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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
天使覚醒編
54/566

EP53 幻想竜ファルバッサ

「おいおい、冗談じゃない」



 翼を広げて咆哮するその竜は、大地に巨大な黒い影を落とす。

 ゆっくりと翼をはためかせながら、ソレはクウの目の前へと降り立った。



「クウ兄様!」


「分かっている! リアは下がっていろ!」



 予想を遥かに超えた存在に、クウはいつでも撤退できるようリアに指示を飛ばす。そして即座に《看破Lv8》を使ってその竜のステータスを覗いてみた。




―――――――――――――――――――

ファルバッサ 1744歳

種族 天竜 ♂

Lv122 (弱体化)


HP:16,890/16,890

MP:20,450/20,450


力 :12,599

体力 :10,372

魔力 :12,281

精神 :18,957

俊敏 :11,762

器用 :9,872

運 :48


【%?#&能力】

幻想世界ファンタジア


【通常能力】

竜息吹ドラゴン・ブレスLv7》

《竜圧Lv8》

《竜眼》

《万能感知Lv8》

《自己再生Lv6》

《魔法反射》

《魔力支配》


【加護】

《$&!?@#の加護》


【称号】

《$&!?@#の使い》《幻想竜》《迷宮の守護者》

《到達者》

―――――――――――――――――――



 レベルはクウよりも下だが、ステータス値は文字通り桁が違った。

 名前持ちネームドであることや天竜と言う聞いたこともない種族であることなど、クウが知りたいことは山ほどあったが、何よりも目を引き付けたのは文字化けした【加護】と【称号】の欄だった。



(《$&!?@#の加護》に《$&!?@#の使い》とは一体なんだ? それに【%?#&能力】というのも変だ。俺やリアと同じなら【固有能力】だということになるが……?)



 目の前にいる圧倒的な存在から逃げ出したいという思いもあったが、文字化けで隠された謎の加護を持つ者でもあるという興味から、クウはその場を動けずにいた。竜の方も戦闘態勢というわけではなく、むしろ興味深そうにクウのことを観察しているようだった。



(なんだ? 戦闘の意思はないのか?)



 それならば……と、クウは一歩だけ後退する。

 森の中で熊に遭遇した時のように、相手を刺激しないように気をつけながらゆっくりと下がろうとしたのだが、それを見た竜はカパっと口を開けた。クウは《竜息吹ドラゴン・ブレスLv7》 というスキルがあったことを思い出して一気に飛びのく。

 しかし、竜の口元からは息吹ブレスが発射されることはなかった。



”ようやく来たか……選ばれし人の子よ……”



 空気が震えるような声が響きわたり、クウとリアは思わず耳を塞ぐ。それを見た竜は少しだけ申し訳なさそうに声量を落として言葉を告げた。



”ふむ、済まぬな。千を超える年月に渡って待ちわびた者の到来に、ついつい興奮してしまったようだな。我を許して欲しい”


「言葉を話す……竜……?」



 今までのボス魔物と違って理知的に言葉を話していることに戸惑うリア。ポツリと呟いたその言葉が聞こえたのか、竜はリアの方へと向いて語り掛けた。



”我は長きを生きる天竜ゆえに、人の言葉ぐらい話すことが出来る。それに我はただの竜ではない! 我が主より頂いた尊き名を聞くがいい! 我が名は『幻想竜』ファルバッサだ! 汝に試練を与える者なり”



 再び大きくなったファルバッサの声が空間そのものを揺らす。

 ビリビリと震える世界にリアは耳を塞ぎながら膝を着いてしまう。クウも同様に膝を折りそうになったが、なんとか耐えきって口を開いた。



「なるほど、いい名前だな。さぞかしお前の主人とやらは素晴らしい者なのだろうな。名乗り遅れたが、俺の名前はクウ・アカツキと言う。ちなみに試練というのはお前を倒せばいいのかな?」



 自信のあった精神値ですら5,000以上の差をつけて負けている現状に、クウは頭を回転させ続ける。《看破Lv8》で見たファルバッサのスキルも、未知のものや強力そうな名前のものばかりだ。クウは《看破Lv8》を使ったままファルバッサを見上げ、詳しいスキルの内容を確認した。




幻想世界ファンタジア

$%…銀…?#%!*@、?&%#!…在…:?@……&#!

世界…#$*@…める。その…@$!?…世界…?#

は…魂…&?*@!…滅びる…?&%!@、*@&!#?

*?&%#!…を出す…!\&%、&%$?!@*\……世

界…*@…崩壊#$%*?&%!/&\$#!…するこ…

!$#…不可…@*$…なる。



竜息吹ドラゴン・ブレスLv7》

魔力を口元に集めて圧縮し、開放する真竜

にのみ許された力。

込めるMP量によって威力を変化させること

が可能。



《竜圧Lv8》

種の頂点である真なる竜の放つ威圧。

圧倒的な格下ならば、威圧を感じただけで

本能的に死んでしまう。



《竜眼》 (種族限定スキル)

格下の存在を見抜く魔眼。

相手が格下ならば、どんなに秘匿しようと

も何も隠すことはできない。ステータスも

嘘も罠も偽装すらも。



《万能感知Lv8》

感知系スキルの最上位能力。

気配、魔力、熱、音、匂いなどの、あらゆ

るものを感知する能力。このスキルのレベ

ルより下の能力では隠れることは不可能。



《自己再生Lv6》

傷ついた肉体をMPを消費して再生する。

例え体の一部が無くなったとしても、MPさ

えあれば心臓と脳以外は再生できる。



《魔法反射》 (エクストラスキル)

自身に当たる魔法を自動的に反射する。

反射の際に、その魔法と同じだけのMPを消

費するが、どんな魔法であっても跳ね返す

ことが可能。

基本は自動反射だが、反射を解除すること

もできる。



《魔力支配》 (エクストラスキル)

魔力系スキルの最上位能力。

体内の魔力を完全にコントロールできる他に、

空気中に存在する魔力すらも体内に取り込む

ことで操作可能となる。




 何度も《看破Lv8》で確かめるが、【%?#&能力】の《幻想世界》というスキルの詳細だけは全く分からなかった。仕方ないので、分かるスキルだけでもと考えてスキルの詳細を見たクウは、もはや溜息しか出てこなかった。

 恐らく《竜眼》でクウのステータスは完全にファルバッサに知られており、クウが《看破Lv8》でステータスを覗いたこともバレている。それでも何も言ってこないということは、あえて絶望的な差を見せつけているのだ。


 例え魔剣ベリアルで切り裂こうとも《自己再生Lv6》で傷を修復できるだろうし、魔法を使ったとしても《魔法反射》のスキルで跳ね返される。《万能感知Lv8》がある以上はどこへ逃げようとも隠れられず、当然ながらファルバッサの俊敏値に勝てる訳がない。

 まさに「詰み」という言葉が相応しい状況だった。



”ふむ、我を倒す……か? お主には不可能だと理解しておるだろう? 始めから乗り越えることのできないものは試練とは言わぬ”



 ファルバッサは先ほどからクウが《看破Lv8》で能力の解析を続けていることに気付きながらも、ただ愉快そうに目元を緩めながらクウの問いに答えた。

 確かにステータスを覗き見るという不快な行為をされているにも関わらず、殺気の一つも放たないファルバッサにクウは少しだけ警戒を緩める。そもそもファルバッサにとってはクウとリアの二人など、秒殺できる程度の存在でしかないのだ。警戒をしてもしなくても、襲いかかられたならば死ぬのは確定している。

 それを理解したクウは、すこしファルバッサと会話を続けてみることにした。



「それで……何故お前は俺に試練を与えるんだ? 今までの迷宮のボスのように俺たちを殺しにかかる様子もない。一体何が目的なんだ?」


”ほぅ……好奇心が旺盛なのは良いことだ。ではお主の質問に一つずつ答えてやるとしよう”



 そう言うと、ファルバッサは翼を折りたたんで大地に寝転がった。それと同時に張りつめていた空気が一気に解け、膝を突いて動けなくなっていたリアも何とか立ち上がってクウの隣に並び立つ。絶対的な強者の覇気に当てられてもなお立ち上がる気力を持ったリアに感心の視線を送りながらも、ファルバッサはリラックスした口調で語りだした。



”我がこの階層にいる目的は、この先へと進む者の人格を見極めることにある。

 ここに来た時点でお前たちの強さは確認できたと言ってもよい。ああ、我と比べるのは止せ。お前たちとは文字通り格が違うのだから比べる意味がない。これでも我はこの世界最強クラスの生物だからな。

 話は逸れたが、この先へと進めばお主……そっちの黒髪のお主は隠された力を得ることができる。その力は我と並ぶほどの強大な力だ。正しく扱うに足る精神こころがあるのかを試すための試練だ。我はその試練を課すためにここにいる”



 ファルバッサの言葉に戸惑うクウとリア。

 そもそも迷宮とは、善神である運神アデル、武神テラ、造神クラリアが悪神に囚われて閉じ込められている場所だと神話の時代から言われてきた。だからこそギルドや国が迷宮攻略を推奨しているのだから、ファルバッサの話は二人を大きく混乱させる。

 だがクウはすぐに落ち着いて一つの結論に思い至った。



(こいつの言い方だと、その力とやらを得るのはリアではなく俺だということだ。そして俺が選ばれている理由としては1つしか考えられない。【虚神の加護】だ。

 やはり……虚空迷宮と虚神ゼノンには深い関係がありそうだな。)



 探し求めていた答えの欠片を掴んだような気がして、心の内でガッツポーズをとるクウ。対するリアは、クウも一瞬だけ感じた疑問をファルバッサへとぶつけた。



「しかしファルバッサ様、わたくしたちは迷宮の最下層には囚われた神々がいると聞き及んでおります。あなた様のおっしゃった『力を得る』とはどういうことでしょうか?」


”ふむ……ん……? お主も……いや、そうか……”



 ファルバッサはリアの質問に答えようとして一瞬だけ固まり、何か独り言をブツブツと呟き始めた。クウもリアも不審に思ったが、ファルバッサの醸し出す空気に気圧されて口出しすることは出来ない。

 そして少しだけ瞳を閉じて思案していたファルバッサは、スッと目を開いて何事もなかったかのように再び話し始めた。



”いや、済まないな。それでそっちの少女の質問だったな。

 まず初めに言っておくが、この世界を治める神々が地上にある迷宮ごときに捕らえられる訳がない。この我ですら片手間で殺すことが出来る存在が神だ。彼のお方達にとっては、こんな迷宮など掘っ立て小屋のようなものなのだからな”



 少しイラついたような口調で答えるファルバッサに、リアは思わずたじろいでしまう。緩んでいた空気が再び張りつめそうになったところでファルバッサが大きく息を吐き、緊張が解けた。

 クウには何故ファルバッサがイラついたのか分からなかったが、先ほどの彼の口調から気になっていたことを聞こうとして口を開いた。



「お前はもしや神に会ったことがあるのか……?」


”……悪いがその質問には答えることは出来ぬ。答えが欲しければ試練を乗り越えるがいい”



 ファルバッサの答えの前にあった僅かな間から、クウはこの竜の言っている主の正体が神の内のどれかなのだろうと予想する。そして文字化けしていた《$&!?@#の加護》も、ファルバッサの主による加護なのだろうと考えた。

 もう少し情報を整理したいクウだったが、ファルバッサが急に口調を速めて言い放った言葉に思考を中断させられることになった。



”質問の時間はこれで終わりだ。黒髪の少年よ、お主にはこれから我の出す試練を乗り越えて貰う。有無は言わさん!”



 そう言うとファルバッサは急に翼を広げて起き上がり、灰銀色の輝きを放ち始めた。ファルバッサの身体から溢れる光は収束して白銀色のオーラのように周囲へと広がる。

 突然のことで反応の遅れたクウとリアは、為す術もなくそのオーラに飲み込まれた。



「リア!」


「クウ兄様!」



 咄嗟にクウはリアの手を掴もうとするが、視界を包む光に飲まれてそのまま見失う。








 目を塞ぎたくなるような白銀の閃光が収まったとき……



 その場にいたのは灰銀の鱗を持つ幻想竜ファルバッサと白いローブを纏ったリアの二人だけだった。




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