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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
479/566

EP478 人族の会議


 光神シンの降臨と魔王討伐の宣言。

 それは唐突なことでありながら、急速な変化を人族に与えていた。まずは戦争準備のために、食料品の備蓄を確認。そしてどこからともなく魔法武器マジックウェポンが提供され、兵士志願者に配布されるようになった。

 また、その訓練のために魔物を討伐。急激に治安が良好に向かい始める。これまでになかった魔法道具が出回ったことで、犯罪組織も壊滅させられたからだ。魔王を討伐するならば、まずは内部の虫を排除する。そう言う考えである。

 また、犯罪組織そのものを利用する作戦も考案された。



「盗賊の村を襲撃して、補給拠点にする?」


「そうだよベリアル。それが僕たちに与えられた任務だ。問題ないかい?」


「構わないわ。でも、そんな村があるの?」


「ああ、ここから東南に行った場所で、破棄された辺境村がある。どうやらそこに盗賊団が住み着いてしまっているみたいでね。僕たちはその殲滅を任されたんだ」


「補給拠点として利用するってことは、破壊するのはダメよね」


「そういうことさ。破壊するだけならAランク冒険者チームでも簡単だよ」



 魔法という力があるこの世界において、個の力で街を破壊するというのはありえることだ。特にAランク冒険者以上になると、珍しくもない。

 しかし、上手く制圧して破壊しないように占拠するのは難しい。

 そこでレインに任されたのだ。



「その盗賊団が少し名のある人物が率いているってのも僕たちが選ばれた理由だよ」


「へぇ。誰かしら?」


「『赤髭』のブライト。殺人、強盗、婦女暴行……まぁ、罪状を挙げればきりがないね」



 レイン・ブラックローズとベリアル。

 その二人によって結成された冒険者パーティ『覇の凶刃』。その二人が城塞都市【ルーガード】から出発した。













 ◆ ◆ ◆











 旧辺境村。

 そこの住人は、いまや城塞都市【ルーガード】に移り住んでいる。そして要らなくなった村は放置され、今では廃墟として残っていた。

 その廃墟を利用しているのが赤髭盗賊団である。

 頭領の『赤髭』ブライトは、城塞都市に運び込まれる資材に目を付けた。そして資材を運ぶ商人を狙って盗賊行為を行い、力を付けたのである。



「お頭、そろそろ備蓄が尽きそうです。やっぱり商人どもを襲わねぇと……」


「ちっ……最近の商人は良い冒険者を雇いやがる。こっちも簡単には襲えねぇ」



 ブライトは卑劣な人物だが、命知らずではない。慎重で狡猾で、勝てる勝負しかしない。しかし、だからこそ生き残ってきた。そう言った嗅覚に優れていたが故に、『赤髭』という二つ名で呼ばれるようになった。

 ブライトは自身の象徴と言える赤い髭を触りながら考える。



(妙に強い冒険者が増えやがった。どうしちまったんだ?)



 光神シンによって魔法道具が配布され、また大量の物資が城塞都市【ルーガード】に運び込まれている。当然ながら警備は厳重であり、ただの盗賊団には対処できなくなっていた。

 一か八か。

 それはブライトが最も嫌う戦法である。しかし、村に物資が無くなりつつあるのも事実。二十人を超える盗賊団の頭領であるため、部下を養うためにはかなりの物資が必要だ。食料が無くなれば自然と求心力も無くなり、反乱もあり得る。



(くそ。いっそのこと傭兵団にでも鞍替えするか?)



 実を言えば、ブライトは光神シンの降臨も魔族との戦争も全く知らない。辺境の地で盗賊をしているが故に、そんな大きな情報すら知らないのだ。ただ、城塞都市【ルーガード】の建設ラッシュによって資材が運び込まれていると勘違いしている。

 現在では冒険者ギルドの力に押されて縮小された傭兵団も、ある程度は残っている。それに傭兵団は元盗賊であっても受け入れてくれる可能性が高い。結局は戦闘集団であるため、人格などよりも戦闘力が求められるのだ。細かい出自を調べられることもない。

 傭兵になるというのはある意味正解の道であった。

 これから戦争……つまり儲け時が始まるのだから。



「俺たちも傭兵団に鞍替えするときかもしんねぇな」


「傭兵……ですかい?」


「おうよ。知ってるたぁ思うが、最近の商人は強ぇ冒険者を雇いやがる。俺たち赤髭盗賊団が警戒されているってことよ」


「さすがブライトのお頭!」


「だがな。名前が売れるってのは良いことばかりじゃねぇ。ここらでこのアジトも引き上げた方が良さそうだな……」



 ブライトは足を洗って傭兵になることを決める。今晩にでも全員に告げて、最後の宴でも開くことになるだろう。

 盗賊団と言っても、元は食べるのに困った貧民たちなのだ。既に手を汚してしまった身ではあるが、出来れば指名手配されてまで盗賊団を続けるのは嫌である。足を洗えるなら、その方が良いのだ。

 結局、彼らも日々の糧が欲しいのだから。

 だが、その決断は少し遅かった。



「ここが頭領の家みたいね」


「ほら、あれが『赤髭』だよ」



 ガラリと木造家屋の扉が開けられ、二人の男女が現れる。一人はエルフの美男子であり、人族最強とも言われた冒険者レイン。もう一人は紫の似合う美女ベリアルだった。

 二人とも、片手に剣を持っている。

 そして当然のように、その剣には血が付着していた。



「何者だてめぇら!」



 ブライトは近くに置いてあった斧を手に取り、即座に構える。何者かと聞きつつも、ブライトには大まかな予想は付いていた。自分たちを討伐しに来た冒険者だろうと。



「頭に近づくんじゃねぇ!」



 普段ならば美女を見て興奮する部下の男も、今ばかりはそんな気分になれなかった。二人から放たれる異様な気配を感じ取ったからである。

 命の危機を感じる相手に対して性欲は覚えないだろう。



「この二人も殺して良いのよね」


「ああ、僕が奥のブライトをやろう」


「そう。頼むわね」



 そう言ったベリアルはサッと剣を振るう。すると、部下の男は一瞬で首を飛ばされた。ブライトは反射的にベリアルへと斬りかかる。そこに言葉は必要ない。ただ生存本能のままに斬りかかった。

 しかし、振り下ろす直前で肩が軽くなった感覚を覚えた。



「だめだよ。君の相手は僕だ」



 ガコン、と音がして斧が天井に突き刺さった。斧の柄にはブライトの右腕まで付いている。レインはブライトの肩を魔力刺突で吹き飛ばし、千切れさせたのだ。



「が、があああああああ」


「煩いよ」



 遅れてやって来た痛みに叫ぶブライト。

 しかしレインは容赦なくトドメを刺す。軽くレイピアを振るうと、魔力斬撃が飛んだ。それは綺麗にブライトの首を切断する。



「これで最後だね」


「ええ、この死体も《闇魔法》で消滅させましょうか?」


「頼むよ」



 ベリアルは闇魔法と称した死の瘴気で死体を滅ぼす。

 闇属性の持つ特性「滅び」に似ているので、そう言って誤魔化すことが出来る。ベリアルはこの辺境村にいた盗賊を全て殺した上に、この死の瘴気を以て死体を滅ぼした。



「これで依頼も終わりね。盗賊が蓄えていた資材はどうするのかしら?」


「余っていたら、残しておくように言われているよ。ここを開発する資材に流用するって聞いているよ」


「ちゃっかりしているわねぇ」


「元から【ルーガード】を建設する資材だからね。流用しても問題ないさ」



 レインは細剣を収納し、振り返る。ベリアルも剣を納めた。

 これで依頼は完了。後は報告に帰るだけである。



「ねぇ。そう言えばレイン?」


「どうしたんだい?」


「思ったのだけど、戦争なんていつ始まるのかしら? それにどれぐらいの戦争を想定しているのかも分からないわよねぇ。小競り合い? 殺し合い? それとも……殲滅?」



 戦争が起こる。

 その情報は簡単に手に入れることが出来るのだ。しかし、どんな規模の戦争になるのかは殆どの人が知らないことである。人族の中で戦争が収まったのは遥か昔のことであり、戦争に関するノウハウなども失われている。

 戦争準備に時間が掛かっているのはそう言った面もある。

 一体、いつになったら戦争が始まるのか。街が戦場になるのか。そんな心配も一部では広まっていた。尤も、神が降臨したという事実は、その心配を充分に吹き飛ばしていたが。

 信心深いレインもその一人である。



「魔族は殲滅。それが光神シン様の与えたもうた天啓だよ」



 無茶苦茶である。

 しかし、光神シンの力があれば魔族の殲滅も難しくはない。むしろ、人族にやらせるより光神シン自らが出向いて魔族を皆殺しにした方が早いぐらいだ。

 それをしないのは一重に、戦争によって生まれる悪意という意思力を集めるため。

 大量の意思力を統一して生成し、集めることで大きな力となる。

 上手くすれば、世界の壁を破れるほどに。



「戦争ねぇ。経験した人なんて一部のエルフぐらいじゃないかしら?」


「そうだね。僕の祖国にはそんな人も僅かに残っている。今はその助言を受けながら、作戦を立てているみたいだね。各国の王や大臣は光神シン様とも謁見させて頂いているそうだよ。羨ましいばかりだね」


「偉い人との謁見なんて、私はごめんよ」



 ベリアルの言葉にレインは少し眉を動かす。

 しかし、多くの冒険者にベリアルのような考え方が浸透している。何故なら、彼らにとっては日々の生活こそが大切。そこに偉い神様が急にやってきて、魔族を滅ぼすと宣言しても困るのだ。

 確かに神話の神と共に戦い、魔族を滅ぼすというのは栄誉なことである。

 しかし、遠い世界のような話でもあるため、実感がわかないというのも事実である。そのため、光神シンのことも一目見るぐらいはしてみたいが、実際に会うというのは面倒な予感がする。そんな風に考えていたのである。

 事実として、冒険者は貴族や王族に会うような感覚で考えている。

 勿論、人族の中でも人とドワーフの話だが。



「ベリアル、光神シン様と相まみえることは非常に光栄なことだよ。もう少し君は神を敬うべきだね」


「別に神を敬っていないわけじゃないわ」



 勿論、光神シンのことではないが、それは口に出さない。



「それよりも早く帰りましょう。やることはまだまだあるわ」


「……まぁ、そうだね。光神シン様のことはまた今度にしよう」



 別にいい、とは言わない。ベリアルでもそれぐらいの空気は読める。それに、ベリアルはこれでも諜報任務を預かっているのだ。レインの機嫌を取り、色々と話を聞くのが良いだろう。

 今はあまり情報解放されていないが、人族として最高クラスの戦力であるレインには重要な作戦が任されることになるだろう。ベリアルにもそれを知ることが出来る可能性が高いので、今は協力的なフリをしておく。



(それにしても補給拠点……覚えておきましょう)



 占拠した辺境村から二人の姿が消えた。











 ◆ ◆ ◆











 【ルメリオス王国】で新たに生まれ変わった神都。

 その中央神殿に各国のトップが集まり、会議が行われていた。

 まずは【ルメリオス王国】の国王ルクセント、王子アーサー、そして大臣のアトラス。次に【ユグドラシル】の女王ユーリスと七長老家の一人アクツル・ホワイトリリー。あとはドワーフたちの代表オルガングと妻のヘラ。

 まさに人族のトップが集っていたのだ。



「さて、これより第四回人魔大戦軍議を行います。議長はこのパトリックが賜りました」



 光神シンが降臨したことで発言力が増したパトリック大司教。しかし権力を得ても彼の謙虚は変わらず、こうして重要会議の進行役を任されるまでになっていた。



「まずは備蓄の報告からいたしましょうか。まずは【ルメリオス王国】」


「うむ。我が国は光神シン様のお力により、多くの魔道具を手に入れることができた。それを利用して作物を効率生産している。具体的には小麦が三日で収穫できるようになってしまった。大戦に備えた備蓄には足りぬが、二週間もすれば十分に足りるだろう。武器は言わずもがな……だがな」


「私が捕捉しましょう。光神シン様から魔法武器マジックウェポンを提供して頂きました。これにより、破損を考慮しても戦争に足りる武具が蓄積されております」



 アトラスが捕捉したことで、【ルメリオス王国】の報告が終了した。つまりはおおむね順調ということである。【ルメリオス王国】は人口の多さを利用して食料生産と管理を担当している。また、その輸送も【ルメリオス王国】の役目だ。

 この辺りは以前の会議で決まったことである。

 頷いたパトリックは再び口を開いた。



「では次に【ユグドラシル】」


「ホワイトリリー」


「はい。では僭越ながら私から」



 ユーリスからパスを受けたアクツル・ホワイトリリーは懐から巻物のようなものを取り出した。それをテーブルに広げてから説明を始める。



「我らが【ユグドラシル】は以前の会議で冒険者の運用についてまとめる役を負いました。それに関連した報告となっています。まずは戦争に興味がある冒険者を探りましたところ、種族別にエルフが九割以上、人が六割、ドワーフが五割となりました。人数にして五万人ほどかと。そして冒険者ギルドに問い合わせたところ、その人数を一気に支援するには人手が足りないとのことでした。そこで――」



 アクツルは新しい資料を取り出し、テーブルに広げる。



「――このようなものを提案させて頂きます。『ギルドマスター代表団の結成』によって冒険者ギルドを彼らに管理させ、その管理情報をこちらで整理するのです。そしてこの大戦軍議にギルドマスター代表団を加えることを推奨します」


「ふむ。ではその提案は後に会議することとしましょう」


「お願いするパトリック殿」


「では最後にドワーフ代表オルガング殿」



 最後のドワーフだけは国という組織を持たない。しかし、ドワーフ代表という立場は実際に存在しており、それは各部族の長の中から投票によって選ばれる。

 今代の代表はオルガングという男だった。



「儂らに与えられた役目は基地の建設じゃったのう。もうすでに取りかかっとる。資材の運搬は【ルメリオス王国】に任せとるが、建設はこっちの分野じゃ。城塞都市【ルーガード】も間もなく完成する。ただ、もう少し資材を早く届けて欲しいのう」


「分かったオルガング殿。それはこちらで対処しよう」


「頼むぞ人の国王」



 兵士の編成、指揮系統の確認、兵站の備蓄、武器の修理、進軍ルート決定、基地の増設……戦争の準備は数えていけばキリがない。ノウハウも殆どないので、手探りな面も多かった。

 しかし、光神シン様のために、という一つの目的によって人族は一つとなっていた。

 彼らはこの一体感に心地よさを感じつつ、会議は続いた。











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