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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
534/566

EP533 最強の聖剣


 目を覚ましたばかりのセイジはまだ状況を把握していない。しかし助けを求める声は聞こえた。だからこそ、再び戦う意思を得た。



「来い」



 セイジはすぐに【魂源能力】、《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》を発動させた。半分は『世界の情報レコード』から外れているため発動は可能である。しかし、本来スキルは神が生み出した法則によってサポートされている。セイジはそのサポート無しでスキルを操らなければならない。



「エクスカリバー」



 呼び出すのはセイジの知る限り最強の剣。そして剣の中の王だ。もはや概念にまで至った、最強を具現化した物質とまで表現できる。

 概念を操る超越者の力の一端をセイジは再現した。

 黄金の刀身と透き通る光を宿した剣が右手に収まる。一度は超越化を果たし、更には超越神が乗り移ったことでその奥義の感覚を覚えていた。

 そしてセイジはエクスカリバーを掲げた。

 すると眩い光が放たれ、世界が真っ白に染まる。

 光は一瞬であり、すぐに収まった。そしてセイジ、リコ、エリカ以外の全員が気を失っていた。



「清二? これ……」



 リコは驚いていた。

 黄金の輝きを見せる剣が原因なのは明らかである。そしてリコはこの剣を知っている。あまりにも強力であるがゆえに完全な制御を諦め、五つに分裂させていたエクスカリバーだ。分裂した剣はそれぞれカリブルヌス、カリバーン、カラドボルグ、エスカリブール、コールブランドと名づけられており、そうして分けた剣を操るという形に留めていた。そして五本の剣を融合させたエクスカリバーの一撃は切り札という位置づけだった。

 それも剣の力を一部だけ使うことしか許されない切り札だったのだ。



「うん。咄嗟だったけど、なんか使えたよ」


「そ、そうなんだ」


「清二君……凄いです」



 人族も、魔族も、狂化された人族も区別なく気絶している。

 その理由はエクスカリバーの力の一部を受けたからだ。《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》は剣の召喚ではない。神話の再現だ。神話に出現する、あらゆる剣を再現する。そして神話は文面に手伝わったものに限らない。

 ゲーム、アニメ、漫画、二次創作物、口伝、その他を全て神話として認める。

 つまりあらゆる形態で伝わった神話の剣を再現することができると同時に、それを重ねることを可能とする。セイジのいた世界で最も有名な聖剣エクスカリバーは、その最たる例だ。あらゆる創作物で最高位の剣として扱われると同時に、王の剣として知られ、神話の中ですら名前を変えて伝わっている。その全てが重なり、一本に込められているのだ。

 言い換えれば、エクスカリバーを信じ、知っている全ての意思力が宿っているということである。

 つまりセイジは有名なものを再現するほど力を増す。

 外部から意思力の宿った概念を借り受けるのだ。

 そして今はエクスカリバーに再現された威光を放っただけである。ただそれだけで、一般人を気絶させるには充分だった。狂化していても関係ない。まさに圧倒的である。

 エクスカリバーの知名度は凄まじい。

 その知名度の分だけ、意思力が上乗せされていると考えれば当然の結果かもしれない。



「でも、あれは倒せなかった」



 セイジは上を見上げる。

 そこには無表情で見下ろす光神シンがいた。

 もうリコもエリカも光神シンを味方とは思っていない。そしてセイジは明確に敵と定めていた。



「僕は騙されていた。朱月の言ったことは本当だった。僕は何も知らなかったんだ」



 この世界に勇者が呼ばれた意味はない。

 ただ表世界エヴァン裏世界エヴァンに穴をあけるためだけの存在だ。セイジは【レム・クリフィト】に囚われている間、真実を知った。そして改めてセイジ自身の目的を確認した。



「もう惑わされない。僕は理子と絵梨香と一緒に元の世界に戻る!」


「清二……そうね!」


「はい! 私も手伝います!」



 三人は当初の目的を思い出した。

 魔王を倒し、元の世界に戻るという目的だ。今は神を倒すという更に高難易度になっているが、それでも変わることはない。それにスキルを封じられているのでリコとエリカは無防備かつ役立たずだ。それでも、セイジを信じて待つことを決めた。

 一方で光神シンは非常に落胆していた。



「その力、もっと早く発現していれば役に立ったものを……まぁいい」



 光神シンは巨大な杯の中を覗き込む。そこには八割ほどの黒い液体が溜まっていた。これは戦争が始まってから集めた負の意思力を凝縮したものである。

 そして一杯に溜める必要はない。

 杯の九割を超えれば、世界にぶつけるだけの意思力が溜まったことになる。



「絶望しろ」



 光神シンは、眠っている者たちに悪夢を仕掛けた。世界侵食イクセーザで生み出したこの世界の法則を少し弄れば、簡単に悪夢を見せることができる。

 起きていても眠っていても関係ない。絶望し、怒り、妬み、負の感情を湧きあがらせれば良いのだ。あくまでも夢であるため、負の意思力の貯蓄は進まない。しかし、少しずつ時は迫っていた。

 そしてセイジたちは眠らされていない。

 光神シンが直接、絶望させるためである。

 胸を焼き焦がすほどの怒りをぶつけるつもりだった。



「次はお前たちの番だ。最後ぐらいは役に立って死ね」


「そういうわけにはいかない!」



 神と人。

 分かり切った戦いに、セイジは挑んだ。






 ◆ ◆ ◆






 リアと入れ替わったアリアとリグレットは、まず民の安全を優先していた。リグレットが結界で戦場を隔離し、アリアが攻める。普段から使うパターンだ。

 かねてからアリアとリグレットは魔王オメガたちを相手にしていた。つまり超越者との戦いには慣れている。それは国民も同じであり、戦場を隔離したら大人しく逃げるという意識が民たちの中にあった。



「やってくれたな」


「君は魔王だね。ここで殺す……神のために……」


「狂信者め。一般人なら殺さずにおいて良かったが、そういうわけにはいかなくなった。悪いが本気で行かせて貰う」



 アリアは即座に世界侵食イクセーザを発動した。

 それも《無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》ではなく、《背理法ゼヴィラ》だ。アリアが切り札として作成した世界侵食イクセーザであり、超越者ですら楽に倒せる可能性が高い。

 空間をアリアの意思力が満たし、その権能が支配した。



「消えろ」



 その瞬間、レインは四散した。

 《背理法ゼヴィラ》は対象を神聖粒子へと分解する能力だ。世界侵食イクセーザによって世界そのものに意思力を侵食し、消滅させる。

 勿論、レインの生み出した薔薇も消え去った。

 しかし超越者となったレインはこの程度で死にはしない。意思力の続く限り、魂から霊力を生み出して肉体を再構築できる。神をよりどころとするレインの意思は非常に強く、簡単に再生した。



「この程度でっ!」


「ふん」


「ぐあああっ!?」



 アリアはレインと薔薇を分解して生み出した神聖粒子を現象へと変換した。大電流が駆け巡り、レインは苦痛で呻く。そしてもう一度分解した。

 再び神聖粒子が空間に満ちる。

 それでもレインは再生した。



「僕は! 無敵だ!」


「これは薔薇……邪魔だ」


「ぐうううぅうっ!?」



 レインが生み出す黒い薔薇も瞬時に燃やし尽くし、さらに反撃までする。超越者として生まれたてなレインと異なり、アリアは長く超越者をしているのだ。

 また長生きするエルフ族のレインは、戦闘経験値も凄まじい。しかし、その倍を生きているアリアには遠く及ばない。どうあがいても勝利はあり得なかった。

 アリア一人ならば民を攻撃するという手段で有利に戦いを進めることもできただろう。だが、リグレットがいる以上、それも不可能である。

 再びレインは分解され、神聖粒子となった。



「うああああああああっ!」


「無駄だ」


「おおおおおおおおおっ!」


「消えろ」


「はあああああああああああっ!」


「何もさせない」



 復活しては消され、能力を発動しても分解され、それでもレインは挑み続ける。

 果てには時間停止で身動きすら取れなくなったが、レインは諦めなかった。それはひとえに、光神シンからの恩恵に応えるためだ。この狂信的な心が折れない限り、レインは超越者としてあり続ける。 

 非常に厄介だった。

 しかしアリアもこの程度で面倒だとは思わない。

 あの魔王オメガを始め、多数の超越者を相手に何百年も戦い続けてきた。この小さな一戦など、全く苦にならない。



「早く楽になれ……」



 地獄の炎、無限の落雷、凍える氷河。

 ありとあらゆる現象がレインを追い詰め続ける。

 しかしアリアはこの戦いが長くなりそうだと感じていた。






 ◆ ◆ ◆






 クウとリアは二人で光神シンの座標を探っていた。

 情報次元を探るクウと、時空間へ干渉するリアの二人がいれば、大抵の超越者は座標を欺けない。だが流石に光神シンの世界侵食イクセーザは強力だ。二人の力を以てしても、その位置を特定することができなかった。



「ダメか」


「申し訳ありません」


「いや、リアが悪いわけじゃない。だが……」



 あまり時間はない。

 光神シンは人族と魔族のそれぞれを世界に取り込み、負の意思力を搾取しているハズだ。既に戦争は起こり、かなりの負の意思力が世界に満ちた。悠長に構えていると裏世界と接続され、邪神カグラが降臨する可能性が高い。



「せめて光神シンと繋がりのある何かがあればいいのですが……」



 リアはそう溢す。

 何の手掛かりもなく異世界化した空間へと干渉するのは不可能に近い。僅かでもこの世界と接点があるならば、情報次元の繋がりから簡単に探知できる。しかし、光神シンが発動した《因果限界》は完全隔離の世界を生み出せる。

 クウとしても光神シンに関連するものが欲しいと考えていたところだ。

 そして思いがけず、ある事実に気付いた。



「……あ」


「どうしましたか?」


「いや、光神シンに繋がるもの……あった」


「え?」


「あったというか、いた。レンの奴がな」



 クウが語ったのは、三度目の召喚で呼び出された親友だった。







新年初の投稿です。

しかしいきなりですが、毎週投稿お休みのお知らせです。


というのも卒表論文がありますので、流石にそちらに集中します。卒業がかかっていますので、勘弁してください。

再開は2月を予定しています。

ただ、2月の1周目になるか2週目になるかは不明です。卒論執筆状況によります。


ではでは

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