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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
529/566

EP528 終息へ


 セイジが敗北したことで、人族は気力を失っていた。

 元は光神シンが憑依していただけなのだが、ここで戦っていた人族はそれを知らない。ただ希望たる勇者が敗北したように見えた。

 そして落下したセイジはアリアの能力で停止した後、ゆっくりと下降し続けた。



「清二!」


「清二君! 大丈夫ですか!」



 それを受け止めたのはリコとエリカである。

 二人にはどんな戦いがあったのか分からない。リグレットの世界侵食イクセーザの中で起こったことなのだ。そして超越者の戦いは一瞬だった。

 基本が音速以上の戦闘となる超越者たちが戦えば、数分以内で決着する。

 無傷とはいえ、気づけばセイジが気絶して落ちてきたのだ。

 混乱して当然である。



「理子ちゃん、あれは魔王と……」


「朱月ね。二人とも揃っているみたいだけど、あれはまるで」



 天使。

 クウとユナの背にある翼を見て、そのように表現した。そして魔王アリアの背にも同じような翼がある。これでは何と戦っているのか分からない。

 そして気を付けるべきは猛威を振るい続けている怪物だ。

 深淵より這い出た怪物アングラがいる。



「アレを倒すなんて……もう無理です」


「絵梨香! 諦めちゃダメよ」


「でも、魔族もあんなに……」



 憑依化セイジの敗北により、人族軍の指揮は一気に低下していた。その隙を突くようにして獣人竜人連合は攻め込んだ。そして次々と強者を無力化し、数の差を覆したのである。

 ここから巻き返す方法など存在しない。

 セイジが負けて既に一時間ほど。

 人族の八割以上が降伏を考えつつあった。






 ◆ ◆ ◆






 光神シンの魔道具の中で移動に特化したものがある。それはクウたちが見れば自動車だと断言しただろうものだ。だがそれらは一般乗用車のような大きさではない。巨大建造物のような移動車である。

 ユーリス・ユグドラシルは三万の兵を従え、山脈の砦を超えた。

 大陸の北から南までを縦断する大山脈の中で、砦のある場所だけ山脈が途絶えている。その場所に築かれた砦は人族の手に落ちているので、超えるだけなら簡単だった。

 問題は魔族領に侵入してから。

 未知の領域で、未知の戦闘へと至るはずだった。



「これは……どういうことかしら?」



 ユーリスは疑念を感じていた。

 ほとんど停止した戦場を見て、疑問を口にした。



「あの怪物は何? それにあれは魔王とフローリアの仇!」



 怪物アングラと五体の天使はよく目を引いた。そしてユーリスにとって因縁の相手は二人。精霊王フローリアを討ったクウと、一度は戦った魔王アリアだ。

 五体の天使と怪物は動きを止めており、地上では人族と魔族の戦いもほぼ終結している。人族の負けという形で。しかしここに三万の援軍が来た。数は勿論だが、人族軍には大量の魔道具がある。それも光神シンが用意した最高の魔道具だ。本来ならば迷宮の深層でしか手に入らない高性能な武装によって強化された人族軍が三万である。

 疲弊し、数の少ない獣人竜人では勝ち目などないだろう。

 そして天使の真の力を知らないユーリスでは、勝負など意味がないと理解できていなかった。



「いいわ。遠距離砲撃を用意。目標は怪物と魔王および魔族軍よ!」



 ユーリスは聖霊魔法で全軍に命令を飛ばし、自身も《樹木魔法》を発動する。それは巨大な花だった。地面を割って成長し、見上げるほどの巨大な花が咲いた。その花は月光を吸収し、強力な光線として発射する力がある。狙いは勿論、アリアだ。

 開幕の一撃とならんとして、月光を収束して放つ。

 だが、それは呆気なくアリアに弾かれた。それも虫を払うように、軽く片手で。



「っ!? 早く撃ちなさい!」



 月光収束砲はユーリスの中でかなりの攻撃力を持つ魔法だった。本来の威力は太陽光収束砲だが、月光でも充分な威力となる。それをあのように打ち払われたら驚くのも仕方ない。

 そして急いで魔道具による砲撃を命令するが、それは発動しなかった。

 どうしてか。

 考えてもユーリスには理解できない。

 ただ、魔王の隣で何かをしている銀髪の男は見たが、それが魔道具の不調と関係あるのかは謎だった。






 ◆ ◆ ◆





「ほう、あの保険が役に立ったか。第零部隊のお蔭だな」


「そうだね。クウ君もいい部隊を設立してくれたものだよ」


「お誉めに預かり光栄だな」



 アリア、リグレット、クウはそれぞれ述べた。

 人族の魔道具が使えなくなったのは、魔王軍第零部隊が解析を掛けていたからである。リグレットの作成した解析用の魔道具を触れさえることで、魔道具の情報次元を解析することができた。人族に潜入し、役目を果たした第零部隊の成果である。

 本来は七割以上の魔道具を解析するという目標だった。しかし結果として全ての魔道具を解析してみせたあたりは本当に褒めるべきところである。

 クウもどこか誇らしげだった。



「この戦いはもう、終息だ。俺の力も戻った」



 ある程度の時間が経って、ようやくクウの「魔眼」が復活した。瞳に輝く黄金の六芒星がハッキリと対象を捕らえた。最強幻術《夢幻》を発動するべく捉えたのは女王ユーリスだ。

 世界すら改変し、人々の意思すら捻じ曲げる意思力への干渉能力が発動した。



(意思力のベクトルを……変える。そして和平を実現する)



 幻術には幾つかの段階が存在する。

 第一段階が幻覚だ。それは見えないものを見せ、見えるものを見えなくさせる。つまり幻影であり、幻術の最も基本的な技術だ。しかし幻術にかかっていることに気付かれやすく、破られやすい。

 第二段階は錯覚という。これは巧妙な幻覚とも表現できる。勘違いという現象を突き詰めた力であり、非常に気づかれにくい。術の規模と比べて大きな効果が得られる。しかし、結局は勘違いであるため、明らかにおかしいと思われるような幻術は使えない。

 第三段階は幻想。広範囲に幻術空間を展開する大規模なもの、そして対象を眠らせて幻術世界に閉じ込める二つの方式がある。破られにくい上に強力という、幻覚や錯覚を併せ持ちながら弱点の少ない性質を持つので超越者にも通用しやすい。しかし権能などならば力技で破ることができるので、最終的には力勝負となってしまう。

 そして最強と言える幻術の第四段階こそ、催眠。強度、規模、気付かれにくさの全てが最高峰であり、意思すら捻じ曲げてしまう最強の幻術だ。

 恐怖を信頼に。

 絶望を希望に。

 憎しみを愛に。

 認識すら塗り変えてしまうのがクウの力だ。



 運命は変革された。









 ◆ ◆ ◆









 かつて【レム・クリフィト】のあった場所は嵐に包まれていた。光神シンの神剣により生み出された固有情報次元を持つ嵐であり、その嵐一つで世界を構築していると言ってもいい。

 故に時間の概念に縛られず、空気抵抗にも害されない。

 嵐という概念は留まり続け、永劫にその地を吹き荒れるだろう。

 例えばクウの「意思干渉」のように、情報次元以外の次元に干渉するしか手はない。そしてこの地を任されたリアも意思次元に干渉する能力を手にしていた。



(あの嵐……私の《並行転移パラレル・シフト》なら消せるでしょうか)



 リアの権能【位相律因果フォルトゥナ】は運命を操る。それはあり得たかもしれない過去や現在や未来を自在に再現するという破格の力だ。つまり可能性がゼロでなければ、リアにとってはゼロではないということである。

 あの嵐が存在しない世界線が実在するならば、リアには再現できる。

 この世界をあり得たかもしれない並行世界へと引きずり込む、《並行転移パラレル・シフト》によって嵐が存在しなかったことにできる。これは情報次元ではなく意思次元への干渉だ。より深い階層であるために、基本は情報次元よりは意思次元が優先されやすい。

 だからといって意思次元が情報次元から何も影響されないというわけではないのだが。



(細い、世界線ですね)



 最下級とはいえ、光神シンも超越神の一柱だ。その専用装備から放たれた攻撃をなかったことにするのは難しい。強制的に塗り変えるクウの権能と異なり、リアはあり得た世界を呼び出すだけだ。その繊細な権能行使のため、リアは集中していた。

 現在、何万人もの魔人族が不慣れなキャンプをしつつ避難をしている。まだ一日も経っていないので不満は出ていないが、基本的に都会人の魔人族には耐えがたい苦痛だろう。リアにはそれがよく伝わっていたので、すぐに嵐を消し去ろうと考えていた。

 魔人族そのものは時空系の大結界で守護しているので、一応は魔物に襲われる心配もない。



(捉えました。70番を有効化し、5-6を破棄!)



 《並行転移パラレル・シフト》を発動する。

 運命の転換点である特異点を辿り、幾つも経由して並行世界を観測する。その観測した並行世界はあり得た運命であり可能性だ。リアは「意思誘導」でその運命へと導くだけで、その世界を実現できる。

 嵐は消え去り、元の街が戻った。

 首都【クリフィト】が復活した。



「終わりました。避難民を帰しましょう」


「流石ですね。魔王様やリグレット様と同格というのは本当でしたか」


「そのようなことはありませんよジャック隊長」



 魔物を退けることを仕事とする第四部隊の隊長ジャック。

 彼は隊の指揮をして魔物を近づけないように包囲網を構築していた。尤も、その仕事も無意味なものになってしまったが。ただ、そもそも大結界があるので包囲網も保険でしかなかった。



「誘導をお願いします」


「そちらはサレス隊長に任せるとしましょうか。我らは魔物を警戒し続けますので」


「任せて頂きたい」



 警備を担当する第二部隊の隊長サレスも既に回復している。憑依化セイジに最後まで抵抗した彼は動けぬほどに傷ついていたが、超越者の力ならば即座に回復できる。



「急ぎましょう」



 役目を果たせそうなことにリアは安堵した。

 そして今頃は戦場にいるであろう仲間たちを案じた。

 また行方不明のクウを心配した。

 しかしリアが心を乱す必要などない。クウ、ユナ、アリア、リグレット、ミレイナは強い。





 ◆ ◆ ◆





 気配を消し、超越者にも悟られぬ隠密で近づく人影があった。



「見つけた、魔族……滅ぼさなければ。神より与えられし使命のために……」



 新たなる超越者、レイン・ブラックローズは【レム・クリフィト】に辿り着いた。






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― 新着の感想 ―
[気になる点]  「魔眼」が戻るまで待っている所をみると、《夢幻》や《神象眼》、《幻葬眼》といったクウの意思顕現の術式は全て「魔眼」がないと発動できないのでしょうか?  それとも、「魔眼」無しでこれら…
2022/04/15 18:14 ラーゴット
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