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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
裏世界編
549/566

EP548 混沌の世界


 表世界ではアリアたちが天使メギドエルと戦闘を始めていた。

 メギドエルは巨人の天使である。超越者に身体の大きさは意味をなさないが、天使として生きている時間の長さは強さに比例する。

 つまり苦戦を強いられていた。



「砕け散れ!」



 アリアは神聖粒子を雷光に変換し、メギドエルへと降り注がせる。しかしメギドエルはその雷を逸らしてしまった。

 続いてリグレットが符を放ち、動きを縛ろうとする。



「小賢しい」


「これも効かないのかい? 厄介だね」


「我にこのような攻撃は無駄と知れ」



 メギドエルの権能は【混沌バベル】。

 この権能の前ではあらゆる力が正常に作動しなくなる。動きを縛る符術も乱数処理が施されてしまい、本来の術式としての機能が失われてしまったのだ。

 リグレットのような権能の天敵といえる。

 またそれはアリアについても言えた。



「これは!」



 アリアの周囲で炎や水、雷、空間破壊、時間停止などが入り乱れた。権能【神聖第五元素アイテール】は散布した神聖粒子を現象に変換する能力だ。その変換はいわゆる変数入力に対応しており、メギドエルはそれを乱しているのである。

 すなわち、アリアは権能が制御不能になっていた。仕方なく神聖粒子の散布を中止する。

 またメギドエルの力はそれだけではない。黒い巨大な腕が虚空より現れ、アリアに叩きつけられようとしたのだ。



”危ないのぉ”



 しかしそれをメロが救う。

 形を為した瘴気が盾となることでアリアを守った。そのまま瘴気は黒い腕を侵食し、崩壊させる。更には情報次元を伝ってメギドエルをも侵食しようとする。

 しかし位置情報を乱数化させることでメギドエルは回避した。意図的に転移することはできないが、緊急回避には役立つ。



「我が何のために単独で戦っていると思っている」



 さらにメギドエルは世界侵食イクセーザを発動した。

 超越者の切り札であるこの力に対抗するためには同じ世界侵食イクセーザでなければならない。しかしメギドエルの世界侵食イクセーザは一味違う。

 アリア、リグレット、メロ、テスタは霊力体すら維持できなくなった。徐々に霊力体が崩壊しており、それを維持するので精一杯という状態になったのである。



「ふん」



 メギドエルは勢いよくリグレットを殴る。用意していた道具で複数の術式を常時展開していたのだが、それらは世界侵食イクセーザで崩壊してしまった。

 情報次元の乱数化を強要させるこの能力は、メギドエルもまともな術が使えない代わりにあらゆる術を無効化させる。しかし殴打を主な攻撃手段とするメギドエルにとって、このリスクは意味のないものだ。



(物理次元に影響を出すことなく、情報次元だけを歪ませる能力か!)



 リグレットは霊力体を再生させつつ、メギドエルの能力を理解する。彼にとって情報次元とは第二の言語であり、それを操ることで情報次元を操作している。権能【理創具象ヘルメス】はほぼ完全に封じられているといっても良い。

 神が人の言葉を乱したバベルの塔の神話を思わせる混乱の力。権能【混沌バベル】はリグレットを完全に封じてしまっていた。



(情報次元に依存する念話も使えない……となると、直接声を届かせるしかないのか! 連携も難しくなったね、これは)



 情報次元を乱数化されているということは、ほとんどの権能が役に立たないことになる。すなわち意思次元を利用するか、物理次元上で直接殴るかという選択になるわけだ。

 アリアは霊力体の維持に集中して近接戦闘を仕掛け、リグレットの代わりにメギドエルと打ち合う。そしてテスタは結界の維持に力を注いでおり、とても戦闘に参加できる状況ではない。

 そんな中、メロだけは違った。

 権能【百鬼夜行】は瘴気に命を与える能力だ。そして瘴気とは負の意思エネルギーであり、意思次元の性質を備えている。情報次元が乱数によって乱されようとも、瘴気そのものを消し去ることはできないのだ。残念ながら瘴気を妖魔に変えることはできないが、攻撃手段としては使える。メロは瘴気の渦によってメギドエルをすり潰そうとした。



「ぬぅ!」


”お主の能力は強力じゃが、全てを等しく無効化できるわけではない。特に儂のような特化能力には弱いようじゃな”


「知れたことよ。我が把握していないとでも思ったか!」



 メギドエルは無数の腕を生み出し、メロに掌底連打を放つ。掌底には反発の力場が込められており、迫る瘴気の渦を掻き消している。ただ権能によって生み出された魔手や力場も乱数化の影響を受けて精密性が欠けており、瘴気の一部がメギドエルを削っていた。

 さらにはアリアも神槍インフェリクスで攻撃を仕掛ける。治癒を阻害する呪いの槍は傷をつけるだけでメギドエルへのプレッシャーとなる。権能はまともに使えなくとも数の有利を利用して攻めていく。



「仕方あるまい。そろそろ本気を出すとしよう」



 低い声で呟いたメギドエルは右手を掲げる。するとそこに光が集まり、巨大な剣となった。その剣は高層ビルほどもある巨大さであり、乱数化した世界においても一際存在感がある。



「我がつるぎは礎。この神剣トゥリムに一切の欠けはなく、一切の乱れもなし」



 そう告げてメギドエルが神剣を振るうと、その軌跡上の乱数化した空間が正常に戻る。そしてすぐに世界侵食イクセーザの影響を受けて乱数化した。

 更には神剣によって自らの身体を突き刺す。

 するとアリアの神槍によって呪されていた傷が全て癒された。



「これは……どうなっている?」


”ふむ。どうやら干渉を打ち消すような能力のようじゃな。情報次元の巻き戻し……いや上書きかの?”


「つまり傷のない元の状態を上書きしたということか?」


”少なくとも普通の剣と考えるわけにもいくまい。ほれ”



 メロは瘴気を放つ。

 乱数化によって瘴気もまともな形状をしていないが、大雑把に渦としての形状を与えながらぶつけた。だがメギドエルは神剣トゥリムを振るい、瘴気を打ち消した。



”なるほど。意思次元にも干渉しうるようじゃな”


「礎の剣、か……」



 少し本気を出すと言った通り、一筋縄ではいかない。

 神剣だけでなく魔手による警戒も必須で、乱数化によりまともな術も発動しない。アリアは温存するつもりだった世界侵食イクセーザを発動することを決める。

 だが、いざ発動しようとしたとき、それを止める者がいた。

 リグレットである。



「待つんだアリア」


「何だ?」


「ここは僕がやるよ」



 有無も言わさず、リグレットは世界侵食イクセーザ消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》を発動した。






 ◆◆◆






 裏世界では次の超越者を探すクウたちがまた小惑星の一つに身を潜めていた。

 流石に宇宙空間は広すぎたのか、捜索もなかなか進まない。



「単独の超越者はなかなか見つからないな」


「どうするんだ朱月?」


「こればかりは地道に探すしかない」



 クウの権能は万能だが全能ではない。

 複数の超越者が跳梁跋扈するこの裏世界において、クウたちは数の不利を強いられている。この世界の超越者も全員が仲間とは考えにくいが、それでも乱戦は避けたいところだ。カグラ=アカシックという強敵が待っている以上、無駄な消耗は避けたい。



「くーちゃんの幻術で引きはがせないの?」


「それは最終手段だ。どんな相手かも分からないのに幻術をポンと使うのは危ない。仮に能力を反射させる敵だったら俺たちが終わりだ」


「そっかー」


「通常攻撃ならともかく、幻術みたいな嵌め技は無暗に使いたくない。リアはどうだ?」


「今のところ。未来視でもよく見えません。おそらくは多すぎる超越者のせいで運命が複雑に変化し続けているのかと。比較的近い未来はともかく、遠い未来となると……」


「移動だな」



 近くに手頃な超越者が見つからないなら、移動するしかない。

 クウは岩陰から顔を出し、《真理の瞳》で情報次元を閲覧する。それによって近い位置にある小惑星を探知するのだ。宇宙空間では目視での距離感が掴みにくく、正確な距離は情報次元から図る他ない。そうして次に移動する小惑星を決めた。



「あそこに移動するぞ。あの小さめの奴だ。公転速度がかなりあるから着地時には相対速度に気を付けろ。」



 五人は静かに移動し、目標の小惑星を目指す。

 超音速でも数分ほどかかる距離を移動した結果、目的の小惑星へと辿り着く。この小惑星は比較的小さく、直径数キロほどしかない。



「移動の時は緊張しますね……」


「見つからない様に気を使わないといけないからな」


「どうにか単独の超越者を見つけられるとよいのですが……」


「こればかりは運だな」



 クウがそう言いながら岩場の影に降り立った。それに続いてリア、ユナ、セイジ、ミレイナの順に着地する。だがその瞬間、クウの胸から赤い刃が突き出た。



「ぐっ!」



 咄嗟に《幻葬眼》を発動してそれを消すが、続いてミレイナとセイジからも同様に体内から赤い刃が突き出てくる。クウはそれらも《幻葬眼》で消し去った。

 ユナは神魔刀・緋那汰ひなたを発現して周囲を警戒する。

 すると無数の蝙蝠が群れとなって小惑星全体を覆い始めた。



「ちっ! 奇襲か!」



 ミレイナは破壊の波動を放ち、蝙蝠の群れを消滅させる。だが次々と蝙蝠がやってきて、壁のようにクウたちを取り囲んだ。

 そして複数の声が反響しつつ聞こえてくる。



『我が領域への侵入者、か。支配者である私に断りもなく来るとは、死にたいらしい』



 そして蝙蝠が集まり、やがて人型となる。

 現れたのは赤い目を持つ上裸の大男だった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] クウは「消滅」の概念をより使いこなせば、「消滅」の概念を法則系能力のように広げることで、情報次元を常に消滅させたり、ピンポイントで消滅させたりしてメギドエルみたいに敵の能力を封じるみた…
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