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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
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EP465 総力戦㉖


「ラプラスもやられたか……」



 オメガが苦い顔で隔離された空間を見つめていた。ファルバッサ、テスタ、メロ、そしてリグレットが魔王アリアの力を隔離するために……つまり、世界に漏らさないために作った空間は簡単に壊れるものではない。

 逆に言えば、そこまで気を付けなければならない力だった。

 オメガ側では最も弱いとは言えど、ラプラスが負けた。

 多少はダメージを受けていたという前提はあったが、アリアはたった一人で超越者を滅ぼしたのだ。



「あの娘にあれ程の力があったとはな」


「ゆっくり考察している暇があるのか?」


「むっ……」



 《熾神時間セラフィック・タイム》で背後に回ったクウが呟く。オメガは回避を試みたが、既に斬られた後だ。上半身が滑り落ちる。

 だが、即座に再生することで身体をくっつけた。

 同時にオメガの世界侵食イクセーザ終焉の審判ラストオーダー》が襲いかかる。顕現した魔神アラストルの持つ黒紫の大剣がクウを切り裂こうとした。

 クウはそれを《神象眼》を乗せた斬撃で切り裂く。

 確かに魔神アラストルは勝利という因果を手に入れた世界侵食イクセーザだ。しかし、クウの「意思干渉」で切り裂く意思を乗せれば対抗できる。

 ギャリギャリと嫌な音がして、クウの刀と魔神アラストルの剣が拮抗した。



「ちっ……」



 意思力のぶつかり合いにおいて、やはり世界侵食イクセーザは強い。

 切り裂く意思力と勝利の意思力がぶつかり、一瞬の拮抗を経て、魔神アラストルが競り勝った。クウは即座に《熾神時間セラフィック・タイム》を発動し、回避した。

 相対時間を増幅することで疑似的な時間停止をする。これが《熾神時間セラフィック・タイム》の本質である。その倍率はおよそ百万倍であり、クウにとって一秒は世界にとって百万分の一秒となる。

 『世界の意志プログラム』、あらゆる存在の意思次元は認識時間が遅くなるのだ。



「滅びろ。《熾神時間セラフィック・タイム》!」



 クウは意思力を世界に侵食させ、時間の認識を極限まで遅延させる。

 オメガ、魔神アラストル、グリフォン、インペリアル・アント、アラクネ・クイーン、フェンリル、キングダム・スケルトン・ロード、カースド・デーモンの八体はほぼ停止した。

 クウはその世界で天使翼を広げ、音速の数十倍で動き回る。

 すなわち、オメガたちの認識時間から換算すれば、光の速さをはるかに超える速度だ。

 クウが神刀・虚月を振るうたびに霊力体が爆散する。

 刃物の質量だけで凄まじい運動エネルギーとなったのだ。運動エネルギーは質量に速度の二乗を掛けた値となってしまう。つまり、相対速度で光の速さを越えたクウの斬撃は核爆弾にも匹敵する威力となる。

 何故なら、質量エネルギーは質量に光速の二乗を掛けることで得られるのだから。



「……解」



 ゆっくりと神刀・虚月を鞘に納めながら《熾神時間セラフィック・タイム》を解除する。霊力体が爆散したオメガたちは即座に再生し始めた。

 一方で、クウは《熾神時間セラフィック・タイム》の反動で頭痛を覚える。



(きつい……が、これで俺も楽になった)



 このタイミングでリスクのある《熾神時間セラフィック・タイム》を全力発動したのは、これから先の戦いが楽になると分かっているからである。



「来たぞクウ。こちらは終わった」


「いや、時間が掛かって悪かったね。改めて君の「意思干渉」が恐ろしいと感じたよ」



 アリアとリグレットがクウの側に現れた。

 そして戦闘領域を囲むようにファルバッサ、テスタ、メロも現れる。

 復活した魔王オメガは忌々しそうにアリアを見つめた。



「愚かなる我の子孫よ。血肉を分けた兄弟を屠り、なお我を狙うか」


「魔人族の祖であるお前は確かに私と血縁関係にある。しかし私が守りたいものとお前が守りたいものは違う。戦いとはそういうものだろう」


「ふむ。まぁ今更ではあるな。そうでなければ何百年と争わぬ」



 このやりとりは戦いの度に行っている。

 表情には出さないが、オメガもアリアに期待しているのだ。千年を超える時を研鑽した自身にも並ぶ才覚の持ち主、魔王アリアに。

 故に仲間として引き込めるのならばそれがベストだった。



「ようやくか。これで世界侵食イクセーザを連発しなくても済む」



 クウはひとまず息を吐いた。

 流石に超越者クラスを複数体相手にし続けるのは至難だ。この戦いはクウが耐えきって勝利。この総力戦を制する第一歩となった。



「では行くぞ。まもなく向こうも決着がつくだろうからな」



 アリアはリアとカルディアが結界を張る戦場に目を向けつつ呟く。

 その結界は、内部からの滅びが世界に漏れ出ることのないようにするためのもの。結界の内部は滅びと瘴気の力で黒く染まっていた。













 ◆ ◆ ◆












 ミレイナの使う破滅の波動が、オリヴィアが注ぎ込んだ瘴気の死霊が、結界の中でぶつかる。

 隔離された世界は黒く染まり、情報次元が砕けては修復される。



「はあああああああああああああああああ!」



 ミレイナは《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》で纏った破滅の竜でオリヴィアを飲み込もうとしていた。三つの頭部を持つドラゴンの内部には滅びの波動が満ちている。ミレイナが特性「竜」によって制御しなければ、それは世界に滅びを与える。

 逆に言えば、相手を飲み込めば永久の破滅を与える。

 そして体内に持つ破滅の波動を放つことで滅びを撒き散らす。

 これがミレイナの権能【葬無三頭竜アジ・ダハーカ】が持つ力だ。破壊神デウセクセスの天使であるミレイナは、滅びの権能を手に入れていた。それを上手く使いこなそうとしていた。



「ぐううぅ……なんて威力!」



 アジ・ダハーカを操り《瘴厄吐息ディザスター・ブレス》を吐かせるオリヴィア。しかし、ミレイナの《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》から発動される破滅の吐息《深淵波哮エンドレス》に飲み込まれつつあった。

 何故なら《深淵波哮エンドレス》は貫通力の高い「波動」なのだ。

 「波動」として物質や現象を透過し、「崩壊」や「風化」や「無効化」の力で敵の概念攻撃すら呑み込んで消し飛ばしてしまう。正面からぶつかり合うなら、ミレイナの力は必ず勝つと言って良い。



「滅ぼせ! 《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》!」



 ミレイナは母の死霊を操り汚したオリヴィアを倒すために意思力を込める。



「これが! 私の全力だ! 喰い尽くせ!」



 《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》の胸部から霊力を送るミレイナは、その意思力を侵食させる。「波動」の力を持つミレイナは、本能的に意思力を世界へと染み込ませた。

 つまりそれは世界侵食イクセーザ

 ミレイナは才能だけで世界侵食イクセーザを発動させた。



”オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!”



 世界に咆哮が響く。

 目を見張るほどの巨大な竜の顎が牙を覗かせていた。それは一飲みで全長一キロを超えるアジ・ダハーカを喰らい尽くしてしまうほど大きい。そのためか、顕現したのは竜の頭部だけである。



「噛み砕け!」


”グオオオオオオオオオオオオオオ!”



 巨大な牙が閉じてアジ・ダハーカを噛み砕く。



「な――――!」



 噛み砕くと同時に、内部で蠢く破滅の波動が情報次元を滅ぼす。

 アジ・ダハーカは瞬時に消滅した。



「なんてこと!」



 オリヴィアはギリギリで牙の範囲から逃げた。

 しかし、ミレイナの攻撃はこれで終わりではない。アジ・ダハーカを飲み込んだ巨大すぎる竜の顎が、オリヴィアを噛みつくために再び現れる。

 いや、一つではない。それは二つ現れた。

 何故ならミレイナの《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》は三つの頭部を持つ竜だったのだ。

 その影響を受けているこの世界侵食イクセーザも同様である。



”ガアアアアアアアアア!”


”グオオオオオオオオオオオオオオ!”


「そんな……拙っ……いわ!」



 アジ・ダハーカは既に飲み込まれている。情報次元が常に「崩壊」を続けているのだ。オリヴィアは盾としてアジ・ダハーカを呼び出すことすらできない。

 そしてオリヴィアの世界侵食イクセーザ冥府顕在ヘルヘイム》も滅びの波動によって情報次元が瞬時に壊される。世界侵食イクセーザ世界侵食イクセーザのぶつかり合いにおいて、その勝敗は意思力が全てを決定する。

 耐えて逃げることだけを考えているオリヴィアよりも、敵を滅ぼし勝利する意思力を持つミレイナが優れているのは当然のこと。こと、意思力のぶつかり合いにおいてはミレイナに分がある。



「はああああああああああああああああああ!」



 あらん限りの意思力を込めた世界侵食イクセーザ

 その名も《世界ヲ喰ラウ三頭淵竜エンドレス・アビス》。

 まだ未完成であるが、その力は絶大である。ミレイナの意思力によって、世界は「竜」の力が沁み込んでいる。そしてミレイナが放つ「波動」を世界がくみ取り、竜の形に形成して敵を噛み砕くのだ。

 何度も。

 何度も何度も。

 何度も何度も何度も。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 その存在を破滅に追いやるまで牙は襲いかかる。

 オリヴィアは《世界ヲ喰ラウ三頭淵竜エンドレス・アビス》で喰われるたびに、濃密な崩壊の波動を浴びて情報次元が消し飛ばされるのだ。

 足掻いても足掻いても終わらない滅び。

 それが奮い立っていたオリヴィアの意思力をジワジワと折っていく。



(もう再生が……)



 既にアジ・ダハーカは完全崩壊し、情報次元は消滅した。

 そしてオリヴィアは《世界ヲ喰ラウ三頭淵竜エンドレス・アビス》が抜け出せず、意思力など風前の灯火。徐々に再生速度も低下しているのが分かった。

 まだまだという意気込みで心を叱咤する一方、もう無理だという諦めの気持ちもある。

 ターン制ゲームで例えるならば、敵が一撃でこちらを瀕死に追い込む攻撃ばかり使ってくるような状況と言えるだろう。こちらが回復しても、その度に一撃で瀕死に追い込まれる。回復のストックが尽きるまで止まることがない。

 オリヴィアの心境は、終わりのないジリ貧な戦いに対する絶望で満たされつつあったのだ。



(だめ……)



 致命傷を負って血が流れ出るように。

 意思次元の崩壊が止まらない。

 一度壊れ始めたらそれは加速度的に崩壊する。ダメだと思ってしまったら本当にダメになる。それが意思次元という繊細な領域なのだ。

 意思力の力で霊力体と情報次元を復活させるにも、オリヴィアの意思力が足りない。

 情報次元が壊されて即座に再生しても、徐々に再生部位が削られていく。

 今のオリヴィアは右足を含む右半身の殆どが消失していた。



(応えなさい【英霊師団降臨エインヘリアル】! 何でもいいわ! 私の意思力に応えて力を示すのよ!)



 権能は意思力に応える。

 しかし、ミレイナの巻き起こす破滅の意思力はオリヴィアを凌駕する。



「終わりだ! オリヴィア!」




 《世界ヲ喰ラウ三頭淵竜エンドレス・アビス》がミレイナの意思力によって具現する。世界にまで侵食した意思力が、ミレイナの放つ破滅の波動を一つの形にする。一度でアジ・ダハーカすらも飲み込む竜の顎が顕現した。



”オオオオオオオオオオオオッ!”



 破滅の波動を内包する竜の顎が閉じられる。

 オリヴィアの魂は砕け散った。













これ以上、戦いを引き延ばしたくなくなったのでミレイナに世界侵食を導入しました。

戦闘シーンも長すぎるとネタ切れになる……

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