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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
裏世界編
552/566

EP551 超越者の世界②


 裏世界は光神シンと邪神カグラによって好き勝手に改造された世界だ。

 本来の世界としての構造である『世界の情報レコード』は侵食され、複数の超越者が侵食する情報次元がつぎはぎになって形成されている。世界を滅ぼせる不死の存在が争い続ける不毛の世界だ。

 このような世界であるが故に、強力な侵食力を有する超越者が領域支配者となり、宇宙の各地を支配しているというのが裏世界の現状だ。



(我、存在せり)



 そんな中で、裏世界において唯一『世界の意思プログラム』へと侵食する超越者がいた。その肉体は水で構成されており、本来は凍ってしまうはずの宇宙空間で液体のまま漂っている。本来の法則すら塗り変える思考力によって存在しているのだ。

 私はそのように存在する。

 思考がそうやって定義することで肉体が存在できる。超越者エーデ・スヴァル・ベラは特定の肉体というものを持っておらず、思考することで存在していた。思考が先に存在し、それに合わせて肉体が構成されているのだ。



(我、世界なり)



 思考こそが肉体。 

 思案こそが世界。

 思念こそが存在。

 エーデ・スヴァル・ベラは空間や時間の制約にも囚われず、超越者の戦場に出現した。クウたちを発端とする領域支配者たちの争い。その中心に現れ、瞬時に世界を侵食したのだ。



(滅びよ、異世界)



 そして自身の思考以外は全て異物だ。

 存在の意義ですらある思考を邪魔する他の超越者を許さず、滅びよと念じた。権能【存在思考アザトース】は思ったことを現実にする。超越者ですら運命を握られ、エーデ・スヴァル・ベラの思い通りになってしまうのだ。

 最強の因果系能力ともいえる。

 まともに戦ってエーデ・スヴァル・ベラを倒すことはできず、そもそも戦いにすらならない。超越者にとっても災害のような存在なのだ。

 領域を争っていた超越者たちは、災害の出現によって戦いを停止せざるを得なくなった。







 ◆◆◆







 リアとセイジは無事にクウとユナとも合流し、状況の確認に努めていた。



「ミレイナさんはまだ見つからないのですか?」


「……見る限り、かなり遠くまで行っているな。近くにミレイナの情報次元が見えない。流石にやられたなんてことはないと思う」


「じゃあミレイナちゃんを探すの?」


「それがいいんだが、手掛かりがない」



 クウとしても貴重な味方であるミレイナを見捨てるつもりはない。

 しかしこの広大な宇宙空間を探すのは困難だ。本来ならばミレイナの気配を探ってリアが転移すればすぐなのだが、大量の超越者が情報次元を侵食しているためにそれも不可能だ。クウの《真理の瞳》ですら解析不可能なほど複雑怪奇な世界構造をしているのだから、どうしようもない。

 そもそも世界が構造を保っている時点で奇跡のようなものだ。



「桐島は何か感知能力を持っていないのか?」


「期待しないで欲しいかな……そんな伝承のある剣でもあれば召喚できるんだけど」


「剣は斬るためのものだからな」


「剣は斬るための武器だよ」


「朱月と朱月さんに言われなくても知っているよ!?」



 とにかく分かったことはミレイナを探す方法がないということである。

 時間をかけてしらみつぶしに捜索すれば見つかるかもしれないが、今は超越者による大戦に巻き込まれており、彼女を探すだけに注力できるわけではない。油断していると折角合流したのにまた分断させられてしまう。

 探すとしても、まずはまた分断されないように対策しなければならない。

 だが、その対策を考える前に世界が塗り替わった。



「っ! これは!」



 宇宙空間が侵食され、水に満たされていく。

 本来は物質の希薄な空間が広がっているはずだが、その広大な領域全てが水中に変貌したのだ。この理不尽な世界の変質はまさに超越者の攻撃。しかし空間の変質など回避することすらできず、全員あっという間に飲み込まれてしまう。

 周りにはユナが吹き飛ばした超越者が復活しつつあったが、それらも全て呑み込まれてしまった。



(こんなもの!)



 ユナが蒸発させようと熱を発生させる。

 しかし水すら燃やす炎は瞬時に溶かされてしまい、ついでとばかりにユナの霊力体も消失した。それに続いてリアとセイジも水中に溶けるようにして消えてしまう。



「この感じ……奴か!」



 仲間も敵も、全ての超越者が水の中に溶けていく。

 この理不尽な能力が空間を支配する中、クウだけはその影響を受けなかった。それだけの情報があれば、クウも敵のことを思い出す。



「あのクラゲ……まだ生きていたか!」



 かつて魔王オメガが表世界に召喚し、アリアとリグレットは神獣と共に迎撃してなお苦戦させられた。クウも初見では圧倒的なその力の前に、互いの運命を完全に分割するという方法をとるしかなかったのだ。

 《月界眼》によって永久に運命を断ち切ったので、その効果は今も続いている。

 エーデ・スヴァル・ベラによる運命の改変はクウにだけ通用せず、海に沈んだ世界の中でもクウだけは影響を受けることなく自由に動ける。

 この世界は常にエーデ・スヴァル・ベラが運命を書き換えているため、意思次元に干渉できない限り逃れることすらできない。超越者ですらこの水の世界に溶かされてしまう。超越者の霊力体を強制的に液体化させる強力な運命が空間を支配していた。



(我が支配の外、我が運命の外、我が創造の外)



 エーデ・スヴァル・ベラの思念が収束し、空間の揺らぎと共に巨体が現れる。

 かつて見たその姿と全く同じではあるが、大きさだけは格別だった。かつては神獣ほどの大きさだったそれも、今見ると惑星ほどもある。

 互いの運命が完全に別たれているため、自然に干渉することはできない。

 権能を使わなければ触れることすら不可能だ。



「カグラ=アカシックの下に向かうための最後の壁がお前とはな」


(異物、排除)



 クウは神刀・虚月を出し、エーデ・スヴァル・ベラは金属を引っ掻くような不快な鳴き声を上げる。

 思念生命体によって異世界化された空間での戦いが始まった。






 ◆◆◆





 クウが異界で戦いを始めた頃、ミレイナも敵超越者と激しい戦闘を繰り広げていた。

 ユニコーンとペガサスを組み合わせたような謎の生命体はとにかく早い。元から卓越した戦闘センスを持ったミレイナですら見切ることができないほどだ。



(ちっ! 何となくで見切るしかない)



 宇宙空間という広大な世界を縦横無尽に駆け回る際、時空間に歪みが生じている。その理由は質量体が光の速さで移動しているからだ。情報次元の限界速度である光速である以上、ミレイナであっても見切ることができるかどうかはギリギリだ。

 最大限の集中と感覚で敵の動きを掴むしかない。



「そこか!」


「残念。あたしはこっちよ」


「ちっ!」


「そこにはいないわよ。このアシュートについてこられるかしら?」



 アシュートと名乗るこの超越者は自意識過剰なところがあるらしい。翻弄されるミレイナを嘲笑い、振り回して遊んでいる。誰も自分の速さには付いてこれないという絶対的な自信のゆえだ。

 権能【連環星域マルカブ】。

 その能力は質量の操作、加速の操作である。自由自在に時空を歪めるほどの加速と加重を生み出し、世界を置き去りにする。またベクトル操作能力もあるため、慣性力を無視してあらゆる方向に屈折可能だ。



「だったら全方位を攻撃するまでだ!」



 ミレイナが有する最大の広範囲攻撃、《黒蝕雷嵐カラミティ・ストーム》が発動する。無制限に霊力を注ぎ込んでいるため惑星を滅ぼすほど広範囲化しており、アシュートもそれに巻き込まれた。しかし光の速さで領域を突破してしまう。

 加重能力で自身の質量を増幅し、また光速に到達することで強引に突破したのだ。

 アシュートは速度と質量という単純なエネルギーによってあらゆる障害を突破し、破壊する。

 しかしミレイナもダメージを与えるために《黒蝕雷嵐カラミティ・ストーム》を放ったわけではない。自身の放った破滅の嵐を突破している何かを感知するためだった。



「そこか!」


「あら、やるわね」



 タイミングを合わせて絶対破壊技、《竜の牙》を放つ。広範囲に拡散するはずの破壊確率を強制的に一点へと収束し、確率を越える破壊力を叩きだす。

 しかしその瞬間にはアシュートも消えていた。

 慣性力を無視した直角回避によって光の早さで逃げたのだ。

 更にそのまま反転してミレイナに突進する。星よりも重い物体が光の速さで直撃したことで、ミレイナは霊力体が破壊された。即座に再生するも、二度目の突進が迫る。



「ぐ、あ!?」



 アシュートの攻撃は速く、重い。

 残念ながらミレイナには攻撃のチャンスもなく、広範囲に攻撃をばらまいても突破されるのみ。アシュートは得意気に高笑いしながら宇宙を駆け巡る。



(今のままでは……だめか)



 ミレイナは自己再生しながら考える。

 まずこの戦いに備えて鍛えた力の集中運用は当たらない。折角ネメアに教わったことも、当たらなければ意味がなかった。鍛練相手だったネメアにも攻撃が当たらなかったが、それとはまた違う。

 最も得意である破壊の波動も、これほど広い領域ではますます弱まってしまう。強大な運動エネルギーによってぶち破ってくるアシュートには通用しておらず、精々感知の代わりになるくらいだ。



(もう少し取っておく予定だったが、ここで使うしかない)



 仲間の援護が見込めない以上、ミレイナは一人で戦うほかないのだ。

 ネメアの召喚も考えたが、それは本当に最後の切り札として残しておく。

 覚悟を決め、意思力を侵食し始めた。







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