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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編

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EP485 心の敗北


 魔王アリアの出現と同時に人族連合軍先鋒隊は瓦解した。

 そして勇者として同行していたセイジですら瞬時に無力化されてしまった。これには誰もが言葉を失い、気力を失う。アリアの放つ圧倒的な気配に押され、動くことは全くできない。

 これまで時間をかけて準備してきたこともあり、それでも届かぬ高みを目にした彼らの心は折れそうになっている。いや、既に折れている。



「ん? どうだ? まだやるつもりなのか?」



 アリアは倒れるセイジに神槍インフェリクスを突き付けながら再度問う。

 手も足も出ないことで心が折れているかと思ったセイジだが、流石にこの程度ではまだまだ気力を失わない。クウに倒された経験があるからこそ、まだ諦めないでいられた。



「僕は……戦える!」



 瞬時に丈夫な剣を創造し、振り向きざまにアリアを斬りつける。

 だが、アリアも予測していたのか、槍で絡めとりながら打ち上げた。アリアは武術の腕こそ大したことないものの、それは超越者の基準だ。その槍捌きは達人を上回る。

 セイジは神剣を創造するために集中し、その右手に白い影が輝く。

 しかしそれでは遅い。

 アリアは無言で指を鳴らし、神聖粒子を集めた。それは絶対零度の氷となって、セイジの霊力体を完全凍結させる。外気に触れても絶対に溶けることのない概念の氷がセイジの動きを止めた。



「……まぁ、この程度だろうな」



 アリアが神槍インフェリクスを振るうと、絶対零度の氷は砕けた。同時にセイジの霊力体も破壊される。完全に砕けた霊力体は一度霧散し、セイジは息も絶え絶えな状態で復活した。

 既に剣を創造する意思力もないらしい。

 発する気配は弱々しく、動く様子も感じられない。



「ぐ……う……」


「引くがいい。私達は領土に侵入する者どもを許さない。ゆめゆめ、考えておくことだ。この先に進むことがどういう意味か、私は教えたぞ」



 アリアは神槍インフェリクスで行軍の先を示した。

 そこはリグレットの衛星兵器、そしてアリアの攻撃によって地面が深く抉られている。あれこそが魔王アリアの力であると誰もが知ったハズだ。そしてこのまま進んだ時、どうなるかは目に焼き付いた。



「では―――」



 短距離転移で上空まで移動したアリアは告げる。



「二度と出会わないことを願おう。貴様らが愚かでないことを祈る」



 黒いバトルドレスと黄金の髪が風で翻り、人族連合先鋒隊は釘付けになる。

 眼球が黒く、瞳が紅く染まっていること、そして耳が少しだけ尖っていることを除けば人族と大差のない姿だ。ここにいる者は魔族を始めて見る者ばかりである。その初めてが魔王であったが故に、恐らくは魔族を見る度に今日の恐怖を思いだすことだろう。

 もはや士気などゼロに等しい。



「……化け物」



 セイジですら、その一言を発するのがやっとだった。

 超越者となったセイジは、ようやくクウに追いついたと思った。これで勝てると思った。光神シンに修行までして貰ったのだから、負けるわけにはいかないと思った。

 しかし、実際はこの程度。

 倒さなければならないはずの魔王には僅かにも届かなかった。そして見逃された。

 魔王アリアは転移でその場から消えた。












 ◆ ◆ ◆











 はるか南。

 それは大陸の端よりもさらに南の海上である。人族の船団が海を渡って魔族領へと侵入するべく、風と波に揺られていた。船団の数は二百であり、そのどれもが大型船である。兵士である人を運ぶ他に、魔族領で簡単な拠点を制作するための資材も積んでいた。

 人族連合軍海上先鋒隊、総勢にして五千人だ。

 その中にはベリアルとレインの姿もあった。



(……ここで船団を全て破壊するのもいいわね。でも、あまり殺すなって言われているし)



 未だに潜入中のベリアルは、破壊工作要員としてまだ大人しくしている。来るべき時に備えて、今は人族連合に尽くしている。しかし、アリアからの命令で人族の切り札になり得る兵器を破壊するよう言われている。その時は再びクウの剣へと戻るだろう。



(船を渡ってみたけど、あまり有益な情報はなかったわ。隠されているのかしら?)



 人族は弱い。

 魔族に比べてステータスもレベルも低く、戦闘に慣れていない者までいる。だからこそ、人族が魔族に対抗できるとすれば、それは兵器に他ならない。

 光神シンはモノづくりが得意な超越者だ。

 人族が魔族に対抗できるよう、兵器を整えていると考えるのが定石だろう。



(魔法武器や魔法防具程度だったらリグレットが既に配布しているものね。ここに差は生まれないわ。やはりどこかに兵器を……)



 航海が始まってからすでに十日が過ぎた。常に東へと進んでいるため、時差の関係から本当に十日なのかは分からない。しかし、太陽が十度昇って十度沈んだのは確かだった。

 この船団は光神シンが用意した魔法の船であり、空気中の魔素を取り込んで動力としている。そのため、半永久的に自動で動かすことが出来るのだ。航海士も必要なく、多少の知識人がルート設定をするだけで良いのである。

 自動航行であるため、二百隻の船は並走している。

 ゆえに、ベリアルは人外でない範囲の運動能力で、船を飛び渡ることが出来た。

 そうして探索を続けていたのである。



「……」



 強大な魔道具は強大な魔力を纏っている。

 それを感知しようとしても、ベリアルには不可能だ。何度も感知を試みているが、見つからない。光神シンのことだから、感知阻害の術式でも組み込んでいるのだろうと予想は出来るが。

 そうして感知していると、強い魔力を持つ人物が近づいているのが分かった。



「や、ベリアル」


「あらレイン」



 すっかりパートナーとして定着しつつあるレイン・ブラックローズ。彼がベリアルの元へと近づいていたのである。

 その腰元を見ると、強大な力を感じることが出来た。発信源は美しいレイピアである。



「そのレイピアも使いこなせるようになったのかしら?」


「ああ、これだね。光神シン様から頂いたものだけど、かなり凄いよ。今までのレイピアよりも頑丈さが桁違いに上がっている。剣のように振るっても折れないし、切れ味も抜群だ」


「凄いのねぇ」


「今までは急所を突く戦い方だったけど、それ以外の戦いも出来そうだ。見た目がレイピアだから、不意を突くにも丁度いいかもしれないね。レイピアだと思ったら、普通の剣だった! なんてね?」



 レインの戦闘力は間違いなく世界一だ。

 それはステータスによるものだけでなく、戦闘の技術において並ぶ者がいないという意味である。戦いにおいては膂力や魔法力だけでなく、敵の動きの予測、誘導、そして自身のイメージ通りに身体を動かせることも必要だ。

 総合的な戦闘能力とは、そのようなもので決まる。

 むしろ、その技術面でリードを獲得できるならば、ある程度ステータスで劣っても充分に勝利を得ることが出来る。レインはそうやって格上の魔物を倒してきた。

 そのレインが相応の武器を得たのだから、それは鬼に金棒と言って良い。



「そう言えばベリアル。陸路を行く先鋒隊はそろそろ到着したかな?」


「順調にいけば、まだ半分程度の行程じゃないかしら?」


「僕も陸路の方へ行ってみたかったね。難攻不落に見えたあの砦が気になる。折角、僕たちが調べたんだ。攻略してみたかったね」


「あっちには勇者サマが行ったのよ? 戦力バランスを取るために、貴方がこっちに来るのは当然ね」



 砦攻略に派遣する戦力を決める際、勇者セイジを送るかレインを送るかで議論が交わされた。結果として、嘗て勇者が砦へと送り込まれた慣例から、セイジが向かうことになった。また、セイジは以前の砦攻略で失敗を経験している。是非ともリベンジしたいと申し出たのだ。

 結果として人族最高の冒険者であるレインは海から魔族領へと向かうことになった。

 しかし、海は海で危険が伴う。



「誰かー! エルダーサーペントが出現したぞー!」



 海の魔物は強力だ。

 何故なら、海水の浮力によって巨大化しやすいからである。巨体というのはそれだけで強さだ。結果として強い魔物が多く生まれる。

 エルダーサーペントはウミヘビの魔物であり、全長は数十メートルにもなる。

 船に絡みつき、砕いて沈めてしまうことで有名な魔物だった。

 誰かの叫び声で皆が反応し、戦闘態勢へと移る。それはベリアルとレインも同様だった。



「ベリアル。見つけた……向こう側だよ」



 レインが魔力の感知でエルダーサーペントを見つけると同時に、ベリアルは弓を構えていた。矢を形成して狙いを定め、即座に放つ。

 目にも留まらぬ速さへと加速した矢は、遠くに見えるエルダーサーペントの胴体を貫いた。



「ギオオオオオオォッ!?」



 動きを止めたエルダーサーペントに対し、次々と魔法が炸裂した。特に弱点属性である雷はエルダーサーペントに甚大なダメージを与えた。

 魔法使いの人族へと与えられた魔法増幅の魔道具により、巨大な魔物にも充分すぎるダメージを与えることが出来るようになっていたのだ。



「私達の出番はもうなさそうね」


「ああ、残念ながらね」



 ベリアルは弓を降ろし、レインはレイピアの柄から手を離す。

 その途端、無数の雷撃がエルダーサーペントに降り注いだ。船団に乗っている魔法使いたちが発動した雷属性の魔法である。同じ魔法を同時に放ち、魔道具で増幅することで戦略級規模の破壊力を生み出したのである。

 エルダーサーペントの表皮で電流が走り、発熱して黒焦げにする。

 電撃は内部にまで浸透し、内臓すら破壊した。



「ォオ……」



 巨大な蛇は水飛沫を上げながら沈んだ。

 本来ならば船団の何隻かは沈没してもおかしくなかった。だが、配布された魔道具のお蔭でこれほどまで魔物に対抗できるのだ。エルダーサーペントはLv120程度の魔物だった。それを倒せるようになっているのだから、確かに強さを獲得している。

 そして、こうして強力な魔物と戦うことでレベルも上がっている。

 人族は徐々に強くなりながら魔族領に近づいていた。



「やるね。僕たちがいなくても大丈夫そうだ」


「そうねぇ。じゃあ、私は船の探検に戻るわ」


「まだやっていたのかい?」


「暇なのよ」



 ベリアルは手を振って去って行く。

 目的である兵器を探しに行くのだ。船を探し回っているのは明らかに怪しいので、レインには探検だと言って誤魔化している。確かに探検し甲斐のある船なので、レインもベリアルを疑うことはなかった。

 それに他の冒険者でも船を歩き回って探検している者は多い。

 なので目立ちすぎることもない。



(このまま兵器が見つからなかったらマスターに連絡ね)



 海からの行軍経路も当然ながら、リグレットの衛星が観察している。そして、魔族連合の本拠地として設定されている【レム・クリフィト】では、対抗作戦が練られていた。

 仮にベリアルが兵器を発見できなかった場合の作戦。

 それにはクウとリアの働きが重要となる。














アリアさんは容赦ない

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