EP463 総力戦㉔
リグレット、天妖猫メロ、天星狼テスタ、天竜ファルバッサが空間を隔離してアリアとラプラスを閉じ込めている間のこと。
リアとミレイナは邪龍アジ・ダハーカを憑依させたオリヴィアと対峙していた。
周囲では人型のネメア、天翼蛇カルディア、天雷獅子ハルシオンがオリヴィアを牽制するように飛び回る。オリヴィアはこの包囲を抜けることが出来ない。正面から戦うしか道はないのだ。
「行くぞリア!」
「ええ。ミレイナさんも気を付けて」
龍鱗が密集したような刀身を持つ龍刀を構えるオリヴィア。それに対してミレイナは正面から突撃を仕掛ける。
超越者であるオリヴィアにミレイナの動きが見えないはずない。カウンターの要領で龍刀を振り下ろし、ミレイナを切り裂こうとする。だが、ミレイナが纏う黒い波動が巨大な竜の翼となり、龍刀を受け止めた。
《深蝕》の力は「崩壊」と「無効化」の力。
防御であったとしても、逆に攻撃した側へとダメージを与える。
オリヴィアの龍刀は見事に砕け散った。
「っ!」
「隙だらけなのだぞ!」
振り下ろした直後で、オリヴィアには致命的な隙が生じた。戦士であるミレイナがそれを見逃すことはなく、《深蝕》の波動を竜の爪へと変形させて振り下ろした。
「ぐぅぅ……」
「崩壊」と「無効化」の力が超越者の防御力すら無視してダメージを与える。しかも傷口は徐々に侵食していくので、回復にも手間取る。まるで呪いのような力だ。
(《英霊屍装》でかなりの死霊を宿しているのに……役に立たないわ)
異世界を含む、死者の情報次元を身体に宿す。これによってオリヴィアの固有情報次元を強化する。それが《英霊屍装》の利点だ。
今のオリヴィアは《英霊屍装》によって無数の耐性を獲得している。
しかし、ミレイナは権能【葬無三頭竜】でその防御力を貫いた。
あらゆる防御を無視するのがミレイナの権能だ。防御を考える時点で間違っている。正しい対処方法は回避なのだから。
「吹き飛べ!」
《深蝕》の波動が竜の翼となり、オリヴィアを弾き飛ばす。当然ながら、この「波動」には「崩壊」「無効化」「風化」の特性が込められているのだ。触れるだけでダメージとなる。
霊力体をボロボロと崩れさせながら、オリヴィアは遠くまで吹き飛ばされた。
だが、アジ・ダハーカを宿したことでこちらも龍の力を手にしている。どす黒い龍翼を展開し、空中に留まった。そして再び邪龍の力を凝縮して龍刀を作り出す。
オリヴィアの身長を遥かに超える長い刀がその右手に握られた。
だが、オリヴィアに体勢を立て直す余裕などない。
”ハッハッハ! 隙だらけだぞ!”
ハルシオンが権能【雷神】による雷撃を落とした。敵を打ち砕く白き雷は、オリヴィアの情報次元を破壊した。特性「概念位相」が情報次元を滅茶苦茶に乱し、回復を遅らせる。
「止まっている暇はあらへんよ!」
更にネメアがオリヴィアの背後に回ったかと思うと、両手をオリヴィアの腰に当てた。そして魔素と気と権能を両手に集中させ、一極化させて放つ。
「はっ!」
「うぐっ……がは!?」
ネメアの持つ恐ろしいまでの体術により、オリヴィアは内部から破壊されたのだ。更に魔素と気と権能【殺生石】の毒がオリヴィアの体内で暴れまわり、凄まじい苦痛を与える。
ハルシオンの攻撃で情報次元が乱され毒耐性が不能状態に陥っていたのだ。
「竜殺しの毒や。効くやろ?」
これでも毒物のスペシャリスト。
龍という情報次元を取り込んだオリヴィアにとって、竜殺しの毒は致命的である。取り込んだアジ・ダハーカの情報次元が消滅し、巻き込まれてオリヴィア自身の情報次元も壊される。
「く……」
オリヴィアは急いでアジ・ダハーカの情報次元を切り離した。そしてすぐに死者の情報を閲覧し、その情報次元を取得して自身に取り込む。
錬成能力と付与能力で一本の剣を作り出し、それを握った。世界で名をはせた剣の使い手を幾人も憑依させ、その記憶から至高の剣術を発現する。それを以てネメアに斬りかかった。
「はあああああああああ!」
「甘い甘い」
しかしネメアは超越者としてあらゆる格闘術を極めた存在。例え剣聖と呼ばれた存在の技であろうとも、ステータスに縛られた者たちの技術など足元に及ぶのが限界である。
オリヴィアが引き出した剣技は借り物の技。
真に体術の使い手であるネメアに敵うはずもない。
「邪魔や。その剣、折れるで?」
金属を腐食させる毒物を両手に纏わせ、オリヴィアが錬成した剣を叩き折った。そして九本の尾が鞭のように鋭くしなり、オリヴィアを叩き潰す勢いで打ち付けられる。
「きゃっ!」
「そこです。ベクトル反転!」
ここでリアが動いた。転移でオリヴィアが吹き飛ばされた方向へと先回りし、神魔杖・白魔鏡によって物理ベクトルを反転させた。
より正確に言うと、ベクトルを反転させたのは空間そのものである。
これによってオリヴィアは何もない空間に打ち付けられた。その反作用でダメージを受けるだけでなく、本来なら空間に出来た壁に加わる衝撃が反転され、オリヴィアにダメージを与えたのだ。
いわゆる作用・反作用の法則であるが、この内の作用力もオリヴィアにダメージを与えたのである。
「ミレイナさん」
「ナイスサポートだぞリア!」
空間に打ち付けられたオリヴィアは、更にリアの時空操作能力で情報次元を縛られる。時間操作の本質は情報次元の変化速度を操作することだ。応用すれば、拘束にも使える。
ミレイナは莫大な霊力を口元に集め、圧縮し、気と権能を込めた。そして拘束されたオリヴィアの目の前に移動して解き放つ。
「があああああああああああああああああああ!」
それは超越化によってさらに強化された《爆竜息吹》。破壊の権能すら込められ、その威力は超越者の霊力体を一撃で吹き飛ばすほどになっている。
更にその瞬間、カルディアが空間を操作し、リアを強制転移させた。これでリアは《爆竜息吹》に巻き込まれない。
「ありがとうございますカルディア様」
”いえいえ。この程度は当然ですよ”
カルディアは長く超越者として生きている。権能【円環時空律】を充分に使いこなしているし、特性「時空間支配」も余すところなく使える。シビアなタイミングで強制転移を実行するぐらいは朝飯前なのだ。
尤も、リアが空間操作に対して全く抵抗しなかったからこそ、強制転移が簡単に成功したという面もあるにはあるが。
「ふぅ……流石にやるわね」
オリヴィアは何とか復活し、霊力体を再構築する。意思次元が無事な限り、何度でも蘇ることが出来るのが超越者だ。身体が塵になった程度で死にはしない。
しかし、無の状態から完全復活するにはそれなりの意思力を消耗する。
そうでなくともオリヴィアは何度も消滅し、意思力を削ってきたのだ。そろそろ本格的に拙い。平静を装っていても、内心では焦っていた。
(超越者が五体なんて反則よね。せめてオメガ様が勝利するまで耐えなければ……)
オメガが率いる準超越者の六王はクウと戦っている。そちらの勝負でオメガが勝利すれば、オリヴィアとラプラスを助けに来るだろう。
この戦いは、双方が単騎で複数の超越者を相手にすることで時間稼いでいる。
故に、先に時間稼ぎ役を倒した方が勝つのだ。
オリヴィアが先に倒れるか、ラプラスが先に倒れるか、クウが先に倒れるか。
総力戦の行方はそれにかかっている。
参謀役であったオリヴィアにもその程度は理解できているのだ。故に、無様であったとしても先に倒れるなど持って他と考える。オメガが勝利するまで地を這ってでも生き残り時間稼ぎをする意思だった。
”考え事をしている暇などないぞ!”
復活直後で立ち止まっているオリヴィアに、ハルシオンが容赦ない雷撃を落とす。しかし、所詮は正面攻撃だ。オリヴィアは余裕で回避する。そして剥がされた死者の情報次元を呼び出し、《英霊屍装》で再び身に宿す。
更に時間稼ぎを実行するため、オリヴィアは世界侵食を使った。
「来なさい! 私の領域! 《冥府顕在》!」
世界がオリヴィアの意思力で侵食され、淀んだ風景に変わっていく。不気味な渦が無数に出現し、そこから大量のデス・ユニバースが溢れ出た。
その数はあっという間に増していき、僅か数秒で百万を超える。
悠長にしていては一億すらも超えるだろう。
まず初めにリアとハルシオンが動いた。
「炎よ! 《熾天白焔》」
”打ち砕け! 《白光鳴神》”
聖なる炎が一瞬でデス・ユニバースを滅ぼし、縦横無尽に閃く雷撃がデス・ユニバースを原子レベルまで分解する。
しかし《冥府顕在》は世界そのものが死者の情報次元からデス・ユニバースを構築する。オリヴィアが侵食した領域において、情報次元に死者の情報が組み込まれているのだ。滅ぼした端からデス・ユニバースを復活させることが出来る。
オリヴィアの操作とは無縁に、死霊を無限に生産するのだ。
この死霊に操作の必要はない。
オリヴィアの意思力が侵食している以上、オリヴィアが敵と認識している存在も自動的にインプットされている。オリヴィアは霊力を注ぐだけで、後は勝手にデス・ユニバースが敵を滅ぼすのだ。
これが世界侵食《冥府顕在》の真価である。
「邪魔だ!」
そしてミレイナは権能【葬無三頭竜】を振るい、破壊の衝撃波でデス・ユニバースを瞬時に塵へと変えていた。
カルディアもブレスでデス・ユニバースを吹き飛ばし、亜空間に封じ込める。ネメアは毒でデス・ユニバースを滅ぼしていた。
「ふーん。鬱陶しいなぁ」
そして遂にネメアも面倒になったのか、人化を解いて本来の姿に戻る。黄金を思わせる九尾の姿こそ、ネメアの本性だ。そして揺らめく九本の尾には死毒が凝縮される。
”邪魔や”
放たれた《冥王の死宝》。
それが炸裂し、範囲内のデス・ユニバースを瞬時に殺した。情報次元を滅ぼす概念毒なのだ。不死性を獲得しているとは言え、ステータスに縛られたデス・ユニバース如きには耐えられない。これは超越者を殺せる毒なのだから。
デス・ユニバースは様々な世界で英雄や魔王と呼ばれた存在、あるいはそこまでいかずとも強者として知られていた者ばかりだ。それが強化されて不死性を獲得しているのだから、普通は絶望するような戦力である。
しかし超越者が五体も揃っている状況では使い捨てにされる程度の戦力にしかならない。
「リア! あれを頼むぞ!」
「はい。《並行転移》!」
リアはミレイナの声に応え、因果を遡る。そして宇宙の小惑星にまで干渉し、それが今、この場所に落ちてくる並行世界を再現した。一度時間を過去にまで遡り、因果の特異点を経由して特定の大災害が引き起こされる現在を呼び出す。
大隕石が上空から迫っていた。
ミレイナはそれに権能【葬無三頭竜】を付与する。
破壊の概念が込められた大隕石は自壊し、無数の小さな岩石となった。
「では行きます。ベクトル操作、加速!」
リアは神魔杖・白魔鏡を使い、分裂した全ての小惑星に下向きの加速を与えた。更にベクトル操作で空気抵抗から守る。
これによって、破壊の概念を帯びた小隕石が音速の数倍で降り注いだ。
上から下に破壊の権能が込められた岩石がの雨が降り注ぐのだ。デス・ユニバースは情報次元を砕かれて一撃で滅ぼされ、デス・ユニバースは広範囲に一掃される。
その範囲にはネメア、カルディア、ハルシオンも含まれていたが、この程度の攻撃を喰らうような超越者ではない。ある意味、それを信頼して巻き込んだのだ。
「……倒すには倒せますが、終わりがありませんね」
「ああ、どうするのだリア?」
「世界侵食なら同じ世界侵食で対抗できるはずです。しかし、私達はまだ使えません。カルディア様も先程使ったばかりですし、頼れるとすればハルシオン様かネメア様ですね」
”呼んだか?”
”ウチも呼ばれた気がするなぁ”
リアとミレイナは瞬時に移動してきたハルシオンとネメアに驚く。
だが、すぐに気を取り直して尋ねた。
「お二人は世界侵食を使えるのですか?」
”俺は使える。だが、発動時間が短い。持って数秒だ。この状況では役に立たないな”
”ウチも使えるけど……みんなを巻き込むから、使い勝手は悪いんよ”
この場で有効なのはやはりカルディアの世界侵食《無限時喰》だろう。情報次元を喰らえば、デス・ユニバースは再召喚もできなくなる。
しかし、カルディアは世界侵食を使ったばかりであり、再発動にはもう少しだけ時間が掛かるだろう。
「ふん。だったら私が強行突破してやる」
ミレイナの力は破壊。
無数のデス・ユニバースを突破し、オリヴィアの元に辿り着く。そして直接叩く。
「《深蝕》」
半透明の黒い波動がミレイナを包み込み、深紅の気が雷のように閃いた。それが収束し、竜の顎を模った形状に変化する。
竜の顎が開かれ、そこにミレイナの霊力が集中した。
特性「破壊」「無効化」が込められ、更にあらゆる物質を滅ぼす風化属性も込められる。
ミレイナの権能が霊力と共に凝縮された。
「オリヴィアが世界に意思力を浸透させても、全部潰せば問題ないのだぞ! 《深淵波哮》!」
黒い波動で形成された竜から破壊の力が放たれた。





