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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
天使覚醒編
51/566

EP50 勇者の決意

 

 ムシャゴブリンは背の低さと素早さを生かして、右へ左へと立ち回りながら切り上げを中心とした攻撃を繰り出していく。対してセイジの今までの武器を持った相手と言えば、自分より背の高い王国の騎士たちだったため不慣れな攻撃に戸惑っていた。



「くっ……」



 自分の重心よりも低い位置への攻撃というのは捉えにくく、また力が入りにくいため防ぎ辛い。特に足元を狙った攻撃は避けたり防いだりすることが難しく、その攻撃になれた頃に放たれる上半身の急所への攻撃で体勢を崩されていく。正直に言うと、一方的にセイジが不利な状況だった。



「グギャ!」


「は……はぁっ!」



 金属音が鳴り響き、僅かに火花が散る。

 だがムシャゴブリンは受け流すかのように刃を滑らせてセイジの聖剣から受ける衝撃を最小限に抑えていた。


 ムシャゴブリンの持つ刀と言う武器は、本来は折れやすく打ち合いには向かない武器だ。それを熟知しているのか、ムシャゴブリンはセイジの聖剣とはまともに打ち合わないように細心の注意を払って攻撃を仕掛け続ける。それにムシャゴブリンの持つスキルの《刀術Lv5》といえば、中級者クラスの技術になる。この世界に来て3か月のセイジにとっては十分な脅威だった。

 対人戦では必須とも言えるフェイントにも慣れていないことから、本命以外の攻撃でさえも懸命に防御しようとするために、セイジの精神力は相当削られていた。

 

 実際には1分と経っていなかったのだが、セイジにとっては10分にも20分にも感じられた怒涛の連撃が、遂に終わりを迎えようとしていた。



「グギィッ!」


「やられてたまるか!」



 空間を切り裂く様な最後の一撃をセイジは身を捻って回避する。その際に僅かに左肩の装甲がムシャゴブリンの刀に当たったのだが、セイジの身体まではダメージが入らなかった。

 そして最後の全力攻撃が空振りになったことで硬直状態になったムシャゴブリンの隙を突いてリコの魔法が放たれたれる。



「《岩砲弾ロックキャノン》!」



 直径30㎝はある岩の塊が一直線にムシャゴブリンへと飛来する。刀を振り切った姿勢のままだったムシャゴブリンは為す術もなく直撃した。

 ゴブリン種だけあって体重の軽いムシャゴブリンは大きく吹き飛ばされて地面に転がる。だがすぐさま受け身をとって起き上がり、刀を構えて油断なく視線をセイジへと向けた。追撃しようとしていたセイジは思わず立ち止まって息を飲んだ。



「理子の魔法が効いていない!?」


「違うぞセイジ殿、恐らく奴の身に着けている防具が威力を軽減させたのだ。攻撃を効果的にするには鎧の隙間を狙うのが最善だ!」



 確かに《岩砲弾ロックキャノン》が直撃したムシャゴブリンの脇腹部分の装甲がへこんでいるように見える。衝撃はともかく威力の大部分が減衰していることだろう。そしてリコの魔法を警戒し始めたムシャゴブリンの隙はさらに少なくなった。まだまだ剣術が未熟なセイジだけではかなり難しいといえる。



「ギギャッ!」


「っ! させるか!」



 もう一度攻勢に入ろうと突撃してきたムシャゴブリンの自由にはさせまいとして、セイジも同様に突っ込んでいく。純粋な身体能力はセイジの方が上だが、《身体強化Lv5》があるためにムシャゴブリンの方に若干軍配が上がる。そしてさらに技量の上でもムシャゴブリンに負けていることから、このままではセイジが地に伏すことが明白だった。

 2人が間もなくお互いに間合いに入ろうとした瞬間、アルフレッドはさすがに助けに入ろうと剣を握る手に力を込めたが、すぐにその必要がないと気づくことになる。



「《光の聖剣》!」


「ギッ!?」



 間合いに入る直前、突如何もない空間に光り輝く剣が現れてムシャゴブリンの進路を阻む。

 MPを消費して光に包まれた剣を生み出すセイジの固有能力《光の聖剣》。詠唱の必要もなく、イメージ通りの剣を空間上に召喚する能力とも言えるため、一直線に迫りくる敵に対してトラップのように使うこともできるのだ。当然ながら避けるか止まるかしなければ、そのまま串刺しにされて命を散らすことになる。

 そしてムシャゴブリンは身を捻ることでギリギリ避けることが出来た。



「でも終わりだよ!」



 だが、攻撃態勢に移った状態から無理やり回避した代償は大きい。完全にバランスを崩して、聖剣を振りかぶるセイジの目の前で無防備な姿を晒すことになった。



「ギイィィィィイイ!」



 セイジはアルフレッドの助言通り、防御のない首筋……ではなく右肩部分にある鎧のつなぎ目を狙って剣を振り下ろして切断する。元々の聖剣の性能も相まって抵抗もなく切り裂かれたムシャゴブリンは、刀を持つ右腕を失って完全に丸腰状態となってしまった。

 ありえない、と言いたげなムシャゴブリンは驚愕の表情でセイジを見上げつつ膝を着く。右肩からはドクドクと血が流れ出ており、止血しなければ失血死することになるだろう。そして腕ごと武器を失って負けを悟り、もはや戦う意思のないムシャゴブリンは観念してその頭を垂れた。

 まるで首を差し出すかのように……



「……っ!」


「……」



 その姿は気高き敗戦の武将。

 ただのゴブリンとは思えないような誇り高い一面を見せたムシャゴブリンに、セイジは一瞬だけ気圧される。だが、相手は倒すべき魔物。聖剣の柄を握る手に力を込めてムシャゴブリンの首へと刃を振り下ろした。












「なんか釈然としない勝ち方だったね……」



 格上とも言えた相手に勝利したにも関わらず、あまり嬉しそうな表情をしないセイジ。だが、それもそうだろう。何故なら魔物とは言え、戦意を失った相手にトドメ刺す形で手にしたものなのだから。



「確かに死を受け入れる魔物とは珍しいかもしれんな」



 アルフレッドも同意するがセイジほどは複雑そうな顔をしていない。むしろ興味深いといった様子で顎に手を当てながらムシャゴブリンの死体を眺めていた。この辺りが、何度も死線を潜り抜けてきた歴戦の戦士としての余裕というものだろう。

 セイジの一刀によって首と胴が離されたムシャゴブリンの死体は、既に血を出しつくして辺りに生臭い匂いを放っている。ボスフロアであるために匂いを嗅ぎつけた他の魔物が近寄ってくることは無いのだが、斬首死体を放置していても楽しいものではないため、すぐに処理することにした。



「さぁ、休憩は終わりにしよう。セイジ殿と私でムシャゴブリンの剥ぎ取りをするからリコ殿とエリカ殿は休んでいて構わない」



 首のない衝撃的な死体から剥ぎ取るという行為は、女性であるリコとエリカには精神的にきついだろうと考えたアルフレッドの気遣いだった。2人としても遠慮したいと思っていたので、アルフレッドの言葉に甘えてフロア入り口付近で座り込む。

 一方のセイジはアルフレッドと共に死体となったムシャゴブリンから魔石や装備品を剥いでいった。まだ低階層だけあって上等なものではなかったが、その辺のゴブリンが纏っている物よりは品質の高いものだった。



「やはり右肩部分の装甲は壊れているようだ」


「そうですか。すみません」



 《光の聖剣》を使って作った隙でムシャゴブリンの右肩を切断したときに鎧も壊れてしまっていた。元から装甲の薄い部分であったため仕方ないと言えばそうなのだが、出来れば完全なままの方が高く売れるので惜しいことには惜しかった。



「僕があの時に首を狙うことを躊躇したせいですね……」



 セイジはムシャゴブリンがバランスを崩した瞬間は首を狙おうとしていた。だが、何となくの倫理観から首を切断することが躊躇われたのだ。結局は首を落とすことになったのだが、それでも余計なひと手間になったことには変わりない。

 アルフレッドもセイジの言葉に頷いて口を開いた。



「そうだな。今回は良かったが、もし仕留め切れるタイミングで仕留め切れなかったら、そのせいで自分や仲間が傷つく可能性を覚えておくといい。特に相手が魔族だったとしたら、片腕を失った程度で諦めるはずがないからな」


「はい」



 この3か月でセイジは魔物を殺すことへの禁忌感は薄れ始めていた。だが、それでも平和だった日本での倫理観や道徳精神が殺す行為への躊躇いを生み出していることには変わらない。そもそも16年以上も当たり前だった習慣を無かったことにする方が難しいのだ。そう思えば、すぐさま順応したクウは異常と言えるのだろうが……


 セイジとアルフレッドは剥ぎ取ったムシャゴブリンの装備品をアイテム袋に入れて準備を整えた。

 剥ぎ取った後の死体は、セイジが炎魔法で焼くことにした。アンデッド化の心配のある地上ならばともかく、迷宮では死体を焼く意味はないのだが、何となく敬意を表して身体を灰に変えておきたかったのだ。


 死体の処理という意味ならばともかく、火葬という意味でムシャゴブリンを燃やしたとするならば、大抵の冒険者は首を傾げることだろう。だが、この行為はある意味ではセイジにとっての通過儀礼としての行為と言えた。

 日本に居た頃の考え方や相手への情けは、セイジ自身やリコやエリカを傷つけ、死に至らしめる可能性があるということ。そして勇者とは小説や漫画の世界のように甘いものではないということを心に刻み付けるのだった。








―――――――――――――――――――

セイジ・キリシマ 17歳

種族 人 ♂

Lv28


HP:1,821/1,821

MP:1,763/1,763


力 :1,589

体力 :1,595

魔力 :1,574

精神 :1,566

俊敏 :1,585

器用 :1,579

運 :40

スキルポイント:14


【固有能力】

《光の聖剣》


【通常能力】

《剣術 Lv4》

《光魔法Lv3》

《炎魔法Lv2》

《雷魔法Lv2》

《闇耐性Lv3》


【加護】

《光神の加護》


【称号】

《異世界人》《光の勇者》

―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――

リコ・アオヤマ 17歳

種族 人 ♀

Lv27


HP:802/802

MP:2,451/2,451


力 :589

体力 :612

魔力 :2,021

精神 :1,977

俊敏 :756

器用 :771

運 :28



【通常能力】

《光魔法Lv3》

《炎魔法Lv3》

《水魔法Lv2》

《風魔法Lv3》

《土魔法Lv2》

《MP自動回復Lv3》



【称号】

《異世界人》《希望の魔導士》

―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――

エリカ・シロサキ 16歳

種族 人 ♀

Lv27


HP:894/894

MP:2,087/2,087


力 :547

体力 :566

魔力 :988

精神 :2,311

俊敏 :794

器用 :713

運 :25



【通常能力】

《光魔法Lv2》

《結界魔法Lv4》

《付与魔法Lv2》

《回復魔法Lv3》

《状態異常耐性Lv1》

《鑑定Lv4》



【称号】

《異世界人》《守護の聖女》

―――――――――――――――――――





次回からようやく主人公サイドです

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