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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
裏世界編

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EP547 道しるべの欠片


 大きさだけで小さな惑星に匹敵するアリュテミシアに対し、ユナとミレイナはあまりにも小さい。普通に考えればダメージを与えることすら敵わないだろう。

 しかし、物理次元上の大きさなど超越者にとっては意味のないものだ。

 そもそも超越者は星すら破壊できる存在である。



「硬いね」


「砕くぞユナ!」


「うん」



 すでにミレイナは《天竜化》を発動しており、最大攻撃を繰り返している。だがその全てがアリュテミシアを覆う黒い鎧で弾かれており、耐性を有していることが分かる。

 解析を終えているクウはそれが特性「抗体」によるものだと判断できたが、ミレイナはそれを知る由もない。とにかくミレイナとユナは攻撃を続ける。二人にとっての最大攻撃を何度も叩き込み、また場所を変え、鎧の継ぎ目を狙い、色々と試していた。



(斬れない、かぁ)



 ビクともしない怪物を前に、ユナは少し自信を無くしてしまった。

 アリュテミシアの防御力は圧倒的であり、超越者の攻撃すら意にも介さない。超越者ばかりの世界で生き残ったという事実だけで、アリュテミシアの方が格上なのだ。まして様々な「抗体」を手に入れてきた絶対の鎧に弱点など存在しない。

 実際に解析したわけではなくとも、ユナはこの怪物にあらゆる攻撃が通用しないことをすでに理解していた。



「ちっ! 硬い奴め!」


「ミレイナちゃん、何か方法はある?」


「ちゃんと切り札は残してあるぞ。それであれを破れるかどうか試していたのだ」


「おー、凄い凄い。それで?」


「問題ない」



 ミレイナは裏世界に来る直前、破壊迷宮で修行をしていた。自分の力を使いこなすために、天九狐ネメアの手ほどきを受けたのだ。たったの一昼夜であったが、天才ミレイナは確かなものを手に入れた。

 力の集中と権能の完全な運用。

 表面的に行使していた暴威を本物の力に変えたのだ。



「ふん」



 未だにアリュテミシアは攻撃の意思を見せないので攻撃し放題だ。またアリュテミシアそのものが大きな重力を持っているので、近づくのに苦労はない。

 片手で黒い鎧の表面に触れる。

 破壊の権能を有するミレイナは、破壊という情報次元を秘めている。物理的なエネルギーによって加速する必要はなく、権能への集中力が削がれるという点において無駄な行為である。

 権能【葬無三頭竜アジ・ダハーカ】の特性は「波動」「崩壊」「無効化」「風化」である。極限まで破壊に特化した彼女の権能を凝縮して放つ。

 破壊の波動が広がることなく突き抜け、アリュテミシアの内部を破壊していく。

 流石にアリュテミシアも呻くように巨体を振るわせた。

 全長が五百キロを超える巨体なので、少し震えるだけでも脅威だ。ミレイナは即座に離れる。



「何したの?」


「壊せるところを集めて壊したのだぞ」


「ん? んん?」


「そういうことだ!」


「そういうことなんだね!」



 ユナはよく分からなかったが、ミレイナもよく分かっていないので当然である。ミレイナの場合、理論ではなく感覚でこの技を会得している。

 なので具体的な説明ができない。



「それ、なんて技?」


「《竜の牙》と名付けた。ネメアのお墨付きなのだ」


「へぇー」



 ミレイナは深紅の軌跡を残して飛翔し、アリュテミシアの上半身部分に触れる。人型の部分の内、鳩尾に相当する部分で再び《竜の牙》を放った。

 この技はミレイナの権能である破壊の拡散と、破壊力を高める収束を同時に実現している。まず一度、権能の力で破壊を拡散するのだ。広範囲の破壊を特性「波動」によって広げ、その後「波動」によって収束させる。また「波動」を確率波動にも適応させ、確率の限界突破も行っているのだ。その辺りの概念は「無効化」と「崩壊」の併用によって成り立たせている。

 これによって百パーセントを越える確率で破壊されるという現象が発生する。「抗体」によって確実に防ぐことができたはずの破壊を、超越的確率によって破壊するという手法だ。拡散によって広がった破壊確率を一か所に集めているともいえる。



「じゃあ、私も」



 ユナはミレイナに続くように、刀を鞘に納める。

 そして小さく集中した後、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。



「奥義、《神血裂かみちぎり》」



 するとアリュテミシアの足の一つが千切れた。

 二人の最大攻撃でも傷一つなかったアリュテミシアが綺麗に切り裂かれている。しかし一見するとユナは何もしていない。これにはミレイナも目を丸くしていた。



「何をしたのだ?」


「超頑張って切った」


「そうか! それなら当然だな!」



 そんなわけないのだが、これが二人の感覚である。

 共に天才型であり、感覚的に権能を使いこなしていた。理論から術式を構築するクウやリアとは真逆のタイプといえる。

 そして《神血裂かみちぎり》は神速の居合切りだ。

 情報次元速度の限界である光速を越える斬撃である。ユナの権能は武器の創造に特化しており、そのものに戦闘力はない。しかし武器を使用した際、その力を昇華させることはできる。つまり《神血裂かみちぎり》は術式というより、権能による補助を受けた剣技だ。

 光の速さを越えることで斬撃は未来へと飛び、未来で斬ったという事実が確定する。そこに現実時間が追いつくので、先に斬ったという事象が存在し、後から対象がやってくるのだ。言い換えれば硬さや柔軟性といった切断に抵抗する事象は既に斬られたという事実を前に無効化されてしまう。無論、アリュテミシアの「抗体」すら意味がない。

 《神血裂かみちぎり》は結果が先にやってくる斬撃だ。時間を操り、未来で回避なり防御しなければ免れることはできない。



「じゃあやるよ!」


「うむ」



 切り札の一つならば通じると分かったので、ここからは一方的な攻めとなる。

 ユナとミレイナは猛攻を開始した。






 ◆◆◆







 強靭な鎧に覆われた巨体が崩壊していく。

 その様を見せられ、クウも流石に呆れるばかりだった。



「まさか力押しとは……」


「そんなに凄いのですか?」


「ああ。凄いな。普通は俺やリアみたいに意思次元から攻めるか……まぁ、因果系の権能で攻めるかだな。幾ら硬くても事象を確定させる因果系権能なら関係ないし」


「ユナ姉さまとミレイナさんは何をしているのでしょうか? 私にはよく分からないです」



 確かに一見すると意味が分からない。

 ユナは居合の構えをしているだけで、実際に刀を抜いているようには見えない。そしてミレイナは殴る蹴るをするわけでもなく、ただ手を触れるだけで鎧を崩壊させている。



「リアなら権能使って見れば理解できると思うぞ」


「やってみます」



 リアの権能は時間転移だ。その性質上、過去や未来を見通す力を備えている。

 それを以てユナとミレイナを観察した結果、驚くべきものが目に映った。



「姉さま……? 何をしているのですかあれは? 未来で斬っている?」


「そういうことだ。だから現実時間では何もしていないみたいに見える」


「ミレイナさんもおかしいです。あの怪物が破壊された未来が一つもないのに、どういうわけか破壊されています」


「あれは破壊されない未来から確率を寄せ集めて新しい未来を作っているからな」


「お、恐ろしい……」



 ユナの権能【聖装潔陽光アポロン】とミレイナの権能【葬無三頭竜アジ・ダハーカ】は共に現象系能力だ。だが二人はそこから因果系の術を編み出してしまった。

 まさに権能を使いこなしていると言える。

 実際、あらゆる耐性を備えた殻に守られているアリュテミシアが一方的に押されているのだ。アリュテミシアも鎧を再生させ、「抗体」によって耐性を獲得しているが、それでも因果系能力を前にしては無意味である。

 そして鎧の奥深くに隠れていた超越者の本体が現れた。



「あれが本体だな」


「液体、でしょうか?」


「種族名が粘体になっている時点で予想はしていたけどな。種族特性は「吸収」と「増殖」。極限まで防御に特化している。だから俺とリアの能力が有効だ」



 権能や種族の性質上、情報次元的に頑丈な存在は殆どの攻撃が通用しない。権能の裏を突くような能力で攻めるか、圧倒的な霊力で叩き潰すか、あるいは意思次元を攻撃する必要がある。

 そしてクウには意思次元を攻撃する手段があるのだ。またリアの「意思誘導」による都合の良い未来への転移を併用すれば、不意打ちで間違いなく倒せる。



「リア、頼む」



 クウはそう言って居合の構えを取った。

 すべてを察したリアは、その背後に立って術式を準備する。未来を読み取り、まだ見ぬ時空でクウがどのような行動をとっているのか、あらゆる確率を予測した。その中から最適解を選び取り、世界をその都合の良い時空へと引きずり込む。

 《時間転移タイム・シーフ》によって都合のよい未来へと転移したクウは空間的にも飛び越え、一瞬でアリュテミシアの前まで移動していた。後は刀を振るうだけである。



「死ね」



 殺すという明確な意思を具現化し、《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》を発動する。神刀・虚月に連動して巨大な白銀の刃が出現し、居合切りが放たれると同時に白銀の刃がアリュテミシアの本体を切り裂いた。

 物理次元や情報次元における切断ではなく、意思次元の直接攻撃だ。

 魂の根源を直接削り取られたアリュテミシアは、苦痛で震えた。宇宙空間でも巨体とわかる粘液状の霊力体が崩れ始める。魂が霊力を維持できなくなったのだ。強大で強固な情報次元があったとしても、それを運営する意思次元が崩壊すれば維持できないのは自明である。



「くーちゃん! もうやっちゃったの?」


「おいクウ! ここからがいいところだったのだぞ!」


「落ち着け。本来の目的を忘れるな」



 裏世界の超越者を討伐する目的は、カグラ=アカシックを強制的に探知するためだ。

 崩壊していくアリュテミシアに対し意思次元ベクトルの操作を実行する。意思次元の中に混じっている加護の要素を抽出し、その原点たるカグラ=アカシックを座標を示させるのだ。ただし、崩壊していく超越者は膨大なエネルギーを放出し、その全てが瞬時に虚数次元へと消えていく。要素を集めるための時間は僅かしかない。



「……よし、少しだが集まった」


「あとどれぐらい倒せばいいの?」


「上手くいけば二体ほど倒せばいけそうだな。余裕を見て三体といったところか? 次の奴を探すから合流するぞ」


「はーい」



 不完全燃焼気味なミレイナも連れて、リアやセイジと合流することにした。









とりあえずサクッと討伐

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 《神血裂》を使ってるとき何もしていないように見えるってことは、その場で斬撃を飛ばして斬ってるのでしょうか? 未来を斬っていても間合いを詰めて斬ってるなら、現実時間が追いついたときにはそ…
[気になる点] ユナの《神血裂》は武装の力を最大限に引き出すことで発動しているということでしたが、ユナ自身の身体能力を引き上げている訳ではないのでしょうか? 光速を超えて斬撃を放つ際に、刀を振ったとい…
[気になる点] 特性「骸殻」はどんなことができますか? ただ硬い殻を生み出す能力というわけではないのでしょうが、権能銘が究極兵器となっているので超火力の火器を生み出すとかできるんでしょうか?
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