EP541 神の計画
巨人族は各地で出現し、猛威を振るっていた。
だが運よく二人の超越者がいた神都では、ほぼ瞬殺という形で巨人の討伐に成功した。
「なんだか呆気なかったね」
「うむ。確かに力は強かったが、対したスキルも使ってこなかったな!」
「この死体どうする? 私が燃やそうか?」
「それでいいぞ」
巨人族はその名の通り巨体だ。故に死体が転がっているのも困る。また瘴気が集まり、アンデッド化したら最悪だ。
ユナは権能の炎によって死体を消滅させる。
彼女の司る力である太陽はアンデッドとは正反対の概念と言える。焼き滅ぼせば、灰からでも復活することはできない。
「で、この後どうするのだ? 皆と合流するのか?」
「それもいいけど、知覚範囲にまだ巨人がいるみたいだよ。討伐した方がいいんじゃない? 確か巨人って敵だよね?」
「……そうだったような気がしなくもない」
「先にそっちを片付けよ! ……あ、空が」
決意を固めたところで、空に異変が起こる。
神の出現により潜在力に耐え切れず、世界は悲鳴を上げていた。エラーサインとして夕焼けよりも赤く染まった空は不気味そのもので、まるで終末のようであった。その空が元に戻ったのである。
「どうしたのだ? これは?」
「どうしたんだろうね?」
「ともかく、巨人は知覚できる範囲で倒すのだな?」
「取りあえずはそうだね。じゃあ、私は南に行くね」
「私は北だな。ならば競争だぞ!」
不謹慎ではあるが、やる気があるのは良いことだ。
それに超越者であるユナとミレイナからすれば、巨人討伐など容易いこと。二人は南北へと散っていった。
◆ ◆ ◆
魔族領に出現した巨人族は、天より降り注ぐ謎の光により次々と貫かれて倒れた。その正体はリグレットと天星狼テスタの広範囲術式である。
宇宙の神秘を操るテスタにとって、最も近い星である太陽は大きな力を引き出すための根源となり得る。その光を収束して天より撃ちおろす術だ。。朝となった魔族領には太陽が昇っており、力の象徴が尽きることはない。そして収束した光をリグレットがコピーすることで威力を保存したまま全ての巨人族に一斉攻撃することができていた。
「これで一掃したね。次のエリアに移ろう」
”いえ、その必要はありませんよ。どうやらメロの妖魔が滅ぼし尽くしたようです”
「おや、思ったより早い」
”この時に備えて迷宮内部で瘴気を保存していたみたいですね”
「ああ、それで即時展開できたのか」
天妖猫メロの権能は【百鬼夜行】。瘴気から妖魔を生み出し、妖魔から瘴気を生み出し、時間と共に脅威を増す権能である。つまり時間をかけない内は妖魔の数を揃えることができない。それを補うため、瘴気の浄化設備である迷宮を利用して予め瘴気を集めておいたのだ。
リグレットは権能を使ってメロの戦場を覗き見る。
無限にも思える妖魔が巨人の群れを蹂躙している光景がそこにはあった。
「うん。確かに問題なさそうだ。じゃあ、もう一つの方は……」
”ネメアが蹂躙していますね……大人げないといいますか”
神獣もやはり超越者。何も心配する要素はなかった。
「この様子なら、巨人族も明日までには殲滅できそうだね」
”やはり千五百年前と違い、敵に超越者がいませんから。正確には、裏世界に戻って行っただけですが”
「そっちも問題だね。手早く問題を片付けて、もっと大きな問題の対処を計画しないと」
リグレットはその広大な知覚能力によって事情を把握している。
これからさらに大きな、そしてこれまでにない死力を尽くした戦いになることも予見していた。
◆ ◆ ◆
カグラ=アカシックに魂へと干渉されたクウは、ようやくそのダメージから抜け出していた。リアの権能による治療は、多少ではあるが魂にも影響できる。そもそも魂を外部から治癒することは不可能で、あくまでも魂が自己治癒する手助けをしてくれるだけだが。
「もういい、リア」
「でも……」
「大丈夫だ。どちらにせよ、戦闘はしばらくしない」
クウが治療されている間、アリアは平原に出現した巨人の殲滅を行っていた。そして今も警戒を続けているため、ここにはいない。そもそも、アリアの権能なら広範囲を殲滅することなど容易いことだ。クウやリアが助けるまでもない。
それよりも厄介なことがある。
裏世界へと消えたカグラ=アカシックだ。
「問題は、奴の倒し方だ。あれが本当に未来を完全に予知しているとすれば、俺の能力もそうだが全員の力が予め知られていると思った方がいい。それに奴には何千年も対策を練る時間があった。俺たちが勝てる可能性は万に一つ……もないな」
「ですが兄様の「意思干渉」と私の未来選択があれば……」
「多分、それを考慮できるのが奴の権能だと思う。奴は自信たっぷりだったし」
これまでクウは情報次元を解析することで敵の超越者の能力を割り出し、戦いの中で対策を講じてきた。しかし、今回は逆である。対策をされている側なのだ。しかも相手は神なので、解析が通じるとは思えない。カグラ=アカシックが力を取り戻した際の隙で権能だけでも解析できたのは運が良かった。
(対策らしい対策といえば、光神シンを倒すために作った《神威》……あれを完全発動さえできれば)
虚空神ゼノネイアの力を降ろす《神威》は、今のクウには負担が大き過ぎる。クウという魂の器では受け止めるのが難しい。神の力を受け止める器を用意しない限り、完全発動は不可能だ。今は言霊による詠唱と短時間だけの発動という形で誤魔化しているが、理論上の威力には程遠い。
(それに《神威》さえ使えたら、あの切り札も……)
正直、カグラ=アカシックにどこまで力が読まれているのか分からないのが怖い。クウがまだ完全発動できない切り札すらも想定しているのだとすれば、もはや手の打ちようがない。
(どうすれば想定を超えることができる? どうにかして奴の計算を狂わせたい)
神の完璧な計算をどのように崩すのか。
神の完全な計画にどう亀裂を入れるのか。
考えても浮かぶはずはなく、その悩みすら読まれていると思うと気持ちが悪い。
「はは。何かどうにもならない気がしてきた……はぁ」
「兄様……でも」
「別に諦めたわけじゃない。が、これは俺たちだけじゃどうにもならないな。完全に回復したら、一度ゼノネイアに会ってくる」
「私も同行します」
「分かった。それとユナも連れていこう。ちょっと考えていることがある」
問題は山積みだ。
裏世界に行くとしても、まず話し合わなければならない相手がいる。
こちらに歩み寄る人族代表。セイジたちと、女王ユーリスを見てクウも立ち上がった。
◆ ◆ ◆
神界のある場所で、運命神アデラートと破壊神デウセクセスが情報次元を眺めていた。それも裏世界の情報次元である。
白と黒がそれぞれのメインカラーであるため、二人は対極に見える。
「これが今の裏世界の情報次元。その推察です。確率収束させましたので、精度は完璧ですが」
「なるほどな。酷い有様だ」
「ええ。世界が原型をとどめていません」
「もう潰して再創造した方が早いんじゃないか? 何なら、俺が消滅させよう」
「それは無しと決まったではありませんか?」
「だが、既にそれぞれの天使は手に入れた。魂の錬成は完了している。世界にそれほど興味はないだろう。神獣も含めれば、俺たちの手足となる奴らはいる。新しい世界で活躍して貰った方がいい」
「確かに、もう世界の意義は大半が失われていますね。あそこまで成長させましたからもう少し未来を見てみたかったのですが……」
「未来を自在に操るお前が言ってもな」
「あら、完全でないから面白いのですよ。私にも見えない未来は存在します。神の計画を超える、魂の限界の先。私たちと同格の魂に至るならば、神ですら未来は読み切れません。あくまで、確率予想になってしまいます」
「それを見たいのか?」
「ええ。特にゼノネイアが言っていましたよ。可能性があると」
「ほう」
デウセクセスは興味深そうにする。
人の魂を世界という錬成場で鍛え上げ、至らせる。つまり人から神へと至ることだ。それは真なる神と区別して亜神や半神とも呼べる存在になる。
「確かに前例はあった。それを俺たちの世界が……それは面白そうだ」
「ええ。全能神のところに半神ヘラクレスがいるでしょう? あれと同じものが私たちのものになるとすれば……」
「なるほど。まだ破壊する必要もなし、か。裏世界にも価値があるようだな。お前が確率収束するつもりか?」
「しません。そんなことをすれば、本当の意味で神の計画を超える魂は生まれないのですから。長く待った本当の計画がようやく成就しそうです」
「まぁ、本当に半神が誕生するなら価値のある年月だったな。俺たちがエヴァンにかけた情熱も無駄にはならないだろうよ。仮に天使共がカグラに敗北するなら、世界ごとぶっ壊してしまえばいい。俺の分解なら世界だけを綺麗に消滅させられる。周囲世界に影響を与えるヘマはしない」
「その時はお願いしますよ。尤も、成功してくれなくては困ります。カグラ如き小僧に私の力を上回ってると勘違いされるのも癪ですからね」
「それはお前の個人的な感情だろ」
「ふふふ。ただ未来を予知できる程度で思い上がっているようではまだまだです。私のように自ら運命を構築できて初めて一人前ですよ」
「お前は運命神で、奴は文明神だろう……司る概念が違うわけだから比べる方が可哀想な――」
「煩いですよ」
アデラートは高位神格、デウセクセスは中位神格だ。中位神格であり一度は邪神にまで落ちたカグラとは比べ物にならない。そしてエヴァンには最高位神格ゼノネイア、最高位神格アルファウ、高位神格レイクレリア、中位神格アステラルがいる。
そもそもカグラ一柱で敵うわけもなかった。
「ふふ。至ると良いですね。最も完成に近い魂、クウ・アカツキ」
「ああ」





