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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
521/566

EP520 追放


 光神シンは貫通の概念を込めて矢を放った。

 リグレットは神剣・むくろを向けて滅びを創造した。

 矢はリアの結界へと触れる前に全て灰となる。



「これは……驚いた」



 神剣・むくろは破壊の剣ではない。創造の剣だ。

 死を創造するのである。

 つまり不壊の性質すら意味がない。創造によって死と破壊が上書きされるのだ。ただ存在しているだけで世界に対して破壊を上書きする。ゆえに世界エヴァンはエラーサインを発している。

 超越者ですら、直接斬れば情報次元を破壊する。

 いや、その情報次元を崩壊状態へと創り変える。

 光神シンも直接斬られたら危ない。



(涼しい顔でコントロールするのも限界だね……)



 本来、神剣・むくろは完全に封印を施し、厳重な管理が必要だ。こうして半分ほど封印を解き、破壊を創造しすぎないようにするのはかなりの難易度だ。

 短期決戦で光神シンに斬りかかり、この戦場を決着させたいところである。



(となれば……)



 リグレットは光神シンと向き合いつつ、次の手を考える。

 互いに超越者ということもあり、雑な一手は隙を晒すだけである。光神シンとしても無駄撃ちは避け、分裂天使を結界の向こう側へと通すことだけ考える。リグレットを倒すことは考えない。余計なことをすれば足を掬われてしまう。

 超越者の戦いとはそういうものだ。

 互いに動けない。

 先に相手の動きを読み、概念を解析し、対抗策を練った方が勝つ。



(遊びで作ったこれだね)



 取り出したのはシンプルな人形。

 不気味な藁人形だった。その心臓部には小さなお札が付けられているが、今のところ白紙である。しかしリグレットがお札に触れると文字が浮かび上がった。

 『シン』と。

 元日本人の光神シンは、その藁人形が何のためにあるのか即座に理解した。

 光神シンは神剣・天霧鳴アメノキリナリを取り出し、藁人形と自身の間に確立されたパスを断ち切った。同時にリグレットが藁人形を神剣・骸で突き刺す。藁人形は灰となって消えた。



「危なかった」



 藁人形は呪いである。

 リンクによって光神シンと藁人形が繋がり、藁人形のダメージが光神シンへと通るようになっていた。勿論、すぐに気づいた光神シンはリンクを破棄したが。

 しかし、魔道具を含む神装は実に厄介だ。

 多彩であり、権能からは予測できない性質を保有していることも多い。

 リグレットや光神シンは互いに似た権能を有している。

 お互いの強みも弱みも分かり切っていた。



(あの神剣は厄介だ)



 破壊の創造という特異な性質を保有する神剣。

 如何に破壊不能でも、不死であっても、創造された破壊により上書きされてしまう。

 情報次元に壊滅的ダメージを与える力だ。

 光神シンは神書・海淵現ミフチノウツツを取り出す。そして術式の自動生成により、封印を実行する。基本的に超越者の封印は情報次元の停止が基本だ。時間停止もその一種ではあるが、局所的な情報次元の停止は封印の基本である。

 だが、神剣・むくろは停止すら死骸に変える。

 あらゆる概念を殺し、破壊を創造する。



「まったく……どんな仕組みで封印しているんだか」

「秘密だよ」



 神剣・むくろを封印する仕組みは割と単純だ。

 力の循環により、破壊の創造を破壊の創造で相殺しているのだ。破壊量を調節することで、微量の破壊を生み出している。

 一つ出力を間違えれば世界すら滅ぼしてしまう。

 リグレットとしても、長時間の使用は避けたい代物だ。

 光神シンの攻撃は全てが致命的であり、対処するには神剣・骸が必要となる。光神シンと分裂天使を通さないための結界も、いつ破られるか分からない。薄氷の上を歩くような、慎重な戦いが求められた。

 だが、天使でありながら最下級神と対等な戦いを演じられるのも神剣・骸のお蔭である。



「そこだね!」

「くっ!」



 リグレットは自身の武器である霊式札を放ち、光神シンを翻弄する。この霊式札は転移、呪詛、結界と様々な効果を得られる上に、パッと見ただけでは判別できない。転移かと思えば呪詛攻撃、呪詛かと思えば結界に囚われ、結界と思えば転移で回避される。

 光神シンは徐々に苛々が募っていた。



(ちっ……厄介だな)



 このままでは目的が果たせない。

 東側から魔族を追い込み、西側から人族で攻める。これによって強制的に大規模な戦いを引き起こし、大量の死者と怨念を生み出す。

 そのはずだった。

 分裂天使と、それらが生み出す戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスもユナとリアが足止めしている。ここを強行突破して【レム・クリフィト】を目指すのは難しいだろう。



(仕方あるまい)



 光神シンは使いたくなかった切り札を切った。

 神剣・天霧鳴アメノキリナリを握り、リグレットへと斬りかかる。双方共に剣技は不得意であり、実力も拮抗している。しかし超越者の剣技だけあって、達人級の実力はあった。

 つまり、武器の格が勝負を決める。

 今回の場合は、創造神レイクレリアですら制御不能と断じた神剣に軍配が上がった。



「僕の剣と打ち合うなんて甘いよ」



 リグレットの言った通り、神剣・骸は破壊を創造し、本来は破壊不能であるはずの神剣・天霧鳴アメノキリナリを壊す。天霧鳴アメノキリナリは灰となって消失した。

 そして返す一撃で光神シンを貫いた。

 突き刺す場所は関係ない。

 一撃破滅の神剣。

 それが神剣・骸なのだ。

 光神シンの霊力体にすら破滅の創造が適応され、灰となって消失する。



「ぐっ……」

「終わりだよ!」

「ぉ……」

「何もさせるつもりはない。封印術式展開」



 リグレットの言霊に呼応して、無数の霊式札が崩れ行く光神シンに張り付く。

 超越者は殺すことが困難であり、まして超越神などほぼ殺せない。超越天使に倒せる敵ではないのだ。それ故、リグレットは封印という選択肢を取った。

 超越神なら、いつか封印を破る程度のものだ。

 しかし、時間稼ぎが大切だ。

 リグレットなら、その時間でもっと完璧な封印式を組み立てる。そして世界の狭間にでも放り捨てる。勝てない脅威は封印して世界から追放する。やり方は幾らでもあるのだ。



「最後に焦ったね、光神シン」



 二重、三重と術式を重ね、封印を強化する。

 リグレットの強みは手札の多さであり、封印術式にも何百という方式を備えていた。

 簡易的だが、大量の封印が光神シンを包む。

 術式は絡み合い、リグレットの権能によって情報次元を編み込まれ、霊力の解放という力技だけでは突破できないようになっていた。

 世界もいわば一つの結界だ。

 情報次元という檻によって結界を生み出し、その内部に法則を適応している。リグレットのやったことは、その縮小版に過ぎない。封印するためだけに大量の情報次元を書き込み、強固とした。通常なら霊力を解放するだけで滅びる世界も、封印用に限定すれば時間稼ぎにはなる。



「僕たちの勝ちだ」



 合計にして三百。

 それがリグレットの施した封印の数である。もはや情報次元が繭のように包み込んでおり、光神シンを一時的とはいえ完全に足止めした。

 そして圧倒的だった光神シンの気配がフッと消失する。



「残るは分裂天使だね」



 リグレットは神剣・骸を構えた。

 完全無敵の神域と、その神域内で存在できる戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノス。しかし、破滅の創造を前にすれば倒すことも可能だ。無敵の領域を破壊で上書きするのだ。

 あるいは、少々骨は折れるが結界を構築して分裂天使を閉じ込め、神域を上書きして完全消滅させることで分裂天使ごと纏めて始末できる。

 三種の分裂天使は無制限に増殖するので、今回は後者の方法を選択した方がいいだろう。それにここには一時封印した光神シンもいる。



「リア君。僕が対処を変わろう。君はこの領域を君の能力で書き換えてくれ」

「か、書き換えですか?」

「できるかい?」

「はい! 「意思誘導」で私のものになるよう細工すれば、時空結界と組み合わせて、なんとか……」



 リアの権能【位相律因果フォルトゥナ】は時間と空間に作用する。本質は世界と運命に作用する力だが、その中の一部を使えば結界を書き換えるなど造作もない。

 尤も、今のリアはそれを使いこなそうとしている最中だが。

 それでも、自分の未熟を言い訳にするつもりはない。リアはその意思力を以てリグレットの願いに応える。それができなければ超越者となりえない。



「リアちゃん、こっちは私たちがやるから集中してね!」



 ユナはそう言いつつ灼熱を放った。それで分裂天使が消滅する。無数の武器を射出するユナだったが、今は別の方法を使っている。

 彼女が構えているのは散弾銃だった。

 敵が大量であることを逆手に取り、銃弾をばら撒いている。勿論、弾丸には陽属性が付与されているので光速で飛ぶ上に当たれば爆散する。ちなみに連射も可能で、射程に制限もない。

 ユナの散弾銃が火を噴き、同時に分裂天使は次々と爆散する。



(もうユナさんだけでよいのでは……? いえいえ! そんなことありません!)



 リアはほんの少し、ほんの少しだけそう思った。

 しかし、ユナが壊す以上に天使が生まれている。やはり分裂能力は厄介である。分裂は等比数列で増殖するので、増え始めるときりがない。

 二が四に、四が八に、八が十六に、十六が三十二に、三十二が六十四に。

 繰り返せば十回の分裂で千倍にも増殖し、二十回の増殖で百万倍にまで増殖する。

 一方でユナの散弾銃は秒間千発ほどの弾丸を発射する。ユナの「武器庫」から無限複製した弾丸は事実として無限であり、途切れることもない。

 無限と無限の戦いだ。



「ユナ君。僕が雷のと時間のを担当するよ。君は赤い奴と分裂した奴を頼むよ」

「わかったよ」



 ユナは左手に散弾銃、右手に刀を持つ。

 そして戦神アーレスを右手だけで相手しつつ、左手で分裂天使を殲滅する。更には「武器庫」から複数の武器を複製射出してリアに近づく分裂天使を追い払う。実に器用だった。戦闘感覚バトルセンスはユナが群を抜いている。天使として選ばれた才能を遺憾なく発揮していた。



「僕も働かないとね」



 リグレットは情報次元に次々と書き込み、事象を上書きする。雷神ゼウスが雷撃を放てば、空気の絶縁性を高めて防ぐ。時神クロノスが時を操れば、リグレットは正常に戻す。

 更に霊式札を放ち、封印術式までも実行する。

 この手札の多さと芸の細かさはリグレットならではといえる。

 そして手の空いたリアは、権能を行使して空間を侵食していた。



(時間的特異点を経由して、私が空間を掌握した並行世界に転移します)



 リアの能力《並行転移パラレルシフト》は運命を作り変える。ただし、この能力は存在し得る可能性に移動するだけである。無から運命を生み出すわけではない。

 しかし今回リアが望んだ可能性は存在しえたようだ。

 空間はリアの権能で塗り潰された。

 いや、元からリアの制御化であったということになった。リグレットが神剣・骸を使ったという過去も完全に消失し、エラーサインも消える。真っ赤な警戒色に染まっていた空も元に戻った。



「よくやったよリア君! それとリア君はユナ君を連れてこの領域から逃げてくれ」

「はい!」

「えー……もう終わり?」

「早くいきますよお姉さま」



 リアは転移でユナを回収し、さっさと空間から出て行った。

 そして残されたリグレットと分裂天使、三体の『神の如き具現』、そして一時封印された光神シン。本来、リグレット一人ならば足止めはできても倒すのは難しい相手である。光神シンが封印されていなければ確実に敗北している。

 しかし、空間ごと隔離してしまえば話は別だ。

 倒せないなら、世界から追放すれば良い。



「前に光神シンが見せてくれたからね。僕にもできるようになったよ」



 世界からの追放。

 それは、この世界の情報次元以外を観測しなければならない。だが、この世界に存在する限り、それは非常に難しい。しかし、リグレットはその機会に恵まれた。

 以前にリグレットを除く超越天使は光神シンに敗北し、世界の狭間に追放された。それを助け出したのがリグレットだ。その時、世界から追放する方法を会得した。

 元から理論上可能であることは知っていたが、実行可能になったのはその時だ。

 その力で光神シンを追放するとは、皮肉である。



(既存の法則では世界の追放なんて出来ない。だからリア君に空間ごと隔離して貰い、超越者の法則で満たして貰ったわけだ)



 世界の狭間とは、概念の難しい場所だ。

 そこでは何の法則もなく、通常の人間は存在を維持できない。超越者のように、自分自身で固有情報次元を維持できなければならない。

 何の法則もない。

 つまり、座標の概念もない。

 空間転移など使えないし、『世界の情報レコード』を利用したあらゆる術式が使えない。勿論、視覚も聴覚も嗅覚も役に立たない。

 あらゆる意味で空っぽの世界へと放り込む。



(これはある意味で新しい世界の創造。創造によって世界の狭間に新しい世界を生み出し、そこに閉じ込めたまま追放する。創造の天使たる僕にできないわけがない!)



 リアが隔離してくれた空間をリグレットが新しい世界として独立させる。

 そして独立した世界を、この世界エヴァンからはじき出す。まるで一つの泡から別の小さな泡が生まれるように。



「この世界から……消えて貰うよ!」



 創造の天使リグレット・セイレムは珍しく興奮していた。未知の術式を使う興奮、神の如き力を振るえる興奮、そして超越者としての真なる力を実行できる興奮。

 非常に繊細な術式だが、この程度でリグレットが失敗することはない。

 元々、地力はあった。

 理論も分かっていた。

 あとは魂が理解するだけだった。

 空間に隔離された分裂天使は、そして光神シンはこの世界エヴァンから消失した。









お久しぶりです。今週から再開しようと思います。

ただ、卒論と冥王2巻の完成が重なりそうで、来年1月か2月あたりで更新をまた止めるかもしれないです。


ふぇぇ……忙しいよぉ

早く完結したい……500話ぐらいで完結との宣言はどこに消えたのか。

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