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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
裏世界編

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EP545 崩壊世界


 表世界と裏世界を繋ぐ次元の穴は消えることなく、空間を割るようにして存在している。周囲には無数の罅が広がっており、世界にとって良いものとは思えない。

 一応は周囲に結界が張られているのだが、あくまでそれは監視用の結界である。もしも裏世界から超越者が訪れれば、結界など容易く破られてしまうだろう。



「遂に、だな」



 そして今日、裏世界へと乗り込み、カグラ=アカシックを倒す。

 クウ、ユナ、リア、ミレイナ、セイジが裏世界へと向かう組。アリアとリグレットは裏世界からやってくる可能性のある超越者を抑え込む役目があるため居残り組となる。



「準備はいいか?」



 クウの言葉に全員が頷く。

 できる準備はすべて終えた。ここからは本当に最後の戦いである。そして相手は超越天使であっても負けは必至な超越神。緊張もする。

 天使たちは翼を展開し、セイジも浮いた。セイジには翼こそないものの、超越者なのでその気になれば重力の枷から外れることもできる。ただ、コントロールが難しいので戦闘で使えるようなものではない。しかし移動するだけならこれで充分だ。

 だがそのとき、次元の穴の向こうから巨大な手が現れる。その手は次元を穴を押し広げ、中から白き翼を持つ巨人が姿を現した。



「あれは……カグラ=アカシックの天使」



 アリアが呟く。

 現れたのは天使メギドエル。文明神が邪神へと堕ちたことで堕天使となるも、本来の銘を取り戻したお蔭で元の熾天使へと返り咲いた。

 全身をこちら側に移したメギドエルは重く低い声で告げた。



「我はメギドエル。偉大なる文明神の天使なり。故に汝らへと告げよう。我が神の御告げを」



 本当に伝言が目的なのか、メギドエルからは戦闘の意思が見られない。警戒は怠らないが、全員が聞く姿勢となった。



「告げる。『私の領域へ至らんとする者よ。試練の苦難を乗り越え、私への贄となれ』」



 無茶苦茶な言い分である。

 しかしこれが神の視点というものだ。絶対的な力を有するが故の自信だろう。何よりカグラ=アカシックは未来を完全予知する能力を有する。

 クウたちからすれば悔しいが、カグラ=アカシックの目には迎え撃つ光景が見えているのだ。



「くーちゃん。どうするの?」


「予定は変わらない。行くぞ」



 裏世界に行くことは決まっているのだ。こうして突入の瞬間が予測されていたからといって計画を変更するわけにはいかない。また変更したところでそれすらカグラ=アカシックには推定通りということだろう。

 クウが左手で神刀の鯉口を切る。

 しかしそれをアリアが止めた。



「私たちがやる。お前たちは先に行け」


「いいのか? 全員で仕留めた方が早い。数はこっちの方が上だ」


「不要だ。私とリグレットを侮るなよ?」


「……それもそうだな」



 ここはクウたちがいなくとも充分な戦力がいる。

 アリア、リグレット、メロ、テスタだけでも数で上回っているのだから。

 そしてメギドエルからも戦うという気配が感じられない。おそらくクウたちが通り抜けても立ちふさがるつもりがないのだ。

 裏世界へと侵入予定だったクウ、ユナ、リア、ミレイナ、セイジはメギドエルを越えて次元の穴へと飛び込んでいく。深い闇のような穴に入った四人はすぐに見えなくなった。



「やはり我が神が予想された通り、五人か。そして我が戦うのが貴様らというわけだな?」


「その通りだ。さっさと消えて貰おう」



 アリアは神槍インフェリクスを手に告げる。そして魔法陣を起動し、彼女の神獣であるメロを召喚した。魔法陣からは小さな翼をもつ猫又が現れる。

 同時にリグレットもテスタを召喚し、周囲に複数の札を放出して浮かべた。



「この我に挑むか、小娘に小僧」


「私はこの世界を守る義務があるのでな。ここで潰す」


「僕としてもこの世界を滅ぼさせるわけにはいかないからね。テスタ、頼むよ」


”いいでしょう”



 テスタは周囲に超越者の戦いによる影響を及ぼさないよう、結界を展開する。周囲を夜空の平原へと塗り変える《星天夜結界シエレトワール》が発動した。







 ◆ ◆ ◆








 裏世界とは、本来はオリジナルの世界エヴァンだった。それを運命神が二つに分け、今の表世界と裏世界になったのだ。表裏一体となった世界は別の運命をたどり、表世界は一時の安寧を迎えている。しかし裏世界は見るも無残な姿になっていた。



「……酷い」



 セイジが一番に感想を漏らす。

 しかしそれも当たり前だ。なぜなら、裏世界は世界としての原型すら崩壊していたのだから。



「暗いな。夜なのか?」


「そうですね。ですがあれは太陽ではありませんか?」



 ミレイナは世界の暗さから夜と推測するが、リアは太陽を指さして反論する。つまり太陽がありながら暗いという不思議な状況なのだ。またカグラ=アカシックという超越神が顕現しているせいか、世界のエラーサインとして空が赤くなる現象も生じている。赤黒い空というのが正確な表現だ。

 そして現代知識のあるクウたちは別視点から考察する。



「ユナ、それに桐島……大気が無くなっているな」


「うん。それだけじゃないね。この世界は……いやこの星は……」


「ああ、すでに崩壊している」



 空を飛ぶクウたちは裏世界の大まかな状況を俯瞰して見ることができる。それゆえ、この世界の異常な姿を確認することができた。

 世界は文字通り、崩壊していたのだ。

 惑星である大地は砕け、宇宙空間を漂っている。太陽の重力に捕らわれているお蔭で小惑星として公転しているものの、惑星は大気や水を保持するだけの重力を失った。

 植物も動物も消え去り、岩だけの小惑星が宇宙を漂っている状態なのだ。宇宙を知らないリアとミレイナはよく分かっていなかったので、疑問を呈するだけであった。



「私たちが超越者じゃなかったら死んでたね」


「ユナの言う通りだ。下手に軍隊とか送ってたらこっちに着いた瞬間終わりだったな。とりあえず、身を隠して周囲の様子を探るぞ。多分、この辺には超越者もいる」



 クウは次元の穴の真下にある小惑星へと降り立ち、付近の窪みへと入った。ユナとリアとセイジもそれに続く。ミレイナは辺りを見渡した後、同じく隠れた。



「どうするのだクウ?」


「落ち着けミレイナ。まずこの辺りを俺が探る」



 まさか惑星が完全に崩壊しているとは思わなかったので、戦場のスケールはそれに応じて大きくなると思わなければならない。

 小惑星から小惑星へと渡り、超越者を薙ぎ倒しながらカグラ=アカシックの元へと辿り着くことになる。

 そして最後の戦いが控えている以上、超越者との戦いは最小限にして力を残しておかなければならない。

 クウは《真理の瞳》で情報次元を探り、まずは固有情報次元の存在を探る。



(多いな。軽く探るだけで数十はある)



 超越者が数十体というのは普通に考えればおかしな話だ。本来、超越者は世界を調整する役目を負っている。これほどの数がいるならば、星が崩壊しているのも納得できるというものだ。

 複数の超越者が争った結果、裏世界はこのようになった。



「くーちゃん、どう?」


「無暗に移動しなくて正解だった。この小惑星帯にかなりの超越者らしき存在を感じる。点在していたり集団だったりと色々だけどな。まず、カグラ=アカシックの所に行く道筋を立てたい」


「リアちゃんの転移で行けないの?」


「すみません。わたくしではカグラ=アカシックの気配を感じ取ることができなくて……」


「そういうわけだ。俺もカグラ=アカシックの情報次元を見ることができなかった。この世界のどこかにいることは確実だと思うが、直接乗り込むのは難しい」



 空が赤く染まるエラーサインが生じているので、世界へと負荷をかける超越神の存在はほぼ確実だ。これはかなり危険な状態と言える。長く続けば世界は負荷に耐え切れず、崩壊してしまうことだろう。

 それでも崩壊せずに世界がぎりぎりで維持されているのは、裏世界がカグラ=アカシックによって疑似神界化されているためだ。



「それでだ。まずはカグラ=アカシックを探す。いいな?」


「おいクウ。それは良いが、どうするのだ? 私は探索が苦手だぞ」


「朱月、僕も探索は無理だ。こんな広い範囲、やったことがない」



 ミレイナとセイジは共に無理だと言い張る。

 事実、二人はそれぞれの理由で感知が苦手である。まずミレイナは近距離における気配の読みには優れているものの、広範囲に及ぶ感知は得意ではないのだ。そしてセイジは超越者になって間もなくであり、力そのものに慣れていない。

 逆に感知が最も優れているのがクウとリアでほぼ同格、そして次点でユナである。



「仕方ない……か」



 感知するべき範囲は非常に広い。

 なぜなら裏世界は小惑星になるほど砕け散っているのだ。捜索範囲は宇宙レベルということになる。闇雲に探すならば、超越者三人でも難しい。



「超越者を狩って情報を得る……だな」



 それは普通ならば選べない選択肢だ。

 肉体という枷から外れた超越者は意思力だけで存在を維持できる。生存する意思がある限り何度でも復活できるのだ。ただ切れば殺せるような存在ではない。

 しかしクウはその手段がある。

 意思力を切り裂く刃によって超越者すら殺せるのだ。ここにはクウの他、ユナ、リア、ミレイナ、セイジもいる。また神獣を召喚すればさらに助力を期待できる。



「うん。いいと思うよ。くーちゃんの案でいこう!」


「ですがクウ兄様、戦えばそれを察知して多くの敵が寄ってくる可能性があります」


「一瞬で勝負を決める。全員で拘束し、俺が《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》で殺す」



 だがその提案をセイジは反対した。



「待ってくれ朱月。それだと情報はどうやって?」


「それは分かっている。そもそも超越者は死なないからな。拷問とかは意味がない。だから俺の能力で強制的に位置を割り出す」


「具体的には……?」


「超越者の魂を砕き、その破片を誘導する。この世界の超越者は光神シンか、カグラ=アカシックの加護を得ているはずだからな。その加護を辿らせる。正確には光神シンの力だけど」



 クウの権能【魔幻朧月夜アルテミス】ならばそれが可能だ。「意思干渉」によって魂に刻み込まれている意思次元ベクトルを選り分け、カグラ=アカシックと繋がる意思力を辿らせるのだ。

 理論上はこれでカグラ=アカシックへの道が示される。

 しかし、この方法は弱点もある。



「ただし、魂が砕けるとそのエネルギーは虚数次元に消える。砕けた魂が道を示してくれる時間は僅かだから、もしも一回でカグラ=アカシックを見つけられなかったら何度も超越者を殺す必要がある」



 超越者に至る方法は意思力封印と潜在力封印を解除する必要がある。そして光神シンは『天の因子』という強制的に意思力封印を解除するものを生み出した。そして『天の因子』は光神シンの力を元に生み出されている。故に『天の因子』には光神シンの力が宿っているのだ。

 そして文明神カグラ=アカシックは光神シンの力を吸収した邪神カグラであり、裏世界の超越者に組み込まれている『天の因子』を辿れば、カグラ=アカシックの位置が分かるという寸法だ。



「まずは一体。単独でいる奴を倒す」



 クウの言葉に全員が頷いた。






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