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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
天使覚醒編
46/566

EP45 迷宮の淫魔

今回は久しぶりに主人公の登場です。

 人の国、ルメリオス王国の北部に位置する迷宮都市【ヘルシア】にある高級宿の食堂に、黒と白という対極的な服装をした男女が向かい合って座っていた。テーブルの上には朝食として用意されたボア系魔物肉の燻製、生野菜のサラダ、牛乳を使ったシチュー風のスープが2人分。そして中央にはバスケットにパンがいくつか入れられて置かれていた。

 この2人はここ最近で有名になった冒険者であり、もちろんクウと義妹のリアである。今やトップクラスの冒険者である2人の会話をこっそり聞こうと耳をそばだてる者たちもいるのだが、クウとしても聞かれて問題ない内容だと判断したので気にすることなく話を続けている。



「今日は50階層のボスを倒すぞ。準備は出来てるか?」


「はい、ポーション類は昨日買っておきました。クウ兄様は?」


「俺も昨日はレベル上げをしてきた。なんとかリアには追いついたよ」



 そう言いながらパンを千切って口に運ぶクウ。

 リアを妹にしたのはいいのだが、実はレベルが格下であったことを少し気にしていたのだ。だが、何度かソロで迷宮に潜りながらレベリングすることで、昨日ようやく追いつくことができていた。



―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ 16歳

種族 人 ♂

Lv62


HP:2,589/2,589

MP:2,488/2,488


力 :2,062

体力 :2,015

魔力 :2,241

精神 :6,900

俊敏 :2,369

器用 :2,358

運 :40


【固有能力】

《虚の瞳》


【通常能力】

《剣術Lv5》

《抜刀術 Lv7》

《偽装Lv7》

《看破Lv7》

《魔纏Lv4》

《闇魔法Lv5》

《光魔法Lv5》


【加護】

《虚神の加護》


【称号】

《異世界人》《虚神の使徒》《精神を砕く者》

《兄》

―――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――

リア・アカツキ   14歳

種族 人 ♀

Lv62


HP:2,220/2,220

MP:2,953/2,953


力 :1,689

体力 :1,712

魔力 :2,158

精神 :2,214

俊敏 :1,757

器用 :2,192

運 :31


【固有能力】

《治癒の光》


【通常能力】

《礼儀作法Lv4》

《舞踊Lv4》

《杖術Lv5》

《炎魔法Lv6》

《光魔法Lv5》

《回復魔法Lv7》


【称号】

《元伯爵令嬢》《魔法の申し子》《妹》

―――――――――――――――――――




 ステータスも大きく上昇し、49階層以下の魔物では歯ごたえがないと感じるほどになってしまったため、クウは早めに50階層を突破しておくことにした。元々は悪目立ちを避けるために攻略ペースを落とすつもりだったのだが、ギルドマスターのブランとの模擬戦の一件や、貴族であるはずのフィリアリアがリアと名を変えてクウの妹になっていることから「あの新人はちょっとヤバい」と噂されるようになり、絡んできたり、ちょっかいをかける者たちは全くいなかったのだ。



(まぁ、その噂のお陰で仲良くしてくれるのは『風の剣』をはじめとした極少数だけどな……)



 クウはサラダにフォークを突き刺しながら、この街【ヘルシア】に来るときに合い馬車となったBランク冒険者パーティを思い出す。さらにクウがバウンドという盗賊技能持ちの弓使いを紹介したことで親交も深いパーティとなっていた。たまに出会っては宴会染みたこともしていたりする。

 また宴会の時に初めてお酒を勧められたのだが、「アルコールは二十歳以上から」という日本の法律が頭に残っていたために遠慮したのだ。もちろんこの世界エヴァンでは成人する15歳からお酒を飲めるようになるのだが、クウは学校の保健の授業を思い出して医学的な観点から飲まないことにしたのだった。当然ながらブーイングの嵐に包まれたのだが……



(全く……何が楽しくて毒物を自ら摂取するんだよ……)



 ため息を吐きだしながらサラダにフォークを刺したり抜いたりを繰り返すクウを見て、対面に座るリアは心配そうに声を掛けた。



「クウ兄様? どうかしましたか?」


「え? ああ、いや……何でもない。ちょっと考え事をしてただけだ」



 誤魔化すように左手を振ってサラダを口に運ぶのだが、リアは納得いかないようにジト目を送る。クウとしてはかなりどうでもいいことを考えていただけなので、これ以上話すつもりはなかった。何とか話題を変えようとして頭をフル回転させる。



「えぇと……そうだ、今日はいつぐらいに迷宮に行こうか?」


「……まぁ、いいでしょう。そうですね。10時ぐらいでどうですか?」



 露骨に話題を変えるクウにリアはむくれたような顔をするが、仕方ないとばかりにため息を吐く。今更クウの隠し事が1つ増えたところで問題ないだろうと思ったのだ。実際、未だにクウは《虚神の加護》と《虚の瞳》、そして《異世界人》と《虚神の使徒》の称号については話していない。ステータスを隠しているということは明かしているのだが、万が一のことを考えて話せずにいたのだ。



(いずれは話さないとな……)



 クウのことを信用してくれているにも関わらず、リアに全てを打ち明けられないことに葛藤するが、そんな様子は表情に出すことなく話を続ける。



「そうだな10時になったら宿をでることにしよう。今日はボス戦だけの予定だし、ギルドに行く必要はないだろうから直接迷宮ダンジョンまで行くぞ。朝食が終わったら腹ごなしに軽く体を動かして温めておけ」


「はい」



 その後も他愛ない会話を続けながら優雅な朝食の時を過ごした。有名な冒険者となっただけあって、たまに商人が護衛の指名依頼を頼みに近づいて来たのだが、迷宮攻略が目的であるクウが首を縦に振るはずもなく、その商人たちはガックリ肩を落としながら席を離れていくのだった。












「さてと、軽く素振りでもするかな……」


 高級宿だけあって、宿の裏側には冒険者が軽く運動できるような広場がある。朝のトレーニングや、迷宮攻略前に身体を温めておこうと考える冒険者たちが数人利用している中に、クウも鋼の剣を持って混じっていく。

 この鋼の剣は魔剣ベリアルで素振りや修練をするのは目立ちすぎると考えて買ったそれなりに質のいい長剣であり、手加減するときにも重宝していた。魔剣ベリアルが余りに強力すぎるので、冒険者どうしで訓練としての模擬戦などをする時には使えなかったからだ。



「フッ、ハッ!」



 軽く体操と柔軟を済ませた後、始めは元の世界にいた頃の部活でやっていた剣道を思い出しながら、型に沿って剣を振っていく。身体が温まってくると、徐々に実践を想定した仮想敵をイメージしながら剣を振り降ろす。刀とは扱いや体の運び方が異なるために、重心の移動から姿勢制御に至るまでを吟味しながら訓練を重ねる。最後にクウの育ての父親、つまり朱月家当主であり人間国宝とまで呼ばれた相手を仮想敵として剣を振るった。



「くっ! あっ……」



 だが最後はクウの剣を鞘で受け流されて、そのまま刀を突きつけられるイメージで終わる。



「くそっ、まだ勝てないか……」



 そう呟きながら鋼の剣を鞘に納めてアイテム袋に仕舞ったところでリアが近づいてきた。当然クウは気づいているため、リアの方を振り向く。悔しそうな顔をしているクウに苦笑しながらリアは口を開いた。



「クウ兄様、そろそろ時間ではありませんか?」



 そう言われて左手に付けたソーラー式の腕時計を見ると、確かに時計の短針は10を指していた。異世界である地球から持ってきたものではあるが、時刻を知るという意味でかなり重宝している。

 クウも訓練に熱中している内にかなり時間が経っていたことに気付き、慌てて汗を流すためにシャワー浴びようと宿の部屋へと戻っていった。




 少し10時を回ってしまったものの、クウとリアはほぼ予定通りに宿を出て虚空迷宮へと向かった。この時間帯となると、通りは露店や屋台で賑わうのだが冒険者の数は異様に少ない。ほとんどが迷宮ないしは街の外へと依頼に出かけたからである。そういった理由で少しばかりの注目を浴びながら2人は遠くに見える白亜の神殿風の建物へと歩みを進めた。



「やはりこの時間だと空いているな」


「ほとんどの冒険者は1時間以上前に迷宮へと出かけますから」



 真っ白な外観と神々しい風貌を見せる虚空迷宮には、時間帯によっては長蛇の列が出来上がるのだが、2人は特に並ぶこともなく転移クリスタルを使用することが出来た。エントランス中央に鎮座する巨大なクリスタルへと手を触れ「50階層へ」と呟く。クウとリアの姿は淡い光の粒子となって消え失せた。







~50階層~


「よし、リアもいるな。まずは幻術を解除する」


「はい」



 転移直後にリアがいることを確認したクウは《虚の瞳》でリアに幻覚の上塗りをした。その後アイテム袋から樹刀の鞘に納められた木刀ムラサメを取り出して左手に持つ。同じくリアも自分のアイテム袋から杖を取り出して装備した。回復用のポーション類はすぐに取り出せるようにアイテム袋の位置を調整し、その他の装備に不備がないかを確認する。

 お互いに万全であることをチェックし、頷き合って転移クリスタルの小部屋から出る。階段を降りればそこがボス部屋である50階層だ。



「見えたぞ。50階層の扉だ」



 クウが呟きながら視線を送った先には高さ3mはある両開きの金属扉。今までのボス部屋の扉よりも大きく、また扉表面には薄らと紋様が刻み込まれていた。



「これは……悪魔……でしょうか?」


「どうだろうな?」



 リアの言う通り、扉の紋様は翼と角を持った女の姿であり、人と思しきものから何かを吸い出しているような描写からまさに悪魔であるように見えた。エヴァンでも悪魔は魂を吸い取るという認識をされた存在なのだが、地球と違って実際に魔物として存在していた。実態としては《HP吸収》という能力を使っているだけであるため、特に天使と対立しているというようなことはない。



「もしかしてこの先のボスを示唆しているのか? 前もってボスの情報をくれるなんて太っ腹な迷宮ダンジョンだな」


「悪魔だとすれば光系統の魔法が有効ですね」


「まぁ、どうせ《看破》使うから意味ないけどな。心構えという点ではありがたいけど、こっちの考えを誘導している可能性もあるから油断するなよ?」



 クウはそう言いながら扉に両手をかけて力を込める。後衛のリアはいつでも魔法を放てるように緊張した面持ちで杖を構えた。

 ギリギリと嫌な音を立てながら扉は開いていき、円形に広がったいつものボスフロアが視界に映る。その中央には50階層のボスと思われる影がポツンと存在していた。

 クウとリアは部屋に飛び込んでそれぞれ武器を構える。前衛であるクウは右手を木刀ムラサメの柄にかけていつでも抜き放てるようにと集中し、リアはクウの右斜め後ろに下がって中央の影を観察しながら魔力を高め始めた。



「リア、こっちに寄ってくる。取りあえず《看破Lv7》を使うから気を抜くなよ!」


「はい!」



 クウとリアが部屋に入ってきたことを認識してユラリユラリと近寄る影。その姿を確認すると、扉にあった悪魔のような女に近い姿をしている。ただ、耳は尖り、鼻は醜く曲がった醜悪な老婆のような顔立ちであり、背中に生やした翼を使って浮きながら音もたてずに移動していた。



(やはり悪魔か? ……とにかく《看破》!)




―――――――――――――――――――

   ――    694歳

種族 サキュバス ♀

Lv64


HP:2,880/2,880

MP:2,940/2,940


力 :1,799

体力 :1,852

魔力 :2,522

精神 :2,612

俊敏 :2,241

器用 :2,004

運 :33


【通常能力】

《淫魔の幻惑Lv6》

《HP吸収Lv5》

《MP吸収Lv5》

《闇耐性Lv4》

―――――――――――――――――――


《淫魔の幻惑Lv6》

性的な幻覚を精神に刷り込む。

性欲に打ち勝てなければ破られない。




(サキュバス? てかこいつの攻撃って俺たちには全く効かないんじゃ……?)


 

 殺気を放つことなくゆっくりと浮遊しながら近づいてくるサキュバスは両の手を広げてクウへと迫る。だが、そんなやる気のない動きしかしないサキュバスはクウにとっては的でしかなく――――


 ザンッ!


 10.5倍まで加速された居合の『閃』で首を落とした。



「え? 終わりですか……?」


「みたいだな……」



 クウが《看破Lv7》で確認すると、確かにサキュバスは死亡と表示されていた。あまりのあっけなさに拍子抜けする2人だったが、これは単にクウとサキュバスという魔物の相性の問題である。

 《淫魔の幻惑Lv6》で相手の動きを止めて意識を手中に収めた状態で抱き着いて《HP吸収》と《MP吸収》を発動させるのがサキュバスの基本戦術なのだが、クウは幻覚無効であり、リアはクウの能力で正常な景色を見せられているため効果が全くなかった。油断して不用意に近づいたサキュバスはクウの一撃によって、いとも簡単に散らされてしまう。



「まぁ、こんなこともあるさ」


「そうですね」



 呆気なさ過ぎて不完全燃焼の2人は、その後さらに下の51階層へと潜ることにするのだった。




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