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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
524/566

EP523 援軍(個人)

最近は忙しく、感想返信ができていません。余裕ができたら質問にもお答えする所存ですが、しばらくは無言を続けると思います。

更新は頑張ってやります。


 山脈の戦場は混沌を極めていた。

 怪物アングラが眷能【深淵物質アビスマター】はあらゆるものを吸い込み、その巨体を以て分裂天使を討ち滅ぼす。獣人竜人によって構成された砂漠の帝国軍の猛攻。そして遠距離から魔法攻撃を打ち込むヴァンパイア族たちナイトメア軍による被害の拡大。

 人族は逃げ惑うことしかできない。

 勿論、人族の中でも強者と呼ばれる者はある程度の抵抗を見せている。しかし、所詮は個人であり、またその程度の強者は魔族の中に幾らでもいる。あくまでも抵抗できるだけであって、魔族を打ち破るほどとは言えない。



「もう! どうなっているのよ!」


「理子ちゃん。私たち囲まれています!」


「くっ……魔族がこんなに強いなんて!」



 二人はスキル構成が魔法型であるため、後方から援護をするだけだ。そのため、獣人竜人の強さに直接触れることはない。しかし、遠くから見るだけでも強さが理解できた。

 武器を振るうだけで地面が割れ、薙ぎ払えば人が飛び、魔法によって地面に穴が空く。

 人族なら英雄と呼ばれる強さであっても、魔族の戦士では普通のことなのだ。



「このっ……! 『《穿空天飛槍ディザスター・スピア》』」


「また結界が……『《大障壁》』!」



 近づく竜人を風属性魔法《穿空天飛槍ディザスター・スピア》で追い払い、ヴァンパイア族の魔法攻撃を結界で防ぐ。徐々に人族は減らされていた、いや殺されていた。魔族にも被害者はいるが、人族側の方が遥かに多く倒されている。

 戦争の恐怖。

 殺される恐怖。

 それはリコとエリカを蝕む。

 魔物に殺されそうになった経験は多々あるため、戦意が鈍ることはない。だが、このままでは殺されてしまうという状況が彼女たちを追い詰めていた。



「魔族がこれほどとはね!」



 そして人族の中心となって戦うのがセラフォル・ブラックローズだ。彼は《結界魔法》と聖霊魔法を使い、人族を守っていた。もしもセラフォルの結界がなければ、既に人族連合軍はまとまりを無くして瓦解していたことだろう。

 他にもSSランク冒険者である『鬼神』ベルザードも活躍している。

 だが、彼は自分自身の耐久力を利用した特攻にも等しい戦いを演じるのみ。とても協力して戦う余地はない。それならばと協調性のあるセラフォルの元にいたいと思うのが普通の思考である。



「ちっ……矢が効かないってことかい」



 最大戦力の一人、SSランク冒険者『滅光』のフェイクも単騎で怪物アングラに挑んでいた。遠距離攻撃であること、そして如何にも有効に見える光属性攻撃が可能であるためだ。

 滅光弓インドラという魔法武器を持つ彼は、隠れ移動しながらアングラを撃つ。しかし、攻撃は全てホールに吸い込まれ無効化されるのだ。もうフェイクは心が折れそうだった。分裂天使という盾がなければ真っ先に殺されていただろう。

 そしてもう一人、心が折れそうな人物がいた。

 Sランク冒険者である、『剣王』ユークリッドであった。



「その程度か軟弱者めがっ!」


「ぐぅぅっ!」



 ユークリッドの相手は獅子獣人アシュロスであった。元首長である彼の実力は本物であり、寧ろ魔族の中でも最高峰と言える。

 獣化したアシュロスはそのままでも強いが、オーラを使って魔力で強化しているのだから手が付けられない。リグレットに与えられたハルバードが強さに拍車をかけていた。



(この僕が防ぐだけで手一杯とはね……)



 剣を極めたと思っていたユークリッドも、アシュロスの実力には驚いた。アシュロスは力だけで戦う野蛮人ではなく、技術すら極めた武人である。更にはオーラや魔力すら操る最強格だ。



「ふんっ!」



 アシュロスがユークリッドの剣を上に弾き、そのまま力の限り叩き下ろす。オーラと魔力を放つ奥義の一種だ。力強い波動がユークリッドに襲いかかる。

 魔力で強化しているだけのユークリッドでは、オーラの力は防ぐことができない。

 一瞬にして吹き飛ばされ、彼は意識を奪われた。



「次っ!」



 アシュロスの眼に付いたのは暴れまわるベルザード。

 その強さを見れば、アシュロスでなければ倒せないと分かる。こうして順番に強者を倒せて行けば、魔族連合軍の勝利となるだろう。

 魔王アリアと怪物アングラが上空の天使を倒し、獣人竜人が人族の強者を倒し、ヴァンパイア族の魔法で人族連合軍を一掃する。戦術的にも勝てる相手だった。

 だが、戦いは特定の戦場だけで決まるものではない。

 援軍という、バランスブレイカーが登場することで逆転する。

 人族は憑依化セイジという援軍により巻き返す。









 ◆◆◆










 アリアは分裂天使……そして戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスを抑え込むのに気を取られていた。そのため怪物アングラを眷属として生み出したのだが、それでも倒し切ることができない。

 分裂天使の増殖能力があまりにも高すぎるのだ。

 一体一体は雑魚同然だが、倒しても倒しても増える。

 そこに光神シンが現れたのだ。

 アリアは舌打ちした。



「あれは人族の勇者……いや、気配を見るに光神シンか。厄介な」



 見た目は光神シンとはまるで異なる。だが、その気配から光神シンが憑依しているのだと一目で見抜いてみせた。アリアはセイジと戦い勝利を収めたが、今回は話が違う。分裂天使と『神の如き具現』が襲いかかってくる上、相手は実質上の神だ。勝てるわけがない。

 その姿は天空で一際輝き、人族に希望を与えた。

 見た目は勇者セイジなのだ。魔族に捕まったハズの勇者が、人族のピンチに駆け付けたように見える。まさに英雄の所業、勇者の因果だ。

 魔王と勇者の戦いがここに実現したのだから。



「勝負だ、魔王アリア」



 自身の姿が人族にとって効果的だと分かっているのか、光神シンはセイジのふりをする。見た目だけでなく声もセイジそのものなのだ。雰囲気の違いも、神々しさが相まって違和感がない。

 そして剣を構え、アリアと対峙する姿は勇者そのもの。

 人族は歓声を上げ、士気を向上させた。



「面倒なことをしてくれる」


「これが戦争というものだ」



 相対したアリアと憑依化セイジは言葉を交わす。

 そして次の瞬間にはぶつかった。アリアは神槍インフェリクス、憑依化セイジは神剣・天叢雲剣アマノムラクモノツルギである。同時に嵐がアリアを巻き込む。



(くっ……)



 同じ現象系の力なら、霊力の高い方が勝つ。

 そこでアリアは、質量で勝っている水の大渦を生み出してぶつけた。質量はそのままエネルギーの大きさとなる。情報次元のぶつかり合いとはいえ、そこに変わりはない。

 だが、憑依化セイジは神剣・天叢雲剣アマノムラクモノツルギを掲げ、雷雲を呼んだ。その雷雲からは無数の雷光が降り注ぎ、アリアを襲う。アリアは転移で回避するが、雷は狙ったようにアリアへと向かって落ち続けた。

 その間、分裂天使は怪物アングラへと襲いかかる。



「アアアアッ!?」



 アングラが生み出した穴からは汚染の泥が溢れ、分裂天使を朽ち果てさせていた。しかし、数は力であり、アングラは徐々に押され始める。囲まれ、一斉に攻撃されて勢いを失っている。

 この怪物は見上げるほどの巨体だが、分裂天使は天を埋め尽くすほどに多い。

 一掃する力が必要だ。

 この状況を巻き返すには、援軍となる力が。







 ◆◆◆







 魔族側にも援軍はいた。

 いや、初めからこの戦場にいた。ただ、彼女・・は動きを封じられ、ずっと観戦を強いられていただけである。



「私を……」



 彼女・・はずっと力を溜めていた。

 怒りという形で権能の力を高め続けていた。

 いや、意思力によって封を破ろうとしていたのだ。



「私を! 忘れるなあぁぁぁぁっ!」



 破壊神デウセクセスに認められた破壊の天使。

 ミレイナ・ハーヴェが咆哮した。

 破壊の波動と共に。

 光の十字架は砕け散り、深紅のいかずちを纏う竜天使が自由となった。









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