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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編

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EP518 暗黒の穴


 アリアが生み出した怪物アングラは汚染の泥を撒き散らす。

 眷能【深淵物質アビスマター】は「暗黒」という性質を吐きだす。生成した「穴」の概念からあふれ出した「暗黒」は「重力」という特性を帯びており、引き寄せられる。勿論、「暗黒」に触れれば朽ちてしまうため、かなり危険だ。



「アアアアアアアアァ……」



 呻くようなアングラの声と共に汚染の泥が蠢く。空間中にできた穴から溢れる黒い粘液状の物質は、意思を持っているかのように分裂天使へと迫った。泥そのものが「重力」により引き寄せる力を有しているため、分裂天使は逃れることができず捕まる。

 そして汚染の力により侵食され、分裂天使の霊力体は黒く朽ちてしまった。

 範囲攻撃能力を有するアングラならば分裂天使を任せることができる。



「アングラよ、吸い込め」



 アリアの命令により、アングラは眷能を発動させる。

 元から意思のない魔法生物だったアングラは、アリアの加護を受けて仮の意思力を獲得している。それもあって命令には従順だ。

 眷能【深淵物質アビスマター】が本当の力を見せつける。

 アングラの周囲に再び穴が生じる。

 その穴は空間に開けられた穴ではなく、空間上に重なって生じている。そんな概念としての「穴」だ。

 重力によって穴に吸い込まれ、穴の中に溜まっている暗黒へと放り込まれる。穴に吸い込まれた分裂天使は暗黒の中へと消えていく。



「よし、いいぞ」



 アリアは分裂天使をアングラに任せ、戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスを相手にする。こちらは殆ど無敵であり、分裂天使を瞬時に全滅させない限り決して消えない。何故ならば眷能により出現した意思顕現イクシステンスなのだから。

 思ったよりも分裂天使がしぶとく、アリアとしては更なる戦力が欲しいところだ。



(ミレイナを助け出す余裕は……なさそうだな)



 戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスの攻撃は激しい。

 近接攻撃、遠距離攻撃、遠距離支援が絶妙だ。戦神アーレスは激しい攻撃でアリアに張り付き、隙あらば雷神ゼウスが雷を放ち、反撃しようとしたアリアを時神クロノスが邪魔する。

 元はミレイナを救出するための作戦だったが、見事に閉じ込められてしまった。

 厄介な世界侵食イクセーザを有するアリアを隔離した上で、光神シンは東側から【レム・クリフィト】を攻めた。

 狙いはアリアでも容易に想像できる。



(西からは人族、東からは光神シン……どうにかして人族を東に、魔人族を西側に寄せ、戦いの規模を大きくしようとしているな)



 正直な話をすれば、戦争など超越者だけで終わってしまう。

 アリアがその気になれば人族連合軍を一人で殲滅できるのだ。最悪はその手段によって人族連合軍を滅ぼし尽くし、光神シンの企みを阻止しようと考えた。

 だが、逆に光神シンは戦を煽っている。

 自身が動けば簡単に魔族領を滅ぼせるにもかかわらず、人族の大軍で魔族領を攻めた。

 更には痺れを切らし、魔族を逆側から追い立てようとしている。

 急がなければ拙い。



「まったく……クウの奴は何をしている」



 情報収集のために第零部隊を動かしたことは分かっている。そしてクウ本人も人族領へと赴いたまま連絡すらない。

 どこで油を売っているのかと文句を言いたい気分だった。

 アリアは霊力の大半をアングラへと注ぎ込み、眷能【深淵物質アビスマター】で分裂天使を一気に始末しようと試みる。穴に吸い込む能力を広く展開すれば、分裂天使を即座に倒せると踏んだのだ。

 吼えたアングラは手近な分裂天使を手で掴んで握り潰すのと同時に、幾つもの穴を出現させて分裂天使を吸い込んでいく。

 だが、吸い込んで消えた分だけ、新しい分裂体が生じるのだ。

 きりがない。

 分裂天使は戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスを維持するだけで、攻撃も防御もしない。ただ、神殿という領域を維持することだけに集中している。

 ある意味で最強の能力だ。

 準超越者は意思力を借り受けている存在であるため、その加護の大元になる超越者が滅びない限りは決して消えない。仮に消されても再召喚が可能となる。分裂体を維持すれば負けることはないという三種の天使たちは、時間稼ぎという意味で最強だ。



(一体残らず瞬時に掃討するには……)



 そんな方法など存在しない。

 少なくとも、アリア一人にはできないことだ。世界侵食イクセーザ無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》を使っても準超越者を潰すのは難しい。

 これがステータスに縛られた存在ならば簡単だったが。

 《無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》は空間そのものがアリアの意思力に同調し、神聖粒子を生成する。尽きることのない神聖粒子をアリアが掌握することで、無限の連撃を可能とする。しかし広げ過ぎた意思力からは、相応の攻撃しか発現しない。確かに《無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》は強力だが、あまりにも範囲が広すぎると、アリアの意思力の限界によって攻撃力の低下が生じる。

 一度に全ての分裂天使を殲滅しきるのは無理があった。

 こういうのはミレイナの方が向いている。

 故に早くミレイナを解放しなければならない。



(ちっ……邪魔だ。アレを使うか……?)



 惑星運動にも影響を及ぼすような攻撃手段がある。

 それはアリア自身が封印する程の威力であり、使う気のない力だ。しかし、全開にして使えば分裂天使を倒せる可能性もあるのだ。



「消えろ……」



 まずは迫る戦神アーレスに向かって《虚無創世ジェネシス》を放つ。元はクウが開発した広範囲殲滅用の攻撃術式だが、実に使いやすいのでアリアも重宝している。

 《虚無創世ジェネシス》の良さは、その凄まじい威力を無暗に広げないことだ。初めに定めた霊力の分だけ空間に広がり、広がった空間内部の存在を異空間へと放り捨てる。

 戦神アーレスも《虚無創世ジェネシス》によって生じた小さな異世界に封じ込められる。

 だが、流石は眷能が生み出した存在だ。

 凄まじい霊力によって空間を破り、漆黒の小世界から抜け出す。

 紅蓮の霊力体が唸りを上げ、巨大な斧が《虚無創世ジェネシス》を打ち破った。



(次は雷神がくる)



 純白の光を放つ老人こと雷神ゼウスは、その右手に雷を収束させていた。考えるまでもなく、それをアリアに放つつもりなのだろう。

 避ける用意をした。

 だが、雷神ゼウスは急に向きを変えてアングラを狙う。分裂能力のお蔭で負けないとはいえ、天使マーズ、天使ジュピター、天使サタナスからすれば厄介な敵である。次々と暗黒の穴に吸い込んでしまうアングラの能力は、早めに始末したいということだ。



「ふん、まぁいい」



 それでもアリアは慌てない。

 回避するつもりだったが、攻撃へと切り替えた。神聖粒子を集める。

 その間に雷神ゼウスは雷の槍をアングラへと放った。雷速で飛来する槍は、アングラの巨体を貫こうとする。しかし、当然ながら気付いていたのでしっかりと対処した。雷の槍に合わせて暗黒の穴を開き、そこに槍を放り込んだのだ。

 重力で引き寄せられた槍は、深淵の穴へと消えていく。

 アリアはこれを見越していた。

 すでに集めていた神聖粒子を現象へと変換し、時神クロノスへとぶつける。貫通の概念を現象へと変換し、同時に縫い付けるために上から下へと巨大釘を撃ちおろした。

 貫通という概念は時神クロノスすら貫いた。

 この時間神殿領域は天使サタナスによって生み出された時神クロノスのための世界だ。領域そのものが加護であり、時神クロノスは生半可な攻撃で傷つかないないほど守られている。それを貫いたのだから、アリアの攻撃は相当だ。

 それも当然である。



(やはりか……オメガの魔神アラストルと比べれば、足元にも及ばんと分かる)



 巨大な釘は時神クロノスを貫き、そのまま地面へと縫い付けた。

 深く刺さった巨大釘は決して抜けない。時神クロノスを一旦は封じることができた。時間が経てば脱出してくるかもしれないが、今はこれで良い。



「そちらも上手くやってくれよ、リグレット」



 神殿化によって転移すら封じられたアリアは自分の国に戻ろうことができない。

 願いを込めて、今は自身の夫を信じることにした。










 ◆◆◆












 人族連合軍は既に魔王との戦いを経験している。

 つまり、魔王アリアの顔はよく知られていた。

 天を覆うほどの天使と、具現した眷能の権限、そして魔王アリアの姿。まさに神と魔王の戦いが始まっているのだと、人族は疑わなかった。



「や、やれーっ! 魔王を倒せ!」



 そんな歓声が上がる。

 一方では魔王に倒する罵倒もある。



「死ね魔王!」


「消えろ!」


「早く死ね!」



 アリアは戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスを相手にしている。そして攻撃は時に流れ弾のようにして人族へと直撃し、既に何人かが死んでいた。

 その恨みもあり、魔王アリアに対する憎悪は高まっていく。



「そうだ! あの化け物を倒せ!」


「俺たちも手伝うんだ!」


「天使様を助けるぞ!」



 そして矛先は暴れまわる深淵の怪物アングラへと向かって行く。

 だが、次々と天使を飲み込み、大地へと垂れる泥のような暗黒を見て戦意を失う者もいた。



「あんなのに勝てるか!」


「俺は逃げるぞ。無理だ!」



 エルフたちは信心深いので、殆どがアングラへと向かっている。逆に人やドワーフの冒険者たちは逃げる者がかなりいた。

 自分たちでは決して叶わない領域を理解しているのだ。

 SSSランク魔物など目ではない。

 心の底から恐怖を感じるような敵に立ち向かおうとは思わない。彼らは生物としての本能に従い、命からがら逃げだした。

 その中には、間違って魔族領側へと逃げてしまったものもいる。



「こ、こんなところにいられるかよ!」


「逃げなきゃ殺される……」


「どっちに!?」


「こっちだ!」



 全方位が天使に囲まれ、アリアの攻撃が降り注ぎ、アングラの闇が侵食する。まさに混乱した戦場となっている。もはやどこに逃げれば良いのかもわからない。

 結果として、魔族領側に逃げてしまう者たちがいた。

 冒険者パーティ『蒼撃の翼』の四人も間違った方向へと逃げ出す者たちだった。



「無理だ……俺たちはあんな戦いに入ることなんて無理なんだよ」



 それが彼らの本音である。

 冒険者は命あっての仕事だ。

 彼らは自分のために命を賭けて冒険者となり、生きるために戦っている。人外の領域で戦う魔王と天使に巻き込まれたくはない。逃げるのはごく自然な行為である。

 『蒼撃の翼』に続いて他の冒険者たちも逃げ出す。



「俺も! 俺たちも逃げるぞ!」


「あっちだ! あっちに逃げろ!」


「こんな戦いに命を賭けられるかよ」


「あたしもよ。こんな場所で死にたくないわ!」



 一度でき上がった流れは変えられない。

 集団真理によって理由も知らずに同じ方向へと走っていく。

 たとえそちらが凶悪な魔物が蔓延る魔鏡だとしても、知らなければ命を救う楽園に見える。彼らにとって救世主たる天使も、近寄り難い存在のようだ。

 だが、逃げた先もそこは地獄だった。

 獣人と竜人が待ち受けていたのである。



「儂らの出番だな。ククク……」



 ハルバードを地面に突きたてたアシュロスが、遠目に逃げる人族を見つめていた。














突然ですが、7月~8月は更新しません。

というのも、実は大学院入試が夏にありまして、その勉強に集中するためです息抜きで多少は書くかもしれませんが、確実に定期更新は無理です。時間的に出来ても心の余裕的に無理です。

なので次の更新は9月1日(日)となります。


4月に更新を休んだばかりで心苦しいですが、2か月後に再びお会いしましょう



(まぁ、他の連載小説を息抜きで書いて更新する可能性はありますが……)

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