EP562 結末
超越神の力は絶大だ。
天使級ですら星を滅ぼす力を有するが、神ともなればそもそも世界が耐え切れない。専用に構築した神界でなければ存在すら許されないのだ。
そしてクウたちが戦うのはカグラ=アカシックのような中位神格がギリギリ存在できる程度に空間容量を制限されており、それより上位の神などを召喚すれば世界ごと滅びるはずだった。
「ふむ。妾を呼ぶとは生意気な奴じゃの」
まさか虚空神ゼノネイアを召喚するなど……予想すらできない。
本来ならばこの神界と共に裏世界が崩壊し、同時に隣接する表世界も消え去る。しかし今、クウは『催眠』すら超える第五段階幻術『虚空』を発動している。夢と現実が入り混じったこの世界は、クウが許容する現象は何でも起こる。
ゼノネイアの召喚は夢と現の境界の上に成り立っており、それによって現実世界が破壊されずに済んでいるのだ。
「馬鹿な。なぜ……」
そしてカグラ=アカシックは絶望した。
一度は封印され、敵わないから逃げていた因縁の相手が目の前に現れてしまったのだ。
「あり得ない。あり得ない」
しかし何度見ても、それは忘れようもない宿敵の姿だ。
幼女の如き姿に騙されることなかれ。彼女は神域協定の中でも力を持つ最高位神格なのだ。それに比べれば中位神格など吹けば飛ぶような脆弱な存在でしかない。
ゼノネイアは隣で《虚空》を維持するべく奮闘しているクウに話しかける。
「よくぞやってくれたクウ・アカツキよ。妾たちの思惑通りじゃな」
「ふん……そう思うならさっさと終わらせてくれ。これを維持するのも簡単じゃない」
「半神の分際で虚空の領域をよく再現できたものよ。もう少し褒めてやりたいところじゃが……時間もない。さっさと終わらせようか」
そう告げるとゼノネイアは軽く指を鳴らす。
するとクウとカグラ=アカシック以外の超越者がこの空間から消えた。ユナ、リア、ミレイナ、セイジ、ファルバッサ、ハルシオン、カルディア、ネメアの全員が一瞬で姿を消してしまう。すぐに空間転移か何かで逃がしたのだろうと察知した。
だが、クウはそれと同時に恐ろしさすら感じる。
(天使クラスとはいえ超越者に強制転移……しかも俺の《虚空》発動状態の空間からいとも簡単に)
圧倒的な格の差を思い知らされた。
いや、元からゼノネイアに匹敵するなどとは微塵にも思っていないが、ここまでの差を見せつけられるといっそ笑いすら込み上げてくる。
それゆえか、あるいは重荷から解放されたからか、クウは笑みを浮かべていた。
「さて、クウよ。お主にやった妾の武器を貸せ」
「ああ」
クウは神刀・虚月を放り投げる。
すると意思を持ったかのように、神刀はスルリとゼノネイアの手に収まった。そして彼女は――
「あ、が……」
いつの間にかカグラ=アカシックの背後で納刀しようとしていた。
目視すら不可能な、文字通り神速の居合切り。
そして納刀と同時に神刀・虚月の能力が発動する。すなわち、切ったモノに斬撃が走る。
「せめてもの情けじゃ。痛みは感じぬよう、滅してやろう」
カグラ=アカシックの霊力体に亀裂が走る。
今の一瞬、この《虚空》の世界を支配するクウですら何が起こったのか理解できなかった。そして事後を見てようやく理解したのだ。
(一瞬で……魂を切った)
夢を現実に。現実を夢に。
そして夢と現実は共に。
これが『虚空』である。虚空神ゼノネイアにその概念が操れぬはずもない。彼女はただ、自身の夢でカグラ=アカシックの魂を切ったのだ。そして境界が揺らぎ、夢は現実となった。故にカグラ=アカシックという神は滅ぼされた。
そして彼女はまた、一瞬で移動してクウの隣へと移動する。
「ほれ、これはお主にやったものじゃ。受け取れ」
「ああ」
「これで本当に終わりじゃの」
「本当か? この期に及んで裏ボスなんて用意していないだろうな」
「妾もそこまで意地悪ではない」
眩しいばかりの笑みを浮かべているが、まだクウは疑いの視線を消さない。
あまりにもあっけなさ過ぎたというのも原因の一つだろう。あれほど苦労して追い詰め、それでもぎりぎりの戦いを演じていた相手が一瞬という間もなく消滅させられたのだ。既にカグラ=アカシックの霊力体は崩れ去り、余剰エネルギーが虚数次元へと流れ込んでいる。クウの「神眼」で見ても間違いなく滅びた。
「まぁ、これで妾との契約は果たしたからの。しばらくは自由にして良いぞ」
「そうか。それで裏世界はどうなるんだ?」
「うむ。こっちの宇宙は完全に滅びておるからの。それに超越者の巣窟になっておる。隙を見てお主に討伐を依頼するかもしれん。安全になったら妾たちが整備して新しい世界が誕生するよう、調整をかけていくのではないかの」
「じゃあ。こっちに召喚された奴らは?」
「勇者とかいう奴らじゃな。まぁ送還はお主に任せるぞ。お主も今や半神なのじゃ。その程度のことは問題ないじゃろ?」
確かに今のクウならば「神」の特性を使って世界を超え、存在を送り届けることなど容易い。この世界から地球のある世界に送還するのも不可能ではない。
しかし、一つ問題がある。
「桐島の奴はどうなる?」
「ん? ああ。そうじゃな……まぁ、本人の意向次第じゃな。おそらくは全能神の奴と相談して封印措置でも施すのではないかの? 元の世界に戻りたがっておるのじゃろ?」
「色々面倒臭そうだな」
「そういうな。それにお主とて一度向こうに戻る予定なのじゃろ?」
「ああ。親父やお袋に親孝行したいし」
そう言いつつ思い浮かべるのは義理の父と母だ。
世界の修正で今は自分たちのことなど覚えていないのだろう。すっかり忘れて、普通の生活をしているはずだ。しかし、ちゃんと戻って恩返しをしたいと考えていた。
それにユナを連れて戻るのは本来の目的でもあるのだ。
「まぁ、後で相談しにくるのじゃな。今のお主ならば単独で神界にも来れるじゃろ」
「……ほんとに半神になったんだな」
「カッカッカ。妾もあの小僧がそこまで進化するとは思わなんだぞ。半神といっても霊力は天使級とさほど変わらんからな。世界の調整も任せられる。妾としては万々歳じゃ」
「どんな無茶苦茶を頼まれるのか、今から怖いぐらいだ」
「はて、妾がそんな鬼畜に見えるのかの?」
「中位神格の討伐をさせておきながら何言ってやがる」
クウの呆れた様子をものともせず、ゼノネイアはカラカラと笑う。
よほど機嫌が良いのだろう。
ふと、彼女は真面目に戻った。
「さて、そろそろお主も表世界に送ってやろう。後始末は妾たちに任せるがよい」
「《虚空》を解除したらこの世界が壊れるんじゃないのか?」
「安心するがよい。もうすでにこの一帯を神界化して補強済みじゃ」
「いつの間に……」
「これでも最上位神格じゃからの」
ゼノネイアはパチンと指を鳴らす。
感謝しておる、ありがとう。
そんな声が最後に聞こえた気がした。
◆◆◆
神話大戦。
後にエヴァンの歴史でそう呼ばれるようになる戦いは、ひとまずの決着となった。ひとまずというのは、戦後処理が大量に残っていたからである。
まずは人族と魔族の正式な和解が成立し、また同時に光神シンという偽りの神が世界を裏から操っていた事実が公表されることになった。人族側は混乱を避けるため情報を隠したかったようだが、とても隠しておけるような状態ではなかった。というのも、戦いに参加した人族の冒険者たちが色々な街で自分たちの武勇伝と共に、真実を広めてしまったからである。
教会は解体が決定された。
そして人族と魔族の平和条約締結が結ばれることにもなっていたのだが、これは混乱がもう少し収まってからになりそうである。
「そうか。元の世界に戻るのか……ユナも、クウも」
「悪いなアリア。その内戻ってくるとは思うけど、しばらくは向こうで過ごす」
「そうなると、魔王軍の第零部隊と第一部隊の隊長が空席となる。調整が面倒だな」
「第零の隊長はレーヴォルフの奴を入れておいてくれ。あいつなら大丈夫だろうし」
「そうだな」
「ユナの方も後任ぐらいは考えていると思うぞ。それに今、他の隊長にも挨拶に行っているところだから」
魔王城のテラスで、二人はそんな話をする。
クウは最後の挨拶をと考え、ここを訪れたのである。
「寂しくなるね」
「そうだな」
リグレットも感慨深く呟き、アリアが同意した。
二人の言葉はお世辞というわけではないだろう。短い時間ではあったが、濃密な時を過ごしたのだ。戦友といって差し支えない間柄である。
「そうだ、リグレット。これを預かってくれないか?」
クウはふと思い出したかのように、魔神剣ベリアルを取り出した。
かつてリグレットが生み出した魔剣であり、改造を経て疑似精霊を宿す剣へと変貌している。それを一時的とはいえ手放すと言っているのだ。リグレットは首を傾げた。
しかしクウは苦笑しつつ、それを押し付ける。
「俺たちの世界で瘴気の強いベリアルを出すわけにはいかないからな。虚空リングの中に封印させておくだけなら、いっそリグレットに与ってもらいたい」
「ああ、そういうことかい。それなら構わないよ。けどベリアルが良く許してくれたね」
「昨日な、頑張って説得したんだ」
どこか遠い目をするクウに、リグレットも色々と察したらしい。魔神剣ベリアルを受け取り、その鞘を優しく撫でる。ベリアルとして具現化しないのは拗ねているからかもしれない。
「さて、そろそろ俺は行く。世話になったな、二人とも」
「今生の別れでもないのだ。気にするな」
「そうだよ。今度は数十年後に戻ってくるんだよね。それまでにこっちもいい世界にしておくよ。これはこの世界の住民である僕たちの役目だからね」
「ああ、ありがとう。またな」
クウは軽く地面を蹴り、宙に浮かぶ。
半神となった今は天使翼もないが、法則を操って自在に飛ぶことができる。そのまま、クウは南に向かって飛んでいった。
◆◆◆
クウが目指していたのは復興中の【砂漠の帝国】である。
そこでは破壊迷宮を中心とした新たな都市建設が順調に行われていた。魔人族の技術もふんだんに使用されており、伝統を残しつつもより良い都市として復活することだろう。
そして復興の指揮をしていたのが、竜人族の長シュラムであった。
「よぉ。久しぶりだなシュラム」
「む、クウ殿か」
空から降り立ったクウを見ても全く驚くことはなく、近くの者にしばらく外すとだけ告げる。娘が規格外なので慣れたものなのだろう。
「何か御用か? アリア殿からの伝言というわけでもあるまい」
「ああ、別れの挨拶にな。故郷に戻ることになったから」
「それは良いことだ。親孝行をしてやるといい。私はできなかったことだからな」
「ミレイナは?」
「今朝から破壊迷宮に潜って修行している。あのお転婆め……」
「まぁ、いいか。ミレイナとは昨日の時点で別れの挨拶もしているし」
「それなら良いのだが……」
「ともかく、世話になったな」
「何を言うか。世話になったのはこちらの方だ。クウ殿がいなければ今頃は……」
思い出すのは帝都での決戦だ。
多数の頭部を有する多頭龍と戦い、苦難を経て勝利した。クウが超越化を果たした戦いでもある。クウにとってもシュラムにとっても思い入れのあるものだ。
「そろそろ行く。ミレイナにもよろしく伝えて置いてくれ」
「分かった。改めてありがとう。君と……そして君の妹のお蔭でこの国は救われた」
「気にするな。また、会えると良いな」
「ああ。次に会う時は新しい帝都で出迎えよう」
「楽しみにしている」
クウはまた空へと飛び立つ。
次に向かうのは、人族領の街、かつて虚空迷宮へと挑戦するため立ち寄ったリアの故郷だ。
◆◆◆
迷宮都市【ヘルシア】。
そこは虚空迷宮のある場所として有名であり、領主としてラグエーテル家の者が一帯を支配している。かつてリアはそこの領主の娘であった。
そんな街の外れでクウはリアを待っていた。
「お待たせしました」
空間転移で現れたリアに、クウは大丈夫だと手で制する。
「母親とは会えたのか?」
「はい。こっそりとですが、会ってきました。以前よりも少しだけ元気がなかったように思えます。私のことを心配してくださったのでしょう」
「もういいのか?」
「今は……今の私はフィリアリアではありませんから。それにまたこっそり会いに行くと約束してきました」
リアは悪戯でも考えている子供のように、そんなことを告げる。
やはり心苦しさはあるのだろう。
しかし今のリアは一貴族として動くには力をつけすぎた。運命神の天使などという存在がただの貴族でいられるはずもない。ならば母の平穏のためにも、リアでいることを決めたのだ。
「なら、やっぱり俺たちとは」
「はい。申し訳ありません。私はこちらに残ります」
クウは元の世界へと戻るにあたり、リアも誘っていた。成り行きとはいえ、今やリアも家族のようなものだ。放っておくことなどできなかった。
だが、彼女は母を見守るためにもこっちに残ることを選択した。
これについてクウは責めるつもりもないし、寧ろ当然だと考えている。なので無理に誘うことはしなかった。
「分かった。困ったらリグレットを頼れよ。あいつに頼めば大抵のことは解決するからな」
「ふふ。はい」
「また会える。何十年かしたら、こっちに戻ってくる。またな、リア」
「はい。クウ兄様」
リアには頼れる身内がいない。
同じ天使の仲間はいるが、甘えるべき家族はいない。
しかし彼女は強く生きていくことだろう。この冒険を通して、リアも大きく成長している。クウはそれをよく知っていた。
クウが飛び立とうとした時、ふいにリアが呼びかける。
「兄様!」
「……どうした?」
「私は……私は兄様を心から敬愛しています。きっと、戻ってきてくださいね」
「ああ。心配するな。またな、リア」
軽く地面を蹴り、あっという間に西の空へと消えていく。
残されたリアは誰にも聞こえないような小さな声で呟いていた。
「大好きです。私がそう言えるのはお母様とあなただけです」
◆◆◆
人間の国【ルメリオス王国】の王都は、光神シンによって神都へと変えられていた。神殿を中心とした白い街並みはそのままとなり、しかし名称だけは【王都】へと変えられている。
そして元神殿であり、今は王宮と名を変えたその場所でセイジたちは王と面会していた。
「今までご苦労だった。勇者、そして異世界の戦士たち」
ルクセント王はただ頭を下げ、そう感謝を述べる。
それに続いて王妃、アリス王女、アーサー王子も同じく頭を下げた。
これに慌てたのはセイジである。
「や、やめてくださいよ」
「いや、我々はこうして感謝を述べることしかできない。光神シンという偽りの神に唆され、君たちを無為に巻き込み、そして君たちの手で解決してしまった。勿論、魔族にも今は感謝している。しかしこの異界の地で勇者として戦ってくれた君たちには特別な思いで感謝を伝えたいのだ」
「国王陛下……」
確かに、今から思えば意味の分からない無謀な戦いだったと思える。
いきなり知らない土地に呼び出され、魔王を倒せと言われ、その魔王も実は二人いて、片方の魔王は光神シンの天使で、その光神シンも敵で、最後には邪神や異界の神まで現れた。もう滅茶苦茶である。
だが、セイジはそれでも戦い抜いた。
守ると誓った二人を死なせることなく、戦い抜いたのだ。
「僕は理子と絵里香の二人を守りたかっただけです。それに僕たちが勇者として滞在している間、陛下たちには色々と融通してくださいました」
「いや、そんなのは当たり前のことだ。償いにもならないかもしれないが……どうかこれを貰って欲しい」
ルクセントはアーサーへと目配せする。
すると彼は五つのアイテム袋を携え、セイジたちの前に置いた。同時に彼が説明する。
「この中には金、銀、それと宝石が入っています。我々からの報酬と、お礼だと思ってください。本当にありがとう。君たちのことは見直したよセイジ、リコ、エリカ、そしてレンにアヤト」
セイジたちは一瞬だけ遠慮しそうになるが、これは断る方が失礼に当たる。
そこで一人一つずつ、アイテム袋を受け取った。
丁度そこにクウが窓から入ってくる。
「挨拶は終わったか?」
この王宮はかなり高い位置にあるので、必然的に窓もそれなりに高くなる。だが平然とそこから入ってくるあたり、流石であった。
またこの事実に全く驚く様子のないセイジたちも大概ではあるが。逆に王妃やアリス王女は腰を抜かす勢いで驚いてた。
またアリスは別のことでも驚いていた。
「あなたは!」
「久しぶりだな王女様。裏切り者が生きていて驚いたか?」
「……いえ、裏切っていたのは私たちの側も同然です」
「意外と大人だな。まぁいい」
クウは部屋を見渡しながら質問する。
「まだユナは来ていないのか?」
「俺らは見てへんで。むしろクウと一緒やと思てたわ」
「ってことはまだ挨拶が終わってなかったか?」
一瞬、探しに行こうかどうか迷う。
しかし次の瞬間にはそれが不要であると考え直した。
「ごめーん。遅れちゃった」
クウが入ってきた窓と同じ窓から、ユナも入ってくる。彼女は天使翼を消し、綺麗に着地してみせた。よほど急いできたのか、髪が少し乱れている。
彼女はそれを手櫛で梳かしつつ、クウの元に近づいた。
「こっちは全部終わったよ。くーちゃんは?」
「俺の方も終わった」
「そっか。じゃあやっぱりリアちゃんは……」
「ま、そういうことだ」
ユナとしてもリアがいないのは少し残念なことらしい。
しょんぼりとしたユナの頭を軽くなでつつ、クウはセイジたちの方へと向く。
「さて、俺たちの世界に戻る。準備はいいか?」
ここで首を横に振る者はいない。
もうこの世界で世話になった者たちとは挨拶も済ませたし、これ以上は留まる理由もないのだ。
クウは最後に説明する。
「地球に戻る際、この世界で得たステータスやスキルは俺の権限で封印させて貰う。あっちにはない力だからな。ただし、桐島は解除しようと思えば自力で封印を解除できる程度にしか封印しない。自分の力はちゃんと制御してくれ」
「分かってるよ」
「あーあ。なんか勿体ないわね」
「理子ちゃん。向こうで魔法なんか使ったら大騒ぎじゃ済みませんよ」
「でもロマンはあるで」
「僕もちょっと勿体ないと思うけど……変なことに巻き込まれるのはもう嫌だからね」
あらかじめ説得していたからというのもあるが、リコもエリカもレンもアヤトも今更反対はしない。少し未練はありそうだが、そこまで気にしている様子もなかった。
やはり戦いの恐ろしさを知ったからだろう。
(この世界ともしばらくはお別れか……)
クウも、今この瞬間になって感慨深さを覚える。
だが帰還を中止するつもりはない。
自らの「神」としての性質に意識を向け、そして自分自身のルーツとなる世界へと道筋を辿る。かつて光神シンは自身と同じルーツを持つ世界から召喚を成功させたのだ。ならば逆も不可能ではない。
同じ「神」の性質を得たのだ。
できなければおかしい。
「帰ろう。くーちゃん」
「ああ」
ユナがそっと手を握る。
そして術式は発動する。派手な光や魔法陣など必要ない。しかし間違いなく、七人の異世界人を元の世界へと帰す術が起動した。
ルクセント王たちの前から一瞬で姿が消える。
この日、世界を訪れた勇者たちは元の世界に帰ったのだった。
カグラ=アカシックはゼノネイアに討伐してもらう。これは初めから決まっていました。もしかしたら主人公に格好よく決めて欲しいと思っていた読者もいると思いますが、こんな結末とさせていただきます。
さて、次は最終話。
元の世界に戻った後のエピローグとなります。





