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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP450 総力戦⑪

 前回、ミレイナの指輪の説明について忘れていたので捕捉を。

 と言っても、特別な説明はありません。情報次元に干渉し、竜人の情報から竜の因子を強く表出させるだけの効果を持った魔道具です。リグレットが作りました。

 深竜化は通常の竜化の二倍から十倍の力があると思ってください。ムラがあるのは、意思力が安定しないためです。


 強い紫の閃光が収まった後、クウはゆっくりと目を開いた。



(これは……?)



 見渡すと、空も海も紫に染まっている。それだけでなく、妙に力が抜ける感覚もあった。「魔眼」も強制的に解除され、天使翼で浮くのも普段の数十倍は疲れる気もする。



(そうだ。ユナは?)



 すぐに感知を行うが、ユナの気配は感じ取れない。それだけでなく、ファルバッサやハルシオンやベリアルの気配もなかった。

 だが、上下左右に目を向けると、その姿を見つける。



(良かった。単純に感知が邪魔されているだけだったか)



 流石に超越者が一撃で消滅させられるということは想定していない。クウの《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》は例外といえるため、あれは除外する。

 改めて観察すると、ザドヘルと神龍の姿も見えた。

 どうやら、ザドヘルは《黒死結界》から脱出したらしい。

 取りあえず、ユナに呼びかけて詳しい話を聞くことにした。



(ユナっ! ……ん?)



 しかし、声が出ない。いや、発声している感覚はあるのだが、それが聞こえない。音が消失しているか、クウの耳に異常があるのか。

 呼びかけられたユナもクウの声が聞こえていないようなので、前者と判断した。

 まずは《真理の瞳》で情報次元を観察する。



(く……普段よりも大量の霊力がいるな。情報次元が分解されているのか?)



 「魔眼」と「理」を組み合わせるだけの《真理の瞳》すら、発動に苦労する。それは霊力が大量に必要なだけでなく、発動難易度も上がっているように感じた。

 僅かに見えた情報次元から、情報次元を形成するコードが常時分解されているとだけ分かった。ベリアルは魔神剣ベリアルから顕現した存在であるため、情報次元の分解を喰らって剣に戻ってしまったのだろう。



(これがザドヘルの世界侵食イクセーザ……ということか)



 このせいでクウの《夢幻》も解除されてしまい、神龍は催眠から解放されている。そしてザドヘルは空気の固体を足場にして宙を歩き、神龍の頭部に乗った。

 その間に、クウは飛翔してユナの隣にまで飛ぶ。



(聞こえるかユナ?)

(何言っているか分かんないよくーちゃん!)

(ダメか)

(くーちゃん? 聞こえないよー?)



 試しに右手の魔法陣でファルバッサとの会話も試みるが、それも機能しない。

 情報次元の分解によるものだろう。



「ふん。困惑しているようだな」



 ザドヘルはそんなクウたちに向かって声を張り上げる。



「これが俺の世界侵食(イクセーザ)、《煉獄凍獄パラドックス・ヘル》だ。長くは発動できないんでな。さっさと決めさせて貰う!」



 そう言って右手を上から下へと振り下ろす。

 すると、クウの背中にあった天使翼が全て消失した。



(なっ……!)



 天使翼は浮遊と飛翔の固有情報次元を有しているため、失えば落下する。クウは重力に従い、海へと落ちていった。突然のことでユナ、ファルバッサ、ハルシオンも反応できず、水柱が立ち昇った頃になってようやく動き出す。



(くーちゃん!? よくも!)



 ユナは権能【聖装潔陽光アポロン】で大量の武器を作り出した。剣、ナイフ、刀、槍、斧、矢といった代表的な武装が出現し、ユナの周囲で浮遊する。

 これらを全てザドヘルと神龍に向かって射出しようとした。

 だが、それよりも先にザドヘルが再び右腕を振り下ろす。すると、顕現させた全ての武装が淡い光の粒子となって消失した。



(嘘ぉ!?)



 こうして直接喰らえば、ユナも情報次元の分解という攻撃に気付く。だが、同時に普通ではあり得ない現象に驚いた。

 確かに、超越者は情報次元に攻撃することでダメージを与えることが出来る。だが、意思力さえあれば情報次元の修復も容易い。何度も攻撃を続け、相手の心を折ることで勝利するのが基本だ。クウのように直接意思次元を攻撃するのは例外である。

 そして殆どの権能は情報次元に干渉する力。

 理論上、相手の情報次元を分解することも不可能ではない。だが、それは相当高度な術式を、超高出力で使用する必要がある。ザドヘルはそれを行っているのだ。驚かないはずがない。

 しかも、常時情報次元を分解することで、権能発動にも負担を強いている。

 通常よりも大量の霊力を使って初めて、分解されずに権能を維持できる。だが、ザドヘルが局所的に分解を発動すれば、発動した権能も分解される。

 これによってユナの武器が全て消失したのだ。

 無防備になったユナたちに向けて、今度は神龍がブレスを吐く。



「オオオオオオオオオオオッ!」



 特性「滅亡」が込められた《滅亡龍息吹ルイン・ドラゴン・ブレス》によって、情報次元ごと滅ぼされる。流石に直線的な攻撃であるためユナもファルバッサもハルシオンも回避することは出来た。

 しかし、やはり動きは鈍い。

 固有情報次元すら侵食して分解するため、自身を維持するために大量の霊力を必要とするのだ。更に、動くという情報すらも分解され、非常に移動しにくい。

 その鈍い動きを狙って、神龍は七つの瞳をファルバッサに向けた。



(む……ぐおおっ!?)



 視線を向けられたファルバッサは、両翼、両足、首、尾、頭部を空間ごと捩じり潰される。本当ならば空間法則を支配することで防げた。しかし、それをザドヘルの力で分解されたのだ。

 神龍の特性「龍眼」と「次元支配」の組み合わせ、《七焉消滅眼エクスティンクト・アイ》によってファルバッサは海に落とされる。超越者なので死にはしないが、回復には時間が掛かるだろう。

 更にその間、ザドヘルはハルシオンを狙う。



「捉えたぞ!」



 ザドヘルが左手を伸ばすと同時に、ハルシオンは動きを完全に封じられた。

 これは権能【氷炎地獄インフェルノ】の特性「沈静」による効果であり、世界へと侵食した意志が情報次元を沈静化させた。これによって、ハルシオンは情報の固体となったのである。

 そしてここからが本番だ。

 特性「熱支配」によって、情報に対して三態の概念を持ち込む。固体、液体、気体という状態を、情報次元に対して与えるのだ。「沈静」によって固体化した情報は、座標上で完全固定される。そして、「活性」を与えられることで一瞬で気体へと変化するのだ。

 つまりは、情報次元の昇華。

 これこそが、情報次元を分解する仕組みである。

 「熱支配」によって情報に三態の概念を与え、「沈静」と「活性」という矛盾した特性を当て嵌めることで、あらゆる情報を分解する。

 世界侵食イクセーザ煉獄凍獄パラドックス・ヘル》の正体はこれだ。

 ちなみに、情報次元を凍結してから蒸発させるのは、一度凍らせて標的化ターゲットしやすくするためである。

 情報昇華を喰らったハルシオンは霊力体を一気に分解された。

 意思力による抵抗で完全分解とはいかないが、全身に欠損という大ダメージである。ハルシオンは力なく海へと落下する。



(ハルちゃん!)



 声という情報次元も分解されるため、ユナがどれだけ叫んでも聞こえない。

 神龍は空間転移でユナの背後に回り、巨大な爪を振り下ろした。ハルシオンの方へと余所見していた上、動きが鈍っているユナは避けきれない。咄嗟に神魔刀・緋那汰で防ぐも、威力を殺しきれず、そのまま海へと叩き付けられた。

 かなり大きな水飛沫が上がり、相当な勢いで落下したことを思わせる。

 これでクウ、ファルバッサ、ユナ、ハルシオンは海に落とされた。



「やれ、神龍」


「グオオオオオオオオオオオオオオ!」



 一度咆哮した神龍は、大きく息を吸い込む。

 そして大量の霊力を込め、海に向かって《滅亡龍息吹ルイン・ドラゴン・ブレス》を放った。特性「滅亡」が込められた滅びの息吹であり、触れた物質は情報次元ごと消し飛ぶ。

 海に叩きつけられた赤黒い閃光によって、ごっそりと海面が削れた。



「まだ終わらんぞ!」



 ザドヘルは消滅した海面に目を向けつつ、大量の霊力を集める。そして「熱支配」と「沈静」の特性で情報次元ごと海を凍結させた。



「情報次元を分解し、その状態で固定した。これで簡単には復活できまい」



 残念ながら、ザドヘルと神龍だけでクウたち四人の超越者を倒すのは難しい。そこで、取りあえず封印することで先延ばしにしたのだ。

 世界侵食イクセーザを解除したザドヘルは呟く。



「さて……ラプラスの姿が見えぬし、まずはオリヴィアに加勢してやるとしよう。ゆくぞ」


「グルルルル……」



 ザドヘルを乗せた神龍は、リア、カルディア、ネメアが戦うアジ・ダハーカに加勢するべく、その場から離れたのだった。










………………

…………

……











「良い夢は見られたか?」


「っ!?」



 ザドヘルは目の前にクウが迫っていることに気付いた。だが、既に遅い。神刀・虚月による居合切りが放たれ、ザドヘルの胴を薙いだ。

 そして擦れ違いざまに納刀する。

 すると、事象切断の力が働き、ザドヘルは体を真っ二つに切り裂かれた。



「がは……馬鹿な! 俺の世界侵食イクセーザを喰らったはずだ!」


「ホントにそうかな?」


「なんだと……」



 斬られた体を再生しつつ、ザドヘルは周囲を見渡す。

 すると、周囲にはユナ、ファルバッサ、ハルシオンが五体満足でこちらを眺めていた。情報次元ごと分解して凍結固定したはずの海面を見下ろせば、何事もなかったかのように波打っている。

 まるで夢でも見ているかのようだった。



(いや、違う。先程までの光景こそが夢だったのか!)



 あまりにも高度な幻術は、現実との区別がつかない。

 どこからが幻術で、何処からが現実なのか、判別不可能だ。



「一体いつから幻術を掛けていた!」


「なら逆に聞こう。一体いつから幻術だったと思う?」


「く……」



 これこそが「意思干渉」の最も大きな力。

 魂の根底に触れる力であり、情報次元のレベルでは防ぎようがない。意思力が作用すれば、情報次元も変化する。これは超越者のみならず、世界の基本なのだ。

 故に、クウの力は世界の基本すら揺るがす。



「見事に幻術に嵌ってくれたおかげで、リスクなくお前の世界侵食イクセーザも知ることが出来た。非常に助かったと言っておくぞ」


「なんだと……」



 超越者にとって、能力の詳細がバレてしまうのは致命的なことだ。

 権能にはルールがあり、性質がある。

 それを解析されてしまうと、対処法を確立されてしまうこともある。



「《煉獄凍パラドックス――」


「遅いよ」



 ザドヘルは再び世界侵食イクセーザを使おうとしたが、それよりも早くユナが動いた。陽属性で強化を施し、目にも留まらないスピードで居合を放つ。

 熱によって全てを切り裂く《天照之アマテラスの太刀たち》がザドヘルに迫った。刀身の延長上が灼熱によって分解され、情報次元を溶かす。

 しかし、神龍が転移したことで回避した。



”喰らうがいい。ガアアアアアアア!”


”この俺が逃すと思うなよ!”



 ファルバッサは《真・竜息吹ドラゴンブレス》を放ち、ハルシオンが《迅皇雷帝じんおうらいてい》による雷化で追いかける。

 神龍は白銀のブレスを回避したかと思うと、転移によってハルシオンの追撃から逃れた。お返しとばかりにハルシオンの背後に回って爪を振り下ろすも、雷速ゆえに回避される。

 白銀の光が閃き、白い雷が舞い、空間が歪む。

 大空という領域をフルに利用した縦横無尽の戦いだ。

 神龍に比べれば、ファルバッサやハルシオンは遥かに小さい。振るわれる爪や尾を喰らえば、一撃で吹き飛ばされてしまうだろう。しかし、超越者は常に音速を超える世界で戦っている。今更、転移してくる相手の攻撃が回避できないとは言わない。

 ファルバッサは法則操作能力の延長で空間の歪みを感知できるし、ハルシオンは雷速のお蔭で見てから回避できる。

 一進一退の戦いだった。

 その間に、クウは意識を集中させる。



「くーちゃん?」


「切り札の一枚を切る。ファルバッサとハルシオンが囮になっている間に、俺もやることはやらないとな」



 居合の構えをしたクウは、意思力を世界へと侵食させた。心を落ち着け、霊力を集め、世界を自分の色に染め上げる。

 ユナはクウの隣に並び、声を掛けた。



「《月界眼》を使うの?」


「いや、ここで使っても意味がない。《月界眼》は運命を作り上げるけど、発動時間が切れた後なら幾らでも覆せる。一秒ほどしか発動できないのが《月界眼》の欠点だな」


「じゃあ、どうするの?」


「俺が使うのは別の術だ。二つ目の世界侵食イクセーザだよ」


「え? 世界侵食イクセーザって二つ持てるの?」


「通常の権能発動が意思顕現イクシステンスで、その上の段階が世界侵食イクセーザってだけだ。数に制限はない。ただ、世界侵食イクセーザ程の力は相当な洗練が必要になる。それだけの話だ」



 クウは理解する才能がある。

 物事の本質を見抜く天才なのだ。

 故に権能【魔幻朧月夜アルテミス】を理解し、その能力の幅広さを思い知った。そして、意思次元を操ることが、どれほどのことなのかを悟った。



「どんな能力か楽しみだね!」


「楽しみにしてくれているところ悪いな。この術式はユナでは見切れない」



 そう言ったクウの周囲に白銀のオーラが漂い、神刀・虚月に淡く宿った。三対六枚の天使翼も白銀色に輝き、神々しさすら感じられる。



「一瞬だ。《熾神時間セラフィック・タイム》」



 クウの姿が掻き消え、神龍と共に連続転移していたザドヘルの隣に出現した。ほぼ同時に、ザドヘルの心臓が左腕ごと切り裂かれる。



「がっ!?」



 すぐにファルバッサとハルシオンの追撃があったので、神龍は再び転移してファルバッサの後ろへと出現した。しかし、それを追いかけるようにクウはザドヘルの背後に出現する。すると、ザドヘルは腰から下を切り落とされていた。

 再び神龍が転移しても、同時にクウもザドヘルのすぐ側に出現する。

 そして、ザドヘルは体のどこかを切断されるのだ。

 不可解なのは、クウが出現したとき、神刀・虚月が常に納刀状態であることだろう。いつの間に攻撃を繰り出したのか全く不明なのである。

 そしてザドヘルには理解する余裕も思考する余裕もなかった。

 神龍の助けで転移し、光の速さすら飛び越えて逃げている。だが、クウも同じか、それ以上の速度で迫っているのだ。混乱し過ぎて意味が分からない。



「なぜ……」


「終わりだ」



 体が全て削ぎ落され、首だけとなったザドヘルは呻く。超越者なので、この程度で死ぬことはない。しかしそれでも、ダメージがあるのは確かなのだ。

 クウの使った理解不能の術式により、ザドヘルの意思力は大きく乱されていた。

 つまりチャンスである。



「《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》!」



 これは意思次元を切り裂くクウの切り札であり、超越者すら一撃で殺すことを可能とする。しかし、権能の全てをこの一撃に注ぐため、簡単な幻術すら使えなくなるのだ。超音速戦闘が基本の超越者からすれば、そんな捻りのない正面からの攻撃など簡単に回避できてしまう。

 しかし、体を切り刻まれ、理解不能の力で意思力を乱されたザドヘルにはその余力がない。

 神龍はザドヘルを強制転移させることを試みるが、それはファルバッサが権能【理想郷アルカディア】による法則支配で邪魔する。

 クウの背後に白銀の輝きを放つ巨大な刀が現れた。



「消えろ!」



 放たれる居合切り。

 それは白銀の巨刀と連動しており、ザドヘルを意思次元ごと切り裂く。この白銀の刀は幻術でしかないのだが、「意思干渉」によって切り裂かれたと錯覚してしまう。情報次元だけでなく、意思次元すら斬られたと誤認してしまうのだ。

 そして意思次元の認識はそのまま現実となる。



「ぐあああああああああああああああああああ!?」



 魂を引き裂かれた激痛でザドヘルは叫び声を上げた。

 だが、情報次元と意思次元の崩壊に伴い、その声すら消失する。

 『氷炎』の四天王にして超越神種魔人ザドヘルは、この瞬間に魂ごと消滅した。
















クウに二つ目の世界侵食イクセーザです。

熾神時間セラフィック・タイム》の仕組みについては別の話で解説します。


ザドヘル討伐完了です!

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