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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
510/566

EP509 神都最深部③


 【レム・クリフィト】からの援軍要請は【ナイトメア】にも伝わっていた。女王レミリアがリグレットの妹ということもあり、すぐに援軍のための会議が行われていた。



「上位貴族を送ることに依存はないわね?」



 玉座から睨みつけるように見渡すレミリアへと反論する者はいない。絶対王政がヴァンパイアたちのルールであり、反論など有ってはならないことだ。

 会議の場に集まっている上位貴族たちですら、縦にしか頷かない。



「そうね……総指揮はヴァレアノ家に任せるわ」


「ははっ! 光栄であります。ご期待を超える戦果にしてみせましょう」


「期待しているわ」



 会議というよりもレミリアによる命令を受け取るための式典だ。

 現に、この会議は謁見の広間にて行われている。王座に座るレミリアに対し、他の貴族ヴァンパイアたちは広間で片膝をついたまま頭を垂れている。

 女王レミリアは最強にして最も高貴な血である。

 レミリアの意思こそが【ナイトメア】の意思。および全てのヴァンパイアの意思である。



「すぐに戦の用意をしなさい。移動は兄上たるリグレットに依頼しているわ」



 【ナイトメア】は最も優秀な精鋭を揃え、出陣した。










 ◆◆◆











 神都の最も深い場所で、クウは解析を続けていた。

 クウが《真理の瞳》で解析するのは、謎の渦である。精密な魔法陣が刻まれた柱に囲まれ、何かの術式が発動していることは分かる。しかし、それが何かは分からないのだ。



(……だめか)



 クウはこれでも魔法陣を勉強していると自負している。

 しかし、お手上げだった。



「最後の手段として渦の中に入ってみるのもありだけど……」



 こればかりは避けたい。

 この渦は術式によって生み出されている。そして、これを生み出すのが勇者召喚陣のあった床である。異世界から人を呼び寄せたという過去を持っているため、触媒としてはピッタリである。

 クウの予想では、渦の向こう側には裏世界がある。

 簡単に入ってみようとは思えない。そもそも、渦はクウほどの超越者を受け入れるほど容量がないため、侵入すら難しい。



「けどそうなると、あの天使どもは裏世界から来たわけか。光神シンの作った天使ってところか」



 眷能を所持していたことから、準超越者だと分かる。

 オメガが光神シンを裏世界から呼び出した際、一緒に来ることが出来なかった天使だろう。オメガの契約は光神シンを呼び出すだけであり、その配下は呼び出せなかった。

 つまり、この渦は光神シンが自らの配下を呼び出すためのものだと推察できる。



「なるほど、渦が狭いから準超越者しか通れない。こっちから攻めるのはやはり無理か」



 強大な霊力を秘めた超越者は通るのが難しい。そんな狭い渦だ。

 もっと言えば、準超越者ですら普通は通れないようにも思える。解析は進んでいないが、どの程度の存在が通れるかは充分に見通しがついた。なぜ準超越者の天使マーズ、天使ユピテル、天使サタナスが通れたのかは謎であるが。

 元々、魔法陣は勇者といえど一般人を召喚するためのものだった。その魔法陣があったという情報次元を触媒としたところで、大したゲートは開かない。神の権能と霊力でブーストしても限度がある。六神が厳重に管理している世界に対して、裏技のような方法で穴をあけたのだ。この程度であっても充分に誇れる仕上がりである。



「そう考えると、周囲の柱に刻まれている魔法陣は隠蔽がメインなのか? うーん、分からん」



 クウでは対処しきれない。

 それならば、クウよりも術式に詳しく力ある存在に任せればよい。



「俺の役目は、この隠蔽を崩すことだ」



 神刀・虚月を構えて居合切り。

 柱の一つを切り倒した。そして同時に斬り倒された柱が分解され、吸い込まれるようにして元の位置へと戻っていった。あっというまに柱は元の形状に戻る。



「……まぁ、簡単には壊れないよな」



 更に複雑な魔法陣が真っ赤に点滅する。

 まるで何かを警戒しているような、警告サインにも見えた。それは間違いではなく、渦の奥から何かが迫ってくるのを感知した。

 攻撃を仕掛けてくるとすれば、先程見た三体の天使だと思っていただけあって意外さを感じる。

 しかし、クウは即座に戦闘準備を整えた。



(来るっ!)



 渦から飛び出してきたのは三つの影。

 見た目は女性であり、白を基調とした布と黄金の鎧をまとっている。背中には一対の翼があった。

 超越天使Ⅰ型、Ⅱ型、およびⅢ型。

 つまりは天使マーズ、天使ユピテル、天使サタナスである。



(なんだ? 見た目は同じなのに霊力量が小さい)



 クウの感知では目の前の三体は驚くほど霊力量が低かった。奥にある鳥居の前で佇む同個体の三体とは雲泥の差である。確かに一般人と比べれば膨大なエネルギーを保有しているようだが、超越者として考えるなら弱者というべき小さな存在感だった。

 どういうことかと《真理の瞳》で解析を掛ける。



「情報次元は同じようだな。ということは、「分裂」の特性か」



 三体の天使が保有する眷能【戦域神殿アーレス】、【雷霆神殿ゼウス】、【時間神殿クロノス】には特性「分裂」が含まれている。

 この「分裂」は霊力を分割して全く同じ分身を作り出すことが出来る。操るためには「並列思考」が必須であり、使いこなすのが困難な力だ。しかし、分裂体を消滅させたとしても、他の分裂体が残っている限りは完全消滅しないという不死性を備えている。

 分かりやすく言えば、本当の意味で倒すのが難しいということだ。

 更に、この特性を利用しているということからもう一つの事実が判明する。



「準超越者でも通るのが難しい渦を通れたのも「分裂」のお蔭ってことね。裏世界に分裂体を一つでも残しておけば、こちらでいくら倒してもきりがない……と」



 実に面倒だ、と内心で思う。

 しかし考え続けるだけでは意味がない。

 解決策は元から一つだ。



「渦を閉じる。それが俺の勝利条件だ」



 クウは霊力を集中させる。空間が崩壊する程のエネルギーを集め、それを原子以下の極小領域へと圧縮した。これにより空間が崩壊する。

 新たなる小世界を創造し、瞬時に破壊することで巻き込まれた存在を消し去る。

 《虚無創世ジェネシス》が発動した。

 超越者ほどの存在ならば、世界エヴァンと小世界の境界を通過できるため、《虚無創世ジェネシス》は通用しない。しかし、霊力を分割した準超越者ならば巻き込むことも出来るだろう。そんな想定から発動したのであった。

 自分自身をも巻き込む自爆攻撃。

 しかし、クウは超越者であり、《虚無創世ジェネシス》によって異次元へと封じ込められてしまうことはない。

 漆黒が世界を覆い尽くした。

 膨れ上がった小世界は、内包する全てのエネルギーを重力へと変換し、小さな異空間は圧縮に転じる。やがて内包するあらゆる物質を伴って極小の一点へと閉じるのだ。



「終われ!」



 広がった世界が重力による圧縮で一点へと戻り始める。

 しかし漆黒に染まった世界の中、世界に光が生じた。光という法則すら存在しない《虚無創世ジェネシス》の小世界において、光が発生するということは超越者の権能に他ならない。権能はそれ一つで世界にも匹敵する概念だ。準超越者の眷能も同様であり、天使たちの眷能が発動したことを示していた。

 クウは眩しさで目を閉じそうになる中でも、「魔眼」によって世界を見抜く。

 あらゆる障害を無効化して視る力であるため、閃光に惑わされることはない。



「先に発動された……超越者クラスの戦いともなると《虚無創世ジェネシス》は遅すぎたか」



 天使マーズ、天使ユピテル、天使サタナスが「分裂」を実行し、クウを囲むようにして並んでいる。一体一体が全く同等の情報次元を有しているのが「分裂」の強みだ。

 光神シンが裏世界より呼び出した巨大ナメクジ、パルカクルスも「分裂」を有していたが、あの時はユナとの合成技《卍剣みつるぎ》で一掃した。

 今回はユナがいないため、難しい。

 三体の天使は姉妹のように似た顔であるため、外観だけでは見分け出来ない。同じ顔の天使に囲まれている今の景色は、いつか戦った多頭龍オロチの《神罰:終末の第六アンゲルス・ミリトゥム》が思い出された。



「懐かしい景色だ……」



 クウの「魔眼」が光り輝く。瞳に黄金の六芒星が浮かび上がり、世界を映した。

 そして居合切り『閃』で目の前の空間を切り裂く。同時に空間は切り裂かれたという事実を残した。この事実を《神象眼》によって全ての天使に移し替えるのだ。

 因果を繋ぎ合わせる。

 それが因果系能力の無茶苦茶な部分である。

 クウを取り囲む全ての天使たちが斜めに切り裂かれた。

 だが、三種の天使は「分裂」の特性を有している。半分に切り裂かれた体は、霊力をさらに半分にすることで二体に分かれた。

 これが「分裂」の厄介な部分である。



「流石に使いこなしてくるか」



 あの時は二億の天使軍を滅ぼした。それもファルバッサやネメアを伴っての戦いだ。

 しかし、今回は準超越者クラスの天使を一人で倒さなければならない。そして厄介な部分は、分裂体天使を消滅させた場合、その分裂体を保つために使われていた霊力が浮くことになり、その浮いた霊力で新たな分裂体が生み出される。

 三種の天使は無限に湧き出るのだ。

 たとえこの場に存在する全てを一掃したとしても、裏世界と繋がる渦が存在する限りは再び表世界へとやってくる。



「それにしても……」



 クウは周囲を見渡しつつ呟いた。

 天使マーズ、天使ユピテル、天使サタナスが数百体に分裂している。それらはクウに危害を加える様子もなく、祈るように手を組んで浮いていた。三種の天使たちによって作り出された牢獄は、まるで結界のようである。

 《真理の瞳》で解析を実行したクウは、この空間が特別な法則で支配された世界であると理解した。

 つまり、眷能によって生み出された結界空間なのである。



「……俺を簡単に逃がすつもりはないようだな」



 《虚無創世ジェネシス》による小世界を書き換え、天使たちは自身の空間を生み出した。

 これこそ、眷能【戦域神殿アーレス】【雷霆神殿ゼウス】【時間神殿クロノス】によって維持される結界、『神殿』である。

 そして『神殿』とは神の住まう場所である。

 『神殿』を生み出した眷能に含まれる専用の特性は「戦神体」「雷神体」「時神体」である。



『ウオオオオオオオオオオオオオオッ!』



 天使たちの祈りに応えるかのように、三体の化身が現れる。

 紅蓮の戦神アーレスは筋骨隆々とした男で、腰に剣を帯び、背に槍を背負い、両手に戦斧を持っていた。

 純白の雷神ゼウスは髭を蓄えた老人の姿であり、雷光を放っている。

 紫紺の時神クロノスは体中に鎖を巻いた巨人であった。



「なるほど。こいつらを召喚するのが『神殿』の力か」



 眷能【戦域神殿アーレス】【雷霆神殿ゼウス】【時間神殿クロノス】は似通った能力である。

 特性「領域」によって『神殿』を設定し、「分裂」と「同属共有」で維持する。そして出現した化身は特性「生贄」によって守られるのだ。分裂体天使が犠牲となることで、化身は無傷のままなのである。

 天使は「分裂」によって常に数を保つ。

 化身は「生贄」によってダメージを負わない。

 超越神の使う「神域」を疑似的に再現することが出来るのだ。



「面倒な奴らだな」



 そう言いつつ、クウは右手に魔素とオーラを集めた。それらを圧縮して銀霊珠を生み出し、更にそれを「意思干渉」で変質させる。

 全てを燃やし尽くす意思を付与することで、凶悪な銀の焔を生み出したのだ。



「消え去れ、《銀焔シロガネホムラ》」



 クウは右手を振るう。

 白銀の焔が空間を燃やし尽くした。










追記


突然ですが1ヶ月ほど、連載休止します。

理由などは活動報告に載せています。


次の投稿は恐らく2019年5月ですね。

申し訳ないです。

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