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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
ルメリオス王国編
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EP4 クウは一般人?

4/5 大幅修正


「わぁ……魔法だって。称号ってなんだろう?」


「私は力10ですか……」


「なんか《光の勇者》とか書いてあるんだけど……」



 口々に騒ぐ清二たち3人を見て国王ルクセントも頷きながら口を開いた。



「うむ、確認したら我らにも見せてくれないか? 公開を許可すると頭の中で思えば他人にも見えるようになるはずだ」



 その言葉にクウは冷や汗が流れる。

 《偽装 Lv3》を施したはいいものの、弱くし過ぎたのだ。いや、清二たちが強すぎるステータスなのだが、勇者として召喚された以上、ありふれたステータスではどんな扱いをされるか分かったものではなかった。

 そんなクウの気持ちに誰も気づくはずもなく、周囲にいる貴族たちは清二たちのステータスを見て騒ぎ立てる。



「おお! セイジ殿は光神シン様に選ばれた勇者様であられたのか! リコ殿とエリカ殿も優秀でいらっしゃる! もう一人のお方も期待できそうだ」


「確かに! 1回目の勇者たちと比較しても優秀ですな」


「しかりしかり!」


「では、そなたもステータスを見せてはくれぬか?」



 催促する貴族たちに、クウは頬を引き攣らせる。本来のステータスを見せるべきかと一瞬思案するが、それはそれで問題がある。

 仕方なく偽装したステータスを開示することにした。





「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



 沈黙に包まれる謁見の間。

 どうコメントすればいいのか分からない貴族たちはヒソヒソと声を潜めて会話を交わす。

 


「クウ殿は……勇者ではないの……か?」

「確かに能力はごくごく一般的ですな……」

「しかりしかり……」



 不穏な空気が流れるが、クウは顔色一つ変えることは無かった。

 もちろん密かに話しているつもりの貴族たちの会話も全て聞こえていたのだが、聞こえないふりをしつつ口を開く。



「あのー。もしかして俺の能力って低いんですか?」


「う……ま、まぁ……そうであるな」



 

 クウの質問にルクセントは答えにくそうな顔をしながら返す。召喚しておきながら呼び出した一人が戦力にならないのだ。苦々しい顔をしても仕方ないだろう。クウとしては今見せているステータスが低いことは理解している。だが《看破 Lv3》の存在を隠している以上は下手なことは言えない。

 クウは特に気にした様子もなく質問を続ける。



「では、俺は神様とやらに選ばれていない?」


「そう……であるな」


 

 言葉尻を弱めながら返答するルクセントに対して、クウはその言葉を待っていたとばかりに内心でほくそ笑む。もちろん表情にも声にもそんな素振りはみせないが…… 



「そうですか。これは俺の仮説ですが、俺はもしかしてこっちの3人の召喚に巻き込まれた一般人なのではないでしょうか?」


「なに? どういうことだ?」


「はい、俺たちが召喚された瞬間なのですが、この3人が昼食を食べている丁度横を通り過ぎようとした時だったのです。つまり、本来は清二と青山と城崎を呼ぶはずが、偶然俺も召喚の魔法陣に引っかかったということです」


「な、なるほど……辻褄があっている」


「と言うわけで俺は関係ない人ですし戦力にもならないので地球に帰してください」


 

 これでいいだろ、と安堵するクウ。何故か大切な記憶を忘れていたクウとしては、この世界で魔王や神々と戦うような愉快な生活を送ることよりも、すぐにでも帰還して朱月 優奈を探すことが大事だった。

 だが、ルクセントはどこか言いにくそうな顔をしながら口を開く。



「うむ……それなのだが……」


「?」


「すまぬ!」



 この話の流れで、かつ国王が頭を下げているという状況。

 これが示す意味は……



「君達を送還する方法を我らは持っていないのだ!」


『なんだってーーーっ!?』



 クウたち4人の声が重なる。

 呼び出しておきながら帰す方法は知らない。まだ高校生の4人にとってそれは絶望的な宣告だった。

 絶句する4人にルクセントは頭を下げたまま説明をする。



「これは前回の勇者たちにも説明したのだが、光神シン様はすべてが解決した暁に、送還用魔法陣を城の地下に出現させると仰せられたのだ……すまん」



 心の底から謝罪を述べるルクセント。

 一国の王としてはとても褒められた行為ではなく、普段ならば周囲の貴族たちも騒ぎ立てるようなことなのだが、この時ばかりは4人に憐れみの視線を向けていた。

 結局は異世界から誘拐して戦いの最前線に立たせるということなのだ。賢王として知られるルクセントが謁見の間に呼び出した貴族たちには平民をゴミのように扱う者はいない。目を伏せて申し訳なさそうにしている者がほとんどだった。 



「どういうことですか!」


「帰してください。家族も心配してるでしょうし」


「そうです。魔族とか魔物とか無理です!」



 清二、理子、絵梨香の3人は当然の如く抗議の声を上げる。

 ほんの少し前まで学校の屋上で弁当を食べていただけなのだ。急に戦えと言われて首を縦に振れるはずがない。

 ルクセントも持てる限りの誠意をもって謝罪を続ける。



「すまない! 召喚陣さえも光神シン様から賜ったもので、仕組みも全く分からんのだ。どうしても無理ならば強制はしない! もう一つの陣を起動させて別の異世界人を……」


「待ってください!」



 だがここで清二がルクセントの言葉に待ったをかけた。本来ならば国王の言葉を遮ることは不敬と見られる。だが今、この場所でそれを追及できる度胸のある者はいなかった。 

 ルクセント自身も気にした様子もなく清二に発言を促す。



「なんだねセイジ殿?」


「もう一回陣を使ったらまた僕たちみたいなのが呼び出されるんですよね?」


「そうであるな」


「僕の我儘で他の地球人に迷惑をかけたくない! 僕が頑張るから他の3人はこの城で保護してくれませんか?」


「清二!」


「清二君!」



 清二の言葉に理子と絵梨香の2人は声を上げる。

 だが清二は首を横に振りながら二人を宥めた。



「ごめん。2人に戦いとかはさせたくないし、やりたくないだろう? 僕が全部引き受けるから……。それに朱月あかつきに関しては能力も一般レベルなんだろ? 僕の能力は逸脱してるみたいだし、僕が頑張れば……」


「ダメよ! 清二がやるなら私も!」


「わ、私もやります! 幼馴染なんですよ。仲間外れにしないでください!」


「2人共……」



 絵に描いたような主人公らしい展開にクウもジト目を向ける。どういうわけか会話から疎外されているクウだが、生憎クウ自身はこの国に協力するつもりはなかった。

 それでたとえ最後の召喚陣が起動されるとしても……

 


(しかし不味いな。帰れないとなると、さっさと神様開放して魔王倒さないといけないんだろ? 俺の能力って敵側の神の加護によるものなんだよなー。 あんまりこの国で長居するとバレる可能性もあるし、俺はこの城を出ておきたい。

 何かいい策は……)



 悪神の加護を受けているクウは、今この場を切り抜けて城から逃げ出すためにはどうするべきか思案し始める。

 だが状況はクウの思考速度には合わせてくれなかった。



「王様、僕たちが頑張るので3つ目は使わないでください!」


「うむ、だが3つ目の使用は君達の活躍にかかっていると思ってくれ」


「はい、構いません。それで朱月のことなんですが、彼は僕たちに巻き込まれただけみたいなので、この国で保護してくだしませんか?」


「そうだな……関係ないクウ殿に迷惑をかけたようだ。クウ殿もそれで構わないか?」



 クウの希望とは真逆の展開に内心で焦る。清二としては純粋な優しさを持って進言しているため、下手な文句は言えない。逆にこの場で理由もなく城を出ていくのはどう考えても不可能になりつつあった。

 あと5分……いや、2分あれば考えが纏まったのだが、時間は無情にも過ぎていく。仕方なく考えたところまでで話を合わせることにした。



「王様、俺は独自に各地を回って送還について調べたいと思います。つきましては旅の支度金と防具や武具などをいただけませんでしょうか?」


「何? お主は能力が一般レベルだ。無理に外に出て危険な目に合う必要もないのだぞ?」


「いえ、俺にはすぐにでも帰らなければならない理由があります。それに一般人は普通に外で暮らしているのでしょう? 俺も危険なことをするつもりはありませんし、何もせずに怠惰に過ごすのは性に合わないので」


「そうか……それで良いのなら、出来るだけ良い装備を渡そう。宝物庫から好きな武器と防具を持っていくがよい。あとで案内させる」



 もっと疑われると思っていたため、希望した通りになった状況に拍子抜けするクウ。城に縛り付けられたり、希望した物資を渋られた場合にどうするかを考えていた途中だったのだが、どうやら必要なかったらしい。

 安堵して胸を撫で下ろすクウに、清二は心配そうに声を掛けてきた。



「いいのか朱月?」


「いいんだよ。お前らが働いているときにグータラしてるのは人としてどうかと思っただけだ。それに俺はお前らとは別のアプローチで帰還方法をさがすだけだ。問題ない」


「そうか、僕たちのせいで済まない」


「お前らだってある意味巻き込まれたんだ。お前たちこそ気を付けろよ」


「ああ」



 望んだとおりの状況になり過ぎて、逆に裏でもあるのではないかと一瞬疑うクウだが、これは単純に国王ルクセントなりの負い目からくるものだった。

 不条理にも異世界から呼び出してしまったのだから、もしも断られたとしても出来るだけ本人の希望通りに事を進めようと決めていたのだった。

 1度目に召喚された勇者……彼らの内の一人は快く引き受けてくれたのだが、その他の二人は帰りたいと望んでいた。

 ルクセントはもう一度頭を下げて謝罪の言葉を述べる。

 


「セイジ殿、リコ殿、エリカ殿、感謝する。そしてクウ殿は済まない。一人ずつ部屋を与えるから今日の所はゆっくり休んでくれ。君達にはしばらくこの城で鍛錬する期間を与える。まずは戦闘の経験を十分にして、魔族との戦いに備えて欲しい。クウ殿は好きなタイミングでここを出て構わない」



 大きく頷く4人の召喚者

 緊張した面持ちの清二、理子、絵梨香に対してクウだけは冷めたような顔で次の計画を練っていた。



(乗り切ったな……次は武器か。できれば刀があればいいんだけどな)





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― 新着の感想 ―
[一言] 急展開すぎてテンパってるところに細かな対応しろってのは難しい話でしょ まぁでも、『いつだって冷静で、並列思考ができて、おまけに武術由来の心技体を持ち合わせている主人公』として描かれていたから…
[気になる点] 虚空系と切り札の抜刀術だけ改竄すりゃいーじゃん
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