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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
裏世界編
560/566

EP559 希望の数③


 言霊は力ある言葉だ。

 魔法システムにおける詠唱も言霊の一種だ。意思力によって世界へと語りかける言葉は、意思力うんめいに干渉するだけの効力を得る。

 クウはこの力を「意思支配」によって意図的に強化して発動する。

 世界へと、運命へと、そして自分自身へと語りかける力の言葉。



「聖脈を受け継ぎし混沌なる者よ

 劫火に焼かれし不浄なる者よ

 果ての因果より来たりて去り給え

 封印を解く界鍵かいけんとなり果てぬ

 空を開き、空を閉ざす両眼

 天を創り、天を壊す御手

 茫漠たる水の空隙くうれきを探し当てる言葉

 一切を委ね神意を為さん

 濁流に呑まれる人の子を

 憎悪に塗れる神の子を

 冥府より反転する統一の国へ誘う

 宣誓せよ、誓約せよ

 この左眼を糧に大いなる力を呼び寄せる――」



 言霊を詠唱しつつ、クウはその左目に意識と霊力を集中させる。また同時に権能の全ての力を「意思支配」によって「魔眼」に集結させる。



「――忘れられた記憶

 思い出せぬ希望

 葬られた歴史

 無限にして夢幻の理

 無間にして夢現の魂

 全てを焼却し、灰を集める

 力なき灰は鉄の杯へ

 この手の内に納め給え

 虚無の世界に消えゆく灰を掴み取り

 虚空の無限を身に宿す

 開け、壊せ、探せ、奪え

 誰一人として知らぬ矛盾の強奪

 分け与える力を持たず、その心すら宿さない

 過去から現在いまへ、現在いまから未来さきへ――」



 これまでに数度使ったこの術式は、加護を辿って虚空神から力を呼び込む。そして経験則からクウ自身は器として足りない。自分自身の権能を抱えている中、より強大な神の力を受け止めるだけの余裕がない。

 故に受け止めるに充分な器を生み出す必要がある。

 器は神刀、その力を行使するのはクウ自身の意思力、しかしその二つを繋ぎとめるものが足りない。

 だからクウは自らの「魔眼」を生贄にする。

 権能の力を受け止め、情報次元どころか意思次元すら歪める「魔眼」を生贄とすれば繋ぎとしては充分だ。わざわざ、ユナとリアを犠牲にする必要はない。なぜなら、自分自身の左目なのだ。



「――天地万物を覆い尽くす無限の王蛇

 森羅万象の英知を修める幻界の蛇すら知らぬ世界

 真理より神意を解き放ち

 幻想の異界を観測させる

 ただ一人の道だけが開き

 大いなる岩すらも砕かれる

 立ち塞がる炎は闇へと飲まれ

 小さな燈火へと成り果てぬ

 偉大なる王よ、讃えられた英雄よ

 しかし虚空の前には矮小に過ぎぬ

 神すら貶める六幻の前に

 現幻、道幻、魄幻、厄幻、破幻、不幻

 森羅万象一切合切を夢とする

 己の意味を決して違わず

 その身に宿すべき運命を辿る

 万象天象を力とせよ

 虚無も無限も我が眼に映る

 全ての権威は一つの時がために――」



 情報次元的にクウそのものである左目は、クウ自身と繋がりがある。

 権能の特性である「魔眼」である以上、加護を通して虚空神ゼノネイアとの繋がりもある。



「――我、魔幻朧月夜アルテミスの名において命じる」



 そう告げ、左目に指先を触れた。

 少しばかり躊躇ったが、もう覚悟はしている。本当に大切な二人ユナとリアを犠牲にするくらいならば、この程度は苦にもならない。

 力を込め、大切な権能の一部……左目の「魔眼」を抉り取る。



「神を殺す力を寄越せ。《神威》」



 最後の言霊が発動のキーとなる。

 またそれに呼応するようにして、セイジの手元から神刀・虚月が飛び出し、クウの右手に収まった。意思集積体たるエクスカリバーとも融合した神刀・虚月は、一時的ではあるが刀身が金色を放っている。

 右手に器となる神刀。

 左手に繋ぎとなる左の「魔眼」。

 そして発動者たるクウは加護を通して虚空神ゼノネイアの力を引きずり下ろす。

 完全なる《神威》の発動。

 天使でありながら最高位神格の権能を降ろす究極術式。自らの「魔眼」を犠牲にした以上もう二度と左目は再生できないが、対価に見合う力がクウには宿った。

 受け止めきれなかった今までの不完全な《神威》とは違う。

 ゼノネイアの権能の一部と一時的に融合し、熾天使級でしかない魂は変質する。





―魂の昇華を確認。



―――神格化を開始します。



――固有情報次元の昇華を開始。


―成功。


――特性「天使」が「神」に昇華しました。「魔素支配」が統合されます。


――神格化に成功しました。


―――権能の昇華を開始。


――特性「魔眼」が「神眼」に昇華しました。


―特性「虚数」を獲得しました。


――――特性「月」が「陰陽」に昇華しました。




―――権能【魔幻朧月夜アルテミス】が【月蝕眼アカツキ】に昇華しました。



――警告。過去より魂魄昇華の被観測を確認。


――――拒絶しました。



―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ

種族 超越半神

「意思生命体」「神」


権能 【月蝕眼アカツキ

「神眼」「理」「意思支配」

「虚数」「陰陽」

―――――――――――――――――――




 天使翼が消失する。

 もはやクウは天使ではなく、半神だ。霊力は本当の神に及ばないが、その権能は神に相応しいほどに至っている。

 また足りない霊力も虚空神ゼノネイアの力だった「虚数」で補える。「意思支配」と「虚数」によって虚数次元を開き、幾らでも力を引きずり出せるのだから。



「やるぞ」



 消失した左目部分に黒の眼帯が現れ、傷を隠す。

 一方で「神眼」となった右目は不気味な赤に染まり、あらゆる次元を見通す。

 クウとしても一時的に力を借りるだけのつもりで、権能や魂の在り方すら変質するとは思わなかった。しかしこれならば都合がいい。

 クウはその場から消え、次の瞬間、カグラ=アカシックの胸に神刀を突き刺していた。







 ◆◆◆






 カグラ=アカシックは目を見開いていた。

 このタイミングで神刀による攻撃を仕掛けてくるのは分かっていた。しかし過去に仕込んでいたはずの自動転移が発動しなかった。



「何故……」



 観測していたはずの未来が狂った。

 カグラ=アカシックは激しく動揺する。

 未来とは僅かな影響で変化する。星の裏側で蝶が羽ばたけば竜巻が起こることもある。そしてもう一度羽ばたくことで竜巻が消えたりもする。本当に些細な変化で未来は変わる。

 ここで回避できなかったことは未来を狂わせる。

 ユナも、リアも、ミレイナも、セイジも、ファルバッサも、ハルシオンも、カルディアも、ネメアも……そしてクウも初めて見る動きをし始めた。



(再演算……)



 額にある第三の眼が激しく動き、新しい未来を観測する。

 もはや過去に仕込んでおいた術式は意味をなさないが、それでも未来を読むことは可能だ。そして分かっていればその場で対応もできる。

 たとえ数の差があっても、その力は圧倒的にカグラ=アカシックが上なのだから。



(くっ)



 胸が痛む。

 超越者には無縁であるはずの痛覚が襲いかかる。

 エクスカリバーが付与されていたが故に、意思次元が傷つけられたのだ。再演算にも遅れが生じ、それが致命的な隙となる。



「ようやく見えました! 新しい未来が!」



 リアは《時間転移タイム・シーフ》を発動し、望む平行世界へと引きずり込む。それはミレイナが《竜の牙》を当てる未来だった。



「はああああああああ!」



 気合の叫びと共に放たれるミレイナの右拳。それは綺麗にカグラ=アカシックの胸部を打った。更には破壊の権能が確率収束することで、破壊確率を超越させる。抗うことなどできない破壊の波動がカグラ=アカシックを爆散させた。

 そこにカルディアが《時間点消滅タイム・ディスパージョン》を発動し、破壊された情報次元の一部を時間の檻に捕らえる。

 再生しきったカグラ=アカシックは霊力体が所々欠けていた。カルディアによって時間の檻に封じられていたからである。



「そこだよ」



 さらにはユナが「武器庫」を全開放する。

 今までに蓄えてきた大量の武器を一斉掃射し、回復したばかりのカグラ=アカシックの霊力体を破壊し尽くそうとする。だがカグラ=アカシックも流石に立て直し、莫大な霊力で障壁を生み出した。掃射された無数の武器は障壁に阻まれ、そのまま消失する。

 しかし攻撃は止まらず、ファルバッサが法則を内包した吐息ブレス攻撃、ハルシオンが電撃、ネメアが毒を放って追撃する。



(くっ……私の見ていた未来が次々と変わる……)



 ただ一度、クウに刺された。それだけで未来が全て変わった。

 攻撃を霊力で弾きつつカグラ=アカシックは表情を歪める。この程度で負けるとは考えていないが、それでも不愉快なことは確かだった。

 彼の権能【法理真典録アカシックレコード】は完全な未来を観測する。そして今も未来は見えており、これからすぐに立て直せば問題はない。

 特性「完全演算」は的確に未来へと術式を設置することを可能としており、たとえ戦闘中であろうと仕込むことは難しくない。再びカグラ=アカシック優位へと移ろう。



「また攻撃が当たらなくなったよ」


「未来も読み切れませんね」



 一瞬にしてあらゆる攻撃が回避され、相殺されるようになってしまった。これで振出しに戻ったということである。

 だが、本当に振り出しへと戻ったわけではない。

 彼はいつのまにか意思力へと影響を及ぼされ、記憶や思考力を奪われていた。



「がっ……」



 また激痛を感じる。

 カグラ=アカシックは二度目となる胸の痛みに呻いた。それは背後から一突きされた剣によるもので、それをしたのは……



「君、は……」


「僕にはするべきことがある。こんな世界に呼んだお前に、借りを返さなきゃいけないんだ!」



 その剣は勝利の概念に縛られた意思集積体エクスカリバー。最強を冠するという概念が集積することで真実となり、神をも屠る兵器と化している。

 クウの「神眼」によって一時的に記憶から消失させられていた勇者の一撃が、カグラ=アカシックを見事に貫いた。

 最後の希望は、神に届いた。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 名前をもらう事で邪神カグラは権能の一部を取り戻した。 それほどに名前は神にとって大切なもの。 つまり名前の一部をゼノネイアに献上すれば魔眼を対価にしなくて済んだのでは?
[気になる点] 今のクウの素の潜在力は光神シンと同等ぐらいなのかな?
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