EP480 鍛練
無限に広がる荒地。
そこには無数の武器が突き刺さっており、数えきることは不可能に思える。そして武器は剣、ナイフ、刀、槍、薙刀、槌、斧など多岐にわたる。
各所にクレーターが出来ており、地割れの跡のようなものも見えた。
「はぁ……はぁ……」
「……うぅ」
「大丈夫ですか兄様、姉様」
うつ伏せになって荒い息を吐くクウとユナ。そして心配そうに覗き込むリア。
最後に腰へと手を立ててヤレヤレといった表情を浮かべる虚空神ゼノネイア。
「情けないの。一発使うだけでそれとはな……」
「煩い……」
「まぁよい。こうして発動成功しただけでも誉めてやろうぞ」
ゼノネイアが指を鳴らす。
すると時間が虚数空間へと封印され、経過した時間が元に戻った。時間が封印された結果、空間における時間が回帰したのである。
周囲には再び何もない荒れ地が広がった。
相変わらず規格外な神である。
「ほら、主らの疲労も封印してやったのじゃ。次じゃ次」
「ああ。助かる」
クウは立ち上がり、両目に黄金の六芒星を輝かせた。
そしてリアがクウの隣に並び立つ。
「次は私です」
「ああ、やるぞ」
「うむ。どうせこの場所でやっても大した規模にならぬ。だが、ここの場所でかなりの力を引き出せるなら、エヴァンに戻ればもっと大きな力を動かせるのじゃぞ。さぁ、やってみるがよい」
リアはクウの後ろに回り、両手をクウの肩に当てる。
二人とも深呼吸して、意思力を整えた。
その様子を見たゼノネイアは告げる。
「さぁ、百と四回目の挑戦じゃな。神の力、言霊を会得してみせよ!」
「当たり前だ。やるぞリア。俺が収束した意思力を誘導してくれ」
「はい」
「タイミングを怠るなよ。詠唱開始だ……」
◆ ◆ ◆
【ルメリオス王国】の神都にある神殿。
そこでは疑似的な神界が形成され、光神シンとセイジが戦いを繰り広げていた。戦いと言っても本気の殺し合いではなく、単なる模擬戦に近い。しかし、超越者の模擬戦と言えばもはや殺し合いの域だ。
甘いセイジに本気の殺し合いをさせることで、急速に力を付けさせていたのである。
実戦に勝る訓練なし。
それを体現したかのような模擬戦だった。
「うおおおおおおおおおおおお!」
「まだ隙が大きい」
音速で剣を振り下ろしたセイジに対して、光神シンは素手で軽く弾いてしまった。霊力に違いがあり過ぎて勝負になっていない。
「温い攻撃ばかりだ」
「がっ……ああああああああああああ!」
一瞬で背後に回られたセイジは、対応するまでもなく心臓を潰された。しかし、超越者はこの程度で死ぬことがない。瞬時に再生し、振り向きざまで斬りかかる。
だが、既に光神シンはセイジの真上に移動していた。
「《穿光神判》」
「うわああああああああああああああああああ!」
「《星核紋衝》」
光を収束して放つレーザー兵器を召喚したかと思うと、質量体を錬成して下方向への加速因子を与えた。これによって光と隕石が流星群のように降り注ぐ。
セイジは必死に再生しながら剣で対処するが、明らかにダメージが大きい。
「うあああああ! 《神剣創造》! 神剣・天霧鳴!」
因子を分解する神剣を創造し、それを盾として差し込んだ。すると、光と隕石は因子レベルに分解され、その効果を失う。
「俺の神剣をコピーできるようになっていてよかったな! だが、まだ構成が甘い!」
光神シンはオリジナルの神剣・天霧鳴を取り出し、切先を向ける。すると、セイジの持っていたコピー神剣・天霧鳴が砕け散った。
そもそも霊力が違うと言うのもあるが、何よりも意思力が弱すぎる。
そして権能の使い方がまだまだ甘い。
本来、権能とは何十年、何百年、何千年という単位で極めていく。本質を理解する天才のクウが異常なだけで、ユナ、リア、ミレイナの三人はまだ権能を使いこなしているとは言い切れない。魔王オメガを倒したあの戦いでは、経験豊富な神獣の助けがあったからこそ有利に戦えたのである。
無論、セイジも経験不足が過ぎた。
「剣とはただの鋼にあらず、だ。剣とは力の象徴。そして勝利と征服の証だ。超越者とは物質を操るのではなく概念を操る。まだ人の感覚に囚われているぞ」
超越者の戦いは通常の戦いとは大きく異なる。
スキルによる戦いは『世界の情報』に記録されたコードによって、能力が実行される。イメージするだけで自動的に演算が実行されるのだ。つまり能力発動が楽になっている。
そもそも、スキルとは封印された通常の魂が力を使うために与えられた力。意思力や潜在力が封印されている以上、扱いやすいようになっているのは当然のことである。
しかし、超越者は違う。
全ての力を、己の演算力だけで実行しなければならない。曖昧なイメージだけでは脆い概念となってしまう。神剣を創造しても、能力頼りで曖昧な概念ならば簡単に砕け散る。砕けぬ神剣とは、それだけの意思力が込められているということなのだ。
(だめだ。やっぱり僕の剣が壊される!)
そこで模倣神剣はやはりダメだと判断した。
セイジは自分が知る中で最も強いイメージのある剣を思い浮かべる。
「エクスカリバー!」
純白の刀身は黄金の粒子を纏い、柄には赤い宝石が嵌めこまれている。力そのものが概念となり、王に勝利を与えた聖剣として顕現する。
権能【破邪覇王】の特性は「神剣創造」「勝利」「抗体」の三つだ。剣を作り、戦勝を与え、敗北からあらゆる力を学習する。まさに英雄たる力である。
「アーサー王の剣か。だが、強い剣の象徴としては丁度良いな」
「っ! 知っているのですか!?」
「ああ、知っているとも」
セイジは光神シンが元日本人であることを知らない。光神シンがエクスカリバーに関する知識を持っていても、神だからと勝手に納得してしまった。
「この剣でいく!」
「面白い。では打ち合いといこうか!」
光神シンは剣を切り替え、神器・天叢雲剣を手にする。嵐を司るこの剣は、一振りで破滅の災いを呼び出すのだ。
一方、セイジの剣エクスカリバーは「勝利」の剣。
あらゆる概念に対して強制的に打ち勝ち、絶対に切り裂く。そして切り裂けないならば「抗体」によって耐性を獲得し、二度目は確実に斬る。
「はああああああああああ!」
魔素を操り、足場を作って光神シンに迫る。
天使ではないセイジが空中で戦うには、こうして足場を作るのが必須技能だ。実を言えば「抗体」で重力に対する耐性を獲得することも出来るのだが、残念ながらセイジはそこまでの発想がない。
振りかぶるセイジに対して、光神シンは冷静に天叢雲剣を構えた。
そして振り下ろされる剣に合わせてカウンターを決める。
「吹き飛べ馬鹿者。直線的過ぎる」
「わあああああああああああ! ああああああああああああ!?」
剣に触れることなく、嵐の力で吹き飛ばす。絶対切断の剣であっても、触れなければどうということはないのだ。風がセイジを巻き上げ、竜巻によって拘束し、雷撃が閃いてセイジの霊力体を破壊する。
剣で嵐を引き裂けばよい。
それで解決だ。
しかし、セイジはその発想がない。剣で災いすらも切り裂けるという明確な意思がない。
超越者になり切れず、人のままである証だ。
そもそもセイジは聖剣エクシスタを利用することで疑似的に超越者となっているに過ぎない。完全な超越者ですらないのだ。人の感覚が抜けないのは当然である。
「この程度か……」
何度目かもわからない落胆をした光神シンは、サッと天叢雲剣を振り下ろす。すると嵐がセイジを巻き込みながら地面に激突させた。
疑似神界であるここでは土煙など立たない。
しかし、空間にひびを入れるほどの勢いであった。疑似神界に亀裂が走り、セイジは呻く。それと同時に聖剣エクシスタの効果が砕け散り、超越化も解けてしまった。潜在力が封印され、ステータスに縛られた状態へと戻る。
「う……ぐ……」
「気を失ってるか……まだ実戦に耐える超越者じゃないな」
光神シンはセイジの側に降り立ち、肩に担ぐ。
そして神界を開いて元の世界に戻った。ここで経過した時間は殆どゼロに等しい。時間密度すら操作できるのが神界なのだから。
「聖剣の力を取り込んでいる間だけが超越者でいられる。歪だな。ともかく、簡単に超越化が解除されないようにしないとな」
光神シンにとって敵は超越者十二体ではない。六体の神を含めた超越者十八体だ。戦力は足りない。そして神を六体も同時に相手をして勝てるとは思っていない。天使クラス十二体ならともかく、エヴァンの神は最高位神格ばかりなのだ。ゼノネイア一人を相手にするだけで消滅させられる。
勝利するには力だけではない。
脅しの材料が必要なのだ。
「天使とこの世界そのものを質にしてやる。そのために役立ってくれよセイジ君」
疑似神界から光神シンとセイジの姿が消えた。
◆ ◆ ◆
灰色の空が広がる。
神域で鍛練していたクウは、背中を地面に付けて荒い息を吐いていた。超越者が息切れを起こすなど通常ではあり得ない。つまり、それ相応の力を使ったということである。
霊力体や情報次元へのダメージではない。
意思力そのものに損耗がある状態だ。
「そろそろ危険域じゃな。今日はやめておけ」
「……わかった」
クウも自分自身のことぐらいは分かる。無茶をしたら自滅しかねない。そう思っていた。
「やっぱりだめだ。一秒も持たない」
「敵が天使レベルなら一秒あれば十分じゃろ。じゃが……妾のような神を相手にするなら、せめて一分は必要じゃ。それに一分あったとしても、お主の考えておる切り札も、通用するかは分からぬぞ?」
「分かっている……」
現在、ユナとリアはこの空間にいない。あまりにも危険な力であるため、この場所に近づけないよう、空間ごと隔離したのだ。勿論、それをやっているのはゼノネイアである。
今、この神域にはクウとゼノネイアしかいない。
「あれを発動中は確かに絶大な力を手に入れる。じゃが、それを制御できなくては意味がないぞ。現に、お主は限界ギリギリの一秒ですら制御できず、立つことすら困難じゃった。まずは剣を振ることから始めなくてはの」
「……言われなくても自覚している」
「いつになく苛々しておるの」
「天使と神の力の差が嫌というほどわかったからな。力の一端を受け止めるだけで魂が消えそうだ」
「普通は受け止めて生きていることがおかしいのじゃ。制御できずとも、これは誇るべきことと思うがよいぞ」
「制御できなきゃ意味ないだろ……」
クウが使おうとしたのは加護を通して虚空神ゼノネイアの力を流用するというもの。魔王オメガと光神シンがそうだったように、加護の繋がりというのは非常に強い。ステータスに縛られていた頃ですら、加護による恩寵があったのだ。
超越者にもなれば、自発的に引き出すことが理論上は可能である。
だが、それはあくまでも理論上の話であり、実際にやるとその難易度は格別だと分かった。
「妾たちは地上に顕現出来ぬ。天使から成り上がった光神シン程度の潜在力ならばともかく、妾たちのような最高位神格は降臨した瞬間、世界ごと崩壊するじゃろうの。なにせ、世界よりも妾たちの潜在力の方が大きいのじゃ。中位神格でギリギリ……邪神カグラが邪神化によって弱体化しているとしても、仮に奴が降臨すればかなり危険じゃ。何としても阻止して欲しい」
「そのためには光神シンを討つ他ない……だろ?」
「そうじゃ」
荒かった息も整ってきた。
しかし、意思次元に受けたダメージは計り知れない。回復するまではもう鍛練できないだろう。
「この《神威》……どうにかして制御できないか?」
「……」
クウの問いかけにゼノネイアは考えるようなそぶりを見せる。
そう言った仕草をするということは、ないこともないのだろう。
「方法ぐらいは教えてくれ」
恐らくは後遺症の残る方法。またはかなり危険な綱渡りを必要とする方法。クウはそう考えた。
座りながら見上げてくる瞳の強さに観念したのか、ゼノネイアも口を開いた。
「あるにはある」
「それは……?」
「うむ。それはの――――」





