EP510 神都最深部④
お久しぶりです。
今週から再開します。
皆さんは10連休楽しんでいますか? わたしはバイトしたり遊びに行ったりバイトしたり勉強したりバイトしたりと充実(?)しています
そしてここからは謝罪ですが、これまでに溜まった感想および質問には返答しません。理由は……まぁ察してください。今週分からはちゃんと返信しますので許してください
燃やし尽くす意思が付与された白銀の焔が天使たちを蹂躙する。
《銀焔》は範囲攻撃として最適だが、攻撃力が低い。大抵のものは炭も残さず燃やし尽くすことが出来る。しかし、超越者クラスの相手には不足していた。
(まぁ、そうだろうな)
しかし、クウもそれは理解している。
あくまで、《銀焔》は目潰しの意味しかないのだ。天使の他、戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスはクウを見失う。
その間に幻術を発動し、クウの幻影をその場に残しつつ、本人は透明化して離れた。
超越者の戦いにおいて最も重要なのは、情報を得ることである。
相手の能力を解析し、理解した方が勝つのだ。
(こいつらはオメガが使っていた魔神アラストルに似ているな)
オメガは世界侵食として強力な魔神を召喚した。世界侵食だけあって、正面戦闘では勝てない存在だった。
そして戦神アーレス、雷神ゼウス、時神クロノスは別の意味で勝てない存在と言える。
幾らダメージを与えたとしても、天使マーズ、天使ユピテル、天使サタナスが身代わりとなるのだ。そして身代わりとなり消滅したとしても、分裂することでまた増やせる。
体力無限の敵を倒すことは不可能、という意味で勝てない存在なのである。
(魔神アラストルと違って、対処法が分かっているならマシだ)
クウは幻術生物を生成する。
全身を覆うローブが怪しくはためき、巨大な鎌が死を連想させる。《死神葬列》によって生み出された死神たちは、一斉に散って天使たちを攻撃し始めた。
死神は物質ではなく、精神を切る。
幸いにも天使たちは「並列思考」しか持っていない。つまり、意思力は分散される。「並列意思」だったならば、分裂体にも並行した意思力が存在した。しかし、分散された意思力なら、死神の力で簡単に断ち切られる。物理的に分裂体天使を倒すより簡単だ。
一方、アーレス、ゼウス、クロノスは幻術クウを攻撃し始める。
(無駄だな)
クウは意思力へと干渉することで、幻術を現実にすることが出来る。錯覚によって世界を騙し、無を有に変化させるのだ。当然ながら、普通の幻影も生み出せる。
アーレス、ゼウス、クロノスの攻撃は幻影クウに通用しない。
しかし、幻影クウの攻撃は意思干渉による実体化で通用する。一方的な戦いとなっていた。
両手に斧を持って振り回す紅蓮の戦神アーレスは、果敢にクウへと斬りかかる。しかし、その全てがすり抜けていた。逆にクウが刀を振り抜けば、戦神アーレスを切り裂く。「生贄」のお蔭で傷は負わないが、代わりに分裂体天使マーズが消滅していた。
(分裂速度とこちらが天使を始末する速度……まだ分裂の方が早い)
倒し方は簡単だ。
全ての天使を一度に始末することで眷能【戦域神殿】【雷霆神殿】【時間神殿】は効果を失う。しかしそれが面倒だ。死ににくさは普通の超越者以上だろう。
やることは単純で簡単だが、非常に面倒だ。
この理不尽な耐久力をぶち抜くとすれば、方法は一つしかない。
(世界侵食……だな)
天使の眷能は「領域」による神殿化である。
そして世界侵食は意思力を侵食させることで世界を味方に付ける。つまり、こちら側の領域に変質させればよい。
問題となるのは、クウの世界侵食は発動時間が短いものばかりということだ。折角、こちら側の領域にしても数秒程度しか維持できないのでは意味がない。
《月界眼》で運命を創るとして、数秒の間に数億の準超越天使を全滅させるのは難しい。《熾神時間》も同様だ。
(どうせならアリアの《無限連鎖反応》とか《背理法》みたいな万能系のやつを作るべきだったな)
元々【魔幻朧月夜】という権能自体がピーキーな性能だ。あまり殲滅には向いていない力であるため、群の相手は得意と言えない。
「最悪、《神威》を試し打ちするか」
対光神シンの術式として開発した《神威》なら、一瞬で準超越天使を一掃できるだろう。ただ、どれほどの威力になるか分からない部分もあるので、下手をすれば地表の神都にまで影響を及ぼすかもしれない。
流石に人族領の首都崩壊は心が痛むので、最終手段だ。
また、《神威》は未完成の術式でもあり、一度の発動でかなり疲弊する。使いどころの難しい術でもあった。だからこそ、神界で練習していたのだが。
「とりあえずは感染幻術を試してみるか」
クウの両目が妖しく輝いた。
しかし、クウは天使サタナスの眷能【時間神殿】の神殿を侮っていた。時間を操るその領域に囚われていることで、外部とは違った時の流れの中を過ごしているということに気付いていなかった。
◆ ◆ ◆
新たな力を手に入れた人族は、ようやく砦へと辿り着いた。
ペガサスを手に入れた騎士団、聖霊と契約したエルフ、そして無機質に動く聖騎士、他にも有力な冒険者が多くいる。
今度こそ負けはあり得ないという雰囲気だった。
一方で砦は魔王軍が緊張した面持ちで守護している。その屋上にはリアの姿もあった。
(本当に……きました)
神魔杖・白魔鏡を強く握りしめる。
相手は自分と同じ人族であり、あの中にはラグエーテル領民もいるだろう。リアは既に貴族としての地位を捨てているし、後悔もない。しかし、それとは別に感情は簡単に割り切れるものではない。
ただ、一言では表せない思いを抱えていた。
(でも……)
リアは魔族の人々を守りたいと考えていた。だからと言って人族を蔑ろにしているわけではない。そもそも争うことを好まないので、リアとしては戦争を早く終わらせたかった。
戦うことなく戦争を終わらせる。
リアはそんな能力を持っている。
「まずは出方を待つべき、でしょうか?」
「ふん。こちらから仕掛ければ良いのだ」
「ミレイナさん」
リアの後ろからミレイナが声をかける。
どちらかと言えばミレイナは過激な考え方の持ち主であり、攻撃を仕掛けてくるならしっかりと反撃をして完膚なきまでに叩きのめすべきという意見だ。これは竜人や獣人によくある思考であるため、ミレイナが悪というわけではない。
彼女は根っからの戦闘民族なのだから。
「私は強制転移で送り返そうと思っています」
「甘いのだ。また攻めてくるぞ」
「いつまでも攻めてくるわけではありませんよ」
「ふん……それなら脅しの一つでもやればいいのだ」
「アリアさんは何と言っていらっしゃいますか」
「まずは聖騎士とかいう鎧のゴーレムを叩き潰すと聞いたぞ」
幾ら壊しても問題ない聖騎士を破壊し、威嚇する。
それが魔族側の作戦である。
また、人族側も様子見を兼ねて聖騎士を前に出している。これは都合が良かった。
「開幕は私の攻撃でやるぞ」
ミレイナは深紅の気を纏う。
まだ攻性の気は使っていないが、充分な威嚇となっている。同じく砦屋上に配置されている魔王軍の魔人たちはミレイナの威圧に冷や汗を流した。
気を向けられていないとはいえ、超越者の存在感は凄まじい。歴戦の猛者であっても緊張は隠せない。
「まずは……」
右手を掲げると、そこに漆黒の粒子が集まっていく。
マイナスエネルギーはミレイナにできる手頃な遠距離攻撃であり、様子見には丁度良い。
「《負蝕滅》!」
ミレイナの放った《負蝕滅》はゆっくりと聖騎士に向かって行く。小さな黒い球体が迫る程度、問題ないと判断したのだろう。聖騎士の自律行動プログラムは盾による防御を選択した。
実際、ただの闇属性魔法に見えるのだから大げさには受け取れない。
《負蝕滅》が聖騎士の盾に触れた。
その瞬間、盾は一瞬で風化する。
盾だけでなく、聖騎士の全身鎧もボロボロになっていた。
「む……思ったより堅いのだ」
マイナスエネルギーは正のエネルギーを打ち消す力を持っている。今回の場合、聖騎士が保有するエネルギーが膨大だったため、劇的な効果がなかった。
光神シンが生み出したゴーレムなだけはある。
そして今の一撃で戦端が開かれた。
聖騎士が一糸乱れぬ歩みで前進する。
更に人族連合軍の後方で魔力が高まった。
「魔法攻撃がくるぞ! 砦の障壁を展開せよ!」
砦の指揮を任されている男が命令する。
この魔族砦はリグレットによって改造されており、強固な結界を展開することができる。そのエネルギー源はリグレットの霊力であり、よほどのことでもなければ破壊されない。
更にリアも障壁を張る。
正真正銘、超越者による空間遮断だ。普通は抜けられない。
「必ず防御は成功する。攻撃に備えよ!」
指揮官の指示に従い、魔族側は魔法攻撃の準備を始めた。
同じくミレイナも次の攻撃のため、上空へと移動する。大量の魔素と気を集めつつ、息を吸い込んだ。
人族側の魔法が殺到する。
光神シンが用意した魔道具のお蔭で、魔法の飛距離や威力が向上している。またエルフたちは聖霊魔法によって精密な魔法射撃を行っていた。仮に結界がなければ、砦屋上に立つ魔人たちは頭部を貫かれていただろう。それほど、聖霊魔法の威力と精密さは凄まじかった。
しかし、全ての魔法が結界とリアの空間遮断によって防がれた。
(次は手加減しないのだ!)
ミレイナは口を開き、牙を覗かせる。
そして空気を震わせる咆哮と共に《爆竜息吹》が放たれた。魔素と気による大爆発が着弾と同時に起こる。
直撃によって《負蝕滅》の被害を受けていた聖騎士は粉砕された。万全だった聖騎士ですら吹き飛ばされる。
大爆発に衝撃波は広範囲に広がり、後方に控える人族連合軍にも被害を与えた。
逆に結界で守られている魔族砦は無傷である。
攻撃は防ぎつつも、魔族砦側からの攻撃は通すという都合の良い結界なのだ。
「ふん。意外と残ったな」
《爆竜息吹》ですら倒しきれない。
聖騎士はかなり防御力が高く創られているらしい。そこで直接攻撃を仕掛けることにする。破壊の権能【葬無三頭竜】を振るえば容赦なく潰せるだろう。
脅しのつもりで《負蝕滅》と《爆竜息吹》を使ったのだが、それでも人族は引く様子を見せない。
(もっと派手に!)
人族に対して多少の被害は与えても良いことになっている。
血を血で洗う泥沼の戦争を避けることが目的であり、人族を一人も殺してはいけないという縛りはない。ミレイナは《深淵波哮》を発動するべく、破滅の波動を纏った。
ミレイナの持つ「竜」の影響を受けて、半透明の竜が出現する。
破滅を具現した竜が口を開いた。
「波動」の特性によってあらゆる物質を透過し、「風化」と「崩壊」によって情報次元ごと滅ぼす。《深淵波哮》は防御不可能な攻撃だ。
聖騎士も今度こそ完全消滅させることができるだろう。そしてある程度の被害を人族連合軍にも与えることができるはずだ。
だが発動する寸前、突如としてミレイナは斬られた。
崩壊をもたらす破滅の竜が逆に崩壊する。
「ぐっ……」
傷を受けたミレイナは大きくのけぞった。
人族連合軍陣地の奥で何かが閃く。
そして閃光と共に空間が歪んだ。次の瞬間、魔族砦が正面から貫かれる。リグレットの結界も、リアの空間遮断も抵抗すら出来ずに貫通してしまった。
閃光は砦を貫通した後、魔族領側で軌道を上向きに変えて減速する。
そして遥か上空で停止した。
「この程度か」
それは神剣・天霧鳴を手にした光神シンだった。
情報次元を切り裂かれた砦は、中央の大穴からヒビが広がる。砦は崩壊し始めた。





