく会話は進む。



「その魔法陣については後で説明するでの。まずはステータスを確認するのじゃ」


「ああ」



 クウは大きく頷いて心の内でステータスと唱える。

 そしてそこに出てきた内容にクウは目玉が飛び出そうになった。







―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ 17歳

種族 天人てんひと ♂

Lv128


HP:28,876/28,876

MP:28,292/28,292


力 :25,700

体力 :25,652

魔力 :26,024

精神 :34,790

俊敏 :26,576

器用 :26,524

運 :40


【魂源能力】

幻夜眼ニュクス・マティ

《月魔法》


【通常能力】

《剣術Lv7》

《抜刀術 Lv8》

《森羅万象》

《魔力支配》

《気配察知Lv6》


【加護】

《虚空神の加護》


【称号】

《異世界人》《虚空の天使》《精神を砕く者》

《兄》《到達者》

―――――――――――――――――――






「……落ち着け、俺」



 まず、種族が人から天人てんひとへと変化していた。天使になれと言われたときから、クウ自身も予想していたことではあったのだが、こうして人間卒業してしまうと思うところも出てくる。

だが、何よりも驚くべきはステータス値が軒並み上昇していることだ。それも少しならまだしも、一気に4倍近くも上昇している。これにはクウも思わず天を仰いでしまうほどだった。



「待て……スキルも大幅に変化しているぞ……」



 驚きで既にお腹いっぱいのクウだったが、自分の能力を把握するためにも意を決して詳細を開示させる。






幻夜眼ニュクス・マティ

現実と虚実の境界を操作する魔眼。

視認した領域、もしくは物体や人物をMPを

消費することで幻術にかけることが可能。

この眼の前では世界すらも騙されることに

なる。この目を騙せるのはこの眼だけ。



《月魔法》

ユニーク属性魔法、月属性。

満ち欠けを繰り返す夜空の月は、再生と滅

びの象徴。「矛盾」「夜王」「重力」の魔

法的な特性を持つ。



《森羅万象》 (エクストラスキル)

情報系最上位スキル。

この世界のあらゆる情報を開示、秘匿する

ことが可能。






 【魂源能力】が桁外れな性能であることは予め理解していたつもりだったが、改めてその恐ろしさの片鱗を垣間見たような気がしたクウであった。

 《虚の瞳》が上位互換のような形で《幻夜眼ニュクス・マティ》となり、《光魔法》と《闇魔法》が消えてユニーク属性の《月魔法》という【魂源能力】へと変化していた。《月魔法》は詳細を見る限り「重力」の特性以外よく分からないが、追々試していくことにして目を逸らした。

 そしてクウが改めてチートを自覚した能力が《森羅万象》というエクストラスキルだ。説明を見る限りならば、《看破》と《偽装》を融合したようなスキルだということになる。しかも「世界・・のあらゆる情報を」という言葉通りならば、自分のステータス以外にも偽装を施すことが出来るということになる。

 魔力支配については幻想竜ファルバッサも持っていたスキルなので割愛だ。



「確かにこんなステータスになるならば、試練でもして加護を与える対象を厳選しないと拙いよな……」


「そうじゃろう、そうじゃろう」



 うんうん、と頷くゼノネイアだが、クウとしては勘弁してほしいと言いたいほどに頬を引き攣らせていた。小説や漫画の主人公が大きな力を得た時にはワクワクと心躍るものを感じるが、こうして自分の身になってみると何か恐ろしいものを感じるものだ。



「あと変化しているのは加護と称号の部分だな」






《虚空神の加護》

虚空神ゼノネイアの加護。

【魂源能力】を開花させる上で必要な真名に

よる本当の加護であり、これを受け入れた存

在は虚空神の使いへと昇格する。



《虚空の天使》

虚空神ゼノネイアの天使である証。






 加護と称号についてはあまり意味のない情報だったので、クウとしてはもう気にしないことにした。ステータス値やスキルの衝撃があまりにも強すぎたのだ。

 茫然と自分のステータスを眺めていたクウは、ここでふとあることに気付いた。



「そう言えば【固有能力】は消えたんだな……《虚の瞳》が《幻夜眼ニュクス・マティ》に変化したって感じなのか?」



 召喚されて半年間……幾度となくお世話になってきた《虚の瞳》だが、こうしてなくなると感慨深いものを感じてしまう。MP消費を無しに無制限に幻術を使い続けることが出来たチート級能力だったが、改めて習得した《幻夜眼ニュクス・マティ》はMP消費をするようだ。

 こういうところは劣化しているのか? と首を傾げていると、ゼノネイアが首を横に振りながら答えた。



「【固有能力】は役目を終えたから消えたのじゃ。そもそも【固有能力】というものはどういうものなのかを知らぬのじゃろう?」



 ゼノネイアの問いかけに、クウは首を縦に振る。

 同じような話を90階層のファルバッサともした記憶のあるクウだが、その時にはファルバッサが教えてくれることは無かったのだ。

 そんなクウの様子を見て、そうだろうな、という顔を浮かべながらゼノネイアが説明を始めた。



「よいか? まず、【固有能力】というものは能力所有者固有のものである、という意味ではないのじゃ。アレは何かしらの加護を受けた者が、加護を与えた者の能力を貸し与えられることで得るスキルなのじゃよ。つまりそちが持っておった《虚の瞳》は妾の能力の一部を貸し与えただけなのじゃ」


「……要するに【固有能力】というのは加護を与えた存在固有の能力……という意味なのか?」


「そうじゃ。妾は嘘や真実、そして裁きを司る神じゃ。妾の加護を得た者は精神系のスキルが伸びやすくなり、嘘を見抜く《看破》や偽の情報を掴ませる《偽装》、そして幻術に関する【固有能力】を所持することになるのじゃよ。まぁ、精神的な苦しめは一種の罰じゃからな……」



 クウの読んだ書物では、【固有能力】は単に珍しいスキルだという風にしか記されていなかった。王国でも歴史上、確認されたのは数名のみらしい。クウ、セイジ、前回の勇者に2人、そしてフィリアリア改めリア……



「ちょっと待て、リアも【固有能力】を持っているが、ステータスを見ても加護なんて見当たらなかったぞ!?」



 ゼノネイアの説明が正しいならば、《治癒の光》という【固有能力】を持つリアも何かしらの加護を持っているハズなのだ。だが、クウの《看破》では見たこともない。

 クウはゼノネイアに怪しいものを見る目を向けるが、一方のゼノネイアは気にした様子もなく口を開いた。



「当然じゃ。そちの妹のステータスは妾たち神々が秘匿しておるからな。《看破》ごときでは見破ることはできぬよ。今のそちならば《森羅万象》で閲覧可能になっておるがな……」


「秘匿だと? なぜそんなことを?」


「悪いがその質問は今は答えられぬのじゃ。妾が顕現するにあたって制限しておる情報に類するでの」


「どうしてもか?」



 尚も聞くクウだが、ゼノネイアは申し訳なさそうに首を振る。



「済まぬな。じゃがそちが魔王に会うことができれば、この情報を……いや、そちが知りたいことを全て答えることが出来るようになる」


「魔王に? 何故だ?」



 魔王と言う言葉にクウは思わず反応する。色々と知ってしまった今では怪しいと考えている例の神話に登場する悪役が魔王だった。クウたちが召喚された目的も、一応ながら神々の解放及び魔王討伐だったと記憶している。だからこそセイジ、リコ、エリカの3人は武装迷宮へと挑戦しているのだが、その魔王に会うというのはクウの不安を大きく煽った。

 だがゼノネイアは苦笑しながら説明を続ける。



「そんな顔をするでない。今の魔王はそちと同じ神の使い……天使の一人なのじゃ。そちの利き手にある魔法陣と同じモノを所持しておる。もっとも奴は魔神ファウスト……いや、魔法神アルファウの天使じゃがな。まぁ、それはともかく、そちと魔王の持つ魔法陣を共鳴させることで妾たちの住む神界へと空間を繋ぐことができるのじゃ。そこならば制限なく話すことが出来るでの」



 クウがチラリと右手の甲へと目を向けると、理解不能な魔法陣が描かれている。ゼノネイアは後で説明すると言っていたが、こういうことかとクウは納得する。

 だが、魔法陣の機能はこれだけではなかった。



「それとその魔法陣は、妾の眷属であるファルバッサを召喚する機能も付いておるぞ?」


「……いや、もう驚かねぇよ」



 クウの顔にはもはや呆れしかなかった。



クウの魂は夜というテーマがあります。

かつて精神(こころ)の周りを塗り固めていた様々な技術や表向きの感情は暗い世界で星々のように輝きを放つ。そして太陽に照らされて光を放つ月がクウの象徴という設定ですね。

ニュクスとはギリシャ神話における夜の神の名前。そしてその子供は夢や幻影を司る神だそうです。

ちなみにマティはギリシャ語で眼を表します。



次の更新は少し遅れて一週間後ぐらいになりそうです。これからもよろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[一言] ユナが太陽の象徴で黒い世界を照らしてくれたとかそう言う類の話だな。 私は詳しいんだ。 え?リアの可能性もあるだろうって? ・・・2人の可能性もあるだろ?(思考放棄)
[一言] 厨二心がくすぐられる
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