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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP452 総力戦⑬


 オメガは無敵の力を捨て、神龍と融合した。

 これによってダメージを受ける状態になったが、代わりに本来の力を取り戻した。更にザドヘルが消滅したことを利用して虚数次元とも一時的接続を獲得し、莫大な霊力を手にしている。この霊力を利用して六体もの眷属を維持していた。

 そして虚数次元のエネルギーは実質無限である。正確には無限にも思える有限なのだが、無限と判断して相違ないだろう。

 オメガは無限のエネルギーを存分に利用することに決めた。



「これだけで済むと思わぬことだ。裏世界より来たれ、《神格降臨ディセンダー》」



 自身が持つ光神シンとの繋がりを利用し、裏世界との契約に従って、その世界に存在する超越者を強制的に召喚する。正確には、光神シンが作り出した神種の超越者を呼び出して従えるのだ。

 悍ましい幾何学模様が天を裂き、雷の如きエネルギーが光となって弾けた。



「超越者を呼び出す気か!」



 それに気付いたクウは即座に《幻葬眼》を使い、展開されている幾何学模様を破壊しようとする。だが、オメガは虚数次元から得ている莫大な霊力を注いでいるのだ。熾天使セラフィム級とは言え、天使であるクウの力では完全に破壊することは出来ない。

 オメガの発動意志を破壊しかけたのだが、莫大な霊力がそれを補完してしまった。



「ダメか」


「ならば私がやる!」



 同じくアリアも空間系の力で空の召喚陣を妨害しようとする。しかし、やはり霊力が足りない。

 確かに一度に扱える霊力はクウ、アリア、オメガで大差ないのだが、常に虚数次元からエネルギーを供給される今のオメガにはどうしても勝てないのだ。使った端から補給されるからである。

 そして六体の眷属が守っている以上、ユナは動けない。

 クウとアリアの力が通用しないのを見たからか、ファルバッサ、ハルシオン、メロも動く様子を見せず、観察に徹していた。



「ククク、諦めたか? さぁ、来い!」



 天が裂け、空間を押し退けて小さな超越者が召喚された。

 人間の頭部とほとんど変わらない大きさであり、背中に薄い羽を持った少女の姿がそこにあった。



”キャハハハ!”



 幼いような、そうでもないような声が響いた。

 見た目相応の無邪気さも感じ取れる。同時に、その表情からは残虐性も垣間見えた。

 クウは即座に《真理の瞳》を発動し、固有情報次元を解析する。





―――――――――――――――――――

シャヌ         892歳

種族 超越神種妖精

「意思生命体」「魔素支配」「幻惑」

「浮遊」


権能 【刺枝叛葉樹ミストルティン

「植物」「無効化」「貫通」

―――――――――――――――――――




 これで超越者と準超越者が合わせて七体追加されたことになった。オメガと、戦力外のオリヴィアを含めれば九体となる。数の上ではクウたちが負けだ。

 だが、オメガはこれだけで止まらない。



「降臨せよ! 《終焉の審判ラストオーダー》!」



 トドメとばかりに世界侵食イクセーザを発動し、黒紫の魔神アラストルを呼び出す。魔神はオメガにそっくりの見た目であるが、全身が黒紫であり、面影程度しか感じない。しかし、その強さは凄まじい。

 オメガの隣に並び立ち、悠然と構えていた。翼はなく、足元に黒紫の足場を作って立っている。



「オリヴィアよ。お前はアジ・ダハーカの元に戻り、あちらを抑えよ。こちらは我だけで十分だ」


「かしこまりましたオメガ様」



 オリヴィアはアジ・ダハーカに命令し、邪龍の一帯を呼び寄せる。それに乗ったオリヴィアは、アジ・ダハーカの方へと移動していった。弱っているオリヴィアは討伐のチャンスとは言え、流石にこのタイミングでは手を出せない。

 クウは「魔眼」で攻撃しようとも思ったが、流石にオメガから目を離せなかった。



「ユナ、アリア、どうする?」


「ちょっとヤバいかもねー」


「ああ、拙いな」



 オメガ、シャヌの超越者に加え、グリフォン、インペリアル・アント、アラクネ・クイーン、フェンリル、キングダム・スケルトン・ロード、カースド・デーモンの準超越者、そして世界侵食イクセーザである魔神アラストル。

 合わせれば九体である。



「オメガには気を付けろ。今は虚数次元から莫大なエネルギーを受け取っている。俺の「魔眼」だと、それが怖いぐらいに見えるな」


「それは……ほぼ無敵ということか? いや、その力を考えれば、時間制限があると思うべきだな」


「俺も同意だ。時間を稼げば、いずれ眷属を維持できなくなる。世界侵食イクセーザも切れるはずだ。あの妖精だけは要注意だな」


「なるほど。戦力分担が大事だな」



 搦め手が得意なクウ、接近戦が得意なユナ、万能型のアリア、同じく万能のファルバッサ、攻撃力と速度のハルシオン、味方を増やせるメロ。

 それぞれに方向性があり、上手く戦えば時間稼ぎぐらいは出来るだろう。

 しかし、オメガがそれをさせないことも分かっている。



「ふ……我が戦力分断をさせると思ったか? 囲い込め」



 オメガがそう指示すると、クウたちの周囲を六体の眷属が囲い込む。この眷属たちは六王とも呼ばれた魔物を元に再構成された準超越者だ。権能の厄介さは身に染みている。

 このまま乱戦となれば、数で劣るクウたちが不利だった。



「なるほどな」



 クウは《真理の瞳》を解除せず、戦力分析を続ける。恐らく、これから十分から十五分はオメガの力も持つだろう。つまり、九体の超越者級を相手に戦わなければならない。加えてオメガと魔神は手が付けられないほど強いと思った方がいい。その庇護下にある六王も同様だろう。

 敢えて言うなら、裏世界から召喚された妖精シャヌがまともな超越者と言ったところだ。

 考え込むクウに対し、アリアは即座に判断を降そうとする。



「メロは妖魔を生み出せ。私がサポートするからユナとハルシオンで一体を潰すことに集中しろ。クウはメロと共に幻術で足止めだ。ファルバッサも私と同じサポートを頼んだぞ」


「いや、待てアリア!」


「なんだクウ。動くならこちらが先手を取らないと――」


「その必要はない。この場は俺とユナだけで対処する」



 はい? と言葉を詰まらせるアリアをよそに、クウは魔神剣ベリアルを取り出した。そして剣を抜き放ち、疑似精霊ベリアルを再び顕現させる。



「あら? また呼び出したのマスター」


「ああ、暫くは自分・・を使え」



 クウはベリアルに魔神剣ベリアルを投げ渡す。

 その間にアリアも意識を復活させたのか、クウに問い詰めた。



「流石に二人では無理だ。時間稼ぎにもならないぞ。幾ら幻術を使ったとしても――」


「大丈夫だ。ただし、五分だけだと思え。その間にアジ・ダハーカとオリヴィアを倒し、リアとカルディアもこちらに加勢できるように整えてくれ」



 そう言い切ったクウは目を閉じて集中を始める。そして今度はユナの方に目を向けるアリア。しかしながら、ユナの答えは決まっていた。



「大丈夫だと思うよ。任せてアリアちゃん」


「……全く。お前たちときたら……」



 呆れつつも、アリアはこれ以上問い詰めるのを止めた。クウが問題ないと言っているのだから、冗談ではないのだろうと思ったのである。

 先程言った自分の意見を取り消すことに決めた。



「ではクウの作戦で行く。私が転移でファルバッサ、ハルシオン、メロを連れて行く。どのタイミングで転移すればいい?」


「俺がユナと妖精の超越者を隔離する。ユナはそっち担当だ。あの妖精はお前と相性が良い。ベリアルと一緒に妖精を倒せ」


「分かったよ。頑張るね、くーちゃん!」


「ああ、頼む。で、アリアはユナとベリアルと妖精が隔離されると同時に転移で向こうに行ってくれ」


「いいだろう。転移に対する抵抗を緩めてくれよファルバッサ、ハルシオン、メロ」


”うむ”


”俺はこいつらと戦ってみてぇんだが……ま、仕方ねぇな”


”儂はいつでも構わんよ”



 神獣たちからも承認が得られたところで、アリアはクウに質問する。相変わらず目を閉じたクウは、どこか雰囲気が変わって見えた。



「クウ、どうやって隔離を成功させるつもりだ?」


「こうするんだよ」



 その言葉だけを言い残し、クウはその場から消えた。

 次に現れたのは、妖精シャヌの真後ろである。



「《熾神時間セラフィック・タイム》」


”にゅっ!?”



 同時にシャヌは謎の力で吹き飛ばされ、ユナの方へと向かって行く。そして、ベリアルは魔神剣ベリアルを掲げ、素早く《黒死結界》を発動させた。ユナ、ベリアル、シャヌは黒い球状の結界に包まれる。

 すぐにアリアも転移に移った。

 しかし、オメガがそれをさせない。



「させるか! 行け魔神よ!」



 妖精シャヌが吹き飛ばされた時はオメガも唖然としかけたが、すぐに復活して邪魔をする。魔神アラストルを使って転移を失敗させようとしたのである。

 『世界の情報レコード』に組み込まれていない超越者を自分を含め四体同時に転移させるとなると、少しは時間を必要とする。そのわずかな時間を狙っての攻撃だった。

 しかし、魔神アラストルの攻撃はクウが邪魔をした。



「させるかよ!」



 再びその場から消え、一瞬で魔神の隣に現れた。その恰好は居合の構えであり、何かをした様子はない。しかし、魔神アラストルは縦に真っ二つの状態へと切り裂かれていた。

 アリアは転移を成功させ、その場から消える。

 戦場の分離は成功した。



「さて、五分で何体減らせるか……」



 クウの瞳には六芒星が輝いていた。










 ◆ ◆ ◆








 時はほんの少しだけ遡る。

 六王を眷属死霊として蘇らせたオリヴィアは、アジ・ダハーカの元まで戻ってきた。相変わらずアジ・ダハーカはリア、カルディア、ネメアを相手に奮戦している。

 そして背に生やした骸の大樹は、相変わらずミレイナを封印していた。



(作戦通り、オメガ様に六王を譲渡できたわ。後は私がこちらを抑えなきゃだめね)



 死霊アジ・ダハーカは特別製だ。

 そもそも、アジ・ダハーカが眷属である以上、その主であるオリヴィアを倒さなければ、消滅しても復活させることすら可能である。

 眷属とは謂わば武器の一種だ。

 魂を持つ存在ではなく、意思力と潜在力を注いで作り上げた仮初の存在。

 結局はオリヴィア本人を倒さない限り、戦いに終わりはない。

 リアは時間転移でサポートに努め、カルディアは時間捕食でアジ・ダハーカに攻撃し、ネメアは邪龍を始末する。しかし、オリヴィアに攻撃を仕掛けるほど余裕はない。



(三対一でこちらが不利。でも、このまま拮抗状態が続いても勝てないわ。ここから攻めるべきね!)



 オリヴィアはアジ・ダハーカに命令する。

 空間系の属性を特性「千死追憶」から呼び出し、同時に隠密系の属性も使用する。これによって空間の歪みを感知させず、天翼蛇カルディアの背後に移動した。

 空間を扱うことを得意とするリアやカルディアさえも感知できず、カルディアは白い「龍鱗」に包まれた胴に咬みつかれる。アジ・ダハーカはすぐに眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】を発動した。



”ぐっ……急に攻撃手段を変えてきましたね”



 カルディアは呻く。

 眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】によって「吸生」が発動し、カルディアの持つ情報次元を吸い取っていく。同時に瘴気を流し込み、ダメージも与えた。

 アジ・ダハーカは三つの首で次々とカルディアに咬みつき、情報次元を吸い上げる。そして「千死追憶」によって吸い取った情報次元を組み立て、特性「瘴魔」で形に変える。

 再び転移で離れたアジ・ダハーカは、三つの頭部から黒い息を吐きだした。それは禍々しい意志を含む瘴気であり、それは徐々に形を成していく。「吸生」「千死追憶」「瘴魔」を組み合わせたアジ・ダハーカの基本能力が発動した。



「あれは……カルディア様?」


”どうやら情報次元を元にしてコピーを作り出せるようですね”



 大量の瘴気はカルディアにそっくりとなった。色こそ黒だが、見た目や大きさは本物のカルディアと遜色ない。後は能力までコピーしているかどうかが問題だった。

 生み出された黒カルディアは、全身を激しく動かして特攻を仕掛ける。これに対して本物のカルディアは権能【円環時空律ウロヴォロス】を発動し、黒カルディアの頭部に時間捕食を仕掛けた。特性「循環」によって時間をループさせ、「因果操作」で閉じ込めて切り離す。

 そして情報次元を時間の檻で切り取り、カルディアのものにしてしまうのだ。

 情報次元を切り取られた黒カルディアは、頭部を失ってその場でピクリと震える。

 特に抵抗もなく捕食が発動したことで、逆にカルディアが驚いた。

 だが、それは罠だった。



「掛かったわね!」



 オリヴィアは歓喜の声を出す。

 同時に、本物のカルディアも黒カルディアと同様に頭部が消失した。

 眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】が作り出した瘴気のカルディアは一種の呪いなのだ。特性「吸生」によって吸い取った情報次元を元に、「瘴魔」と「千死追憶」で再構築と同時に呪いの魔法を仕掛ける。

 つまり、黒カルディアが負ったダメージは本物のカルディアにも共有されるのである。

 勿論、カルディアが傷を負っても黒カルディアには何の影響もない。呪いの逆流はしっかりと阻止されている。



「カルディア様!」


”……問題ありません。ですが、あれは呪い。厄介ですね”



 カルディアは超越者であるため、頭部を破壊されてもすぐに再生する。幸いにも《時間点消滅タイム・ディスパージョン》で時間を喰らったので、黒カルディアは再生する様子がない。呪いは再生後まで適応されるわけではないらしい。

 そこだけは救いだった。



”恐らくはダメージをそのまま私に移すのでしょう。姿形はコピーされたようですが、幸いにも権能までは持っていないようです”


「分かりました。過去転移で呪いを消します」



 リアは《時間転移タイム・シーフ》を発動し、時間を転移させる。つまり、カルディアが情報次元を吸い取られていない過去に移動したのだ。これによってアジ・ダハーカの眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】は発動しなかったことになり、黒カルディアは消え去った。



”ありがとうございます、リア”


「あの黒い木に包まれたミレイナさんも心配です。急ぎましょう。それにクウ兄様の方も大きく動いたようですから」


”ええ、ネメアが邪龍を引き付けてくれているのです。その間にアジ・ダハーカを倒しましょう”



 リアとカルディアは意気込み、霊力とオーラを解放する。

 丁度その頃、クウたちの戦場ではオメガが《終焉の審判ラストオーダー》を発動し、魔神アラストルを顕現させたところだった。



”少し本気を出しましょう。もう少し様子を見てからと思っていたのですが、世界侵食イクセーザで一気に追い詰めます”


「私は何をすれば?」


”ミレイナを助けてあげてください。そして回復させてあげるのです”


「分かりました。アジ・ダハーカはお任せ―――」



 その時、アジ・ダハーカの方から見覚えのある気配を感じた。それは燃えるような激しいオーラの波動であり、周囲を塗りつぶすほどの勢いである。

 目を向ければ、アジ・ダハーカの背にある骸の大樹《屍骸大樹アンチ・セフィロト》の内側から深紅の光が漏れていた。







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