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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
裏世界編
547/566

EP546 漆黒の球体


 裏世界の超越者を仕留めるという意見で一致したクウたちだが、その一体目を選定するために隠れながら行動していた。

 宇宙空間で浮遊する小惑星群は凄まじい速度で公転しているのだが、宇宙があまりにも広いため止まっているように見える。つまり小惑星ごとの間隔もかなり広い。小惑星間の移動は注意を払わなければならない。



「気を付けろ。小惑星に紛れておかしいのが混じっている」


「ねーねー、どれ?」


「あれだ」



 クウが指差したのは小惑星の一つだ。

 しかし数が多く、他の者にはどれのことかよく分からない。それでもクウは説明を続ける。



「物体は重力で自然に移動する。だがあの小惑星は不自然だ。別の力が加わっている」


「くーちゃんそんなの分かるの?」


「俺の眼には情報次元がしっかり見えているからな。万有引力方程式から計算した軌道から外れているとすぐ分かる。見た目は岩石だが……」


「ふーん。ところで万有引力方程式って?」



 ユナは高校一年生で異世界に召喚された。

 本来ならば習っているべきことも習わず、こちらの世界でそろそろ三年が経過しようとしている。そう考えると随分面倒なことに巻き込まれたものだと改めて思わされた。

 年を重ねてからならともかく、十代の三年間は貴重だ。



(早く、戦いを終わらせよう)



 失った時は大きいが、手に入れた時はもっと大きい。

 今やクウもユナも無限の寿命を持つ。



「くーちゃん?」


「ああ。万有引力方程式はまた今度だな。高校物理だ」


「うえー」


「ともかく、あれの動きがおかしい。多分、超越者の力がはたらいている」


「私の出番なのだ!」



 言った途端にミレイナが飛び出そうとしたので、クウは襟首を掴んで止めた。



「何をするのだ!」


「無策で飛び出すな。俺がとどめを刺すと言っただろ」


「む……」



 超越者討伐の作戦は、とにかくクウが《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》を使うというもの。適当に戦えば無駄な時間を浪費してしまい、新しい敵をも呼びかねない。

 今回の戦いは暗殺に近い。

 そして暗殺には情報収集が必須だ。



「クウ兄様、情報次元は見えないのですか?」


「残念ながらな。見た目を偽装しているだけあって、情報次元も隠されている。俺みたいに誤魔化す感じじゃないな。覆い隠すってイメージだ」


「どうしましょうか?」


「ああいうタイプは戦闘に移行すれば隠蔽も外れると思う。あの小惑星に擬態した形態特有の隠蔽状態な気がするな。こういうときはユナとミレイナの出番だ」



 陽動の意味も含め、ユナとミレイナの近接戦闘能力は有用だ。

 気を引いている間にクウが隙を伺えば良いのだ。



「僕はどうすればいいかな?」


「桐島はひとまず待機だ。全員で戦う必要はない。予備戦力って奴だな」


「でも」


「戦力は全力投入すればいいってものじゃない。こちらが戦えば様子を観察されることもある。戦力が限られている俺たちは、情報を解析されたら終わりだ」


「……分かった」



 セイジとしては戦いたいわけではない。しかし何もしないでは気が引ける。

 勿論、クウとしても別の思惑がある。残念ながらクウたちとセイジでは連携が上手くできるとは言えないのだ。故に予備戦力なのである。

 そしてクウはリアにも告げた。



「リアは俺と行く。《時間転移タイム・シーフ》で俺の補助をして欲しい」


「分かりました」


「それとユナ、ミレイナ。偽装している奴は俺が目印を付ける」


「うん」


「いつでもいいぞ!」


「それぞれ、やることは分かったな。いくぞ」



 そう言ってクウは消滅エネルギーを生み出した。

 消滅エネルギーは巨大な一本の矢に変形する。得意技《魔神の矢》が目的の偽装小惑星に向けて放った。







 ◆◆◆







 赤黒いエネルギーはクウの権能【魔幻朧月夜アルテミス】の影響を受けて光速化する。超越者に正面から攻撃を当てるなら、情報次元の限界速度値である光速は必須だ。

 消滅エネルギーは見事クウの狙い通り、偽装小惑星に直撃した。

 そして偽装小惑星は震える。

 大気がないので音はないが、膜が剥がれるかのように偽装小惑星表面の岩石が剥がれ始めた。《魔神の矢》が直撃した部分はごっそりと削れており、金属のような光沢が覗いている。



「やるよミレイナちゃん!」


「うむ」



 ユナは初手で最大技である《天照之アマテラスの太刀たち》を放つ。情報次元すら蒸発させる居合切りだ。射程は実質無限である。

 《魔神の矢》で削れた表面を中心に赤熱した斬撃跡が残る。

 偽装小惑星は更に震えた。



「うおおああああ!」



 気合と共にミレイナの《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》が放たれた。父より受け継がれた竜人族の奥義をミレイナなりに改良したものであり、さらには権能【葬無三頭竜アジ・ダハーカ】による破壊の力も込められている。

 深紅の閃光が直撃し、遂に偽装で纏っていた岩石が粉砕された。

 そして偽装は解かれ、全容が露わとなる。



「球体? 真っ黒な?」


「なんなのだあれは?」


「私の《天照之アマテラスの太刀たち》でも無傷だね」


「《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》も効いていないのか?」



 偽装で纏っていたのであろう岩石は容易く破壊されていた。しかしその下にあった本体は驚くほど硬い。クウが情報次元を解析できなかったのだから当然と言えば当然だが。

 そして偽装の下にあったのは漆黒の球体である。

 太陽の光を微妙に反射しており、光沢のようなものもある。

 宇宙では距離感も狂わされるため、見た目から大きさをはかることはできない。



「予定通り、私たちでやるよ!」


「ふん。粉々にしてやるのだぞ」



 二人はオーラを全開に放出しつつ、黒い球体へと向かって行った。





 ◆◆◆





 小惑星の一つに隠れるクウとリアは、まず戦いの様子を観察していた。

 姿を現した敵超越者は特に動きを見せず、ユナとミレイナを待ち構えている。



「あれが殻か。情報次元が見えないな」


「まだ待ちますか?」


「ユナとミレイナならやってくれるはずだ。あいつが殻を捨てて戦闘形態になれば……情報次元を見抜くことができる」



 黄金と深紅のオーラが尾を引いて宇宙空間を走る。

 まるで流星だ。

 超越者の力は太陽や小惑星の重力すら振り切る。天使翼は物理次元上での自由な移動を可能とする。普通の翼のように大気も必要なく、宇宙空間でも自由自在だ。

 見ていると深紅のオーラが増大し、また速度も増して黒い球体へと突撃を仕掛けた。充分な距離があるのでその分だけ速度が増し、光の速さへと近づいていく。



「そろそろだ」



 クウは《真理の瞳》を発動した。

 それと同時に深紅の流星、すなわちミレイナが黒い球体と衝突した。音も衝撃波も発生しない。しかしミレイナのオーラが火花のように散った。

 権能の力も乗せられた破壊の一撃だ。

 この直撃は堪えたのか、黒い球体に無数の亀裂が生じる。そしてがたがたと震えていた。



「やりました!」


「のようだな。流石はミレイナ……か」



 単純な破壊力はミレイナが強い。

 彼女の権能も破壊に特化しているし、何より破壊神の加護を得ている。そして何より及ぶ力が広範囲だ。巨大で強大な敵には丁度いい。



「あのサイズを一撃、か」


「見た目よりも大きいのですね」


「直径にして五百キロってところか?」



 直径だけで東京から大阪ほどもあるということになる。クウとリアの位置からはユナとミレイナのことは見えていないので、クウも情報次元の観測によって状況を確認していた。

 ミレイナに続いて黄金の流星、つまりユナが突撃する。

 《天照之アマテラスの太刀たち》でも効果がないと分かっているが、ユナにとっての最大攻撃はやはりこれだ。ならば狙う場所を考えれば良い。幸いにもミレイナのお蔭で表面には亀裂が走っている。そこに刀を差し込むのだ。

 黒い球体の一か所で、斬撃跡が白く光った。

 だがここまで攻撃されて敵も黙っているわけではない。ようやく、そしてクウの思惑通り、敵は動き出した。

 しかし、一つクウにも予想外なことがあった。



「っ! 変形だと?」



 黒い球体はミレイナによって割られたわけではなかった。

 元から割れていたのだ。ただ、継ぎ目が分からないほどぴったりとくっ付いていただけなのである。球体は内側から開いていき、変形する。表面を覆う黒いプレートは鎧のようなものだったのだ。

 球体の下部から左右に三つずつ、合計で六つの長細いパーツが開いていく。それぞれは更に外に向かって伸び、昆虫の足のようになった。同時に球体の上面では大きなパーツが起き上がるように開かれていく。更にそのパーツも次々と亀裂が走り、変形していく。

 最後に球体の背面で渦状にパーツが剥がれていき、それが尾となる。



「なるほどな。あれが正体ってことか」


「クウ兄様! 大きすぎます! 倒せるのですか?」


「どうだろうな?」



 クウは早速とばかりに固有情報次元を解析し始める。

 完全に変形した敵の姿は、まるでサソリだった。長く太い尾の先には鋭い針があり、鎧に包まれた六本の脚はその爪先ですら人間より遥かに大きい。そしてサソリと異なる要素として、サソリの胸部にあたる部分から人間のような巨大上半身が生えていた。その上半身も下半身のサソリ部分とほぼ同じ大きさであり、筋肉質で黒い鎧に包まれた腕もある。ただ、頭部は兜のようなもので覆われており、顔までは分からない。兜はドラゴンの頭部を思わせる意匠であった。



「正体、見えたぞ」




―――――――――――――――――――

アリュテミシア     1145歳

種族 超越神種粘体

「意思生命体」「吸収」「増殖」


権能 【究極兵器ウェポン

「顕現」「骸殻がいかく」「抗体」

―――――――――――――――――――



 クウが注目したのは種族、粘体である。

 すなわち特定の形状を持たない粘菌のような生物ということだ。全身を漆黒の鎧で覆われた巨大生物という見た目と反する。



「なるほどな。権能【究極兵器ウェポン】に、特性「骸殻がいかく」、それと「抗体」か。これは初手から厄介なのを引き当てたかもな」


「兄様……」


「俺たちはチャンスが来るまで待機だ。ユナとミレイナがあの厄介な鎧を剥がすまでな」



 超巨大超越者アリュテミシア。

 クウたちは初戦から苦戦を強いられることになる。







アリュテミシアはff7remake発売の記念でストーリーに追加した超越者ですね。モデルはアルテマウェポンです。

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[一言] 超越神種粘体、つまり超越神種スライム? アルテマウェポンかっこいいですよね
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